平林良人「品質マニュアルの作り方1994年対応版」アーカイブ 第25回

このシリーズでは平林良人の今までの著作(共著を含む)のアーカイブをお届けします。今回は「品質マニュアルの作り方1994年対応版」全200ページです。
先に1987年版対応の「品質マニュアルの作り方」をお届けしましたが、今回はISO規格の改訂に伴い、全面的に1994年版規格に合わせた内容に更新したアーカイブです。

付録
品質マニュアルのモデル例

付録1 モデル例作成の背景

第4章に紹介した「標準的品質マニュアル」は,欧州の平均的な品質マニュアルを日本的にアレンジしたものである(品質ポリシー,組織,職務分担,改善,QCサークル活動など)。
ISO 9000シリーズ発祥の地である欧州の企業の品質マニュアルをもう数例,実用的なものを付録として紹介する。
モデル例を作成するには,欧州,特にISO 9000発祥の地である英国企業の例を幅広く調査するのが最も有効であろう。ここでは英国企業6社,スイス企業1社,イタリア企業1社,フランス企業1社の実例を知り,それらの品質マニュアルをモデル化して2例に集約し,日本的にアレンジして紹介する。これら2つのモデルは,いずれも現在活動中の企業のものを参考にした極めて実用性の高いもので,既にISO 9000シリーズの認証を受けている企業の実例に近いものである。しかし,これらモデルの内容の適切性については構成事項ごとに質のばらつきがあるので,読者が参考にされる場合は留意いただきたい。
実際例を2つのモデルに集約した理由は,数多くある品質マニュアルも,大別すると2つのタイプに集約できるからである。

  • 1)詳述タイプ(モデルA社)
    品質システム全体を記述するため,部門マニュアルや標準書にまで言及し,一部その中身にまで触れている。ここではISO 9001規格の品質マニュアルを意図しており,60~80ページにもなっている。これ1冊あれば会社の品質システムの全体が理解でき,社内で実用的に活用していけるタイプである。
  • 2)概要書タイプ(モデルB社)
    品質システムのエッセンスだけをISO9000シリーズ規格の条項の順序に合わせて記述したもの。ISO 9002規格の品質マニュアルで,ボリュームは約23ページである。あまり詳細には触れず,品質システム全体が概要として把握できるようになっている。外部へ自社を紹介するには便利なタイプである。

英国では現時点(1994年8月現在)までに約35,000社の企業がISO 9000シリーズの認証を受けており,その業界は電気,機械を筆頭に自動車,車両,建設,鉄鋼,繊維,プラスチック,ゴム,エネルギー,鉱業,セメント,タイル,サービスと,ありとあらゆる業界に及んでおり,認証機関も29機関存在する。したがって,品質マニュアルも約35,000例存在するわけで,各社各様,その企業の実態を反映したものになっている。品質システムがその企業固有のものである以上,品質マニュアルも当然,その企業独特のものになっていなければならないからである。しかし,いかに各社各様とはいえ,品質システムを要領よく簡潔に書き表そうとすると,自ずからその内容に類似性が出てくる。
ここではその類似性を抜き出し,次の要領で2つのタイプに集約したモデル例としてまとめてみた。

  • 1)モデル設定条件
    • ① 認証されているISO 9000モデルは何か。
    • ② 業種,扱っている製品は何か。
    • ③ 規模は人的にどれくらいか。
  • 2)品質マニュアルの体裁,特長
    品質マニュアルのボリューム(頁数),表紙ならびに文書管理に関する記述,署名の有無,その他の品質マニュアルを構成している要素についての特長。
  • 3)品質マニュアルの記述例
    品質マニュアルをその1ページ目から項目ごとに順序を追って,その内容を簡単な説明つきで概要を掲載する。
    なおカラー表示の部分は筆者のモデル例に対するコメントである。

付録2 モデルA社(詳述タイプ)

(1)モデルA社の設定条件
英国の電子部品の製造メーカーである。英国各地に製造工場を持っているが,電子部品によって工場に特色がある。完成品は英国内に約50%,残り50%は欧・米・日に輸出されている。この工場の人員は約1,000名である。1990年にISO 9001の認証を得ている。

