第3章 PDCAを回す

会社は複数の人の集まり、つまり共同体です。その会社にとって大事なことは存続していくこと、ということは第2章でもご説明した通りです。そしてその会社が存続していくためにはお客様に評価され、購入される製品、サービスの提供をし続けなければなりません。何をどのように作り販売(提供)していくか。すべての会社ではその計画を持った上で実践する、ということを繰り返しているのです。
そのことを表すPDCAという用語と考え方をこの章では学んでいきましょう。

3.1 PDCAとは

PDCAとは4つの英語の言葉の頭文字をとったものです。その4つの英語は何かと言えば、

・Plan
・Do
・Check
・Act

の4語になります。
それぞれの日本語はあえて記さなくても皆さんであればお分かりになると思いますが、最後のActだけは、通常意識する日本語の訳語とは少々違います。
そのことを念頭に置いていただき、4つの言葉を日本語で捉えていきましょう。

・計画する、立案する
・実践する、実行する
・確認する、評価する
・改善する

さあ、如何でしょうか。最後の「改善する」だけはあなたのイメージとずれていたかもしれませんね。
そして、あなたがこれから学んでいくISO 9001ではこのPDCAについて以下のように規定しています。

Plan:システム及びそのプロセスの目標を設定し,顧客要求事項及び組織の方針に沿った結果を出すために必要な資源を用意し,リスク及び機会を特定し,かつ,それらに取り組む。

Do:計画されたことを実行する。

Check:方針,目標,要求事項及び計画した活動に照らして,プロセス並びにその結果としての製品及びサービスを監視し,(該当する場合には,必ず)測定し,その結果を報告する。

Act:必要に応じて,パフォーマンスを改善するための処置をとる。

【ISO 9001(JIS Q 9001)0.3.2項より引用】

堅苦しい書き方と思われた方もいるでしょうが、PDCAは単に4つの言葉が並んでいるだけでなく、それぞれが関連して、一つのサイクルを形成していることが何よりも大事なのです。
PDCAサイクルという言い方をします。

尚、最後のActに関しては、Actionという言われ方の方が広まっているかもしれません。どこかで時点で日本人の思考の中でActionの方が馴染むという意識からかこの言葉が定着してしまったとも言えるのですが、いずれの語も動詞が並んでいるわけですので、Actionではなく、Actであることは理解いただけると思います。

3.2 PDCAサイクル

サイクルという言葉自体、あまり聞きなれないかもしれませんね。ライフサイクルとか核燃料サイクルという使い方をするのですが、いずれにせよ、一つの輪をイメージするとよいでしょう。


上司から指示された仕事に一生懸命に取り組んで、期待された成果をあげることは新入社員の人にとってはとても大事なことです。まずは上司に認められる仕事をすることが入社後の当面の目標になりますが、その際に、ただ単に言われたことだけをする、という視点からもう一歩踏み込むことができればより良いということです。但しここで踏み込むと言いましたが、その視点は深掘りするということではなく、俯瞰する、という方向性ですので間違えないようにしてください。

俯瞰する、という少々難しい言葉を使いましたが、「木を見て森を見ず」ということわざを聞いたことがあるのではないかと思います。自分の仕事に集中していけばどうしても木をじっくり見る、更にそれを深掘りしてみる、ということが必要になってきます。但し意識がそこばかりに行くと、全体を見ることがおろそかになってしまいます。ある一本の木にだけ一生懸命気をつけても、森全体の状態がわかっていないと判断を間違うことになりますよ、ということをこのことわざでは伝えようとしています。

それと同じことがPDCAサイクル全体をしっかり見ることが大事ですよ、ということにつながります。新人の内は関与する仕事の多くはDoの部分であったりCheckの部分の仕事のはずです。そこに注力することは必要ですが、森であるPDCAサイクル全体が理解できているのと理解できていないのではやはり仕事の取り組み方、そして成果の出し方に違いが出て来ます。
PDCAサイクルは、A(つまりAct)で終わりではなく、一旦出て来たAの部分が次のPの部分へとつながっていくことによって、継続性が生まれると共に、継続的改善が初めて進むようになります。
そのことを「PDCAを回す」という言い方が世の中では用いられているのです。

