【日本原案】

1.序文
組織がISO9001:2000に基づく品質マネジメントシステムを構築しようとする時に最初に実施すべきことは、組織の現状をチェックすることである。どんな組織にも組織固有の目的があり、その目的を遂行するためのシステムが存在する。組織自身は存在しているシステムを自覚していないかもしれないが、ISO9001:2000規格の要求事項と比較をしてみることによって、組織に現在どんなシステムが存在し、どんなシステムが存在していないのかが明確になる。組織は、ISO9001:2000規格の要求しているシステムが存在しないか、十分でない場合にのみ該当するシステムを新たに構築するか、補強することが必要になる。この場合、組織は品質計画を作り、それによってシステムを構築していくことがよい。
品質計画の構築の仕方は組織によって異なるのが普通であり、いろいろな構築の仕方が存在する。品質計画の構築の仕方について画一的な指針は排除されるべきである。この品質計画に関する文書は、あくまでもISO9001:2000に基づく品質マネジメントシステムを構築しようとするときに、品質計画とは何で、どのような種類がありえるかをISO9001:2000規格の要求に沿って整理したものである。品質計画の構築の仕方を述べようとしたり、述べているものではない。

2.「品質マネジメントシステム計画」とは
ISO9001:2000規格「5.4.2品質マネジメントシステム計画」には次の要求がある。“トップマネジメントは、次の事項を確実にすること。a)品質目標及び4.1に規定する要求事項を満たすために、品質マネジメントシステムの計画が策定される。b)品質マネジメントシステムの変更が計画され、実施される場合には、品質マネジメントシステムが完全に整っている状態を維持している。”
「品質マネジメントシステム計画」はISO9000:2000規格に定義されていないが、規格に記述されている要求事項からして、「品質マネジメントシステム計画」には次の2つの計画があると理解される。

  • ① 4.1に規定する要求事項を満たすための品質マネジメントシステム計画
  • ② 品質目標を満たすための品質マネジメントシステム計画

加えて、ISO9001:2000規格5.4.2b)では“品質マネジメントシステムの変更が計画され、実施される場合には、品質マネジメントシステムが完全に整っている状態を維持している”ことを要求している。

3.4.1に規定する要求事項を満たすための品質マネジメントシステム計画
ISO9001:2000規格4.1には品質マネジメントシステム構築の基本事項が総て含まれている。以下に4.1に規定されている要求事項を羅列するが、組織はこれらを注意深く確認し、序文で述べたように組織に現在存在しない、あるいは十分でない要求事項を取り上げ、それを満足させる計画を作成するとよい。場合によっては、以下の幾つかのもの特にシステムの維持に関してのものは部門及び階層の品質目標にもなりうる。

  • ① ISO9001:2000規格の要求事項に従って品質マネジメントシステムを確立する。
  • ② ISO9001:2000規格の要求事項に従って品質マネジメントシステムを文書化する。
  • ③ ISO9001:2000規格の要求事項に従って品質マネジメントシステムを実施する。
  • ④ ISO9001:2000規格の要求事項に従って品質マネジメントシステムを維持する。
  • ⑤ 品質マネジメントシステムの有効性を継続的に改善する。
  • ⑥ 4.1a) 品質マネジメントシステムに必要なプロセス及びそれらの組織への適用を明確にする。
  • ⑦ 4.1b) これらプロセスの順序及び相互関係を明確にする。
  • ⑧ 4.1c) 必要な判断基準を及び方法を明確にする。
  • ⑨ 4.1d) 必要な資源及び情報を利用できることを確実にする。
  • ⑩ 4.1e) プロセスを監視、測定及び分析する。
  • ⑪ 4.1f) 計画どおりの結果と継続的改善を達成するために必要な処置をとる。
  • ⑫ プロセスをこの規格の要求事項に従って運営管理する。
  • ⑬ アウトソースしたプロセスに関して管理を確実にする。
  • ⑭ プロセスの管理について品質マネジメントシステムの中で明確にする。

4.品質目標を満たすための品質マネジメントシステム計画
ISO9001:2000規格「5.4.1品質目標」は組織に品質目標の設定を求めている。しかし、品質目標は設定されただけでは絵に描いた餅である。組織は設定した品質目標を満たすために品質マネジメントシステム計画を作成するとよい。
この品質目標を満たす品質マネジメントシステム計画は、品質目標によって当然のことながら変わる。例えば、新しいものを創造するような品質目標、既存のものを発展させる品質目標、あるいは現状を着実に改善する品質目標とではそれらを満たす品質マネジメントシステム計画のポイントは随分と異なるであろう。事例に上げた各種タイプの品質目標に対する品質マネジメントシステム計画のポイント例は、以下のようなものがあり得るが決してこれらに限るものではない。

