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■新しい暮らしと社会の姿
「国土交通分野のデジタル化」の一層の推進を図ること等により、一人ひとりのニーズにあったサービスが受けられ、住む場所や時間の使い方が選択できるよう取り組むとともに、「持続可能で活力ある豊かな暮らしと社会」を実現することが重要である。ここでは、デジタル化で変わる暮らしと社会について、デジタル化による暮らしと社会の変化とともに、新しい暮らしと社会の姿について将来を展望する。具体的には、まず、将来の暮らしと社会に対する意識の動向、時間的・空間的制約からの解放に対する意識の動向を考察した上で、リアル空間の質的向上に向けて進められている取組みについて記述する。次に、デジタルインフラの充実による仮想空間の活用拡大について記述し、これからの時代に求められる視点を考察する。そのうえで、新しい暮らしと社会の姿を展望する。
(デジタル化による暮らしと社会の変化)
(1)将来の暮らしと社会に対する意識の動向
(将来の社会に対する意識の動向)
国土交通省「国民意識調査」において、デジタル化により実現され得る2050年の新たな社会像についてどの程度望んでいるかをたずねたところ、「災害リスク管理が高度化し、災害から人命と暮らしが守られる社会」、「一人ひとりのニーズにあったサービスを受けられる社会」、「住む場所や時間の使い方を選択できる社会」について、全世代の5人に4人以上の人が望んでいる(とても望んでいる、やや望んでいる)と回答した。世代別に見ると、「バーチャル空間の充実により、物理的な障害に制約されず活動できる社会」、「仮想空間とともにリアル空間の魅力も高まり、付加価値が向上する社会」の仮想空間の活用に関する2項目について、10代に特徴的な傾向が見られ、他の世代と比べて望んでいると答えた人の割合が高かった。
(将来の暮らしに対する意識の動向)
また、デジタル化により実現され得る未来型のライフスタイルについてどの程度望んでいるかをたずねたところ、AI等の活用による災害や事故の「リスクを最小化できる暮らし」、自動運転機能などの技術により日々の事故リスクが減り、「次世代モビリティにより迅速に救急搬送される暮らし」の2項目について、全世代の4人に3人以上の人が望んでいる(とても望んでいる、やや望んでいる)と回答しており、デジタル化による安全・安心の向上に対する期待が高かった。世代別に見ると、10代については上記2項目の他、AI等により仕事や家事が効率化し、「働きやすくより多くの人の社会参加が可能となる暮らし」、テレワークや仮想空間(メタバース等)の活用により「住む場所を個人の嗜好に合わせて選べる暮らし」、AI・IoTや自動運転などの活用により「行きたい場所へのアクセスが可能となった暮らし」、デジタルツインの活用による「新たな体験や創造的な活動が楽しめる暮らし」の4項目についても4人に3人以上が望んでいると回答しており、仮想空間の活用を含め、デジタル化による新しい暮らしへの期待が高いことがうかがえる。
(実現が望まれる将来の暮らしと社会)
世代を問わず期待の高かった災害リスク管理等の安全・安心への取組みや一人ひとりのニーズにあったサービス、住む場所や時間の使い方を選択できる社会に向けた取組みを加速させるとともに、次世代を担う若者からの期待度が高い仮想空間の活用にも取り組み、デジタル技術を最大限活用したより良い社会の実現を図っていくことが重要である。以下では、デジタル化により一人ひとりのニーズにあったサービスが受けられ、住む場所や時間の使い方を選択できることに寄与する「時間的・空間的制約からの解放」とともに「デジタルインフラの充実」を見据えて、「リアル空間の質的向上」、「仮想空間の活用拡大」への取組みについて、(2)時間的・空間的制約からの解放を見据えたリアル空間の質的向上、(3)デジタルインフラの充実による仮想空間の活用拡大の順に記述する。
(デジタル化により実現を図る持続可能で活力ある豊かな暮らしと社会)
国土交通分野のデジタル化に対する期待度は全般的に高く、「災害情報充実」、「自動運転」、「移動の多様化・円滑化」、「住宅やオフィスのエネルギー効率化」への期待度が特に高い。「安全・安心、生産性の向上」、「移動の制約解消・充実」、「日常生活やまちづくりの高度化」を図り、持続可能で活力ある豊かな暮らしと社会の実現に向けて、これらの取組みを進展させることが重要である。
