平林良人「ISO 9001 有効活用のためのビジネス改善ツール」(2005年)アーカイブ 第32回

(承前)

アメリカでは、当時QC(品質管理)は品質管理屋ともいわれる一部の専門家(professional)の業務とされ、会社全体への影響は限られていたため、それへの警鐘として定義付けしたといわれている。しかし、日本で育っていったTQCは、単にこのように全社をカバーする専門家組織/システムという概念を超えて、常に次のステップに上がっていく継続的改善を核にした幾つもの概念と手法の集合体であった。

このため1965年当時には、日本式TQCは海外のそれとは区別すべきであるとして、CWQC(Company-wide Quality Control)と呼称しようという動きが起こった
「品質管理を効果的に実施するためには、市場の調査、研究・開発、製品の企画、設計、生産準備、購買・外注、製造、検査、販売およびアフターサービスならびに財務、人事、教育など企業活動の全段階にわたり、経営者をはじめ管理者、監督者、作業者など企業の全員の参加と協力が必要である。このようにして実施される品質管理を、全社的品質管理(company-wide quality control,略してCWQC)という」と定義している。

このようにJISでは、日本式品質管理をCWQCと定義したが、以降CWQCという呼び方はあまり使われず、日本式TQCあるいは単にTQCと呼ばれていった。ここで強調しておきたいのは、TQCは日本の中で独自の発展を遂げていき、ファイゲンバウムが想定した枠組みを大きく超えていったということである。
この日本式TQCには、各大学、各企業、そして各研究所の優秀な人材がこぞって参加し、切磋琢磨しながら次々と新しい論理を花咲かせていった。そしてこれらの論理が強固な基盤となって1970~1985年の日本産業界の大飛躍をがっちりと支えていくことになるのである。
一方アメリカでは1980年、NBCテレビがそれまでアメリカでは無名に近かったデミング博士を「日本の競争力を強化したのはデミング博士である」と紹介した(タイトル:日本にできて、なぜアメリカにできないのか;If Japan can , why can’t we ?)ことを契機に、総合的品質管理をTQCとは別に、TQMと呼称するようになっていった。

次の2.3項では、1970年代以降隆盛を誇った、日本式TQCの特徴を成す要素を説明していくが、これらは日本に独自な風土(右肩上がり経済成長という環境にも助けられ)の中で生まれ育ったものである。したがって、一時的にその効用が落ちたとしても、その風土、伝統を絶やさず守っていけば新しい日本の展望が開けてくると思う。
 日本に独自な風土とは次のようなものをいう。

  • ① 全員で力を合わせる(四季折々のピーク時には村総出で事に当たらなければならなかった農耕民族の伝統による)。
  • ② 全国民があるレベル以上の均質な教育を受けている(二宮尊徳、江戸時代の寺小屋以来の伝統による)。
  • ③ 終身雇用制度がある(でっち奉公等に代表される日本的徒弟度による。表面的には最近は崩壊したと言われるが、はたしてそうであろうか)。
  • ④ あうんの呼吸で仕事ができる(古代から同一民族としてのコミュニケーションのよさによる)。
  • ⑤ ねばり強い(自然災害多発ににもかかわらず、再興してきた歴史、伝統による)。
  • ⑥ 職業的道徳感がある(武士道―義、勇、仁、礼、誠、名誉、忠義―、茶道、花道等一つの道を突き詰める伝統による)。
  • ⑦ 柔軟性がある(原理主義の一神教とは異なり、多神教である、即ち自然を神とした八百万の神の伝統による)。
  • ⑧ 高密度、高効率である(狭隘な日本列島に億を超える国民が効率よく住んでいることによる)

2.3項の多くのものは、本書に取り上げられている、次のような改善アプローチのルーツ(源)になっていることが理解できよう。

  • ① バランススコアカード (BSC) 、パフォーマンス評価
  • ② 改善/継続的改善
  • ③ 改善チーム
  • ④ リーン・シンキング (Lean Thinking)
  • ⑤ プロセスマネジメント
  • ⑥ 自己評価法
  • ⑦ シックスシグマ
  • ⑧ 制約条件の理論(TOC)
  • ⑨ TPM (Total Productive Maintenance)
  • ⑩ TQM