ISOへの取り組み当たっては、経営者の問題意識、そして経営者自身の取り組みが非常に大事です。今回から5回にわたってそのお話をしましょう。
 経営者は当然のことですが、自組織の経営に全責任を持っています。お客様満足をきちんと得続けているか、自組織はきちんと利益を上げると共に、永続性を確保した状態になっているか。その問題意識は、単に品質マネジメントシステムや環境マネジメントシステムに関する認証取得あるいはその維持、という部分的な視点ではありません。もちろんそれらのことを疎かにしてよい、という意味では全くなく、部分部分が確実な状態であってその上で全体が整った状態であることの全責任を経営者は負っているわけです。
 そのような視点で捉えていただき、その上でISO対応であれば経営者による確認、つまり規格用語で言うマネジメントレビューを行っていく、ということになります。この整理及び理解は、経営者ではなくてもISOに関わる全ての皆さんには持っていただきたいと思います。
 見方を社員の方々からの方向に変えれば、経営者に大所高所での判断をしてもらうためにマネジメントレビューの準備を事務局の方はしていく必要があるということになります。
 なんだか少し仰々しい書き方になってしまいましたね。
 簡単に言えば、ISOの運用において、経営者の方に経営者ならではの仕事を行ってもらう場のひとつがマネジメントレビューなのです。
 規格の言葉が「マネジメントレビュー」ですので、その用語をここでは用いさせてもらいましたが、経営者の見直し会議でも構いませんし、ISO経営者会議でも構いません。名前の問題ではなく、いつも同じこと申し上げますが、中身をどのようなものにするのかがISOの運用においてはとにかく大事なこと、という点は改めて述べておきますね。

 創業経営者が自分一人、あるいはごくわずかなスタッフの人と業務を行っている間は、ISOの認証取得は基本不要です。
 ある程度スタッフの数が増えていき、創業者一人ではとても手が回らない状態をスタッフの方が支援して事業拡大が進んでいく段階になれば、マネジメントシステム導入の意義、価値が出てきます。経営者が考えていること、実施しようと思っていたことは、なかなかすべてが全スタッフに対して以心伝心というわけにはいかないでしょう。だからこそ、仕事に取り組むにあたっての考え方、そして仕事の進め方について、決め事となっていれば、経営者に成り代わって対応する方の迷いも大いに減るというものです。
それは何も品質(ISO9001)とか環境(ISO14001)という部分対応だけでなく、経営全般についても同様のことが言えます。

 前回は後半で創業したばかりの会社が、だんだん事業が拡大していき社員の方を雇って事業拡大を目指していくに際して、ISOが活用できる、というお話を致しました。そこの部分をもう少し深堀していきましょう。
 創業したばかりの会社は、創業者の思いと頑張りが何よりも大事で、そこに結果が伴って来ればその会社は生き残っていくことができるわけです。そして見事に事業が定着し、拡大路線に入ることができると社員の数も増えていき、仕事の内容も多岐にわたっていくことになります。創業者一人が仕事を行うわけではなくなることから、組織運営の仕組みが必要になるわけです。
 その仕組みをどのように作るかということこそ、経営者の取り組まなければならないことです。もちろん一緒に働く仲間の協力がなければ仕事は回っていきませんから、仕組み化を図る段階で、社員の皆さんの意見を聞くことは大事なことです。仕事の流れの整理し例えば、商品開発はどのように行っていくか、原材料の購入はどのような手順か、実際の製品やサービスの作り上げ方で絶対守るべきポイントは何か、などのポイントをわかりやすく整理して共有化を図っていく必要があるということです。
 その際に文書が有効であると判断するのであれば、その内容を書き落としていけばよいわけです。