(2)時間的・空間的制約からの解放を見据えたリアル空間の質的向上
① デジタル化による時間的・空間的制約からの解放に対する意識の動向
デジタル化は時間と空間の制約を取り払うこともあり、デジタル化により時間の使い方が変化するとともに、居住地に対する人々の潜在ニーズが顕在化し、これまでとは違った社会移動が生じる可能性も考えられる。国土交通省「国民意識調査」では、デジタル化により時間と空間の制約から解放された将来を想定し、人々の暮らしや社会に対するニーズについてたずねた。
(理想的な時間の使い方)
時間の使い方は時代によって変化しており、総務省「社会生活基本調査」によると、1986年と2021年を比較すると、仕事や通勤、家事など社会生活を営む上で義務的な性格の強い活動時間(2次活動時間)は減少傾向にあり、各人が自由に使える時間における活動時間(3次活動時間)は増加傾向にある。このような中、国土交通省「国民意識調査」では、今後の理想的な時間の使い方をたずねたところ、2次活動より3次活動を増やしたいという傾向が示されたとともに、このうち最も増加した項目は「社会参加・会話・行楽・趣味・学習」であった。今後、デジタル技術の進展により、従来は場所や時間の制約で実現できなかった新たなサービスや活動が可能となり、私たちの時間の使い方が多様化していくことが期待される。
(具体例紹介)
・車内空間の高度化を通じた移動時間の高付加価値化(自動運転、ソニー・ホンダモビリティ㈱)
自動運転技術の進展により、過疎地域における移動手段の確保やドライバー不足への対応等の課題解決が見込まれているが、その先には、将来の暮らしにおける新しい価値創出につながっていくことも考えられる。例えば、車内空間の高度化により、移動時間の価値を変えていく可能性のある自動車が生まれつつある。ソニー・ホンダモビリティ㈱は、2023年1月、同社の新ブランド「アフィーラ(AFEELA)」を発表した。5G移動通信システムの搭載や、特定の条件下で運転操作が不要になる「レベル3」の自動運転機能の搭載を目指す電気自動車の試作車を初披露した。
この試作車は、車内外のセンサから交通状況や周辺の情報を収集・解析、安心・安全な運転に寄与するだけでなく、臨場感のある映画や音楽、ゲームなど様々なエンターテイメントや人に寄り添うサービスの提供を通じ、移動空間を感動空間に変える、モビリティの新しい体験価値の提案をめざしている。自動運転技術等の開発が進めば、自動車は、単なる目的地への移動のためのものから、移動時間の価値を向上させるものへと変わっていくことが期待される。
(住みたいと思う都市の規模)
将来、デジタル技術の発達により、住む場所の選択肢が増え、多様な暮らし方ができる社会が実現した場合、これまでとは違った社会移動が生じる可能性も考えられる。国土交通省「国民意識調査」では、そのような社会が実現した場合に人々が住みたいと思う都市の規模についてたずねた。本調査結果で示された人々の社会移動の希望を加味し、国立社会保障・人口問題研究所「地域別将来推計人口」をもとに簡易なシミュレーションを行ったところ、県庁所在地や中核市での居住に対する潜在ニーズがうかがえた。前述のシミュレーション結果を現在居住する都市の規模別に見ると、県庁所在地や中核市での居住希望を持つ人は、その他の市部・町村部に加え、関東圏・近畿圏の市部等の居住者にも一定数存在している。
(将来の居住地に求めるもの)
国土交通省「国民意識調査」において、デジタル化が進んだ将来の居住地選定にあたって重視するものをたずねたところ、「日常の買い物の利便性」、「生活コストが安い」、「公共交通の利便性」、「病院や介護施設、公共施設が整っている」などを重視すると答えた人の割合が高く、居住地へのニーズとして、総じて、日常生活の利便性や生活コストの安さが重視されていることがうかがえる。また、生活コストの安さについては、可処分所得から基礎支出を除いた余剰分で比較すると、三大都市圏より地方圏の方が優位にあることがうかがえる。地方での暮らしは、こうした面において、経済的豊かさの優位性が認められる。
(つづく)Y.H
(出典)
国土交通省 令和5年版国土交通白書
令和5年版国土交通白書