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平林良人「ISO9001内部監査の仕方」アーカイブ 第10回
これは1994年に日科技連出版社から出版されたものです。以下は本書の趣旨です。
「第三者である審査登録機関が,6カ月おきに,審査登録した会社(組織)に対して立入調査をするのが代表的なフォローアップの仕組みであり,サーベイランスと呼称されている。審査登録を済ませた会社は,この仕組みによって半ば強制的に,確立した品質システムを見直しさせられる。しかし,外部からの圧力によって品質システムの見直しを実施するというのは,ISO 9000/JIS Z 9900シリーズ規格の本来の考え方ではない。ISO 9001 / JIS Z 9901規格の条項中に次の規定要求事項がある。
『「4.1.3 マネジメント・レビュー(経営者による見直し):執行責任をもつ供給側の経営者は,この規格の要求事項及び供給者が定めた品質方針及び品質目標を満足するために,品質システムが引き続き適切,かつ,効果的に運営されることを確実にするのに十分な,あらかじめ定められた間隔で品質システムの見直しを行うこと。この見直しの記録は,保管すること。』
このことを経営者は肝に銘じて内部監査を自分の代行として行うことを組織内に徹底することが肝要である。」
4.3 不適合報告書
監査員が発見した不適合事項が,客観的証拠を示すことによって被監査者に同意されると,不適合報告書に同意のサインをもらう。不適合報告書は,監査中も携帯し,簡単なメモを書き込みながら(チェックリストへの記録の書き込みと合わせて),チームミーティングの中できちんと完成させるとよい。不適合への同意のサインは,監査の現場で責任者からもらえればよいが,そうでない場合はまとめミーティングのなかでもらう。
4.3.1 不適合とは
内部品質監査における心配事は,部門の運営の一部しか見ないということである。活動の長さは代表的なもので1部門あたり2~4/人・日くらい。この範囲内で監査チームは,その部門が適用している品質システムを観察し,それが品質システムの要求事項に合致しているかどうかを決めなければならない。
不適合とは,品質システムの要求事項に対して不適合であるという欠陥であって,製品そのものの技術的欠陥を指摘するものではない。われわれは,不適合を「品質システムにおける特定要求事項に対して満足していないもの」と考えている。“満足していないもの”とは,特定要求事項からかけ離れているもの,または品質システムそのものが存在しないものである。この場合は,どの標準書/規格からみて不適合なのかの判定をしなくてはならない。通常システム要素は次の文書類によって定義づけられている。
- ① 社内標準書類。
- ② 品質マニュアル。
- ③ 品質システム規格(ISO 9000シリーズ規格)。
監査員は不適合状態を発見するつど,その規格の規定要求事項を満足させる能力がその被監査部門にあるかどうかも判断しなくてはならない。すなわち,できないことを規定要求事項として決めていることがないか判断するということである。
4.3.2 不適合の種類
- (1)重大な不適合
- 製品またはサービスの品質に悪い影響を与えるシステム的欠陥が観察される場合を「重大な不適合」という。重大な不適合は次のような場合に適用される。
- ① 1つの大きなシステムの欠陥。
- ② 同じ規定要求事項領域における小さな欠陥のいくつかの発見。ここで同じ規定要求事項領域とは,たとえば4.5項“文書管理”の中におけるいくつかの規定要求事項のことを指して同じ規定要求事項領域と呼んでいる。
- こうした不適合は,被監査者がシステムに対策をとるまでは監査不合格とされる。
