平林良人「ISO9001内部監査の仕方」アーカイブ 第7回

これは1994年に日科技連出版社から出版されたものです。以下は本書の趣旨です。
「第三者である審査登録機関が,6カ月おきに,審査登録した会社(組織)に対して立入調査をするのが代表的なフォローアップの仕組みであり,サーベイランスと呼称されている。審査登録を済ませた会社は,この仕組みによって半ば強制的に,確立した品質システムを見直しさせられる。しかし,外部からの圧力によって品質システムの見直しを実施するというのは,ISO 9000/JIS Z 9900シリーズ規格の本来の考え方ではない。ISO 9001 / JIS Z 9901規格の条項中に次の規定要求事項がある。
『「4.1.3 マネジメント・レビュー(経営者による見直し):執行責任をもつ供給側の経営者は,この規格の要求事項及び供給者が定めた品質方針及び品質目標を満足するために,品質システムが引き続き適切,かつ,効果的に運営されることを確実にするのに十分な,あらかじめ定められた間隔で品質システムの見直しを行うこと。この見直しの記録は,保管すること。』
このことを経営者は肝に銘じて内部監査を自分の代行として行うことを組織内に徹底することが肝要である。」


  • (6)チェックリストと質問書の違い
  • チェックリストは監査において確認しておかねばならないポイントを羅列したリストである。これに対して質問書は,そのチェックポイントをどのような問いかけで検証しようとするのかの,被監査者と面談するときに用いられる具体的な質問のことを意味している。
    チェックポイントを確認する手段としては,この直接問いかけする質問の他に,記録を調べる,現品を調べるなどの検証作業も存在するが,これら検証作業の導入部にもその担当する人に監査員が質問をするというテクニックが多く用いられる。
  • 質問書は,監査中にチェックしたい項目を,直接その業務を担当している人から聞き出すための質問の仕方を一覧にしたものである。チェックリストの項目は必ずしもすべてを質問して確認するとはかぎらない。項目によっては,監査員が自ら文書なりを確認すれば済む項目もたくさんある。規定要求事項が標準書の中に規定されているかどうか,といった類いの確認事項は質問するまでもない。文書監査の段階で実施しておくべきである。
  • たとえば設計部を内部品質監査しているとしよう。設計管理標準にISO 9001の4.4.2項“設計及び開発の計画”のなかに要求されている「……適切な手段を与えられた有資格者に割り当てること」が規定されているかどうかは,別に質問せずとも監査員が設計管理標準をチェックすれば済むことである。もっとも,設計課長が設計管理標準のなかに上述の要求事項が規定してあることを知っているかどうかを確認したいというような特別な場合は別である。「設計業務にはどのような有資格者を割り当てているのですか?」と質問する。
  • しかし質問する場合の多くはこのようなケースではない。規定されている事項が実際に実行されているかどうかを確認したいときに用いるのである。監査は限られた時間のなかで行う活動であるから,確認したい事項が実際に行われているかどうかを監査員の目で確認することは不可能に近い。どうしてもそれを担当している人にいろいろと質問をして,その実施状態を確認する方法に頼らざるをえないのである。
  • そこで重要になってくるのは,いかに多くの情報を被監査者から得られるか,ということである。多くの情報を得られるような質問を工夫することが大切になってくる。
    • ① そこで何をチェックしたいか?
    • ② チェックしたい事項が実際にそこで行われるためには何が行われていなければならな   いのか?すなわち,ある事項を実行するためには,いくつかの事柄(以下,事項の要素という)が必要となるはずであるが,それは何か?
    • ③ 事項の要素について質問を考える。
    • ④ 事項の要素は1つとはかぎらない。なるべく多くの事項の要素について質問を考える。
    • ⑤ できるだけ質問は5W1Hの形とする。
      • なんですか?(What)  誰ですか?(Who)
      • どこですか?(Where) どうしてですか?(Why)
      • いつですか?(When)  どのようにしてですか?(How)
  • たとえば,統計的手法の実施について質問をしようとする場合を述べてみよう。
    「サンプリングをどのようにやっていますか?]
  • 統計的手法の実践には必ず“サンプリング”ということがついてまわるからである。被監査者から「サンプリングってなんですか?]という質問が出てきたり,答えがスムーズに出てこないような場合には,統計的手法が実行されていないかもしれない。
  • 事項の要素を質問して,事項が効果的に実施されているかどうかの糸口を掴むのである。チェックしたい事項をズバリと聞くよりも,事項の要素を確認することで,被監査者からより事実に近い陳述を引き出すことができる。
  • チェックリスト/質問書の例を表3.5~表3.8に示した。
  • (7)質問の構成
  • Yes,Noではない具体的な答を引き出す質問をできるだけ心掛けるべきではあるが,被監査者への最初の質問は「○○がありますか?」という形の質問が多くなる。「はい,あります」という答が返ってきた場合は,「それを見せて下さい」からはじまって,5W1Hの質問へとつなげていくことになるが,「いいえ,ありません」という答が返ってきた時には,どのように対応すべきであろうか?
  • 例えば,4.9項“工程管理”に関して「作業指示書を使っていますか?」「いいえ,使っていません」という答が返ってきた場合には,規格の4.9項“工程管理”の中の記述“a)手順書がなければ品質に有害な影響を及ぼす可能性のあるものについて,……”に注目して,本当に作業指示書がなくても品質の確保がされているのかの確証を得ることが必要になってくる。
  • あるいは,作業指示書を作る,作らないの基準はどのようになっているのかも確認したくなる。
  • 最初の質問に対して「いいえ,ありません」という返事が戻ってきた場合,対応の仕方も工夫しておくことが大切である。図3.2に質問の構成のフローチャートを示す。
    • 何人かの人に同じ質問をする
    • その工程の過去の品質状態について聞く
    • 作業の仕方をどのようにして修得したのかについて聞く
    • 図3.2 質問の構成(略)
    • 表 3.5 チェックリスト/質問書例①(略)
    • 表 3.6 チェックリスト/質問書例②(略)
    • 表 3.7 チェックリスト/質問書例③(部門)(略)
    • 表 3.8 チェックリスト例④(フローチャート)(略)
  • (8)内部品質システム監査チェックリストの利点と欠点
  • 内部品質監査を考えている組織では,企業内品質システムの監査チェックリストを作成し,その展開を考えているだろう。このチェックリストを使用して内部品質監査を実施した場合の利点と欠点を次に上げる。
    • 1)利点
      • ① 監査実施の統一性を保つことができる。
      • ② 監査員の訓練を促進することができる。
      • ③ 監査実施の証を残せる。
      • ④ 帳票,印刷の経済性が高い。
    • 2)欠点
      • ① チェックリストはあくまでも標準であって常に適切とはいえない。
      • ② 固定化されており柔軟性がない。
      • ③ チェックリストのみの使用だと紋切り型の監査員を作ってしまう。

