平林良人「ISO9001内部監査の仕方」アーカイブ 第9回

これは1994年に日科技連出版社から出版されたものです。以下は本書の趣旨です。
「第三者である審査登録機関が,6カ月おきに,審査登録した会社(組織)に対して立入調査をするのが代表的なフォローアップの仕組みであり,サーベイランスと呼称されている。審査登録を済ませた会社は,この仕組みによって半ば強制的に,確立した品質システムを見直しさせられる。しかし,外部からの圧力によって品質システムの見直しを実施するというのは,ISO 9000/JIS Z 9900シリーズ規格の本来の考え方ではない。ISO 9001 / JIS Z 9901規格の条項中に次の規定要求事項がある。
『「4.1.3 マネジメント・レビュー(経営者による見直し):執行責任をもつ供給側の経営者は,この規格の要求事項及び供給者が定めた品質方針及び品質目標を満足するために,品質システムが引き続き適切,かつ,効果的に運営されることを確実にするのに十分な,あらかじめ定められた間隔で品質システムの見直しを行うこと。この見直しの記録は,保管すること。』
このことを経営者は肝に銘じて内部監査を自分の代行として行うことを組織内に徹底することが肝要である。」


第4章
内部品質監査の実施

監査の原則,基準および実施方法についての規定は,先に引用したISO 10011-1に記述されている。以下,項目のみをひろってみると,次のようである。

  • 「5.3 監査の実施
    • 5.3.1 初回会議
    • 5.3.2 調査
    • 5.3.3 被監査者と最終会議
  • 5.4 監査文書
    • 5.4.1 監査報告書の作成
    • 5.4.2 報告書の内容
    • 5.4.3 報告書の配布
    • 5.4.4 記録の保持」

ISO10011-1は,品質システムの監査の指針であるので外部監査(第二者監査,第三者監査)についても,内部監査についても述べているが,この章では内部品質監査の実施に焦点を合わせて述べたい。内部品質監査は,組織内の人が監査員となって,自組織の品質システムを監査するのであるから,外部監査で行うほどに公式的な進め方は必要ない。しかし,ある種の緊張感を保ちつつ効果的な結果を得るためには,手順を決めて,それに沿ったポイントのはっきりした監査の実施が望まれる。典型的な品質システム監査の手順(フロー)の例を表4.1に,内部品質監査フローチャートの例を表4.2に掲げた。

4.1 初回会議

初回会議の目的は次の通りである。

表4.1 典型的な品質システム監査の手順(フロー)

  • ① 監査チームを被監査者に紹介し,その逆の紹介をしてもらう。
  • ② 監査の範囲および目的を再確認する。
  • ③ 監査の手法と手順の概要を説明する。
  • ④ 被監査者と監査チームとの間の公式の連絡経路を決める。
  • ⑤ 監査プログラム,作業時間,まとめミーティングと最終会議について確認する。また監査チームが必要とする資源および設備が利用可能であることを確認する。

4.1.1 出席者
初回会議の出席者は次の通りである。

  • ① 監査チーム。
  • ② 被監査部門の責任者(部・課長)。
  • ③ 窓口の人(事務局)

4.1.2 ミーティングの時間
初回会議は予期せぬことがないかぎりは,30分以内で終了させるのがよい。30分という少ない時間ではあるが,監査チームにとっては次のことが期待できる。

  • ① 監査に対する被監査者の姿勢をはかることができる。たとえば被監査部門の責任者が,監査を嫌がっているか,そうではないかを探る。
  • ② 進め方に問題が起きそうかどうか探ることができる。被監査者が監査を嫌がっている場合は,何か問題が起きることを予測したほうがよいかもしれない。

4.2 調査(監査)

監査員が該当職場を監査する時間は限られている。該当職場全体の品質システムのわずかな断面について調査できるにすぎない。したがって,部門のどの部分を監査するかは重要であり,品質システムの広い断面を注意深く観察してサンプルを選ばなければならない。十分に準備された監査チェックリストは,一部分(サンプル)を観て全体を判断できるように考慮されているものである。
第2章2.2.5項で述べた通り内部品質監査を実施するには次の3つの基本的な順序がある。

