ISO審査員及びISO内部監査員に文部科学省の白書を参考に各種有用な情報をお届けします。

■デジタル化による社会課題解決への期待

(物流分野・インフラ分野のデジタル化に対する意識の動向)
物流産業における労働力不足、災害の激甚化・頻発化により露呈した物流ネットワークの脆弱性など物流業界の課題が顕在化している中、「物流DX」の推進にあたり優先して解決すべき課題をたずねたところ、「長時間労働などの労働環境改善(荷待ちシステム等)」や「トラックドライバーなどの高齢化や担い手不足対策(自動運転等)」と答えた人の割合が高かった。また、インフラ分野においても、デジタル技術の活用により従来のプロセスや実施方法等を変革し、インフラの整備・管理・利用等の効率化・高度化を図る取組みを進めている中、「インフラDX」の推進にあたり、優先して解決すべき課題をたずねたところ、「危険作業の解消などの労働環境改善」や「建設業の魅力向上、長時間労働の是正によるインフラ整備・管理従事者の高齢化等による担い手不足対策」と答えた人の割合が高かった。物流分野、インフラ分野ともに、労働環境の改善、担い手不足対策の観点について、優先して取り組むべきであると考える人が多いことがうかがえる。

(デジタル化による社会課題解決への期待)
国土交通省「国民意識調査」では、課題の解決に向けて取り組むべき施策の優先度についてたずねたところ、すべての項目について、優先度が高い(とても高い、やや高い)と思うと答えた人の割合が6割を超えた。また、優先度がとても高い項目として、「デジタル化やオンライン化による行政手続等の迅速化」、「DXを支える人材の育成」、「デジタル技術の開発・イノベーションの促進」、「あらゆる主体に対応したわかりやすい情報の提供」が約2割となり、行政手続への期待とともに、人材面や技術面、情報基盤面での環境整備への関心が高いことがうかがえる。これらに次いで、「デジタルを活用した利便性の高い住まい方や移動を支える環境整備」、「地方部でのデジタル活用推進による、新たなライフスタイルの創出」に取り組むべきと答えた人の割合が高く、生活環境やライフスタイル面でのデジタル活用が望まれていることがうかがえる。人々の期待として、総合的な取組みが求められていることがうかがえる。

具体例紹介
・デジタルプラットフォームを活用したまちづくり(Decidim、スペイン・バルセロナ市)
バルセロナ市は、人口約160万人のカタルーニャ州の州都である。公共施設の管理や公共交通の運営、防犯対策といった公共サービス提供等にIoT技術を活用する等、2000年頃からスマートシティープロジェクトに取り組んでいる。2014年には、欧州委員会により情報通信技術を活用してイノベーションを最も推進する都市(iCapital)に選定されている。また、2016年の「バルセロナ・デジタルシティ計画」(バルセロナ市議会)では、「真に民主的な都市では、市民の生活の質を向上させるため、市民の公共サービスへのアクセスを促すべき」との方針が示されている。このような中、市民参加型のデジタルプラットフォームである「Decidim」が、2016年から運用開始されている。Decidimを活用することで、バルセロナ市民は、提案・議論・投票などオンライン上でまちづくりに関する市政のプロセスに参加することが可能となり、Decidimにおける施策検討の経過や結果は一般に公開されている。

Decidimには、これまで15,000人以上の市民が参加し、約10,000以上の提案が寄せられ、その多くが採択されている。例えば、バルセロナ市・ライエターナ通りの車道を自転車専用道路や歩道に置き換えることで自動車の交通量や汚染物質の排出量を低減する取組みや、公共広場におけるダンスや音楽のためのアーティスティックな空間の創出、リサイクル素材を使用したベンチや椅子の設置促進など、多岐に亘る分野で市民の意見を取り込みながらまちづくりが展開されている。こうした市政運営プロセスへの参加を促すオープン型のデジタルプラットフォームの活用により、市民の多様な意見がまちづくりに反映されることが期待される。