少し話が膨らみますが、企業活動は、年度という区切りはありますが、基本的には終わりはありません。たとえば2030年には当社解散します、などと宣言する会社にあなたは入社しようとは思いませんよね。
結果として事業に失敗して倒産、解散ということになるリスクはどの企業も背負っていますが、いずれも、期限を区切って事業をするのではなく、ずっと続けることを原則として経営は行われます。企業会計も同様の原則で行われるため、ゴーイングコンサーンという概念で処理が行なわれるのです。ゴーイングコンサーンという言葉も日常生活においては全く使いませんが、社会人として覚えておいて欲しい用語であり概念です。

3.3 それ以外のサイクル

3.2項ではPDCAサイクルについての説明をしました。そして経営管理のやり方は何もPDCAサイクルだけではありません。
人々の間で活用されているPDCAサイクルの応用形とも言えるサイクルがいくつかありますので、ここで紹介しておきましょう。そしてそれらの間に優劣があるものではありません。色々な考え方、活用の仕方がある中で、自社にはどの考え方がフィットするかを考えて取り入れていけばよいのです。

(1)PDCASサイクル
これはPDCAサイクルのあとにSがついたものです。このSは何という英語の頭文字かと言えば、それは“standardization”です。
“standardization”という単語はよほど英語に熟達された方ではないと聞いたことすらないのではないかと思います。日本語に訳せば「標準化」という単語になりますが、PDCAのあとに改善の一つの延長線上に標準化を考えましょう、ということなのです。そしてここで言う標準化は仕組み化という言葉に置き換えて考えるとより実務につながります。仕事はいつも同じように安定した成果を出していくことが期待されます。そのためには毎回違ったやり方では成果は安定しません。いつも同じ手順でやるからこそ安定するわけで、その同じやり方を行うために、様々な業務を仕組み化できれば、その組織の運営力は高まります。そのためにPDCAサイクルの仕上げとして“standardization”があるのです。

(2)SDCAサイクル(その1)
今度はPDCAサイクルのPの代わりにSが入りました。このSは先の(1)項で説明した語と同じで“standardization“が入ります。
まず標準化を行ってから、実際の作業に入りましょう。その上で確認(評価)を行い更なる改善を行っていきましょう、というサイクルがこのSDCAサイクルです。

(3)SDCAサイクル(その2)
前項と同じSDCAサイクルですが、ここでお伝えしたいのは仕事からは少々離れる概念ですが、皆さん自身が意識しておくとよい概念なのでご紹介します。
今度のSは先ほどの“standardization”ではなく“study”のSです。
勉強は学生時代で終わり、社会人になれば仕事をしていくことだ、ともし思われている方がいれば、それは残念ながら誤った認識になりますので、ここで矯正をかけましょう。社会人になって仕事をしていくようになっても、勉強しなければいけないことは山ほどあります。勉強という言葉が悪ければ、学ぶあるいは、研究するでも構いません。世の中は常に変化、進化していきますから、それに対応していくための勉強は必要ですし、自分の枠組みを広げる、専門分野を究める、という対応のためにも勉強はいくつになってもずっと必要です。習うは一生、ということわざをお聞きなったことがあるかもしれません。少々乱暴な言い方ですが、人生死ぬまで勉強だ、という言い方をされる方もいます。
今の皆さんの場合は、ありとあらゆる機会を使って学びを深める時期です。本から学ぶ、先輩から学ぶ、仕事そのものから学ぶ、1日たりとも無駄にせずにSDCAサイクルを回して行ってください。

(4)PDSサイクル 
これはPDCAサイクルの概念は同じですが、キーワードが4つではなく3つになっています。
PとDはPlanとDoで同じなのですが、Sは今度は“standardization”ではなく、”See“になります。
Doの結果をよく見る、振り返る、検証する、といった日本とを当てはめて考えてもらえれば、PDCAサイクルのCとAの合体版という捉え方もできることを感じ取れると思います。
PDSサイクルもSで終わりではなく、次のPに行かにつなげていくかを考える点ではPDCAサイクルと同じです。
いずれにせよ、御社の中ではどのサイクルでもって日頃の活動を行っているかを認識して、その概念をしっかり理解することが大事です。このような部分も1.3節で述べた自社を知る、ということにつながるのです。

(次号へつづく)