平林良人「ISO 9001 有効活用のためのビジネス改善ツール」(2005年)アーカイブ 第25回

制約条件の理論(TOC)

活用方法

要素 コメント
ISO 9001との関連 MR RM PR M&A Imp
活用範囲 あらゆるタイプの組織
製造とサービスの両方
機能
システムにおける変化の度合い 小~中
人々に関する変化の度合い
利益レベル
参加レベル 推進母体として
成熟レベル 経験者、又は世界クラスの者
時間尺度 12ヶ月以上
投資レベル 安い~中間
実施方法 改革

背景

制約条件の理論(TOC)は、Eliyahu Goldrattがデミングの「深遠な知識」とシステム思考に基づいて、かつ彼の製造経験にベースをおいて開発をしました。制約条件の理論(TOC)は、1984年発行の彼の本「The Goal」に基づいています。

Goldrattは科学と教育の本質を調べています。彼は科学とは、数少ない論理を用いて多くの自然現象を説明するものだと考えています。一方で教育又は学習は、演繹のプロセスを通じて伝えられます。結果彼の手法は、活動を説明するのに仮説を用いることと、将来行動を予測するのに演繹を用いることだと考えられます。

制約条件の理論(TOC)は、継続的改善へのシステムアプローチとして記述されています。それは全体的なシステムパフォーマンスを改善するための、システム原則、ツール、あるいは方法を網羅したものです。

原則

デミングの「深遠な知識」とは次のようなものです。

  • 知識体系の理解
  • ばらつきの知識
  • 心理学の理解
  • システムの理解

TOCは、管理者及び組織は彼らの本当の目的と、達成しようとしている達成目標を知っているという仮定に基づきます。不運にも必ずしもそうだとは限りません。しかし、管理者は次の3つのことを知らずに成功を望めません。

  1. 最終達成目標は何か。
  2. 達成目標に対して今どこにいるのか。
  3. 現状から達成目標にいくのに必要な、変化の大きさと方向。

制約条件の理論(TOC)は、多くの原則を持っています。

チェーンとしてのシステム

  • これはTOCに重要です。システムがチェーンのように機能するなら、最も弱い結合部を見つけて強化することができます。

部分最適vsシステム最適

  • 相互依存とばらつきのために、全体システムのパフォーマンスの最適値は、すべての部分最適値の合計ではありません。システムのすべての部分が最大レベルで働いても、全体システムは必ずしも最高で働くわけではありません。

原因と効果

  • すべてのシステムは、原因と結果の環境下で働きます。何かが起きると、他の何かを引き起こします。この因果関係は、特に複合システムでは非常に複雑な場合があり得ます。

不適切な結果と中心問題

  • システムで多く見られる不適切な結果は、問題としてみるべきではなく、兆候としてみるべきものです。それらは根本的な原因が存在していて、その結果が現れているのです。単に不適切な結果を除去しても、これで大丈夫という誤った感覚を与えてしまいます。不適切な結果をすべて除去するだけでなく、中心問題の特定とその除去こそが再発を防ぐものになります。

解決の劣化

  • 解決を最適に実施することは、時間とともに困難になります、というのはシステムの環境は変化するからです。改善を進めているプロセスは、最新化することが必要であり、解決したものの効率(及び有効性)は維持していくことが必要です。惰性はプロセスの改善を進める上で、最大の敵となるものです。「その問題は解決したのだから見直す必要はない」という態度は、継続的改善の業務を破壊します。

物理的制約vs政策的制約

  • システムにおけるほとんどの制約は、物理的なものではなく、政策的なものから起こります。物理的な制約は、特定して壊すことが比較的容易です。政策的制約は、壊すことがはるかに困難ですが、一般的にいって物理的制約を除去するよりも、システムへの改善にはるかに大きな貢献をします。

アイディアは解決策ではない

  • 世界で一番良いアイディアがあっても、実行されなければその秘めている可能性は絶対に実現しません。さらに、素晴らしいアイディアはほとんどが実行段階で失敗します。

アプローチ

Goldrattは、システムに最も大きく良い影響を与えられる部分に改善努力を集中べきとして、連続する「重視」5ステップを開発しました。

  • ステップ1. システム制約部分の特定
  •  システムのどこの部分が最も弱い結合部ですか?それは物理的制約ですか、それとも政策的制約ですか?
  • ステップ2. 制約部分の活かし方を決める
  •  これは今ある制約部分から、そこにある能力をすべて引き出すことを意味します。言い換えれば、お金のかかる変更あるいはグレードアップをするのではなく、制約部分から最大のものを得ることを意味します。
  • ステップ3. 他のすべてを従属させる
  •  そのシステムの他の部分は、制約部分が最大効率で働けるような「設定」に調整される必要があります。これは、場合によってはシステムのある部分を「下方調整」したり、「上方調整」したりすることを意味します。次に結果を評価して、制約部分は依然としてシステムのパフォーマンスを制約しているか確認してください。制約していなければ、ステップ5へ進んでください。もし制約しているならば、ステップ4へと続けてください。
  • ステップ4. 制約を上げる
  •  このステップは、既存のシステムに対して大きな変更をすることを考えます-再編成、引き上げ、財務的な改善、あるいは他の本質的なシステム修正等です。これは、時間、エネルギー、金、あるいは他の資源等の大きな投資を伴うことになり、最初の3ステップで制約を破れない場合にのみこの方法を取るべきです。制約を「上げる」とは、制約除去のために必要とされるすべての処置を講ずることを意味します。このステップが終了して制約が解かれます。
  • ステップ5. ステップ1に戻りなさい、ただし「惰性」に注意
  •  他の制約部分を探して破り続けることは重要ですが、自己満足にならないようにしてください。システムは、相互依存と対策実行後のいろいろな変更による変化のために、既に破れた制約部分に対して新しい影響を与えている可能性があります。このため、制約部分に再度対処し最新化する必要性が出てきます。

重視する5つのステップは、変化につきものの次のような3つのマネジメントへの疑問と直接関係します。何を変えるのか、何に変えるのか、及びどのようにして変えるのかです。5つのステップには、これらの疑問にどのように答えるかの説明が存在しています。