重大な不適合に対する対策は簡単にはとれない。システムに欠陥があるのだから,まず是正活動の展開のなかでシステムを構築することから始めなければならない。次にこのシステムが有効的に実行されるのか確認しなければならない。しかもなぜこれまで(内部品質監査が実行されるまで)このシステムが不在でも品質システムが容認されつづけてきたのか反省する必要があるであろう。 - (2)軽微な不適合
- 製品またはサービスの品質に直ちに悪い影響を与えるものではなく,限られた時間のなかで対策をとることができるものを「軽微な不適合」という。通常は,個人の勘違いか,そのときだけのミスとか誤解によって生じた不適合である。
- そのような不適合の場合は,通常,システム監査の合否は保留としておく。いくつかそのような不適合が発見されたときは(たとえば同じ規定要求事項領域で5つ),これはシステムの欠陥を示しており「重大な不適合」と同様に判断され,システムへの対策がとられるまでは監査不合格とされる。
4.3.3 不適合発見の記録
監査員が不適合を発見したとき,それを記録しておくことを忘れてはならない。監査員がそのときは非常に明瞭だと思っていても,1時間後には記憶は薄れていく。だから,監査員はすべての情報をノートに記録していかなければならない。
誰の目にも不適合の種類が明らかな場合はよい。判断がむずかしいのは,重大な不適合か軽微な不適合かの判断が微妙な場合である。類似の不適合状態を,他の監査チームは異なる範疇として分類するかもしれない。
監査員は職場で何を観察したかを明確にしておかなければならない。どんな質問をし,観察をして,どの状態が不適合であるかをはっきりさせなければならない。被監査者はあいまいな表現は受け入れない。すべての状況を明確に表現して,何が,どうして不適合なのかを客観的な証拠を示して提示することが大切である。
4.3.4 不適合の認識
不適合は,どの規格のどこの条項に不適合なのかを明確にしなくてはならない。多くの人が要求事項に対して不適合なのであるから,この判定は明確であろうと思いがちであるが,規格は各条項相互に関係をもっているので,なんとなくその条項に対して不適合であるということでは,監査員として失格である。不適合の内容に対して正確に当てはまるジャストミートな条項を挙げて被監査者に説明する必要がある。
以下に,全体監査での例として品質マニュアル(ISO 9000 シリーズ規格)を対象に内部品質監査を実施した場合について,その手順を述べる。
発見された不適合は,たとえばISO 9001のどの条項に不適合なのであろうか?
- ① 20項目のなかから適合できない条項を削除する。
- ② 残った適応できそうな条項のリストを作成する。
- ③ 次に基づきそれぞれに可能な条項を考える。
- 不適合を解決するのにどの条項が必要か。
- その条項に従った行動は,永久な解決を導き出すか。
- (問題のループは閉じるか?)
- ④ 不適合は次のどれによる欠陥であるのか考える。
人,システム,工程。 - ⑤ 不適合の種類の定義に基づいて不適合の種類を区分する。
- 重大な不適合。
- 軽微な不適合。
- ⑥ 不適合報告書を作成する。
4.4 内部品質監査のまとめ
4.4.1 最終会議
チームリーダーは最終会議の実施の前に次のような準備を行う必要がある。
- ① 監査したすべての場所,参加した人々の名前,不適合に関しての被監査者とのやり取りの記録,これまでに発行した不適合のコピーなどをまとめる。
- ② 監査員が発見したことをまとめる。
- ③ 被監査者の品質システムを問題ないと認める(監査合格)か,前節で述べた重大な不適合が存在するゆえに品質システムに問題があると認める(監査不合格)かを決める。
