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平林良人「ISO 9001 有効活用のためのビジネス改善ツール」(2005年)アーカイブ 第50回
1)改善推進者の専任体制
シックシグマでは、改善推進者のことをブラックベルトと呼称している。ブラックベルトは組織の上級技術者で、品質管理の統計的手法をマスターした者でなければなることができない。その教育はちょうど日科技連のベーシックコース、或いは日本規格協会の品質・標準化セミナーのそれぞれ30日又は25日のコースと類似しており、現場からデータを収集し、分析し、改善を図る方法を教える。日本流でいう3現主義、すなわち現場で、現物を、現実的にみることをベースにした事実からの改善アプローチを教えている。(第2章 日本式品質管理(日本式TQC)の主要概念、手法2.3.5 統計的方法の活用(1)事実でものをいう を参照)
ブラックベルトの直ぐ上にはマスターブラックベルト、最上位にはチャンピオンがいる。チャンピオンは、このプロジェクトのプロセスオーナーである。チャンピオンはプロジェクトのターゲットを決める。経営からみて現在の最重要課題(critical issue)は何かを明確にする。したがってチャンピオンの責任は重大である。もし、ターゲットが時間の経過とともに組織の本来行うべきこととずれていったとすると、みすみす貴重な資源を無駄に使かったことになるからである。
マスターブラックベルトも専任の場合が多いが、チャンピオンとともにプロジェクト選定、教育・訓練を行う。ブラックベルトは専任で、組織から外れているのでプロセスの改善作業に専念することができる。ブラックベルトの下にはイエローベルト、グリーンベルト等がいる。彼らはあるプロセスのリーダー(20人に1人位)であり、むろん日常業務を受け持っている。100人くらいの下には5人のグリーンベルトがいることになり、ブラックベルトは彼らの力を借りてプロジェクトを推進していく。
2)プロジェクト目標
シックスシグマでの目標値はすべて金額で表されることになっている。チャンピオンをリーダーとする部署あるいはユニットのチームは、より高い金額を目指してプロジェクト計画を企画する。プロジェクトが組織に採用されるか、されないかのポイントはプロジェクト目標金額の多寡にあるといってよい。
日本の課題解決式プロジェクトにおいては、歩留り、収率、クレーム件数等が目標値になるケースが多く、ずばり金額表示で目標を示すことはあまりない。それに対してシックスシグマでは、損益計算書のボトムライン、つまり決算にどのいらいの金額が貢献できるのかでプロジェクトの評価が決まる。
しかもプロジェクトのスケジュールは、通常6ヶ月から1年間であり、この間に成果を上げなくてはならない。このような背景の下、シックスシグマはいきおい短期的な収益改善テーマを狙うことが多くなる。日本でいうムダ取り的なプロジェクトでないと、金額で効果を表すことは難しいからである。しかし、使われる手法は日本式TQCのQCストーリと同様である(第2章 日本式品質管理(日本式TQC)の主要概念、手法 2.3.6工程管理(process control)(7)QCストーリー を参照)。
上記のようなシックスシグマの特徴からして、シックスシグマの強点は次のようなものである。
- ① 組織内の位置付けが明確であり、組織内関心度が高い。
- ② プロジェクト完遂度が高い(プロジェクト推進責任者が専任のため)。
- ③ 短期に目に見える効果が上がる。
逆に弱点は次の通りである。
- ① 一度上げた効果を持続させること。
- ② 長期的課題への取り組み。
シックスシグマはいかにもアメリカ的といえる。経営環境は厳しく、目まぐるしく、絶えず変化している。経営者も短期的な成果を求められる。日本のように長期的なしかも金額で表しづらい目標は、アメリカでは受け入れずらい。日本の経営環境もアメリカ的になっていることを考えると、日本式TQMもシックスシグマを参考にする部分があると思われる。