3.4 コミュニケーション
3.4.1 効果的コミュニケーションによる監査成功の10のポイント
監査の目的は,組織がその計画と実行において,特定の規格に適合しているかどうかを確認することにある。この目的を達成するために監査員は被監査者に質問をする。
監査インタビューにおいては,緊張のあまり両者の姿勢を攻撃的で守備的にしてしまう危険をはらんでいる。このようなこだわりのある環境下では,監査は困難である。監査員は,したがって監査の目的が十分に達成されるように,コミュニケーション不足の問題を避けるように,監査インタビューを進めていかなくてはならない。監査インタビューは,顔と顔をつき合わせてのコミュニケーションである。単に言葉だけでコミュニケーションをしているのではない。
言葉を補うものとして,目に見えることを活用すべきである。
監査を成功させる雰囲気作りとして次のようなことをお勧めしたい。

  • ① 面談時に品質システムについてだけでなく,その人自身にも興味を示す。
  • ② 常に積極的な応対をする。システムに適合しているときは素直に相手を誉め,潜在している不適合事項を解決するための提案をする。
  • ③ 面談している相手の仕事と役割に対して,激励しながら注意深く聴く。声としぐさで注意を引きながら行う。
  • ④「はい」「いいえ」だけでは答えにならないような,何か具体的に話をしなくてはならないような質問をする。
  • ⑤ 監査員の不適合を探し出すという目的達成のためにだけ情報を聞いたり,質問をしたりしてはならない。監査員の不適合を探し出すという目的達成のためだけに,指示や命令を被監査者にしてはならない。
  • ⑥ 論争を起こすような会話は避ける。また,そのことについて他の人々がどんなふうに感じているか,知らないことについて監査員の見解を述べることは避ける。
  • ⑦ 得た情報を批判することは避ける。監査員の仕事は,何が起きているか,そして起きるべきことを規格と比較をして決定することである。
  • ⑧ もし不適合事項が発見されたなら,記録をとり,同意を得,いったん終わりにして速やかに次に進む。不適合について,あまりしつっこく話すことは被監査者の気分を悪くする。
  • ⑨ 上位者へ説明をすることによって,担当者間でのくい違いの議論を避ける。
  • ⑩ 監査を成功させることが双方の利益につながることを忘れてはならない。監査員が不適合を見つけるのは,会社にとって不利益な品質問題をあらかじめ解決するためである。

