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■バブル崩壊から33年経って3
人材こそが日本が世界に誇る最大の資源です。これまで活かしきれていなかった我が国最大の潜在力である「女性の力」を最大限発揮できるようにすることは、少子高齢化で労働力人口の減少が懸念される中で、新たな成長分野を支えていく人材を確保していくためにも不可欠です。 女性の労働参加の拡大、経営への参加の促進は、これまで以上に多様な価値観を取り込む新たなサービス・製品の創出を促進し、社会全体に活力をもたらすほかに、家庭の単位で見ても、ダブルインカムが実現されることで、家計所得と購買力が増大し、景気の好循環が動き出し、豊かさが実感できるようになります。日本の経済社会を覆う閉塞感や経済の停滞の最大の要因の一つは、少子高齢化の中で、人材の持つポテンシャルが十分に発揮されていないことにあります。戦後の高度経済成長の時代に作られた雇用システムや教育システムが、「成功体験の罠」にとらわれ、今日まで維持温存されてしまった結果、女性や高齢者の能力が十分活用されないままとなっています。子供や若者たちの教育も世界の潮流や時代の変化に取り残されてしまっており、これは裏返して言えば、今のシステムを大胆に変えさえすれば、経済成長に必要な人材資源を大きく取り入れ、少子高齢化に歯止めをかけ、我が国の潜在成長率を高めることができるということです。このため、保育の受け皿の整備などにより夫婦が働きながら安心して子供を育てる環境を整備すると同時に、育児休業後の職場復帰の支援、女性の積極登用などを通じて、女性の労働参加率を抜本的に引き上げることを目指す政策が必要です。若者が、学校を出て、就職し、一生同じ会社で働くというシステムは、今や過去のものとなっています。新陳代謝を加速させ、新たな成長分野での雇用機会の拡大を図る中で、成熟分野から成長分野への失業なき労働移動を進めるため、雇用政策の基本を行き過ぎた雇用維持型から労働移動支援型へと大胆に転換することが必要です。 自分の能力に見合わない一時的な職を転々とするのではなく、希望を持って、意欲的に自分の能力を磨きつつ、能力に見合った報酬が得られる職に就き、家庭を築き、次の世代をしっかり育てていけるようにし、このため、ハローワークの情報や業務を思い切って民間人材ビジネスに開放し、民間が有するノウハウを活用する形で、スキルアップ研修、ふさわしい職とのマッチングなどを支援することも望まれます。
今や日本の若者は世界の若者との競争にさらされている。将来の日本を担う若者が、国際マーケットでの競争に勝ち抜き、学術研究や文化・国際貢献の面でも世界の舞台で活躍できるようにするためには、まず何よりも教育する側、すなわち学校を世界標準に変えていくことを急がなければならない。 日本の大学を世界のトップクラスの水準に引き上げる。このため国立大学について、運営の自由度を大胆に拡大する。世界と肩を並べるための努力をした大学を重点的に支援する方向に国の関与の在り方を転換し、大学の潜在力を最大限に引き出す。また、「鉄は熱いうちに打て」のことわざどおり、初等中等教育段階からの英語 教育を強化し、高等教育等における留学機会を抜本的に拡充し、世界と戦える人材を育てる。中長期的に経済成長を続けていくためには、これまでに無い製品やサービス、システムを作り上げることで全く新しい市場を創造するか、成長・拡大を続ける国際マーケットで増えたパイを取りに行くかの二つのフロンティアを開拓していくしか方法がない。長期の停滞に陥る前の日本の成長は、正にこの二つのフロンティアで勝ち続けたからこそ実現できたのである。「メイド・イン・ジャパン」は、これを象徴する言葉であり、新しい技術を取り入れた日本製品を次々と生み出し、世界の隅々までこれを売り込んでいったのである。 研究開発競争、世界市場獲得競争が従前とは比べ物にならないほど激化している 今日、イノベーション戦略と国際展開戦略を抜本的に強化して、今度は「メイド・ バイ・ジャパン」で、もう一度栄光を取り戻す。