- ④ その他,最終会議に向けての準備を行う。
監査のリーダーは,最終会議の冒頭において,次のことを被監査者に説明しなくてはならない。
- ① 監査で発見されたことは客観的証拠に基づいており,主観的な意見ではないことを説明する。
- ② 被監査者に,今回の監査は全体のシステムのなかからサンプルを監査したのであって,全体をくまなく観察したわけではないので,不適合は他にも存在しうることを理解させる。
最終会議における議事の順序は,通常,次の通りである。
- ① 冒頭 出席者の確認。
監査はシステムのサンプルからの客観的証拠に基づいている旨の説明。 - ② 説明 記録された良い点を含む一般的な印象。
発見された不適合事項の説明。 - ③ 質疑 不適合事項に対しての質問。
- ④ 終了 改善,フォローアップ監査のスケジュールを確認。
- 内部品質監査の最終会議といっても,身内で行うミーティングであるから,上述したほど公式的なものにはならない。出席者も,監査チームメンバー,部門責任者,部門ミドルマネージメント(部門責任者が指名する),事務局が職場内の会議スペースを活用してまとめを行えばよい。ポイントは,形式は非公式なものであっても,内容的に上記①~④がきちんと話し合われたかである。監査チームリーダーは,この話し合われた内容を記録にして,後日,報告できるようにしておかなければならない。
- 改善への方向性についてはISO 10011-1の5.3.3項“被監査者との最終会議”の中に以下のような記述がある。
「備考14.要請があれば,監査員は,被監査者の品質システムを改善するための助言を行ってもよい。助言は,被監査者を拘束しない。品質システムを改善するための処置の範囲,方法及び手段を決定するのは,被監査者の仕事である。」
4.4.2 是正処置
是正処置は,内部品質監査活動のなかで最も重要なものである。内部品質監査の目的は,不適合を発見してそれに1つずつ手を打って,会社の品質システムをスパイラル状に向上させていくことにあるからである。
是正処置には,
- ① 暫定処置,
- ② 恒久処置,
の2つがあるといわれているが,暫定処置をさらに分析してみると,
- ①-1 発見された事象に対する処置と,
- ①-2 発見された事象が他にも存在する可能性を追求して,存在したならば,過去,他職場までに広げての処置,とに分類される。
恒久処置も,
- ②-1 再発防止処置と類似事象の発生を未然に防ぐ,
- ②-2 予防処置,
に分かれる。
ISO 9000 シリーズ規格では,是正処置及び予防処置と,全く別に分けて取り扱っている。 いずれにしても,監査員は不適合を発見したならば,次のような観点から是正処置への対応の仕方を決めていく必要がある。
- ① 公式な是正処置勧告が必要かどうか。
- ② どんな内容の是正処置がとられるべきか。
- 監査員は,これらの判断するまでのあいだに,次のこともよく考えてみるべきであろう。
- ③ その不適合はどのくらい深刻なのか。
- ④ 今回だけなのか,たびたび起こるのか(なお突っ込んだ調査が必要である)。
- ⑤ もしたびたび起こるのならば,そこに横たわっている原因は何なのか?
- それはたとえば次の理由によるものかも知れない。
- ⑥ 文書化されたシステムがない。
- ⑦ 関係している人たちの不理解。当事者が新人か,システムが最近改訂されたばかりだったための習得期間の故か。
- ⑧ たまたまの当事者の不注意なのか。
- あるいは被監査者が,
- ⑨ 不適合を知っていて無視していたのか?
- ⑩ 不適合を知っていて是正処置をとろうとしていたのか?
- ⑪ 不適合に気がついていないのか?
