平林良人「品質マニュアルの作り方1994年対応版」アーカイブ 第17回

このシリーズでは平林良人の今までの著作(共著を含む)のアーカイブをお届けします。今回は「品質マニュアルの作り方1994年対応版」全200ページです。
先に1987年版対応の「品質マニュアルの作り方」をお届けしましたが、今回はISO規格の改訂に伴い、全面的に1994年版規格に合わせた内容に更新したアーカイブです。

3.1.4 外注契約書,顧客との契約書
企業が原材料・部品の購入にあたって,または半完成品あるいは完成品の生産,組立委託をするさいには,通常契約書を交わして行う。企業には基本契約書と呼ばれる,普遍的,一般的な外注契約書が存在する。ISO 9000シリーズ規格の要求事項のなかには,いくつかの「契約に規定されている場合は」という仮定された条項がある。たとえば次の条項などがそれである。

  • 4.6.4.2 “下請負契約された製品の顧客による検証”
    “契約に定められている場合,供給者の顧客又はその代理人は,下請負契約者先及び供給者のもとで,下請負契約された製品が規定要求事項に適合していることを検証する権利を与えられること。……”
  • 4.13.2 “不適合品の内容確認及び処置”
        “……契約で要求されている場合,規定要求事項に適合しない製品を使用又は修理の提案(4.13.2b参照)を,特別採用として顧客又はその代理人に申請すること。……”
  • 4.15.6 “引渡し”
  • “……契約上要求されている場合,この保護は最終納入先への引渡しまで継続すること。……”
  • 4.16 “品質記録の管理”
  • “…契約上の合意がある場合には,品質記録は,合意された期間,顧客又はその代理人が評価するために利用できるようにしておくこと。”

以上,4つの条項には,契約の有無によって品質システムに組み込まなければならない事項が存在するので,よく既存の契約書類を確認しておく必要がある。

3.1.5 図面,データ,資料類
図面は,それに伴うデータ,資料類とともに,設計・技術部門の活動結果が集約された,生産またはサービスの商品を規定する文書類である。その企業が最終的に顧客に販売する部品,製品,サービスがどんなものかを規定するすべての情報がこの図面,データ,資料類には盛り込まれている。したがって,商品を顧客の要求通りに完成させるための最も基本となるべきもので,これが正しくないと,完成した商品に欠陥があるということにつながる可能性をもっている。
顧客とのあいだでは,これらの図面,データ,資料類を抜粋して仕様書という形で相手に提出し,承認してもらってから,正式な生産活動に入るというのが普通である。
顧客からの変更依頼があった場合には,もちろんこれら図面類は訂正しなくてはならない。
この変更は初回の生産スタートのときもあれば,1年後の量産中のときもある。
ISO 9000規格の4.4項“設計管理”の4.4.9項“設計変更”の規定に沿う文書管理の仕組みを作り上げることが必要とされている。

  • 品質マニュアルの編集にあたっては,まずこの図面類のチェックをする必要がある。
  • ① 企業内に図面と呼ばれるどんな種類のものがあるか?
  • ② 図面(それに伴うデータ,資料類)を管理する主管部門はどこか?
  • ③ 図面の原紙はどこに保管されているか?
  • ④ 図面の配布箇所はどこか?
  • ⑤ 変更管理はどうなっているか?
  • ⑥ 廃棄基準,保管基準はどうなっているか?
  • ⑦ 図番のつけ方と登録方式はどうなっているか?
  • ⑧ 現在,社内にどれくらいの数の図面があるのか(廃却されずに生きている数)?

以上のような項目をチェックしてみるとよい。あるいは表3.4に示したようなチェック表を作成して,保有している数量を把握する手もある。

3.1.6 ソフトウェア
最近は,文書類がコンピュータの中に書き込まれ,これが原紙の代わりをつとめることが多い。もちろん,商品の一部を構成するソフトウェアなどは,コンピュータ上のファイルにしか記録されていない。補助的に紙に印刷してあっても,主役はあくまでコンピュータ・ファイルである。設計も最近ではCADの活用は当たり前になってきており,従来の図面の原紙を保管するというイメージは払拭しなくてはならない。
しかし,こうした文書,図面類,またソフトウェアのコンピュータ化(文書の場合はワープロ化とでもいおうか)に伴って,品質システムの面からはいくつかのチェックが必要となってきている。

