044-246-0910
第5章 マネジメントシステムを知ろう
第4章で標準化、仕組み化を学びました。
いよいよ実際の会社の構造や仕事の仕方について入っていくことになります。
組織は人の集団で成り立っていることは皆様お分かりのことでしょう。その集団を引っ張っていく上で、そして動かしていく上でその組織の中にマネジメントシステムと言われる仕組みが存在することによって、効果的そして効率的な経営が可能になっていきます。
組織の目指すべき大事なことの一つに永続性というものがあることは、本書では何回かお伝えしてきました。その永続性を支える仕組みがマネジメントシステムであると考えてください。
それでは詳しくその組織の仕組み、というものを見ていきましょう。
5.1 指揮命令系統
社長、副社長、専務、常務、取締役、執行役員、部長、次長、課長、係長。
随分な数になる肩書を並べてみました。多くの日本の大企業ではこのような肩書の人がいて、その組織が動いてきました。その後名称は欧米流のやり方が取り入れられて来たりして、カタカナだったり横文字だったり様々な呼称が取り入れられ変わってきてますが、いずれにせよ御社においても、平社員から始まり、管理職、上級管理職、役員、上席役員、社長あるいはCEOという昇進、昇格の道筋があるはずです。
もちろん中小企業であれば、このように多くの種別はない企業の方が圧倒的に多いでしょう。
さて、自社を知るという点で肩書による上下関係を学ぶことも大事ではありますが、この項で学ぶべきことは、上位資格の人から下位資格の人に対しての業務上の指示、命令についてです。
入社すると、どの会社でもそうですが、直属の上司の方が決まっており、その上司の下で仕事学んでいき、成果を上げることが求められるようになります。例えば直属の上司の方が課長であったとすれば、その課長には部長や役員、更には社長という上司がいるわけで、それはあなたにとっても上司の方々であることは間違いありません。しかし仕事の内容についてのやりとりをその方々をすることはなく、あくまで日常の業務運営は課長及び同じ部署に所属する同僚との間でなされることになります。
つまり、あなたにとっては課長の指示、命令が何よりも大事なことになります。
ただし、課長の指示命令への対応をしていく上で、会社の状況や進む方向性を理解しておくことも大事ですが、課長もまたその上司からの指示命令を受けて動いていることを理解することが大事になります。課長の直属の上司は部長とすれば、部長の求めることは何か、ということへの理解です。そして部長であっても、直属の上司である役員、場合によっては取締役会からの指示、命令に基づいて動いています。そうするとあなたはその方々(場合によっては人ではなく役員会という合議体の時もあります)の意向も理解しておくべきなのです。
このように組織では上位者が下位者にどんどん指示命令を出していくことで、一人では到底成し得ない大きな仕事を成し遂げていくものです。
一支店、一工場という組織の中にもしあなたが配属される/されているとなると、支店長、工場長より偉い方々は誰なのか、ということはなかなか理解できないかもしれません。しかし、その上司が社長でない限り、必ずその人にも上司はいるのだ、ということを常に意識しておきましょう。
そして何よりも、自分の入った会社はどのような方向に進んでいるのか、将来何を成し遂げようとしているのか、を理解した上で、上司からの指示命令を咀嚼したいものです。これができればあなたはもう新入社員卒業です。
5.2 組織図
1.3項「自社を知る、そしてお客様を知る」でお話ししたことの繰り返しになりますが、個人経営の会社でなければまず大抵の組織において複数の部署が存在します。それを書き表したのが組織図です。
下記の図5-1に組織図の例を示しておきます。あなたの会社にもこのようなスタイルの組織図がきっとあるはずです。
是非、その資料はコピーをとって、自社にはどのような部署があって、どのような仕事をしているのかを早急につかみましょう。
中小企業であればこのような組織図になります。もちろん各部の下に課やグループが配置されているでしょう。そこまで細かく組織図に書き表すかどうかはその組織の判断です。
いずれにせよ、一つの会社の中では複数の部署がそれぞれ相互補完をしながら仕事をしていき、成果を上げていきます。ある特定の部署単独で仕事が完結する場合もないとは言えませんが、たいていの場合は複数の部署の連係プレーによって、仕事は完結していくことは覚えておきましょう。
5.3 連係プレー
5.2項で複数の部署の連係プレーによって、仕事は完結していくものであることをお話ししました。
普段あなたが利用する飲食店やコンビニエンスストアで考えてみればそこでも感じ取れると思いますが、お客様と接触して何らかのサービスを提供する仕事であっても、必ず原材料の調達や調理をする部門が存在するからこそ、窓口対応する人は接客に専念できます。またその場でお金のやり取りがある仕事であれば、何らかの形で情報システムとの連動が現代社会の仕事においては存在します。直接情報システム部門の人とのやり取りはその場では起きていなくても、情報システムが存在することの恩恵に窓口の人は必ず預かっているわけです。
このように業務は個人経営の会社でない限り、必ず何らかしらの形で社内の他の人との連係プレーがあってこそ成り立つものです。