  • ① 前へ進む。教育訓練/営業で始まり送品で終わる。
  • ② 後へ進む。送品で始まり教育訓練/営業で終わる。
  • ③ 乱抽出法,無順序でどこからでも監査する。
  • 前へ進む,後へ進むの利点は次の通りである。
  • ① 自然の順序にしたがうので理屈に合う。
  • ② 活動が簡単に見落とされることはない。
  • これらの欠点は,
  • ③ 柔軟でない。
  • ④ 監査員が必要としたときに,被監査組織に必要な人がいなければならない。
  • これらの欠点は監査スケジュールをあらかじめ調整しておくことによって解決できるが,3番目の乱抽出法の利点は,柔軟であるということである。しかし欠点もある。
  • ⑤ 自然の順序にそっていないので理屈に合わない。
  • ⑥ 活動を見落としやすい。
  • ⑦ 注意深い管理が必要である。
  • ここで部門監査員の基本的な活動をまとめておくと次の通りである。
  • ① その職場で何が行われているか観察する。
  • ② そこの職場で実際に仕事している人に適切な質問をする。
  • ③ その答えを検証する。

4.2.1 観察
その部門(職場)で何が行われているか観察するといっても簡単ではない。監査員は,その職場でどのようなことが行われているか漫然とは知っているであろう。社内における今までのその部門の業務の進め方に,あなたは批判的であるかもしれない。批判的であるがゆえに,あなたは最初からその部門のみをよく観察しようとする。あるいは,あなたが今までその職場の仕事の進め方に好意をもっていたとすると,あなたは最初から半分目を瞑って観察することになるかもしれない。社内で関係する業務を推進しているのであるから,当然あなたはその部門(職場)に好悪の感情を抱いているであろうが,あくまでもその感情または情熱または糸口であって,あなたの観察に本質的な影響を与えるものであってはならない。
監査員は次のことを行うべきである。

  • ① 何が起きているかを仮定するのではなく,何が起きているかを実際に観る。
  • ② 何を見たいのか自分自身で決める。他人から言われて決めるのではない。
  • ③ おおよそを見るのではなく,たとえば棚の中のコーナーを観るように,いわゆる“掘り下げで”観るべきである。
  • ④ 第一印象も大切である。その場所,状態にヒントがあることを考えてみよう。しかし場合によっては,あたかも管理された状態にあるかのように見えるかもしれない。

4.2.2 質問する
観察した後には,あなたは何か発見するであろう。事前に準備したチェックリストを見てもよい。そこに書かれているチェック項目と観察して感じたことをダブらせることによって,あなたの頭の中には,そこで実際に仕事をしている人に対して確認したいこと,聞いてみたいことが必ず出てくるはずである。単にチェック項目をみて質問するのではなく,あなたの頭の中に1つのイメージとして浮かび上がってきたことをいろいろな方向から探ろうとして質問してみるのである。
監査員は次のような質問をする。

  • ① 何を?
  • ② どうして?
  • ③ いつ?
  • ④ どのようにして?
  • ⑤ どこで?
  • ⑥ 誰が?

これらのキーとなる質問は,「はい」または「いいえ」ではない具体的な答えを引き出す。このような質問をすることが大切である。ただ「どうして?」という質問は使用するときに注意を要する。というのは「どうして?」という言葉には相手を詰問する雰囲気が常に付きまとうからである。
「見せてください」 これはよい質問である。監査員は答えられた内容について客観的な証拠を得ることができる。すぐに見せてもらえず「後で」と約束された場合,監査員は忘れないよう記録しておかねばならない。どんなによい記憶力の持ち主でも,いろんなことが同時期に起きる監査環境では忘れてしまうことも多いからである。
第3章3.3.3項“チェックリスト/質問書の設計(7)質問の構成”についてよく事前に検討しておくことが重要である。

