044-246-0910
平林良人「品質マニュアルの作り方1994年対応版」アーカイブ 第5回
このシリーズでは平林良人の今までの著作(共著を含む)のアーカイブをお届けします。今回は「品質マニュアルの作り方1994年対応版」全200ページです。
先に1987年版対応の「品質マニュアルの作り方」をお届けしましたが、今回はISO規格の改訂に伴い、全面的に1994年版規格に合わせた内容に更新したアーカイブです。
1.5.5 容易性,簡潔的
品質マニュアルはその使用される目的を考えて編集することが大切である。品質マニュアルの使われ方を考えると次のようになろう。
- ① 社内における品質システムの頂点に立つ文書として全従業員に読まれる。
- ② 内部品質監査のガイドブックとして用いられる。
- ③ 新入社員などの従業員の教育・訓練に用いられる。
- ④ 外注会社との品質打合せに用いられる。
- ⑤ 外部からの品質監査時に品質システム基本文書として用いられる。
以上,品質に関するいろいろな打合せ,教育など,さまざまな機会に,社内外のさまざまな人々に用いられる。したがって,品質マニュアルは,どんな立場の人たちに対しても,どんなレベルの人たちに対しても,親しみやすく,理解しやすく作られていることが大切である。言い換えれば,平易な文章で,標準的に使用されている言葉を用いて,順序よく記述されていることが要求される。
【容易で簡潔な品質マニュアルとは】
上記のような使用条件から考えて,品質マニュアルの容易・簡潔性の条件としては次のようなことが必要である。
- 1)全体の構成がシンプルで親しみやすい:Index(見出し,目次)をしっかり作成し,その ページを見れば,全体の内容が概略理解できるようになっている。“現実性,実行的”と“具体性,具象的”で述べた内容が,見やすくレイアウトされている。
- 2)箇条書で表現されている:全体の説明は除いて,具体的な記述においてはできるだけ箇条書で記述してあると読みやすい。品質マニュアルは,第1次文書として日ごろは使用頻度が低いので,一度読んだだけでも内容を理解できるようにするには,この箇条書が有効である。
- 3)平易な文章で書き表されている:企業にはそれぞれ独特の社内用語や言い回しがある。
品質マニュアルにはできるだけそうした社内表現は避け,品質管理の世界で使われている標準的な用語を用いるのがよい。ISO 9000シリーズ規格は英文であるが,その訳語はJISZ 9900に統一することが望ましい。 - 4)膨大すぎるマニュアルにならないこと:品質マニュアルはその性格からして,社内の品 質システムの全体をすべて網羅しなければならないため,どうしても厚くなりがちである。しかし,できるだけ平易に理解しやすく編集するという観点から,付録を入れても40ページくらいにまとめるのがよい(ISO 9001規格の場合)。
- 5)表,フローチャート,図解を用いる:品質マニュアルは,文章での説明を中心とした,
読むことを中心とした編集にならざるをえないが,次の項目において,表やフローチャート,図解などを活用することによって,わかりやすいものにすることができる。 - ① 組織図の説明。
- ② 文書管理における文書ストラクチャーの説明。
- ③ 工程管理における説明(たとえば特殊工程の説明など)。
- ④ 検査および試験における説明(たとえば工程における検査場所の説明など)。
- 6)引用文書の一覧を作成する:品質マニュアルを現実的に編集しようとすると,どうしても第2次文書,第3次文書の引用が必要となる。しかしあまり数多くの社内文書を引用しても混乱を増すだけである。引用は基本的なもののみ,根幹をなすもののみとしたい。そして,それらの社内文書は,品質マニュアル内のどこか適当な箇所に一覧にして記載しておくと,読者の理解を促進することができる。
- 7)表現は現在形で行う:品質マニュアルは,実際に実施されている現状を規定しているのであるから,その表現は原則的に現在形で記述される。
- 8)誤字,脱字,あて字のないこと:これはすべての文書類について基本的な心構えとして必要なことである。特に品質マニュアルのように全体を規定するベーシックな標準書の文章に誤字,脱字,あて字の類が存在すると,全体の信用性を著しく傷つけることにもなりかねない。
- 9)マニュアルを綴じるファイルを工夫する:この品質マニュアルは,社内においては,課ごとにあるいは部ごとに保管され,いつでも必要とする人が閲覧できるよう,ファイリング表紙,背表紙,保管場所を工夫すること。
1.5.6 柔軟性,融通的
品質マニュアルの記載内容は,企業のおかれている種々の環境変化によって頻繁に変わりうるものである。したがって,品質マニュアルの編集にあたっては,改訂することを前提に差し替えしやすいように工夫しておくと,後日,改訂の際の仕事の工数を大幅に減じさせることが可能となる。日本の企業では,この改訂にあたっての煩わしさを文書化のデメリットに挙げることが多いが(それだけ組織変更の回数が多い?),品質マニュアルの編集時にいろいろ工夫を施すことで,その弊害を減らすことができるのである。そのポイントは,何といっても,品質アニュアルがいろいろな観点から柔軟性,融通性に富んでいる,ということにある。
【改訂しやすい品質マニュアルとは】
将来の変更を事前に考慮した,改訂しやすい品質マニュアルとは次のようなものである。
- 1)1項目1枚の編集:条項の内容にもよるが,極力1項目の記述が1枚のページにおさまるようにする。内容によっては2枚3枚にわたる場合も出てこようが,それは例外として,原則としては1枚のページに入るよう記述方法を工夫する。こうしておけば,ページを単位として扱えばよいので,いろいろな変更に応じて改訂をし,差し替える事務能力は軽減される。
- 2)組織および責任,権限の記述:
- 4.1.2.1 “責任及び権限”
- “品質に影響する業務を管理し,実行し,検証するすべての人々,特に次の事項に関して組織上の自由及び権限を必要とする人々の責任,権限,及び相互関係を明確にし,文書化すること。……”
- この条項の要求に応えるためには,会社の基本組織図と主要責任者の分課分掌(職務記述)を記載することが最も有効である。しかし,組織名,担当者名は,組織変更にともなって将来変更される可能性が大きい。そこで,組織図および責任,権限の記述には,基幹となる組織名(部単位でよい。それより下部の組織名を挙げると変更が頻繁になる)だけで,組織図と分課分掌の説明をするとよい。担当者の氏名などは記載しない。