 ISOというと文書が、記録が、ということをお聞きになった方もおられると思います。昔は確かに文書や記録に関する要求事項がたくさんありましたが、そのあたりはどんどん変わっています。ある意味ISO規格も改善が図られていますので、むやみやたらと文書や記録を作成する必要は今ではなくなっています。いずれにしても、経営者として取り組むべきことは、自分の会社の仕事の流れを整理して、誰にでもわかるものとして、それを周知徹底することです。
 そして経営者が行うべきことの中で、もう一つの大事なことがマネジメントレビューです。そのあたりのお話を前回したのですが、もう少し説明加えたと思います。
マネジメントレビューは、認証取得のために、マネジメントシステムの運用状況についてある一定期間(多くは1年でしょう)についての見直しを経営者自らが行うものです。あくまで審査対応ということであれば、運用している品質なら品質マネジメントシステム、環境なら環境マネジメントシステムに関して、自組織の運用状況を確認し、その先の対応についての指示を出していけば良いわけです。ですが、経営者視点からすればこれだけで終えてしまうのはもったいないのです。

 さて、認証を取得している組織では多くの場合、年に1回のマネジメントレビューを行っていると思います。ISO9001の規格要求事項の中では、会議の議題として、これらのことは必ず含めるかどうか検討してください、ということが決められています。少々回りくどい言い方ですが、必ずインプットに含めてください、ではない点が要注意です。検討の結果自社にはふさわしくないと思えば、それらを会議議題として取り上げる必要はないということです。ただし念の為申し上げますが、議題とするかどうかの検討は必ずしてください。
 そして会議のアウトプットについては、こちらはこれらのことを必ず入れてください、ということが決められています。このレベルの対応で審査対応は問題なく終えられるわけです。これらのことにきちんと取り組んでいただき、レビューをしていただければ、品質に関する保証という観点では、しっかりとした取り組みをしている、と実証することにつながっていきます。だからこそISOに取り組む価値があるわけですし、第三者認証という制度がここまで広がってきたわけです。具体的にどのような要求事項が列記されているか見ていきましょう(ISO9001より引用、ISO14001においても基本同内容と思って構いません)。

  • ●会議にインプットする検討を加える必要がある事項
  • a) 前回までのマネジメントレビューの結果とった処置の状況
  • b) 品質マネジメントシステムに関連する外部及び内部の課題の変化
  • c) 次に示す(下記の1)~7)のこと)傾向を含めた,品質マネジメントシステムのパフォーマンス及び有効性に関する情報
    • 1) 顧客満足及び密接に関連する利害関係者からのフィードバック
    • 2) 品質目標が満たされている程度
    • 3) プロセスのパフォーマンス,並びに製品及びサービスの適合
    • 4) 不適合及び是正処置
    • 5) 監視及び測定の結果
    • 6) 監査結果
    • 7) 外部提供者のパフォーマンス
  • d) 資源の妥当性
  • e) リスク及び機会への取組みの有効性(6.1 参照)
  • f) 改善の機会
  • ●会議で結論を出し、指示を出す必要がある事項(アウトプット)
  • a) 改善の機会
  • b) 品質マネジメントシステムのあらゆる変更の必要性
  • c) 資源の必要性

 さあ、いかがでしょうか、まず数が揃っていないことに驚かれたでしょうか。インプットについては、緩やかな制約にしてしまうと品質を保証する、ということにつながらなくなるリスクが高まるので、ある程度の項目数が並んでいます。一方で、アウトプットは3つしかありません。極めて基本的かつ重要な項目が限定されて要求されている、と理解してください。これだけでも一応十分とは言えるのですが、できればこれは本当の最低限のものであって、これにどれだけ上乗せするかは組織自らの判断が入るべきもの、と捉えていただくとよいですね。
 是非、審査におけるぎりぎり合格を目指すのではなく、自分たちの会社の製品なりサービスなりを本当にお客様に胸を張ってお勧めできるようにするために、マネジメントレビューでしっかりと組織内をコントロールしていって欲しいと思います。それが経営者に求められている発揮すべきリーダーシップの一つなのです。

