平林良人「ISO 9001 有効活用のためのビジネス改善ツール」(2005年)アーカイブ 第43回

(9)かんばん方式

トヨタが1960年代から推進してきた、在庫を持たない生産方式の核心の手法である。かんばん方式の試行錯誤の結果は、現在JIT(ジャストインタイム)として世界に知られている。「かんばん」とは、文字通りその上に文字情報が書かれた紙のかんばん(カード)である。かんばん方式では、後ろの工程から「かんばん」が回ってきて、初めて前の工程は仕事をする。「かんばん」が回ってくるまでは何も仕事をしない、という原則で在庫を徹底して削減する。「かんばん」は、品物の「引き取り情報」または「運搬指示情報」として、また生産工程内における「作業指示情報」として機能する。

かんばん方式は、トヨタの大野耐一が1956年にアメリカのスーパーマーケットに行った時にヒントを得て、以降、試行に試行を重ねて今日の姿になったという。スーパーマーケットを生産ラインの前工程と見立てると、顧客である後工程は、必要とする商品(部品)を、必要な時に、必要な量だけ、スーパーマーケットに当たる前工程へ買いに行く。前工程は、すぐに後工程が引き取っていった分を補充する。これだと、スーパーマーケットに当たる生産ラインの前工程には、余分な在庫を持つ必要がなく、倉庫もその管理人も不必要になる。

かんばんには、部品ごと発行される品番と品名、製造ライン、荷姿と収容数、置き場(前工程および後工程の番地)等が記載されている。最初に最終工程、すなわち完成車の生産計画が作られ、先行して生産準備を始めている前工程、サプライヤーへの生産指示、納入指示、運搬指示はすべて後工程からのかんばんによってコントロールされる。

このかんばん方式によって、かんばんに指示された必要な物を、必要な時に、必要だけつくるというTPS(トヨタ生産方式)が生まれたのが、実は「かんばん」だけではトヨタ生産方式は機能しない。かんばん方式の最大の問題は、後工程が同じ部品を一度に大量に引き取ると、前工程が混乱するということである。しかもこの混乱は、前に前にと波及していく。後工程が引き取る量のバラツキが大きければ大きいほど、前工程は余分な人と設備をかかえ込まざるをえなくなる。

かんばんは、ジャストインタイムを実現する道具であるが、その道具が十分にはたらくための前提条件として、生産工程をできるかぎり平準化することが不可欠である。しかし、顧客の嗜好が格段に多様化している今日、多品種少量生産は市場からの絶対的なニーズである。そして、この多品種少量生産こそが平準化生産を困難なものにしてきた。
そこで、トヨタ生産方式では、多品種少量生産であっても平準化生産ができるように、「人偏のある自働化」、シングル段取り、一個流し(混流生産)等、いろいろな手法を編み出した。このように、生産ベルトを流れる自動車の数を平順化することがポイントであり、工場全体が平順化されて初めて「かんばん」が活きてくる。

2.3.7 全国的品質管理推進活動

日本に品質管理が根付き、日本式TQCに発展したのは日本全国に張り巡らされたネットワークによるところが大きい。1958年(財)日本規格協会は、工業標準化と品質管理に関する「全国標準化大会」を企画、スタートさせた。この大会は、毎年10月の国際標準化デー(10月14日)を中心に、数日間の日程で工業標準化と品質管理についてシンポジュームを開くことで、産業界の標準化と品質管理の普及啓蒙につとめている。

また、1960年には民間の有志によって品質月間委員会(日科技連事務局)が設立され、以来毎年11月を品質月間として、全国的な規模で各種行事を開催している。デミング賞の授賞式もこのタイミングを合わせて実施されている。この期間中に実施されるも催物としては、消費者大会、トップ大会、部課長・スタッフ大会、職組長大会、全日本選抜QCサークル大会等があり、日本の品質管理の啓蒙普及につとめている。

世界にはこのような全国規模の推進組織はあまり例をみない。民間を中心に毎年継続的にこのような行事を続けていることは日本式TQCの特徴といってよい。先にも触れたような日本に独自な風土にあって、皆で一つのことを推進していこうとするよい伝統がこのような連係を可能にしているといえる。