前項で規格要求事項の話をしました。
 「~しなければならない」と要求事項を規定するISO9001やISO14001などの規格の中では数多くのクリアしなければならない関門が用意されている、ということになります。認証を取得するには、それらの規格内に規定されたすべての要求事項を満たす必要がある、ということをお話しました。
今回から5回にわたって、その認証取得のための審査がどのように行われるのか、というお話をしていきたいと思います。

 まず今回は、審査が成立するためには、認証を取得したい企業(組織)と認証審査を行う審査会社が必要という点についてのご説明をしていきます。
 認証取得を希望する組織は、先ほど企業という書き方をしましたが、何も民間の営利企業だけに限定されるものではありません。認証取得に価値を感じた組織が、費用がかかることを認識する一方で、価値が掛かる費用に見合うと判断すれば認証取得に向けた動きをしていくことになり、それは自治体のような非営利組織であっても全く問題ありません。
 そしてその認証取得希望組織の要望に応えるのが審査を実施する組織(機関)になるわけです。審査会社と言ったり、審査機関と言ったり、あるいは認証機関と言う呼ばれ方をしている組織です。
 そしてこの認証機関も、民間の営利組織(企業)が行っているだけではありません。財団法人としてISOの審査業務を行っている機関もいくつもあるのが日本におけるISO審査マーケットの実態です。
 この二者(認証取得を希望する組織と認証機関)の契約によりISOの審査が開始されることになります。

 認証機関として活動している組織は現在の日本には本当に数多くの組織があります。もちろん認証取得を希望する組織がISO9001の認証取得を希望するのか、ISO14001の認証取得を希望するのかあるいは、それ以外の規格(ISO/IEC27001やISO45001など)を希望するのかによって、その認証機関で審査業務を行っているかどうかが異なります。すべてのISO規格で数多くの認証機関が審査活動を行っているとは言い切れませんが、それでもいずれのISO規格であっても一つや二つの認証機関しかない、ということはありません。故に、認証機関同士の営業合戦もずいぶんと起きるようになりました。認証機関によってもセールスポイントが異なります。従って自分たちの組織は審査を受けることによってどのような価値を得たいのか、という点を明らかにして契約する認証機関の選定を行うことが大事になってきます。見積もりを複数の認証機関から取得して、値段だけ見て安いところに発注する、ということは避けたいものです。その大きな理由の一つは、認証取得を希望する組織の業務内容についての知識経験のある審査員があてがわれるかどうかによっても、審査を受けることによって得られる価値が異なってくるからです。

 単に認証を取得できれば良いというスタンスではなく、審査料金は他社よりも高かったとしても、自社業務への理解がある審査員、企業経営の本質がわかる審査員を要望すると共に、そのような視点を踏まえた認証取得組織の成長発展を支援したい、と考えている認証機関及び審査員を選ぶようにしたいものです。
 各認証機関ではほとんどの所で専属の営業マンがいます。連絡をされればプレゼンに来てくれますので、コンタクトしてみると良いでしょう。それでもあまりに数が多すぎてその認証機関で見積もりを取ればよいかわからない、ということであればテクノファでも多少の情報提供は可能です。
 下記のフォームから遠慮なくお問い合わせください。
https://www.technofer.co.jp/contact/form/

 審査がどのように行われるか、今回から具体的内容に入っていきます。
 まず始めに契約を交わす際に、どの規格に関しての認証取得を目指すのか、そして全社として認証を取得するのか、特定の事業所(一部の工場など)での認証取得を目指すのか、その範囲を決めることになります。大企業で異なる事業分野(製品)を扱っている場合は、認証機関とよく相談をする必要があります。なぜなら認証機関ごとにどの分野の審査ができるかの範囲が異なるからです。詳細は記しませんが39の分類に分けられ、例えば製造業と言っても、機械なのか金属なのか、化学製品なのかゴム製品なのかというような分類が細かく分けられているのです。
故に大企業で大きな範囲で認証を取得しようとすると、それらの分類で分けられたすべての対応ができる認証機関と契約を交わす必要がある点は覚えておくとよいでしょう。