具体例紹介
・私たちが手がける暮らしやすいまち(市民中心のスマートシティ・地域の見守り支援、兵庫県加古川市)
加古川市は、人口約25万人、一級河川「加古川」を囲む兵庫県南部の都市である。大阪府や神戸市・姫路市への通勤の利便性が高いことからベッドタウンの側面も有しており、「夢と希望を描き幸せを実感できるまち加古川」を目指している。加古川市は特に、安全・安心のまちづくりに注力してきた。これは、かつては刑法犯認知件数の水準が県内でも高く、市民に漠然とした不安感が広がった点に加え、登下校の安全確保に対する高いニーズ、さらに認知機能低下のおそれのある高齢者の捜索に行政としてマンパワーを要していたことなどから、子育て世代が安心して暮らしながら子育てができるまちづくり、高齢者が住み慣れた地域で自分らしく暮らし続けられることができるまちづくりが望まれていたことが背景事情として挙げられる。課題解決のため、加古川市では、2017年度から小学校の通学路や学校周辺、公園周辺(1校区50台程度、全28校区)を中心に、住民のプライバシーに配慮しながら、「見守りカメラの設置及び運用に関する条例」を制定し、見守りカメラ約1,500台を設置し、地域総がかりで子どもや高齢者を見守る地域コミュニティの強化に取り組んできた。電柱にはカメラの設置位置を明示し犯罪抑止につなげ、犯罪発生時は捜査協力として撮影画像を警察に提供した。また、小学1年生及び認知機能の低下により行方不明となるおそれのある高齢者などに向けたBLEタグの費用を市(小学1年生は市と事業者)が全額負担し、見守りカメラにBLEタグ検知器を内蔵することで、BLEタグ所有者がカメラ付近を通過したことを家族などが確認できる民間サービス(企業3社が全国展開する既存事業)がより効果的に市内で普及するよう環境を整備した。

BLEタグは、見守りカメラに加えて市公式アプリ「かこがわアプリ」、公用車及び郵便車両など移動体(アプリユーザーは4,500人程度)でも検知させ、面的な見守り機能を強化した。このような地域との連携や官民連携の強化、デジタル活用も功を奏し、取組み前と比較して刑法犯認知件数が半減したとともに県内水準を下回るようになるなど、安全・安心のまちづくりの進展に寄与した。また、新たな展開に向けて、「PLATEAU」と連携し、市が設置する見守りカメラの照射範囲を3Dで可視化し、犯罪発生箇所と重ね合わせた地図を作成した。デジタル技術活用によるスマートプランニングとして、犯罪抑止の観点からカメラの最適配置を検証し、既存の見守りカメラの更新などに活用している。さらに、AIを活用した高度化見守りカメラを市内に150台設置し、従来の見守りに加えて、異常音検知や車両接近を検知して注意を促すなどにより、犯罪や交通事故の未然防止を図ることや、人流測定を行い、加古川駅周辺の周遊性向上など、データを活用したまちづくりを深化させるため、見守りカメラの多機能化を進めている。

他にも、加古川市では、「参加することではじめるまちづくり」(Make our Kakogawa)として、市民中心のスマートシティに向けた議論を深める場として市民参加型合意形成プラットフォーム「加古川市版Decidim」を2020年に国内初導入した。市民の多様なニーズやアイデアを取り入れ、市民の幸福感が向上するまちづくりの実現に向けて、ワークショップなど既存のオフラインイベントに参加できない働き盛りの層や10代の学生など若者の声をオンライン上で補完的に取り込み、市の施策に反映する取組みを進めている。例えば、「かわまちづくり」や加古川駅周辺のまちづくりへの意見募集、「加古川市スマートシティ構想」の着想から実施段階での意見募集、これら意見の市政への反映などに取り組んでいる。施策に反映されたものの例としては、サイクルポート設置希望が取り入れられたことが挙げられる。これにより、行政内部でのスマートシティのアイデアに限らず、より多くのアイデアをもとに、「市民中心の課題解決型スマートシティ」を目指した取組みを進めている。加えて高校などと連携し、若者の声を市の施策で実現するよう取り組むことで若者の加古川市への愛着形成を図り、ひいては就職後のUターンへの素地作りとするなど、より多面的で中長期的な視野でのまちづくりにも取り組んでいる。

(つづく)Y.H

(出典)
国土交通省 令和5年版国土交通白書
令和5年版国土交通白書