3.4.2 コミュニケーション過程
企業における多くの品質問題は,コミュニケーション(伝達)の一部分または全体がうまく機能せず分断していることによって起きている。この情報連絡不足は,役員室において,工場において,また他の場所において数々の品質問題を作り出す元凶となっている。たとえば,不十分な購買仕様,不完全または誤りやすい作業指示書,しっかりと定めていない品質水準などが,関係する人々の主観的な判断を引き起こし,取り返しのつかない品質問題を起こすことは,身近に誰しも経験していることだろう。監査においても,情報がうまく伝わらないと問題を引き起こす。内部品質監査よりも外部品質監査のほうが,コミュニケーション不足による問題を作りやすいが,いったん問題が起こると,根が深くなるのは内部品質監査のほうである。
どんなコミュニケーションもその過程をみると,発信側と受信側とから成り立っていることがわかる。通信によるコミュニケーションは,その技術面において人が行うコミュニケーションより情報の発信・受信に関してより簡単である。電子装置による通信のコミュニケーションが空中の大気条件によって影響されるのに対して,人と人とのあいだのコミュニケーションは予期できない多くの条件によって影響される。電子装置がスイッチを入れられた後,チューニング(調整)されるように,人と人のあいだでのコミュニケーションも発信と受信をうまくいかせるためには,調子を合わせることが不可欠である。特に大切なのが受信側のチューニングである。というのは,内容を受け取るだけでなくコミュニケーション内容を理解しなくてはならないからである。
以上の過程が発信者によって情報が発信され,受信者によって情報が受け止められ理解されるコミュニケーションの最初のステップである。受信者の受ける情報がかつて受信者が経験したことのある,既に知識のある内容の場合は比較的容易に理解できても,そうでない場合には相互に理解できたかが問題になる。以下に掲げるような多くの要因が,コミュニケーション伝達過程の障害になりうる。

  • (1)協力関係の障害
  • 発信者が自身の都合だけで発信するとき,受信者がコミュニケーションを受け止める態勢になっているかどうかは保証のかぎりではない。1つかそれ以上の要因によって両者のあいだのコミュニケーションに問題が引き起こされることを知るべきである。
  • 受信者は,彼自身現在興味をもっている事柄ならば聞きたがる。発信者は既におかれている状況から,自然にコミュニケーションの態勢に入ることができる。受信者は,それが準備なしの行為であるために,そう簡単には聞く態度にはなれない。聞くという行為はコミュニケーション成立に非常に重要であるが,常に誰しもがそういう態勢に入れるとはかぎらない。聞くという行為を成り立たせるためには,発信者とのあいだで積極的な協力関係をもつ必要があり,こうした協力関係がコミュニケーションを保証していく。
  • 実際には,発信者が他の分別を使って,受信者の協力を成立させるかもしれない。協力的な受信者は,目に見える形で,今はコミュニケーションに協力的であるということを示すものである。
  • (2)物理的な障害
  • いくつかの物理的な要因が,人々のコミュニケーションの障害となる。そうした要因は,両者の伝達しようとする積極的な気持ちを少なくし,コミュニケーションの効率を悪くする。
  • 人々の物理的要求,食べ物,飲食,休息などに対する要求はさまざまである。これらへの要求が満たされていない状況下でのコミュニケーションは,満たされていないことが障害となって十分に成立しない。加えて環境に関する物理的な状況も,同様な障害になる。たとえば周りの騒音,照明,快適さなどである。工場のなかには騒音がひどく,会話することも困難な所もあろう。個々人のこれら障害要因への対応能力はさまざまであるが,これらの物理的な障害を管理された状態にすることによって,こうした要因の影響を最小限にすることは可能である。
  • (3)知的ギャップの障害
  • 知的ギャップの障害は,発信者がコミュニケーションを実施するときに会話の内容をどのように管理するかで避けることができる。コミュニケーションの対象となる情報に関して,受信者の知識や経験がどのくらいあるかの理解をしておく必要がある。適切なコミュニケーションの進め方と,相手への適切な言葉遣いによって,この障害は取り除くことができる。
  • また,コミュニケーションする内容について両者が用いる価値と標準を,同一のものにしておくことが不可欠である。言葉のレベルを選ぶときに大切なことは,低くもなく高くもないレベルを選ぶことである。見下して話すのは,見上げて話すのと同様,ある種の障害を作り出してしまう。
  • (4)感情的障害
  • 最も複雑な障害はあなたの感情から生じるものである。毎日の生活のなかでよく目にする光景であるが,克服することが最も困難なものである。コミュニケーションが有効に成り立っているときは,発信者と受信者がそれぞれよい姿勢をとっている。
  • コミュニケーションは,情報・見解・意見の交換の場であって,どちらが正しいのかを決める討論の場ではない。これを無視すると,両者の協力関係はしごく簡単に壊れてしまう。お互いがこのことを理解しておくことが,コミュニケーションを成功させるための不可欠な要素である。