 さて、それらの契約が無事整うと、実際の審査を受ける日程調整等に入っていきます。
 認証機関側は審査員の選定に入ります。小さな組織であれば審査員一人の対応、大きな組織であればチームリーダーが選ばれ、その下にチームメンバーが一人あるいは複数名ついて審査チームを構成することになります。
 そしてこの先は認証機関からのコンタクトは主にチームリーダーが行なうことになります。事業内容の確認、適用範囲の確認や審査スケジュールの確定という流れで進んでいきます。

 審査自体は、第一段階審査と第二段階審査に分かれます。
第一段階審査は、その組織がISO認証取得に向けて審査を受ける状況に達しているかどうかを全体的に見る審査になります。ここでOKとなればいわゆる本審査と言える第二段階審査に進んでいくことになります。第一段階審査では組織から提出された文書類を中心に確認を進めますが、組織の事務所にも訪問し、細かい部分は第二段階審査で見るものの概況を掴むための審査という位置付けで進められます。

 もし第一段階審査で多くの問題点が発見されると、当初計画した審査計画通りに進められなくなる可能性もあります。そのあたりは審査チームリーダーが取り纏めをして組織側との折衝を行っていくことになります。
 第一段階審査が想定通り(多少の問題は出るケースが多い)の範囲で収まれば、第二段階審査の詳細計画を審査チームリーダーが作り組織に連絡をしてくることになります。一般的には第二段階審査は第一段階審査よりも工数(審査日数)はだいぶ多くなります(2倍程度の時もあります)。

 尚、この審査工数は認証機関側が決めるものですが、審査員にはこのような経験、力量を持った人が良い、とかこのような観点で審査をして欲しいという要望を組織から認証機関に出すことができます。

 ときどき、審査を受ける側は審査側に何も注文が付けられない、と勘違いされておられる方がいらっしゃるのですが、お金を払って審査を受けるわけですから、組織として考えていること、狙うことをどんどん要望として伝えることが重要です。
 もちろん、細かいことを言わずに合格判定してください、と言うのではだめですよ(笑)。
 自分たちが高いレベルを目指していること認証機関側に伝えることによって、認証機関、そして審査員のモチベーションもとても高まります。多少苦労してでも実りある審査結果を導き出すために、どんどん認証機関への要望を出すようにしましょう。

 前回は審査には2つの段階があることの概略と、組織としての要望をどんどん認証機関側に伝えましょう、というお話をしました。
 今回は審査当日がどのような流れになるのかのご説明をしたいと思います。
 審査が何日間連続で行われるかは組織の規模によって異なります。中小企業であれば1日で終わるケースもありますし、中小企業であっても、審査員が一人で来る場合は1日では終わらず2日間(1.5日というのもあります)の審査問うことにもなります。
 国際的なISOの審査ルールで組織の従業員数によって審査工数が決まっているためなのです。

 さて、審査が1日で終わるケースで考えていきましょう。
 朝一番で審査員が主導で行う初回会議で審査が始まります。その初回会議では、出席者の確認から始め、審査の目的、審査範囲、その日の計画について、事前すり合わせ情報と違いがないかどうかの確認を行います。適合、不適合という言葉の定義や、どのような状況になれば合格となって、認証証(登録証)発行に行き着くのか、という説明をなされます。そこで双方質問がなければ通例15分程度で初回会議は終わります。なお初回会議にはトップの方の参加が必須と思ってください。どうしても緊急事態が起きた場合は別ですが、初回会議のみならず最終会議もトップが出席しないことには本来得られるべき審査を受ける効果が落ちることは間違いありません。ご注意ください。