4.2.3 検証する
質問をしてその答えを吟味するなかから,あなたは「これは実際に実行されていないのではないか」と感じることに遭遇することがある。しかし,証拠を把握するまでは不適合であると断定することはできない。あくまでも客観的な証拠(objective evidence)を得なければならない。これが検証である。
通常,被監査者は,状況が客観的に不適合を示していても簡単には認めたがらないものである。しかも監査される人は,常に神経質で人の言葉に耳をかさないようになっていることが多い。監査員は,自分の発する質問の内容が明確であることに気をつけ,被監査者が正しく内容を聞き,理解しているか確認するように努めなければならない。
チェックリストに基づき監査した結果,不適合事項が発見されなければ,次の場所の監査にスムーズに移っていくべきである。監査員がそこでなお,しつっこく不適合の証拠を探そうと,深くつっつくことはよくない。監査スケジュール全体をぶちこわし,他の領域の監査にまで影響を与えてしまう。
しかし,反対に不適合の徴候が見つかったならば,予定の時間を超えても詳しく調査すべきである。多くの時間をかけていろいろな材料を監査を通じて集めなければならないかもしれない。監査員はとてもこれらの見たり聞いたりしたことをすべて覚えるわけにはいかない。したがって監査員はその監査によって得た情報,すなわち被監査者の業務上の肩書,文書番号,部品番号,器具・装置連番号,その他の可能なすべての情報をメモに記録しておくことが重要である。
監査員は監査実施のあいだ中,内部品質監査全体の制御管理をする必要がある。監査員は他から指示を受けたり,方向を変えさせられたりしてはならない。監査の仕事のあいだ中,この制御管理をしっかり行い内部品質監査全体をとりしきらなければならない。
このような理由から,多くの組織では2人の監査員による共同監査を実施している。1人の監査員が質問をしながら監査全体をとりしきる。もう1人は文書を調べ質問への反応を見ながら全体の様子を観察し,記録をとる。お互いに刺激をしあえ,1日の内でお互いの役割を交換することができ,そうすることで1つの仕事に集中する緊張感を和らげることができるであろう。

4.2.4 被監査者の悪い対応の例
ほとんどの部門では,監査中,監査員に対して100%の協力を惜しまないはずである。監査が長い目でみて会社の利益になることを知っているはずであるからである。しかし数は少ないが,監査員を見下して,真剣に対応しない部門もあるかもしれない。このような部門においては,被監査者は「監査員が観るところが少ないほど,すなわち時間を少なくすれば,われわれの失敗も発見されない」という考えをもつ。その部門の職場の人々は,監査員に許されている監査時間に限度があることから,次のように時間を消費し,監査をダラダラと行うことを無意識に行うかもしれない。または積極的に対応を考えないかもしれない。たとえば,被監査者が外部または内部からの電話に出て監査が中断することがあったとするならば,それはその部門のスタッフが電話を取り次ぐという判断に上述のような意識があるからであろう。このようなことが連続して起きた場合には,内部監査を実行している被監査部門の部門長に即刻告げることにより有効な手立てを考えてもらう。

  • ① 電話,問い合せなどの中断を入れる。
  • ② 書類や記録を忘れたり,間違えたりする。
  • ③ 矛盾する話をして監査員を混乱させる。
  • ④ 不適合事項について議論を吹きかけてくる。
  • ⑤ 時間を守らない。

監査員は,このような行動は受け入れがたいことをはっきりさせなければならず,被監査者がそうした態度を続けるならば,監査を中断しなくてはならないことも出てくる。

4.2.5 チームミーティング
1日の監査が終わったならば,監査リーダーはメンバーを集めて,その日1日のチームとしての内容の確認,調整,決定などを行い,チームメンバー全員が同じ視点でものごとを観察し,質問し,検証していることをチェックする。もし同じ視点で実施できていないとするならば,チームリーダーは内部品質監査員へのよいOJTの機会ととらえ,OJTの実施をしていく。
監査チームは,被監査者のシステムを異なった面から見ていることが多いために判断も往々にしてばらつく。1日の監査の終りにお互いの発見を持ち寄り議論することはたいへん有用なことである。このミーティングで次のことが可能になる。

  • ① お互いにものごとの見方について異なった視点のあることを知る。
  • ② 監査の進度をチェックして,お互いに他の領域の活動をフォローする。
  • ③ 軽不適合が数多くあるため,重不適合になるかもしれない可能性について協議する。

チームミーティングは,1時間以内に実施することにして,もしそれ以上に時間がかかりそうなケースが出た場合には,以下に記述するまとめミーティングの後に行う。

4.2.6 まとめミーティング
監査チームリーダーは,上述のチームミーティングが終了した後,被監査部門の責任者,事務局とまとめミーティングを行う。双方にとってその日の活動が新鮮なうちに,1日の終りのまとめのミーティングを行う。このミーティングは非公式なものでよい。このミーティングの利点には次のものがある。

  • ① 被監査者は発見された不適合を知ることができる。
  • ② 最終会議のまえに,是正処置をとるチャンスが被監査者に与えられる。
  • ③ 監査の進展を見直し,監査中に起きた要因による若干のプログラム変更を被監査者に頼むことができる。

しかし何といってもこのまとめミーティングにおける一番の目的は“被監査者が発見された不適合を知ることができる”ということにある。被監査者が不適合に同意するかどうかは,このまとめミーティングで責任者にいかに客観的事実を説明しうるかにかかっている。