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■バブル崩壊から33年経って 5

2013年政府の日本再興戦略では「成長への道筋」に沿った主要施策を打ち出していました。今回は「民間の力を引き出す」ことに関しての政策です。あげられた政策はいずれも真っ当なものですが、残念ながら大きな成果を得ることはできませんでした。なんといっても、イノベーションが起きないのが近年の日本の最大の弱点です。2013年から10年経った現在、それぞれの施策がどの程度国際競争力向上に貢献したかというと、2013年21位であった世界競争ランキングが2023年35位になってしまったことから、以下の施策は結果として有効に機能しなかったと言わざるを得ません。

IMD「世界競争力年鑑」2023年版からみる日本の競争力 第1回:データ解説編総合順位は35位 過去最低を更新 | IMD「世界競争力年鑑」からみる日本の競争力 | 三菱総合研究所(MRI)

「今回の成長戦略では、「成長への道筋」を実行・実現するものとして、「日本産業再興プラン」「戦略市場創造プラン」及び「国際展開戦略」の3つのアクションプランを打ち出している。このプランのうち、「成長への道筋」に沿って、早期に取り組む必要がある代表的な施策を抜き出して整理すると以下のとおりである。(注:施策の例示であり、重要度や優先順位を示すものではない。)
1)民間の力を最大限引き出す(新陳代謝とベンチャーの加速)。
①民間投資を拡大し、事業再編を進める。
②新事業を創出する。
③コーポレートガバナンスを見直し、公的資金等の運用の在り方を検討する。
④健康長寿産業を創り、育てる。
⑤農林水産業を成長産業にする。
⑥エネルギー産業を育て世界市場を獲得する。
⑦民間の資金、知恵を活用して社会資本を整備・運営・更新する(PPP/PFI)。
⑧ITを利用したイノベーションを起こす。

引用:saikou_jpn.pdf (kantei.go.jp)」

■民間投資の拡大と事業再編

2013年の日本再生戦略では以下のような計画を立てました。
・生産設備の新陳代謝(老朽化した生産設備から生産性・エネルギー効率の高い最先端設備への入れ替え等)を促進する取組を強力に推進し、これに応じて設備の新陳代謝を進める企業への税制を含めた支援策を検討し、必要な措置を講ずる。
・医療機器、3Dプリンター等の先端設備の投資を行おうとする企業の決断を後押しするため、リース手法を活用して支援する方策を検討し、必要な措置を講ずる。

■新事業の創出

2013年の日本再生戦略では以下のような計画を立てました。
・開業率が廃業率を上回る状態にし、米国・英国レベルの開・廃業率10%台(現状約5%)を目指す。
・健康、エネルギー等の規制関連分野で、企業が安心して新たな事業にチャレンジできるようにする。このため、①ホワイトゾーン(適法)であることを確認する仕組み、②安全性などの実証に取り組む意欲と技術のある企業に特例的に規制を緩和する制度(企業実証特例制度)を創設する。
・ベンチャーへの資金供給を大幅に拡大する。このため、現行のエンジェル税制を使い勝手の良いものに改善し、民間企業等の資金を活用したベンチャー企業への投資を促す方策を検討し、必要な措置を講ずる。大企業からの独立(スピンオフ)や地域のリソースを活用した起業・創業も強力に推進する。
・ベンチャーなど新規・成長企業と投資家をインターネットサイト上で結び付け、多数の投資家から少額ずつ資金を集める仕組み(クラウド・ファンディング)について検討し、本年中に制度改正が必要となる事項を整理する。
・一度の失敗で全てを失い、経験やノウハウが活かされない可能性のある個人保証の現状を改める。法人の事業資産と経営者個人の資産が明確に分離されている場合等一定の条件を満たす場合には、経営者の保証を求めないこと等のガイドラインを策定する。

■コーポレートガバナンスを見直し、公的資金等の運用の在り方

2013年の日本再生戦略では以下のような計画を立てました。
・会社法を改正し、外部の視点から、社内のしがらみや利害関係に縛られず監督できる社外取締役の導入を促進する。
・機関投資家が、対話を通じて企業の中長期的な成長を促すなど、受託者責任を果たすための原則(日本版スチュワードシップコード)について検討し、取りまとめる。