第三者認証を取得する上で大事なことは、取得を目指すぞ、という経営者の号令なのですが、そこはまあ、あまりご説明せずともイメージしていただけるのではないかと思います。よって今回は、号令をかけた後、経営者が行わなければならないことについて触れたいと思います。
 さあ、それは一体何でしょう。
 いきなり答えをご説明するのではなく、少し遠回りをしますね。
 経営者にとって大事なことは組織を経営し、きちんと利益を出して(公的機関は除きます)組織を継続させることです。そのためにISOの認証取得が役に立つと思うからこそ、認証取得の号令を出すわけです。さあ、その決断をするベースには何があるかを考えてみていただきたいのです。
 組織を経営していく上で大事なことは何か、ということになるのですが、色々な考え方はあるとはいえ、やはり私は理念(言葉は別な言い方でも全く構いません)であろうと思っています。経営理念とか、ビジョンとか、社是と言われるものです。歴史のある組織であればたいていの場合、成文化されていることと思います。経営をしていく上で一番のベースになる、根幹をなす概念になります。
 この理念をベースにして、経営計画というものを作っていくわけです。場合によっては中期経営計画という名称で運用されているかもしれませんね。経営者にとって、自分の会社はどのような歴史があり、今どのようなお客様にどのような製品(サービス)を提供して成り立たせているかはよくわかっていることです。そしてそれを継続させていくために、そしてさらに発展させていくめに何をしていけばよいか、ということも色々なことが頭の中にあります。その中の大事な一つが、自社の製品(サービス)の質をいかに確保し、より良いものにしていくか、ということなのです。そのために何をすべきか。ここまで来ると経営者も色々と悩みます。そして一部の経営者はISO 9001の認証を取得することでそれを成し遂げよう、と考えるのです。なぜそう考えたかと言えば、ISO 9001の認証取得により、対外的なアピールができる、というメリットも一つではありますが、やはり顧客満足を追求する組織の仕組みを構築したり、品質の改善を継続的行う仕組みの構築ができる、という魅力を理解したうえでの判断なわけです。
 つまり経営者が行わなければならない大事なことは、なぜ、ISO 9001に取り組むという経営判断をしたのか、どのような組織、そして仕組みを作っていきたいのかをしっかりと社員の皆さんに説明することが大事なことになるのです。
 そこを怠ると、ただ単に商業主義的にあるいは取引先から言われたから、という観点で自社はISOに取り組む判断をしたのだ、という思いを社員の皆さんに植え付けてしまうのです。残念ながらこのような雰囲気になってしまうと前向きな気持ちそして行動を引き出すことは困難になります。
 なぜISOが自社に必要なのか、それを自分の言葉でしっかり語る。これは「やるぞ!」と号令をかけた経営者の方にとっては必ずやっておいて欲しい大事なことなのです。

 なぜ自分たちに必要なことなのかの説明には、論理性も必要です。ぶれない軸、と言い換えてもよいでしょう。
 前々回に多少「理念」について触れました。どのような言葉が皆様の会社で用いられているかはあまり大きな問題ではありません。大事なことは皆さんの会社における最上位概念(理念とか社是、ビジョンといったようなもの)からつながるISOの枠組みがきちんと整合がとれていることです。
 例えばISO 9001では必ず品質方針を設定しなければいけないことになっています。では品質方針はどのように考えて設定すればよいのでしょうか。
 第一に押さえておく必要があることは、ISO規格の中に出てくる言葉で言えば、「組織の目的」とつながっていることです。さあ組織の目的とは何か、という問題が出てきてしまうので、そこで先ほどの理念、ビジョンという言葉を思い起こしていただきたいわけです。
 理念を踏まえて品質方針を設定する。これは経営者でなければできないことです。そしてその決定した品質方針を全社に確実に浸透させるための号令をかける、これも経営者が行うべきことです。優秀なナンバー2がいる会社であればその人が対応しても問題はありませんが、そのような場合たいていはそのナンバー2の方も役員さんでしょうから、ある意味経営者がすべきことをしていると言えるわけです。
 その品質方針に基づいて、各部門で目標を作っていくことによって組織が動いていくわけです。
 さあいかがでしょうか。経営者が取り組むべきこと、当たり前のことかもしれませんが、それらのことはISO 9001の中でも明文化されているのです。
 これ以外にもまだいくつか経営者が行うべき事項はあることはありますが、だんだん細かい話になっていきますので、今回のシリーズもいったんここまでとしましょう。
 次回からはテーマが変わり、目標についてお話ししたいと思います。