  • ① 新しいものを創造するような品質目標
    品質マネジメントシステム計画のポイント例:企画、設計、生産技術等に計画のポイントがおかれる。豊かな着眼点、先進性、創造性等が求められる。これらのポイントについて、誰が、いつ、何を行うのか、必要とされる資源等を計画に入れるとなお具体的な計画となる。
  • ② 既存のものを発展させる品質目標
    品質マネジメントシステム計画のポイント例:現在の置かれている状況と達成すべき状況の差分析、既存技術と新技術の利点/バランス等がポイントとなる。これらのポイントについて、誰が、いつ、何を行うのか、必要とされる資源等を計画に入れるとなお具体的な計画となる。
  • ③ 現状を着実に改善する品質目標
    品質マネジメントシステム計画のポイント例:日常の維持活動に従事する多くの人たちの参加と団結が求められる。これらのポイントについて、誰が、いつ、何を行うのか、必要とされる資源等を計画に入れるとなお具体的な計画となる。これらは、ISO9001:2000規格「6.2.2力量、認識及び教育・訓練」“d)組織の要員が、自らの活動のもつ意味と重要性を認識し、品質目標の達成に向けて自らどのように貢献できるかを認識することを確実にする”に繋がるものになる。

5.「品質計画」と「品質マネジメントシステム計画」
これまで述べてきた「品質マネジメントシステム計画」の定義は、SO9000:2000規格にはない。しかし、「品質計画」の定義はISO9000:2000規格3.2.9に次のようにある。“品質目標(3.2.5)を設定すること、並びにその品質目標を達成するために必要な運用プロセス(3.4.1)及び関連する資源を規定することに焦点を合わせた品質マネジメント(3.2.8)の一部”。「5.4.1品質マネジメントシステム計画」に記述されている計画への要求内容は、あきらかに「品質計画」の定義よりも範囲が広い。
一方、「品質計画」の構築についてはISO9001:2000規格の中に直接の要求はない。「品質計画」と関係あると理解されうるのは、ISO9000:2000規格「5.4.1品質目標」と「7.1製品実現の計画」の2つである。両方の要求事項とも“品質目標”の設定を要求しているからである。
「5.4.1品質目標」と「7.1製品実現の計画」は、品質目標の設定と共にその後の展開についても組織のシステムに組み込むことがよい。「5.4.1品質目標」においては、「品質マネジメントシステム計画」が要求されている。「7.1製品実現の計画」においては、Note1.に“・・・を規定する文書を品質計画書と呼ぶことがある”とあり、ISO9000:2000規格「3.7.4品質計画書」のNote3.には“品質計画書は、通常、品質計画の結果の一つである”と記述されているので、規格の意図は間接的に「品質計画」を要求していると理解される。

6.2種類の「品質目標」
ISO9001:2000規格には2種類の「品質目標」が要求事項として現出する。一つは「5.4.1品質目標」における「品質目標」であり、もう一つは「7.1製品実現の計画」における「品質目標」である。「5.4.1品質目標」には“その品質目標には、製品要求事項[7.1a参照]を満たすために必要なものがあれば含めること”との記述がある。「5.4.1品質目標」における品質目標は組織全体(部門及び階層)における品質目標、「7.1製品実現の計画」における品質目標は製品に対する品質目標である。しかし、中小企業等の組織においては、製品に対する品質目標がそのまま組織全体の品質目標となるものも多い。その場合、2種類の品質目標を設定する必要はなく、5.4.1が記述しているように製品に対応する品質目標は組織全体の品質目標に包含すればよい。

7.まとめ
「品質計画」は、広義な品質計画即ち「品質マネジメントシステム計画」と、狭義な品質計画即ちISO9000:2000規格「3.2.9品質計画」に定義されている品質計画とに分けられる。また、品質目標は、2種類の品質目標即ち「5.4.1品質目標」における品質目標と、「5.4.1品質目標」における品質目標とに分けられる。(場合によっては「5.4.1品質目標」に包含される)
以上の関係を理解しやすくするために次のダイヤグラムを示す。

以上

【エキスパートへのお願い文書】

2002年10月29日

品質計画(Quality Planning)に関する配布物(deliverable)案へのコメント依頼

SC210005エキスパート 平林良人

TC176アカプルコ総会ご苦労様でした。
私が参加したSC2WD10005品質計画書のグループでは、議論を品質計画書にのみ絞り、品質計画についてはAHG(アドホックグループ)を作り、そこで議論することになりました。
そのAHG(参加11名)では日本が原案を作成し、メンバーに回覧してコメントを集めその後進め方を決めることになりました。
つきましては、今回参加された方につきましては添付の日本語原案についてコメントを頂きたくお願いを申し上げます。参考に現地で英語で議論した資料も参考添付します。お忙しい中日程も短く恐縮ですがご協力をお願いいたします。今後の大方のスケジュールは次のように考えています。

  1. 日本語原案作成 済み
  2. TC176アカプルコ参加者からのコメント 11月5日納期
  3. 平林手直し  11月6日
  4. 飯塚委員長確認 11月8日
  5. TC176国内委員会確認 11月11日
  6. 英文作成 11月15日
  7. 英文確認 11月22日
  8. 飯塚委員長英文確認 11月29日
  9. AHGへの回覧 12月5日
  10. AHGからのコメント納期 1月5日
  11. AHG原案 1月20日

以上
(つづく)