■健康長寿産業育成

2013年の日本再生戦略では以下のような計画を立てました。
・我が国の優れた医療分野の革新的技術の実用化を強力に後押しするため、一元的な研究管理、研究から臨床への橋渡し、国際水準の質の高い臨床研究・治験が確実に実施される仕組みの構築等を行う司令塔機能(日本版NIH)を創設する。
・保険診療と保険外の安全な先進医療を幅広く併用して受けられるようにするため、新たに外部機関等による専門評価体制を創設し、評価の迅速化・効率化を図る「最先端医療迅速評価制度(仮称)」(先進医療ハイウェイ構想)を推進することにより、先進医療の対象範囲を大幅に拡大する。
・医療・介護・予防分野でのICT利活用を加速し、世界で最も便利で効率的なシステムを作り上げる。このため、レセプト等の電子データの利活用、地域でのカルテ・介護情報の共有、国全体のNDB(ナショナルデータベース)の積極的活用等を図る。特に、全ての健保組合等に対して、レセプトデータの分析、活用等の事業計画の策定等を求めることを通じて、健康保持増進のための取組を抜本的に強化する。

■農林水産業を成長産業に

2013年の日本再生戦略では以下のような計画を立てました。
・今後10年間で6次産業化を進める中で、農業・農村全体の所得を倍増させる戦略を策定する。
・農地中間管理機構が、市町村や民間企業等に業務委託を行い、地域の総力を挙げた体制を構築しつつ、法人経営、大規模家族経営、集落営農、企業等の担い手への農地集積・集約化に配慮して貸し付ける農地再配分スキームを確立する。
・農林漁業成長産業化ファンドの本格展開等を行う。また、新品種・新技術の開発・普及、医療福祉等の異業種連携等により、農業にイノベーションを起こし、付加価値を高める。

■エネルギー産業の育成で世界市場を獲得

2013年の日本再生戦略では以下のような計画を立てました。
・電力システム改革により電力の小売を全面自由化し、多様な主体の参入、異業種との融合を促し、創意工夫を凝らした新たなビジネスの展開を促進する。また、電力会社や料金の選択を自由に行うために必要なスマートメーターの導入を進めるとともに、個人情報利用ルールの整備を行う。
・9電力の供給区域に分割されてきた現状を打破し、全国的な電力の効率的供給を実現するために、広域的運営推進機関を設立する。地域間連系線等の増強を促進するとともに、再生可能エネルギーや蓄電池を核とした分散型電源の基盤を整備する。
・エネルギーの低廉かつ安定的な供給を実現するために、①原子力規制委員会により規制基準に適合すると認められた原子力発電所の再稼働、②環境アセスメントの明確化及び迅速化を踏まえた環境に配慮した低コスト高効率火力(石炭・LNG)の導入、③シェールガスを含む安価な天然ガスの輸入、日本企業の天然ガス開発支援による供給源多角化等を行う。

■民間の資金、知恵の活用と社会資本の整備・運営・更新

2013年の日本再生戦略では以下のような計画を立てました。
・収益施設・公的不動産の活用や、民間都市開発と一体で進めることにより、民間資金等を最大限に活かして社会資本の更新等の投資を可能とするような手法を積極的に推進する。
・上部空間の利用等により首都高速道路の老朽化対策を民間都市開発と一体的に行うなど、都市と高速道路の一体的な再生にPPP事業を活用する。
・官民共同で(株)民間資金等活用事業推進機構を設立し、民間事業者が利用料金で資金回収を行い社会資本を整備するPFI事業にリスクマネーを供給する。これを呼び水とし、これまでは、民間事業者が需要変動リスクを負うため実績が極めて少なかった利用料金徴収を伴う独立採算型PFI事業等を大きく伸ばす。
・公共施設に運営権を設定することで、当該運営権を抵当に資金調達の円滑化を図るとともに、民間事業者が創意工夫を発揮できるコンセッション方式の対象に新たに国管理空港等を追加する。これにより、コンセッション方式によるPFI事業を抜本的に拡大する。

■IT利用とイノベーション

2013年の日本再生戦略では以下のような計画を立てました。
・ビッグデータやオープンデータの利活用が世界最高水準で実現するよう積極的に進める。このため、データ利活用と個人情報及びプライバシー保護との両立に配慮したデータ利活用ルールを策定するとともに、紛争処理機能等を有する第三者機関の設置を含む新たな法的措置も視野に入れた制度見直し方針を策定する。
・地理空間情報(G空間情報)、調達情報、統計情報、防災・減災情報などの公共データを積極的かつ速やかに公開し、これを活用して新たなビジネスを創出することを後押しする。このため、公共データを掲載するデータカタログサイト(日本版data.gov)を試行的に立ち上げ、来年度から本格稼動させる。
・対面・書面交付が前提とされているサービスや手続を含め、IT利活用の阻害要因となる規制・制度を洗い出し、改革を進める。このため、あらゆる分野でITの利活用が行われるように、「IT利活用の裾野拡大のための規制制度改革集中アクションプラン(仮称)」を策定する。

(つづく)Y.H