内部監査はJIS Q 19011に沿って行うことが推奨されています。「平林良人の部屋」に掲載されている「内部監査とマネジメントレビューに関する質問100選」に加え、内部監査でのポイントをJIS Q 19011:2019に沿って分かりやすく解説します。

C:監査の実施
 ここでは内部監査の実施段階の質問を扱います。
【質問38
内部監査報告書の作成において、不適合と観察事項の違いについて教えてください。
【回答38
回答37に述べたように内部監査報告書には監査所見を書かなければなりません。この所見は内部監査報告書の核心になるものです。

「不適合」は、要求事項を満たしていないことですが、標準、規則などに従っていない作業など総てのことを指します。それに対して、「観察事項」は不適合ではないが改善したほうが良いこと、そして称賛したいことなどを書きます。

不適合は、「重大なもの」と、「軽微なもの」とに分ける場合があります。この区分は第三者審査の基準であるISO/IEC17021-1に規定されています。

3.12 重大な不適合(major nonconformity)
意図した結果を達成するマネジメントシステムの能力に影響を与える不適合。
注記 次の事項は,重大な不適合に分類される可能性がある。
- 効果的なプロセス管理が行われているか,又は製品若しくはサービスが規定要求事項を満たしているかについて,重大な疑いがある。
- 同一の要求事項又は問題に関連する軽微な不適合が幾つかあり,それらがシステムの欠陥であることが実証され,その結果重大な不適合となるもの。

3.13 軽微な不適合(minor nonconformity)
意図した結果を達成するマネジメントシステムの能力に影響を与えない不適合。

組織によっては、「軽微な不適合」を「観察事項」と呼んでいる場合がありますが、観察事項は不適合ではないので、この分類は不適切なものであると思います。
今回の質問は、「不適合と観察事項の違い」ですが、不適合は、「要求事項(標準、規則など)に従っていないもの」をいいますが、観察事項は要求事項とは関係なく組織のパフォーマンス向上に「貢献するもの、こと」を言います。

注意すべきことは、「不適合」を「観察事項」として処理してしまうことです。特に軽微な不適合を観察事項として処理することが無いようにすべきです。
不適合は必ず是正処置を取らねばなりませんが、観察事項はその実施をするかどうかは被監査者の選択に委ねられますので、大きな違いがあることを忘れてはなりません。

 < JIS Q 19011:2019の該当する部分>  下線は筆者が追加した。
6.4.8 監査所見の作成
監査所見を決定するために,監査基準に照らして監査証拠を評価することが望ましい。監査所見では,監査基準に対して適合又は不適合のいずれかを示すことができる。監査計画で規定されている場合には,個々の監査所見には,根拠となる証拠を伴った適合性及び優れた実践事例,改善の機会,並びに被監査者に対するあらゆる提言を含めることが望ましい。
不適合及びその根拠となる監査証拠は,記録しておくことが望ましい。
不適合は,組織の状況及びそのリスクによって格付けすることが可能である。この格付けは,定量的なもの(例えば,1 から5)も定性的なもの(例えば,軽微,重大)もあり得る。不適合は,被監査者とレビューすることが望ましい。これは,監査証拠が正確であること,及び不適合の内容が理解されたことについて被監査者の確認を得るためである。監査証拠又は監査所見に関して意見の相違がある場合には,それを解決するためのあらゆる努力を試みることが望ましい。解決できなかった課題は,監査報告書に記録しておくことが望ましい。
監査中の適切な段階で監査所見をレビューするために,監査チームは,必要に応じて打合せをすることが望ましい。
注記1 監査所見の特定及び評価についての追加の手引をA.18 に示す。
注記2 法令・規制要求事項又はその他の要求事項に関係する監査基準に対する適合又は不適合は,順守又は不順守と呼ばれることもある。

6.4.10 最終会議の実施
最終会議は,監査所見及び監査結論を提示するために開催することが望ましい。
(中略)
該当する場合,監査チームリーダーは,監査結論に付与し得る信頼性を低下させるかもしれない,監査中に遭遇した状況について,被監査者に知らせることが望ましい。マネジメントシステムに定められているか,又は監査依頼者との合意がある場合,参加者は,監査所見に対処するための処置の計画の期限について合意することが望ましい。
最終会議の詳細さの程度は,被監査者の目的(又は目標)を達成するためにマネジメントシステムの有効性を考慮に入れることが望ましい。これには,被監査者の状況並びにリスク及び機会の考慮を含む。
(中略)
該当する場合には,最終会議では,次の事項を被監査者に説明することが望ましい。
 a) 収集した監査証拠は入手可能な情報のサンプルに基づいたものであり,必ずしも,被監査者のプロセスの全体的有効性を完全に表すものではないことを伝える。
 b) 報告の方法
 c) 合意したプロセスに基づいて,監査所見にどのように対処するのが望ましいか
 d) 監査所見に適切に対処しなかった場合に起こり得る結果
 e) 監査所見及び監査結論の提示。被監査者の管理層が理解し,認知する方法で行う。
 f) 関係する監査後のあらゆる活動(例えば,是正処置の実施及びレビュー,監査に関する苦情への対処,異議申立てのプロセス)

監査所見又は監査結論に関して,監査チームと被監査者との間に意見の相違があれば,協議し,可能であれば,それを解決することが望ましい。解決できなかったならば,これを記録に残すことが望ましい。
監査目的で規定している場合は,改善の機会についての提言をしてもよい。提言には,拘束力がないことを強調しておくことが望ましい。

(つづく)

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