平林良人「ISO 9001 有効活用のためのビジネス改善ツール」(2005年)アーカイブ 第36回

(4)品質保証

「安全第一: Safety First」という言葉があるが、TQCの世界では「品質第一: Quality First」といわれた。これは、売上増大、収益拡大よりも品質を優先的に扱うべきである、との考え方である。品質と売上・収益は、相反するものではなく、同じ土俵の上にあるものである、と考えなくてはならない。同じ土俵の上にあるのだから、どちらから手をつけても同じだ、と考えるかもしれないが、品質の方から手をつけた方が得策である、という考え方である。

品質向上を目的に活動すれば、必ず売上・収益も上がる。しかし、売上・収益を目的に活動すれば、品質が向上する場合もあるが、必ずというわけではない。品質向上は売上・収益向上に対して十分条件であるのに対して、売上・収益向上はそうではないのである。これが品質第一とTQCでいわれてきた理由である。

多くの企業で、口では品質第一といいながら実際は売上・収益向上しか実行していない、ということがよくある。それはその企業が本当に品質第一に徹していないからである。ちょうど、安全第一といいながら重大事故を起こしてしまう企業と同じである。品質第一に徹するとは、顧客の製品に対する要求を調査・分析して、その品質を製品規格の品質特性に変換し、製造において実現することである。

この品質管理の中心に位置するのが「品質保証」である。品質保証を簡単にいえば、「消費者が安心して、満足して買うことができ、それを使用して安心感、満足感をもち、しかも長く使用できるという品質を保証する」ことである。品質保証の責任は製造者にある。製造者には、自分の製造した製品を消費者に満足して使用してもらう責任がある。この品質保証の責任を企業内の組織に当てはめると、設計部門、技術部門、製造部門にあって、検査部門にはない。検査部門には、消費者の立場にたっての品質チェックの責任があるのであって、品質保証の責任があるのではない。

1)品質は工程で作り込む

  • 品質保証は、歴史的に検査によって実施すること、検査体制を構築することから出発した。しかし、製品には検査だけではチェックできない多くの項目がある。複雑な製品になればなるほど、複雑な検査装置が必要になるし、破壊検査、性能検査、信頼性検査等検査だけでは品質保証することは不可能でかつ不経済である。検査に頼ると結局は検査員の数が増加し、不良を発見すればしたで手直しの要員が必要になり、コストが上がり経営を圧迫する要因を作ることになる。
  • 日本では戦後TQCが始まって直ぐにこの検査による品質保証の不合理に気が付き、工程能力を分析、向上させることで、工程を流れる全製品を良品とする研究に力を注いだ。この考え方が、「品質は工程で作り込む」という日本式TQCの合言葉となっていった。

2)源流管理

  • やがてこの「品質は工程で作り込む」という製造部門の力だけでは、やはり限界があることが分かってきた。不良品や手直し品をつくらないためには、製造工程の力もさることながら、企画工程、設計工程での品質保証を強化することが必要であることに視点が広がっていった。新製品企画、設計、試作、試験といった業務フローの川上での品質保証活動が重要視されるようになった。

3)再発防止

  • 品質保証で大切なことは同じ問題を2度起こさないことである。市場からのクレームに対策を取ったつもりが、しばらく時間をおいてまた同じ問題を起こしてしまう、というケースがよくある。日本式TQCでは次の3段階を再発防止策と考えている。
    • ① 出た現象を除去する。
    • ② 原因を除去する。
    • ③ 根本原因を除去する。
  • ①は別名、応急処置と呼ばれるもので取りあえずクレームに対して間に合わせ的な手を打つことをいう。②はなぜそのクレームが起きたかの原因を調査し、その原因を除去する。普通はそこまで実施すればよいのではないかと考えるが、③はもう一歩深く原因を追求して根本的な原因までに手を打つことを主張している。このことをもって、「なぜ、なぜ、は5回繰り返せ」といわれたものである。

4)重点志向

  • QC7つ道具にパレート図というものがある。詳しい説明は、2.3.5統計的方法の活用(3)“QC7つ道具”を参照にしていただきたいが、要は項目別に頻度を数えてグラフにしたものである。例えば、クレーム対策を推進する上で何から取り組むのかというと、当然のこととして一番頻度の高い項目から取り組んでいくのが常識である。つまり多くある軽微なもの(trivial many)より、少数の重要なもの(critical few)を選んで対策を打つことをいう。
  • 目の前にあるものを片っ端から取り上げてみても、同じエネルギーをかけての効果は少なくなってしまう。パレート図を作成してみて、一番頻度の大きいもの、すなわち重点的に取り組むべきものを優先的に取り上げて、それから処置していく考え方を重点志向と呼んでいる。

5)次工程はお客様

  • 最終商品が消費者に満足してもらうためには、その製品に関係するすべての職場、すべての人の協力が必要である。自分の作り出したものの受け手は、例えその人が社内の人(次工程)であってもお客様と考えて、その人に喜んでもらえるように自分の仕事をきちんと品質保証しようという考え方である。さらに、社内の次工程であるお客様は、前工程に対してデータ、事実に基づいた合理的な要求をすること、も忘れてはならないことである。

この概念が後年、ISO 9000の「顧客は、組織の内部又は外部のいずれでもあり得る」という考え方に繫がるが、久米均は2004年8月の「標準化と品質管理」で、ISO 9001:2000の審査登録を巡っての品質不祥事について次のように述べている。
「“次工程はお客様”というのは“次工程もお客様”ということであって、“次工程だけがお客様”といっているのではない。本社を顧客とする考え方は企業内部の論理として通用するかもしれないが、その企業の外にいる本来の購入者から見れば、顧客を無視した企業の勝手な論理である。ISO 9000では顧客をどのように定めるべきかの規定はない。しかし、だからといって本来の顧客を無視し自分たちの都合に合わせて顧客を定めていることは、企業として真剣に品質マネジメントシステムの構築を目指しているとはいえないであろう。」

最終のお客様、すなわち、顧客が何を本当に求めているか、は重要な課題である。狩野紀昭はその編書「サービス産業のTQC」(1990、日科技連)の中で次のように述べている。

  • 「① 上げればお客の満足を得、下げれば不満を招く。
  • ② 上げればお客の満足を得るが、下げても仕方ないよと諦めてくれる。
  • ③ 上げてもお客は当たり前と受け止めるが、下げた場合には不満を招く。
  • ④ 上げても下げてもお客は無関心。
  • ⑤ 上げると不満を招くが、下げると満足を得る。
  • などの品質特性があることに気がつくであろう。
  • ① は一元的品質、②は魅力的品質、③は当たり前品質、④は無関心品質、⑤は逆品質と呼ばれる。」

さらに狩野紀昭は、①~⑤の品質水準中で「魅力的品質」について次のように述べている。「お客が重点を置く要求に関連していて、自社の達成レベルが他社の達成レベルに比べて高い品質特性に対しては、セールスポイント、チャームポイントがそのまま営業活動の武器に使用できる。」「設定した品質水準が実現され、ねらいのお客からねらい通り満足してもらっているかどうか確認していく必要がある。もし、満足してもらっていないということであれば、それは、重要品質特性の選定に問題があるのか、品質水準の設定に問題があるのか、あるいはその実現に問題があるのか、科学的に分析する必要がある。このような分析をせずにいたずらに品質水準を変更してみたり、従業員の注意力に解決を求めたりするケースをよく見かけるが、合理的な進め方とはいえない。」