そしてその連係プレーのやり方はその都度都度決めているものでしょうか。違うということにあなたも同意いただけるでしょう。毎回毎回やり方を協議していたのでは非効率極まりない、ということになってしまいます。多くの企業では標準化、としてこの仕事はこのようなやり方で処理をして(他の部署に)流していくやり方を決め、そしてそれを間違わないように書面に落としこんだり、録画してインストラクションとして用いるなどの工夫をしています。これによって、仕組み化が進んでいくわけです。その仕組み化が現場で勝手に起きているのではなく、上層部(役員)の経営方針に基づいて社内の全部署で行われ、その会社の統制が取れている、という状態になれば、その会社には立派な仕組みが存在する、と言えます。この全社的な仕組みのことをマネジメントシステムと呼んでいるのです。
つまり、それは会社としての目指すべき方向(経営の目的)を踏まえた全社一丸となった組織運営が進む上での下支えになっている仕組みがマネジメントシステムなのです。ですから現場だけで活用するものではなく、社長であってもマネジメントシステムのことをしっかり意識した言動を取らなければなりません。全役所職員が自らの言動を律する根拠がマネジメントシステムにある、と言ってもよいでしょう。
そしてマネジメントシステムは会社経営の仕組みことですから、その仕組みは会社ごとに当然違うものになります。千差万別であり、二つとしての同じものはないはずです。
5.4 唯一無二の仕組み
前項で各社が持つマネジメントシステムは、千差万別であるというお話をしました。
言葉を替えると、本項表題に用いた唯一無二という言葉で理解を深めていただきたいのです。
マネジメントシステムはその会社の業務運営の標準化を意識した仕組み化を図った結果です。会社運営の仕組みはその会社に根付いた風土とも密接につながります。だからこそその会社にしか存在しないものなのです。
第6章での話になりますが、ISOというマネジメントシステムの一つのひな型を採り入れる際に、他社の事例を参考にするのはよいのですが、他社での活用方法をそのまま自社に取り入れようとする組織が数多く出てしまったという過去があります。
簡単に言えば借り物で仕事をする状態がISO認証取得企業で多数発生してしまったという歴史です。残念ながらこれは失敗事例です。自社が持つ特徴を殺すことになってしまう危険性が極めて高いからです。
再び1.3項での話の続きになりますが、自社を知ることを更に深掘りしていくと、自社の「強み」を知ることがとても大事になります。
自社は何を売りとして日頃の活動をしているのか。何がお客様に評価されているのか。そしてその強みはなぜ生まれたのか、そしてこの先も生み出し続けることができるのか。これらのことはすべて自社の強みを知らなければ答えられません。そして自社の強みというのもある特定のことだけとは限りません。色々な事象の組み合わせで自社の強みが出来上がっているケースの方が実際は多いでしょう。
その強みを社員の皆さんが理解しやすくするため、そして伝承しやすくするためにマネジメントシステムは存在し、活用していかなければなりません。当然すべての組織では完璧な状態とは違う部分が数多くあります。つまり組織にとっての課題は様々なものがあります。その課題に取り組んでいくためにも課題の見える化、課題に取り組んでいく過程における確認や評価、そして最終決裁などの仕組みも必要です。これらのこともすべてマネジメントシステムの中に組み込むべき要素です。
さあ、だんだん込み入ってきましたね。マネジメントシステムがカバーすることは実は多岐にわたります。第4章でお話をした標準化、仕組み化だけでなく、第3章で取り上げたPDCAそして第2章で取り上げた組織の目的(理念)や責任権限、役割分担ということもマネジメントシステムでカバーすべき内容なのです。
そしてこの章で強調したそれを組織独自のものとして作り上げる、ということは本当のことを言えば、ベテラン社員の方にとっても実はかなり大変です。では、その仕組みを作っていく上でひな型のようなものがあればやはり便利ではないか、という発想が多くの人の中にあり出来上がったものがISOが規定するマネジメントシステム規格なのです。
ISOが組織運営の仕組みの標準形をISO9001やISO14001等の規格に取りまとめて、世の中の人々にどうぞ使ってください、と言って発売したというのが過去の歴史です。
したがって、マネジメントシステムのひな型として世の中に出ているものはISOの規格だけではありません。まかり間違ってもマネジメントシステム規格=ISOとは思わないでください。マネジメントシステムのひな型が世の中にどれくらいあるのか、筆者も調べたことはありません。ですがISO以外にも日本や海外各国で色々なひな型が作られています。その中で最も認知度が高いものがISOのマネジメントシステム規格なのです。この点はしっかり記憶の中に留めてください。実はこの誤解は世の中に結構広まってしまっています。御社の先輩方の中でもこのようにISOについての認識を誤解されている方がいないとも限りません。
もう一度繰り返します。マネジメントシステム規格=ISOではありません。
マネジメントシステム規格≠ISOです。
(次号へつづく)