監査員が是正処置が必要であると判断した場合は,表4.3に示すような“不適合報告書”を不適合1件につき1枚作成する。
監査員は,不適合報告書に,その不適合の状態と,その不適合が標準(部門使用標準書,品質マニュアル,ISO 9000 シリーズ規格)のどの条項に不適合なのかを簡潔に説明する。そして要求事項に合致させるための勧告を記入する。できれば解決策案を示す。被監査者が彼ら自身の考えで解決策を決めるのが原則ではあるが,監査員が勧告または解決策の案を記入するという考え方は,単に不適合事項を指摘するだけだとお互いに距離をつくり,批判的姿勢になりがちだからである。それよりは監査員と被監査者のあいだの援助,協力的気分を醸成しようとするものである。内部品質監査員は,その会社の一員であり,自分の発見した不適合に対しては自分がその不適合の状態をよく知っているとの立場から,できるだけ前向きで建設的な解決策案の提案が望まれるところである。
表4.3 不適合報告書の例(略)
4.4.3 内部品質監査報告書
監査チームリーダーは,内部品質監査が終了すると「内部品質監査報告書」(表4.4)を発行する。これは社内の品質システム見直しに不可欠のものである。この報告書にはすべての不適合報告書(表4.3)を添付する。被監査部門との最終会議で合意したフォローアップ監査の予定日と内容も記入しておく。
この内部品質監査報告書は,とりあえず内部品質監査が終わり,内部品質監査報告書に添付したような不適合が発見されたとの報告に過ぎず,内部品質監査終了の報告書ではない。内部品質監査報告書の配布は,社長(工場長,事業部長),各部門長,事務局などに行うのが普通であろう。
内部品質監査報告書の中には通常次の項目が記載される。
- ① 監査部門,種類(目的)
- ② 被監査チームメンバー,実施日
- ③ 監査を行う基準となる文書名(標準書名)
- ④ 監査結果の概要
- ⑤ 不適合事項と勧告
- ⑥ フォローアップ監査計画
- ⑦ 配布先
4.4.4 フォローアップ
監査チームリーダーは監査後,その部門の是正処置が本当に効果的に実施されたかをフォローする責任を有している。ここでいう効果的に実施されたとは,是正処置が恒久処置にまで及んでおり,実行された実績があるかとのことを意味している。もし監査チームリーダーがフォローアップした結果,効果的に実行していることに対して不十分であるとの見解に至った場合には,監査チームリーダーは,被監査部門の責任者に,その旨を連絡して,再度,是正活動を推進するように勧告しなければならない。
被監査者が是正処置(改善)を実行したと報告してきたとき,監査チームリーダーは該当監査で発行した不適合報告書を再確認し,もし監査チームリーダーが,不適合が是正され再発の防止がなされたと満足すれば,彼は不適合是正処置の書類にサインをし,「内部品質監査最終報告書」(表4.5)を作成し,内部品質監査報告書の配布先と同様のところへ配布して,一連の内部品質監査は終了になる。図4.1に一連の内部品質監査が終了するまでのポイントとなる,フォローアップ監査までのフロー図を示す。
表 4.4 内部品質監査報告書例
表 4.5 内部品質監査最終報告書の例
図4.1 フォローアップ監査までのフロー図(略)
4.5 経営者による(品質システムの)見直し
これは経営者が実施しなくてはならない品質システムの見直し活動である。社長をトップとした全社横断的責任者チームにより,毎年,定期的に行わなければならない。この見直しにおいては,外・内部監査における是正処置のすべてについて品質システムを見直す必要があるかどうかの検証をしなくてはならない。
ISO 8402;1994の3.9項“マネジメント・レビュー(経営者による見直し)”では,次のように定義されている。
「品質方針及び目標との関連における品質システムの状況及び妥当性について最高位経営者が行う公式の評価」
多くの会社が月例で部門長会議とか経営会議とかを開催している。部門長会議であるから,当然,議事は経営全般にわたるであろうが、その議事の1つに品質システムの見直しを取り上げる。この品質システムの見直しの議事において,各部門長から品質システムに関する提案(変更,追加,改訂など)をもらったり,社長(工場長,事業部長)が指示を与えたりする。
こうした経営者層による品質システムの見直しは,公式な経営者による見直し(マネジメント・レビュー)として記録にとどめる。
この見直しの目的は次の通りである。
- ① 既存のシステムが,監査員によって勧告されたように運用されているかどうかチェックする。
- ② 原因をはっきりとさせ,そのシステムの欠陥が何によっているのかを吟味する。
- ③ 既存のシステムが経営目的に合致しているかどうかチェックをする。
- ④ システム内の潜在的欠陥をはっきりさせる。
- ⑤ システムの改善を推し進める。
- ⑥ そうした改善が実行され効果的であることを確認する。