日本は現在でも高い技術力を有しており、国や大学の研究機関も民間も世界の先端を行く研究を行い、将来有望な技術シーズを数多く保有している。それにもかかわらず、最終製品段階の国際競争で他国の後じんを拝することが多いのは、国、大学、民間の研究開発が、出口を見据えずバラバラに行われ、それぞれの持ち味を十分に活かしきれていないことが原因である。「総合科学技術会議」の司令塔機能を抜本的に強化し、日本が負けてはならない戦略分野を特定し、そこに国、大学、及び民間の人材や、知財、及び資金を集中的に投入するドリームチームを編成することで、世界とのフロンティア開拓競争に打ち勝って新たな成長分野を創り出していく。また、世界の先を行く基礎研究の成果を一気に実用化レベルに引き上げるための革新的な研究を徹底的に支援し、iPS プロジェクトのような成功例を次々と生み出していく。国の総力を結集して「技術で勝ち続ける国」を創る。さらに、日本人の知恵・創造力を発揮して、世界最高の「知的財産立国」を目指す。
成長を続ける国際マーケットを如何に取り込んでいくかは、今や、国と国との競争になっているのが現実です。電力、水、IT、鉄道などのインフラ分野における我が国の製品や要素技術は世界トップ水準にある力を持ちながら国内にとどまっている中堅・中小企業も少なくありません。日本文化に裏打ちされたコンテンツや日本食、医療システムなどは圧倒的な競争力を有しています。それにもかかわらず、世界市場への参入が出遅れ、日本への投資・観光客が伸び悩んでいます。新興国を中心に世界のマーケットは急速な勢いで拡大を続けており、このマーケットの獲得競争に打ち勝っていけるかどうかは、資源の乏しい日本にとって死活問題です。 経済連携協定や投資協定・租税条約の締結など、国内外の市場に跨る制度面での障害を取り除いていくことは、新興国等の成長を最大限取り込み、日本市場に投資を呼び込んでいくための大前提とでもいうべきことです。国際展開に関する限り、商売の話は民だけに任せればよいという従来の発想を大胆に転換し、インフラ輸出やクールジャパンの推進などのトップセールスを含め官民一体で戦略的に市場を獲得し、同時に日本に投資と観光客を取り込む体制を整備し、海外から得た富を含め国民が受け取る総所得である実質国民総所得 (GNI)の拡大を実現しなければなりません。
成長の果実の国民の暮らしへの反映 成長戦略で目標とした成長率が実現できたとしても、その成果の果実が供給サイドに留まることなく、最終的には、社会全体の活力が回復し、国民一人ひとりが豊かさを実感でき、将来への希望が持てるようにならなければなりません。 特に、20 年の長きにわたる経済低迷で、企業もそこで働く人々も守りの姿勢やデフレの思考方法が身に付いてしまっている今日の状況を前向きな方向に転換していくためには、賃金交渉や労働条件交渉といった個別労使間で解決すべき問題とは別に、成長の果実の分配の在り方、企業の生産性の向上や労働移動の弾力化、少子高齢化、及び価値観の多様化が進む中での多様かつ柔軟な働き方、人材育成・人材活用の在り方などについて、長期的視点を持って大所高所から議論していくことが重要です。 従来の政労会見や経営者団体との意見交換という形とは別に、政・労・使の三者が膝を交えて、虚心坦懐かつ建設的に意見を述べ合い、包括的な課題解決に向けた共通認識を得るための場を設定し、速やかに議論を開始する必要があります。 成長戦略は財政再建と矛盾するものであってはならず、民間資金を活用した社会資本整備、世界最高水準の電子政府の実現、医療の徹底した ICT 化や大学改革など成長戦略に盛り込まれた施策を着実に実施することは財政健全化にも貢献するものであければなりません。それは経済成長の実現を通じて、企業所得や国民所得を向上させ、歳入の増大という形で財政再建にも寄与するものです。
(つづく)Y.H