第22回

「私とマネジメントシステムそしてISO」の第22回目です。
今回は、トヨタ生産方式のカンバンについて話をします。「国家的品質管理推進活動」の一つとして、日科技連が事務局となる品質月間が毎年11月に開かれますが、この品質月間(1968年頃)でセイコーエプソンが招いたトヨタの大野耐一氏の講演を聞く機会がありました。前回は、カンバンが組立工場のあらゆる無駄を排除する目的であることをお話ししました。

◆トヨタのカンバン方式
大野さんの講演を聞いた後、今は定かではありませんが何10年か前に、トヨタの工場見学に伺った折、驚いたことがありました。見学会のテーマは「金型製造の合理化について」でしたが、大型金型の〈反転〉を目にして、何トンもある金型が動くさまは想像を絶するものでした。当然のことですが、自動車用金型の大きさは、時計やプリンターの金型とは比較にならない大きさで、私共にとっては参考になりませんでしたが、発想の豊かさには大いに刺激を受けました。

その後ですが、車のランプを製造している「小糸製作所」の工場見学に伺った折でした。案内役の技術者の方からの説明にトヨタのすごさを感じました。その時受けた話の概要を以下に述べます。

トヨタの技術者からは次の項目の指導をいただきました。

①成形型保管方法:棚の大きさ、架台強さ
②成形型の運搬ルートの設置:保管場所設置~成形機迄のルート設定
③成形型の待機場所の設定:段取り時間短縮出来る場所の決定
④成形型取り付けボルト:型重量の最低必要取り付けボルトの首下長さを機械毎に決め、全不要部分はカット
⑤成形型取付け板の統一
⑥「カンバン」による成形品目・数量・開始時期等

私共の特に感心したのは④でした。ネジ1山でも不要なネジ締めを廃止して、成形型段取り時間を短縮するという微細項目の徹底指導には頭が下がりました。しかも数ケ月に亘って指導して頂きました。「小糸製作所」の技術者の説明では、このようにトヨタは協力会社へ徹底した指導を行い、トヨタと協力会社が一体となって努力した結果が、必要な部品が“Just in Time”で組立作業現場に到着する実現に結び付いたそうです。

看板又は標札を意味する「カンバン」は、“Just in Time”システムにおけるコミュニケーション手段として使われています。それは、「目で見る管理」の道具で、ある部品が次工程に運ばれる際、各部品箱には「カンバン」が付けられます。納入先に部品が送られる場合にも「カンバン」が付けられますが、この場合には、『納入カンバン』としての役割を果たします。

「カンバン」は部品が使用後に送り返され、『仕掛りカンバン』となり加工の開始を指示する事になります。納入先から送り返された「カンバン」は、『引取りカンバン』として発注書と同じ役割を果たします。この「カンバン」方式の素晴らしさは、「カンバン」が部品の流入を組立ライン迄、無駄無く繋げることです。その結果、例えば、午前中に工場へ持ち込まれたエンジンブロックは、夕方までには完成車に収まり路上を走っていることになります。

「カンバン」は、トヨタ生産方式で使われる手段であり、目的そのものではありません。
“Just in Time”は、次のような利点を狙っています。

① リードタイムの短縮
② 非加工作業時間の削減
③ 在庫削減
④ 異工程間のバランスの確保
⑤ 問題の明確化

1970年ころQC雑誌で、トヨタの幹部が話されていたのを読んだ憶えがあります。「カンバン」を理解する参考になると思います。

「トヨタ生産方式は、簡単に言えば、必要な数量の部品を製造して最終組立工程に送り、それがストップしない様にするシステムである。時々、トヨタ生産方式を「非在庫システム」と呼ぶ人もいるが、これは正しくない。我々は常に幾らかの在庫を保持している。必要な数の製品を、期日までに生産するには、一定の在庫は必要だからです。組立ライン上の各乗用車のフロントには、1枚のカードが付けられている。このカードに記された数字又は符号に基づいて、車に、夫々の異なった部品が組み付けられる。いわば、各乗用車が、「私はこんな車になりたい」という情報を持っているといえます。例えば、カードは左ハンドル、又はオートマチック・トランスミッシヨンを要求しているかも知れない。組立ラインの作業者はカードの指示に基づいて、必要な部品を取出す。これは時として、目で見る管理とも呼ばれる。言い換えれば、作業者はカードを見る事で、作業工程のやり方をコントロール出来る訳である。」

以上