  • ① 社内のソフトウェア管理はどこがやっているのか?
  • ② ソフトウェアのバックアップはとってあるか?
  •   またその基準はあるか?
  • ③ 社内のコンピュータ・ファイルにはどれ位の情報量(文書量,図面)が蓄積されているのか?
  • ④ コンピュータ・ファイルの改廃の基準はあるか?
  • ⑤ 記録媒体(メディア)の標準化は進められているか(磁気ドラム,磁気テープ,ハードディスク,5インチ,3.5インチフロッピーディスクなど)

表3.5に示したようなチェック表を活用し,一度社内の現状を把握することをお勧めする。

表3.4 図面,データ,資料類のチェック
部門

図面
メカ
電気
ソフト
外装
サービス
を含む

企画書
概念書
デザイン図
組立図
機能図
部品図
計算データ

技術
製造技術
組立技術
メンテナンス
を含む

加工図
材料図
重要特性図
組立手順図
フローチャート
点検図
設備保全書

品質保証
検査
校正
市場サービス
を含む

受入検査図
出荷検査図
外観図
特性要因図
抜取図

その他

A商品
B商品
C商品
D商品
E商品
合計
総合計

表3.5 ソフト類のチェック
部門

人事・総務
経理
営業
開発
設計
購買
生産管理
技術
品質保証
製造
その他
合計

外部購入ソフト
ソフト数★
メディア

部門内制作ソフト
ソフト数★
メディア

合計
ソフト数★
メディア

★ソフト名については部門ごとに別様式でまとめる。

3.2 品質マニュアル完成までのステップ

品質マニュアルの編集は全社的な仕事の見直しにもつながるものであり,したがって当然のことながら,一貫したトップ・ポリシーに基づいて推進しなくてはならない。
まず経営トップが取り組みへの決意を明確にし,次のステップとして品質マニュアルの編集へと進むことになる。

  • ① 社長によるISO 9000シリーズ審査登録取得のための活動計画の発表。
  • ② 計画推進のための母体組織の明確化(推進責任者の明確化)。
  • ③ 推進母体による全体計画の策定。
  • ④ 推進母体による準備活動の推進。
    • ④-1 推進担当者の選出。
    • ④-2 社内の教育・訓練の推進。
    • ④-3  ISO 9000シリーズ規格要求事項と現状の差のチェック。
    • ⑤ 品質マニュアル編集委員会の設置。

3.2.1 社長のISO9000シリーズ審査登録取得計画
審査登録を取得する動機(目的,理由)を全社に明確にしなければならない。企業のトップである社長がこれを明確にして,活動をスタートさせることが大切である。その動機によって,以降に展開しなければならない活動の選択が異なってくるし,審査登録機関の決定という重要な選択さえ,これによって左右されてくるからである。
大きく分けてこの動機(目的,理由)は次の2つになると思われる。

  • 1) ビジネス上の直接的な動機:欧州などへの輸出に際して顧客からISO 9000シリーズ規格の取得の有無を問題にされた。公共団体によっては,審査登録されていない企業からは購入しないというところさえある。あるいは,直接,審査登録の有無を取引の条件にはされていなくても,世界的な潮流として取得しておくほうがビジネス上有利と判断したからという企業もあろう。いずれにせよ,輸出をビジネスの主体としている企業である。
  • 2) 品質システムの強化のために:従来いわゆるTQC,全社的品質管理を実施してきたが,それを補完して,なお一段と強固な品質システムにしていくための手段として取り上げる。したがって全く新しいシステムの導入でないので,従来からのシステムとの融合を工夫する必要がある。日本が国際的な環境のなかで孤立しないためには,世界の主流を形成しつつあるものを貪欲に吸収していかなければならない,という考え方である。体質改善のための活動であり,輸出に頼っていない企業に多い。
    では,このような動機の違いは,ISO 9000シリーズ規格審査登録取得活動にどのような影響を与えるであろうか。本質的には全く同じことを推進していくのだが,表面的には次のような違いが出てくる。
    • ① 審査登録機関の選択(日本の審査登録機関か外国の機関か)。
    • ② 品質マニュアルの編集(どの程度,従来の品質システムを取り込むか)。
    • ③ 維持活動の推進。
  • いずれにせよ,この動機(目的,理由)をしっかり見定めて,社長としての推進への決意を社内にオープンすることが最初のステップである。