平林良人「新・世界標準ISOマネジメント」(2003年)アーカイブ 第4回

1.2 国際規格はどのように作られるか

  • 国際規格は、ISO加盟国で組織されるTCやSC(分科会:Sub-Committee)の委員会で検討されISO中央事務局から発行される。場合によっては、TCまたはSCのなかにさらにWG(ワーキンググループ:Working Group)を設けて検討される場合もある。国際規格作成の手続きは、メンバーのコンセンサスを前提として、ISO/IEC専門業務指針に規定されたISOの国際規格作成手順に従って作成され発行される。ただ、最後の段階になると国際規格は一国一票の投票で最終的に決まる。
    では、どんなプロセスを経て国際規格となるのであろうか。

1.2.1 国際規格制定までの道のり

  • 国際規格の文書は、WD(作業原案、Working Draft)、CD(委員会原案、Committee Draft)、DIS(国際規格原案、Draft International Standard)、FDIS(最終国際規格原案、Final DIS)の4種類に分類され、規格作成の手続きは段階ごとに管理されている。
  • 通常、国際規格発行までの審議期間は、3年から5年というのが平均的である。つまり、新しい国際規格の作成が提案されて、各々の審議段階を経て国際規格が発行されるのは、3年から5年後ということになる。
  • WDおよびCDの文書は、各TC/SCの幹事国で文書が管理され、DIS以上の文書はISO中央事務局で管理され、この結果はISOテクニカルレポートとして発行されている。
  • 通常は、CD段階でメンバーのコンセンサスがほぼ固まるため、CD段階までに意見を反映しておくことが重要となる。DISおよびFDISの段階では、各国投票の最終的な段階に入るので、この段階で内容を覆すことは難しい。DIS、FDIS段階での投票では、TC(専門委員会、Technical Committee)のPメンバーの3分の2以上が賛成し、かつ、反対が投票総数の4分の1以下である場合に成立する。
  • このため、全世界のGNPの40%を占めている日本と米国の2カ国が反対しても、投票では負けてしまうということになる。どうしても反対したい場合には、共通意識をもつ他のTCメンバーに個別に働きかけて反対投票を依頼することになる。ただ、この方法は非常手段と考えたほうがよく、CD段階で技術的に説得力ある理由に基づいて意見を反映させることが重要である。
  • 国際規格作成のため連続して数回以上にわたりISOの国際会議に出席した日本の委員から、時々、「民主主義というものが何であるかがよくわかった」という話を聞く。これはコンセンサスに多くの時間をかけて国際規格の発行に至るプロセスを指したものである。日本人にとって時としてじれったいこともある。まさに、民主主義で言われる「Speed of action is never the absolute goal of the democracy」である。ただ、ISOの世界でも声の大きい人はやはり得をするようである。
  • 現在、ISO規格の発行数は10000以上に上っているが、1990年代に入ってから、多くの分野で技術開発のスピードが、国際/地域/国家/団体/企業という伝統的なヒエラルキーによる作成スピードを越え始めた。このため、1998年、ISOは、従来の国際規格と技術報告書(Technical Report)の発行に加えて、迅速な規格作成を行うため新しい3種類の出版物の発行を決めた。
  • これは、「Pメンバーの2/3の賛成が必要なTS(Technical Specification)」、「Pメンバーの過半数の賛成が必要なPAS(Publicly Available Specification)」、「オープン・ワークショップでの成果であるITA(Industry Technical Agreement)」という出版物である。
  • これにより、規格作成途中の段階でISOという公的な出版物として迅速に発行することが出来るようになり、開発スピードの早い技術分野については有効な手段となっている。しかしながら、これらの出版物はコンセンサスを確保した国際規格ではなく、あくまでも中間ステップの方策で、競争状態にある複数の技術について複数のものが出来る場合もある。ただし、3年毎に見直しが必要で、2回目の見直し時には、廃止又は国際規格とする付帯事項が付けられている。
  • ISOが発行する国際規格を初めとする出版物には、すべて著作権があり、翻訳又は複製等は禁止されている。このため、ISO規格の全部又は一部を複写、翻訳、出版物として発行・販売する場合には、ISOに対して許可と著作権使用料等の支払いが必要である。これは、国際規格原案(DIS)やCD-ROMの電子媒体にも同様に適用される。日本では、著作権についての問題意識が薄いので注意が必要である。