 そしてこの紹介会議以降がいよいよ審査本番ということになります。複数名の審査員でチームが構成されていればその段階以降、審査員は役割分担に応じで審査対象部署に散っていくことになります。
 但し、多くの場合は初回会議終了後はトップ(経営者)インタビューを行います。そこで得られる情報は全審査員にとっても貴重な情報のため、複数名審査員がいる場合でもここまでは散り散りになることなく、全審査員がトップインタビューに参加するケースが一般的です。
 そしてトップインタビューが終わると、審査員は各現場部署に出向いて(場合いよってはその場所に当該部署の責任者が資料等を携えてやってきて)審査が始まります。
 基本はISO規格に要求事項に対して、組織の活動が合致しているかどうかを評価判定しますが、組織がISO要求事項以上にレベルの高い規定を設けてそれで日頃の業務を行う仕組みを構築している場合は、その仕組みに基づいた組織運営がなされているかどうかも審査対象となります。

 審査は規格要求事項に書かれている内容を、要求事項の項番に沿って聞いていくものではありません。組織の業務の流れに沿って、それが規格要求事項と照らし合わせて問題ないかどうか、組織の業務の流れの中で規格要求事項の内容が網羅されているかどうかを見ていくことになります。

 昔のISO審査では規格要求事項の項番通りに順番に確認していく、というスタイルの審査が行われていましたが、それでは組織にとっての価値が低い、ということを審査をする側、受ける側双方が感じ、審査の進め方に関する理解、認識を深めていくことによって、審査のやり方も変化(進化)を遂げてきました。
 但し一部の認証機関では旧来型の審査がまだ行なわれている、という声も聞こえてきます。以前は、ISO規格要求事項の項番通りのISOマニュアルを作成するようにと認証機関側が組織に求めていたところもあるのですが、そのような対応をする認証機関はだんだん生き残れなくなってきました。認証機関そして審査員にも正直、力量の差があります。是非組織の皆様には、その力量差を見抜く目を持っていただきたいと思います。

 審査当日は、事前に決めた計画通りに対象部署(部門)を回って審査を続けていきます。ただし、その審査は会議室の中で書類等を確認し、インタビューをすることも行いますが、それだけではありません。
 必ず現場を見に行くのです。
 現場とは、例えば製造業であれば工場のラインであったり、建設業であれば設計現場や工事現場ということになります。サービス業であれば、お客様と接している場所です。いずれもできるだけ通常業務の邪魔にならないよう、一方で必要であれば現場で仕事をされている方に直接インタビューすることもあります。

 審査員にとって大事なことはまずは観察することです。その場所で何がどのように行われているかを自分の目で見て確認します。もちろん限られた審査時間ですから1時間も2時間もじっと審査員が現場を観察することはありません。場合によっては1~2分の極めて短い時間の観察に基づいて次の行動に移るケースもあります。ここでしっかり組織の活動状況を見抜ける審査員が優秀な審査員ということになります。皆さんの組織に来る審査員が現場を見ようとしないようであれば、それは支払っている審査料金に見合う審査をしている審査員とはとても言えなくなります。万が一そんな審査員に当たってしまった場合は、遠慮なく契約先である審査機関(認証機関)に要望として伝えてください。

 さて、観察の次に審査員として行うことは確認することです。たいていの場合は直接聞くことで確認を行います。会議室でのインタビューだけでなく、先ほど触れた現場での担当者へのインタビューです。インタビューを受ける際には、是非前向きな気持ちで協力的スタンスでの返答をしていきましょう。ISOの審査は公的権力による査察を受ける場合とは全く違います。あくまで皆さんの組織の将来を明るいものにするために現状がどのような状態にあるかを把握するための審査であり、インタビューですから聞かれないことまでペラペラ話をする必要はありませんが、つっけんどんに、そうです、違います、というような両者の間に溝を作ってしまうような受け答えは控えましょう。

