平林良人「パフォーマンスの改善」(2000年)アーカイブ 第7回

Fisher Body社の責任者を呼んで、「『もし私がこれ以上あなたの部門の苦情を聞いたら、あなたと3人のトップはおしまいだよ』と言えないのですか?
Roger Smithの答えは、そのつもりはなくても巨大企業の悪いところ、そして、なぜそんなに対応が遅いのかについて、多くのことを語っています。その病状は責任転嫁と呼ばれるものです。
「はい、そうできたかも知れないし、またいつもそうしてきました。しかしFisher Body社の人間は、『ちょっと待ってください。私は自分の仕事をちゃんと行ないましたよ。私の仕事は鉄製のドアを作ることで、鉄製のドアはGMAD社に送られています。それ以降はGMAD社の問題です』と言います。あなたはGMAD社の担当のところに行って、『いいですか、もう1つでもひどいドア作ったら君はクビだ』と言うことになります。そうすると彼は『ちょっと待ってください、私はFisher社から届いた物と、自動車部門の仕様書を受け取り、それらをその通り組み立てました。それは私の過失ではありません』と言うでしょう。」
「それであなたはChevrolet社の担当をつかまえ、『もう1つでもひどいドアを・・・』と言います。『ちょっと待ってください。私が受け取ったものはすべてGMADが作ったものです』と彼は言います。時を要せずあなたはFisher社の担当に戻ります、つまりあなたがしていることは、大きな円の周りを回っているだけということになります。」

Roger Smithのいらいらは、「サイロ」志向の強い組織が、効果的及び効率的に変化に対応することが如何に困難かを示しています。
売手市場の古き良き時代には、それは問題ではありませんでした。会社は自分のペースで製品とサービスを投入し、自身の内部品質目標だけを達成し、確実に利幅がとれるよう価格を設定することができました。例に示したように、部門というサイロができることにより起こる重大な問題はありませんでした。しかし、そういう時代は終りました。今日の現実は、ほとんどの組織に買い手市場での競争を強いています。違った方法で、モノを観、考え、運営管理する必要があるます。

組織のシステム的な(横の)見方

組織に対する異なった見方が、組織を横から、又はシステム的に見る方法で表現されています。事業体を示す高度な図は、

  • 3要素である顧客、製品・サービス、及びワークフローを含んでいます。
  • 部門の境界を横断するプロセスを通じて、業務が実際にどのように進んでいくかを見ることができます。
  • 製品・サービスが作り出される過程に含まれる、内部顧客-内部供給者の関係が示されています。

我々の経験では、パフォーマンス改善の最大の機会が、部門同士の境界にあることがしばしばあります。その境界面ではバトン(例えば「製造仕様書」)が、1つの部門から別の部門へと渡されています。重要な境界の例は、マーケティング部門から研究開発部門への新製品のアイデアの伝達、研究開発部門から製造部門への新製品の引き渡し、及び営業部門から財務部門への顧客支払い情報の転送等です。重大な境界(組織図の「空白」で生じる)は、組織を横から眺めることで見えてきます。
組織図には、次のような2つの目的があります。

組織図は、運用効率及び人材能力開発の面から、どの要員が一つの集団になるかを示します。
組織図は指示命令系統を示します。

組織図は、これらの目的に対して価値があり、管理上便利なものです。しかし、それを事業の「何を」、「なぜ」、「どうやって」を表すものと混同してはいけません。事業を運営管理しないで、組織図を運営管理することが頻繁に起こります。幹部マネージャーが横の組織を認識していないことは、「あなた仕事はなんですか?」という質問に対する、彼らの最も一般的な答えからして明らかです。彼らは「私はA部門、B部門及びC部門を管理しています」と答えます。もし、A部門、B部門及びC部門には既に有能なマネージャーがいるとすると、幹部マネージャーに、あなたは今いるマネージャーの管理をするのですかと、再度尋ねなければなりません。もしそうだとすれば、それは幹部マネージャーが貰っている給料に見合う業務といえるでしょうか?そうは思いません。(第2階層かその上の)マネージャーの主要な業務は、境界を運営管理することです。組織図の箱には既にマネージャーがいます。幹部マネージャーは、箱の間の空白を運営管理することによって価値を生むのです。
組織をシステム的に見ることは、激烈な競争と変化する顧客の期待という新しい現実に効果的に対応できる組織を、設計し運営管理するための出発点であり基盤です。