ISO審査員及びISO内部監査員に文部科学省の白書を参考に各種有用な情報をお届けします。

■豊かな暮らしと社会の実現に向けて

デジタル化により課題を解決し、豊かな暮らしと社会を実現すべく、ここでは、国土交通省のデジタル化施策の方向性について記述するとともに、新しい暮らしと社会の姿を展望する。

(国土交通省のデジタル化施策の方向性)
近年、デジタル化が急速に進展する中、防災、交通・まちづくり、物流・インフラ、そして行政手続など、「国土交通分野のデジタル化」の一層の推進を図るべく、ここでは、国土交通省のデジタル化施策の方向性について、分野ごとに整理するとともに、今後の施策展開について記述する。

具体的には、まず、国民の生命・財産を守る防災分野について記述し、次に、私たちの日々の暮らしに密接に関わるまちづくり分野や交通分野について記述し、さらに、暮らしや産業を支える物流分野やインフラ分野について記述し、最後に、行政手続やデータプラットフォームなど横断的な取組みについて記述する。デジタル化施策の推進にあたっては、個々人の多種多様な環境やニーズを踏まえ、利用者目線できめ細かく対応し、誰もがデジタル化の恩恵を享受できる「人に優しいデジタル化」に向けて取り組んでいく。特に、防災、交通など、国民生活に密着した分野のデジタル化を中心に、個人のニーズに応じた最適なサービスが提供されるよう取り組んでいく。

1 防災分野のデジタル化施策
(1) 現状と今後の方向性
近年、災害が激甚化・頻発化しており、今後、気候変動に伴い災害リスクが更に高まっていくことが懸念される中、ハード・ソフト一体となった防災・減災対策により、国民の生命・財産を守ることが喫緊の課題である。防災・減災対策を飛躍的に向上させていくためには、従来の対応のみでは限界があり、デジタル技術を活用した情報分野での取組みが必要不可欠である。これまでも、堤防やダム等の整備、災害時の輸送機関の確保などハード面に加え、気象情報の高度化、災害予測や被災状況等の情報収集手段の確保、避難訓練・計画の高度化といったソフト面の対策に取り組んできた。これら防災・減災対策へのデジタル活用について国民の期待度は高い。平時・発災前・発災後のあらゆるフェーズでデジタル化に取り組み、地域の災害リスクに応じた対応やきめ細かな防災対策・防災情報の提供・避難支援など、防災分野で国民一人ひとりの状況に応じた人に優しいデジタル化を一層推進していく。

(2)今後の施策展開
①防災・減災対策を飛躍的に高度化・効率化する取組み
(デジタル技術を活用した流域治水の推進)
平時においては、水害等リスク情報の充実や治水対策の効果を見える化するデジタルツインの整備等、デジタル技術を活用してリスクコミュニケーションを一層推進するとともに、災害時においては、浸水センサ等の観測網の充実や流域全体における高度な予測情報の共有等により、円滑な危機管理対応が可能な体制を整備していく。さらには、河川情報等のデータのオープン化やデジタルツインの整備により、官民連携によるイノベーションを通じた、防災・減災対策に資する技術・サービス開発の促進を図っていく。

(技術開発や対策効果の見える化を実現するデジタルツインの整備)
避難行動を促すサービスや洪水予測技術等の開発をオープンイノベーションにより促進するとともに、治水対策効果の見える化等により合意形成等を促進するため、サイバー空間上に流域を再現したオープンな実証試験基盤(デジタルテストベッド)の整備を進めていく。

(デジタル技術による迅速な被災状況把握)
2022年の災害において、デジタル技術を活用したTEC-FORCEの強化(iTEC)として、オンラインで被災状況の集約などを可能にするTEC-FORCE用アプリを現地の被災状況調査で試行した。これにより、現地の情報をスマートフォンから地方整備局等や本省の対策本部に即時に共有可能となり、活動の効率化や調査結果の共有の迅速化といった効果が認められている。引き続き、iTECの取組みを推進し、ドローン等の活用も進め、被害全容把握の更なる迅速化などを図るとともに、総合司令部のマネジメント機能の強化に取り組み、TEC-FORCEの対応力強化を図っていく。

(具体例紹介)
・遠隔監視制御型樋門管理システム研究開発(福岡県直方市)
直方市は、人口約5万5千人の市であり、河川の支川や小規模の水路等を多く有している。樋門の開閉操作は、集中豪雨等による急激な河川の変化に即応できるよう、近隣に居住する自営業者や定年退職者に業務委託をしており、操作員の確保や高齢化が大きな課題となっていた。また、樋門の開閉操作は、暴風雨や夜間の作業も必要で危険度が高く、重責な作業という点も、操作員の担い手不足を招く一因であった。これらの課題を解決するため、直方市は、2020年度から産学官が連携してデジタル技術を活用した研究開発を開始し、市内に設置されている樋門に、遠隔監視及び遠隔制御のために開発したユニットを取り付けて実証事業を実施してきた。

具体的には、樋門を遠隔制御するため、電動化ギアユニットとIoT制御盤及び制御用コンピュータを取り付けるとともに、樋門の開閉状況を確認するためのIPカメラと樋門直下の水位を計測するための超音波式水位センサを設置した。樋門に設置した各ユニットの情報は、セキュリティが確保された専用クラウドにあるデータベースに送信される。操作員は、樋門から離れた場所で様子を確認し、専用の端末からボタン操作一つで樋門の開閉操作を実施できる。また、このシステムの荒天時の実証も行い、樋門の開閉作業が可能であることも確認してきた。コストを抑えるため、後付けの簡易な仕組みの開発を目指している点も特徴的である。今後、樋門の開閉操作の自動化に向けて、必要なデータを蓄積し担い手不足や減災に寄与するシステム開発を推進していくこととしている。

②人工衛星やスーパーコンピュータを活用した取組み
(デジタル技術を活用した防災気象情報の高度化)
デジタル技術を活用した線状降水帯や台風等の予測精度向上等を図ることにより、地域の防災対応、住民の早期避難に資する情報提供を行うことが重要である。線状降水帯の予測においては、気象庁スーパーコンピュータシステムの強化、理化学研究所のスーパーコンピュータ「富岳」の活用、産学官連携での技術開発等を進めている。2022年6月からは、各種観測データに基づいて将来の大気の状態を計算する数値モデルの結果を用いたAI予測と予報官の判断を組み合わせながら、線状降水帯による大雨の可能性について、半日程度前から広域での呼びかけを行っている。今後、大気の3次元観測機能など最新技術を導入した次期静止気象衛星の整備をはじめ水蒸気観測の強化、予測の強化等を行い、最終的には2029年の市町村単位での呼びかけを目指していく。なお、緊急地震速報においても、デジタル技術を活用した改善に継続して取り組んでおり、2023年2月からは長周期地震動の予測を含めた緊急地震速報の発表を開始したほか、揺れの推定精度をさらに向上させていく。

(人工衛星を活用した土砂災害の早期把握への取組み)
現在、人工衛星を活用し、天候・昼夜を問わず大規模な土砂移動箇所を早期に把握し、市町村長が実施する避難指示等の判断を効果的に支援できるように、土砂移動把握に関する観測・分析の精度向上、作業時間短縮を図っている。今後、地すべり等の危険度が高い箇所を中心とした常時観測・移動検知手法の実証を行い、予兆現象の把握等による発災前の適切な情報提供が可能となるよう検討を進めていく。

(つづく)Y.H

(出典)
国土交通省 令和5年版国土交通白書
令和5年版国土交通白書