 そしてもう一つ、審査員にとって大事なことは文書、記録類の確認です。ISOに取り組むと文書や記録ばかりで大変、と嫌われ者とも言える存在ですが、文書記録類は必要不可欠な大事なものです。審査においてもきちんと対応している証拠資料、という位置づけで記録類の確認は大事なステップになります。そして仕組み化を図る、そして浸透させるには文書がなければできません。ただし、形式は紙に捉われる必要はない点だけ補足しておきます。紙資料を作らなければいけないとなると心理的負担は増しますから、写真はビデオなどでも全く問題ありません。その点はISOも規格改訂の度に柔軟度を増しています。固定観念に捉われることなく、文書、記録類への対応を図ってください。

 実際の審査はこの3つの組み合わせで進んでいきます。タイムスケジュール通りに進めることも審査員の腕ですが、時間ありきではありません。場合によってはある特定箇所で気になれば当初予定を変更して深掘りするケースもあります。

 審査員の責務は決められたスケジュールの中で規格要求事項に対して組織の運営状況が適合であることを確認していくことが第一義、その上で、改善すべき点があればそこも明らかにしていくことにあります。組織の皆様も審査を受ける際には、自組織を良くしていくために、という意識を持って審査から何かを掴みとる、という気持ちで受審してください。

 前項で認証審査当日の話をしました。事前計画の予定に従って審査を机上のものだけでなく、現場も含めて訪問して規格要求事項に対して適合であることを確認していくのが審査である、というお話をしました。

さて、本テーマの締めくくりとして、審査がどのように終わるのか、というお話を今回したいと思います。

 計画した予定の部署での審査を終えると、審査員は別室をお借りする形で審査員会議を行います(複数名ではなく、審査員一人で審査を行った場合も同じです)。そこで何をするかと言うと、審査が問題なく終えられたかどうかの確認と、審査結果についての所見のまとめを行います。もし不適合という残念な状況が見つかった場合は、不適合指摘書(是正処置要求書という言い方もする場合があります)の作成をそのお借りしている場で行うのです。  30分から場合によっては1時間程度その時間を使うことになります。  そしてそこで審査員内でのまとめが終わるといよいよ最終会議となります。ここは初回会議の参加メンバーに再度集合してもらい(初回会議の説明時の時にも記しましたが、トップの参加は必須と思ってください)、審査が無事終わったのかどうか、どのような改善点が見つかったのか、もしかすると不適合が検出されたのかを審査員から聞くことになります。  もちろん討議することは可能ですが、ここで審査のやり直しになるような議論になることはまずありません。会議が長引けばその分審査料金の追加にもなる場合があります。従って、経営者側の方々は、最終会議に入る前の各部署等での審査が終わった段階で、それぞれの担当部門から審査の状況についての報告を予め受けておくことが大事です。それでも納得がいかない部分あれば、それは最終会議の場を使って再度やりとりをするということも不可能ではない、という認識でお願いします。

 最終会議が終わると審査員はその組織から離れ、あとは最終のペーパーワークを行っていくことになります。審査報告書の作成です。ここは認証機関によって対応が異なり、簡単な最終報告書で済ませてしまうところから、文字でびっしり埋まっているような審査報告書を仕上げる機関まで色々あります。当然それらも費用に跳ね返ってきますので、組織内でISO審査をどのように活用しようか、というスタンス次第で審査機関(認証機関)を選ぶ選択肢としてください。  尚、正確には審査員が最終報告書を書いて終わりではなく、認証機関内の判定委員会で審査員の活動全般が問題ないことを確認した上で、その組織に対して登録証(認証証)の発行がなされる、ということになります。

 認証賞授与式として簡単な記念式典のような形にして写真撮影まで行う認証機関が数多くあります。認証取得組織もその時の記念写真をホームページで公開したりしていますので、もしかすると他社のサイトをご覧になった際にその場面の写真を見つけられたことがあるかもしれません。  全5回にわたってISO審査がどのように行われるのか、進むのか、という点のご説明をしてきました。  ご参考になれば幸いです。