(2)モデルA社の品質マニュアルの体裁,特長

  • ① ページ数が83ページにのぼる膨大なものである。
  • ② 会社のロゴの入った専用の用紙に記入されている。
  • ③ BSIのカイトマークが全ページに入っている。
  • ④ COMPILED BY,APPROVED BY,PAGE,ISSUEが責任者のサイン入りで各ページに記入されている。
  • ⑤ 1ページ目には「この書類の版権はA社にあり,何人もA社の許可なしでコピーを使用してはならない」旨が記されている。
  • ⑥ 品質マニュアルの改訂の記録が6年分6ページにわたって記載されている。
  • ⑦ IntroductionとしてA社の歴史と現況を簡潔に述べている。
  • ⑧ 品質方針の声明には,社長以下8人の管理者がサインをしている。
  • ⑨ 次の内容の付録が付いている。品質手順書マニュアル,品質手順書の例,仕様書の例, 設計図の例,品質計画の例。付録は省略した。

(3)モデルA社の品質マニュアル

  • 1)目次(略)
    表紙,版権について,序文,改訂歴,配布先につづき,3ページにわたって品質マニュアルのTitle/SectionとISO 9001の該当項目,ページが記載されている。
  • 2)紹介(Introduction)
    同社は英国電子部品製造メーカー大手のうちの1社であり,消費者と専用業者の両方にそのサービスを手広く提供している。会社の歴史は古く,1945年以降設計と製造の両者にわたって業績を伸ばし,同社の品質と安全性の高い商品は市場で高い評価を得ている。顧客からの商品への評価・指摘は同社の財産であるという考え方に基づき,顧客の要求に応えるべく迅速かつ経済的な商品開発をつづけてきた。
  • 3)以下に所定のフォーマットに従い,ポイントを解説をつけて掲載する。

条項4.1 経営者の責任
“経営者の責任”について,まず会社の品質方針を述べ,その下に10人の幹部がサインをしている。

4.1.1品質方針
会社は,外・内部の顧客の要求に適合する「総合の品質に卓越している」ことを目的とする品質システムを構築する。

  1. 「総合の品質に卓越している」とは,対象となる顧客を十分に認識し,その要求を十分に理解して,常に誤りなく,納期通りにその要求に適合することを意味する。
  2. 下にサインした全員は,この品質方針が会社内のすべての階層で理解され,実行され,維持されることに責任を持つ。この実施のために,会社の品質システムを品質マニュアルの形式で文書として編集する。
  3. この品質マニュアルの下位には,設計,製造を中心として国内・外の顧客から要式される会社の品質システムに適合させる標準書類を有している。
  4. 会社は,品質システムをJIS Z 9901;1994(ISO 9001;1994)の要求事項に適合するように確立,維持をはかってきた。

社長のサイン
工場長のサイン
経理部長のサイン
人事部長のサイン
営業部長のサイン
購買部長のサイン
生産管理部長のサイン
設計部長のサイン
技術部長のサイン
品質管理部長のサイン

4.1.2 組織
組織図は部門を中心として,一部課のレベルまで掲載している(組織図1,2を参照のこと)。

4.1.2.1 責任及び権限

  1. 社長は,会社の品質のすべてに関して最高責任を負う。
  2. 全従業員はそれぞれの仕事を通じて会社の品質システムの維持に責任を有する。
  3. 経営委員会は社長の指揮下にあって品質に関する問題について社長を補佐する。
  4. 経営委員会のメンバーはそれぞれ所属する職制に対して次の責任を有している。
    • 1)適切な標準書の活用。
    • 2)おのおのの業務に必要とする訓練の実施。
    • 3)品質システム,品質規格に基づいた作業。
    • 4)会社のすべての組織変更,手順変更についての周知。
  5. 経営委員会メンバーの主な責任および権限は次の通りである。
    • 1)経理部長
      • ①会社の財務・経理管理。
      • ② コンピュータシステムの管理。
      • ③ 見積・原価管理。
    • 2)人事部長
      • ① 組織人事の管理。
      • ② 採用・労務管理。
      • ③ 教育訓練。
      • ④ 安全衛生,福利厚生
    • 3)工場長
      • ① 製造工程管理。
      • ② 機械設備メンテナンス。
      • ③ 建物営繕。
      • ④ 製品品質確保。
      • ⑤ 災害防止,安全衛生。
    • 4)営業部長
      • ① 市場調査。
      • ② 顧客窓口,営業活動。
      • ③ 契約・注文書審査。
    • 5)購買部長
      • ① 原材料購買。
      • ② 外注窓口。
      • ③ 原材料管理。
      • ④ 購買計画。
    • 6)生産管理部長
      • ① 生産計画の立案。
      • ② スケジュールの調整。
      • ③ 生産計画進捗チェック。
    • 7)設計部長
      • ① 製品設計と要素開発。
      • ② 設計室管理。
      • ③ 製品安全性。
    • 8)技術部長
      • ① 生産技術管理。
      • ② 設備機械導入。
      • ③ 新技術開発。
      • ④ 製造工程の安全性。
    • 9)品質管理部長
      • ① 管理責任者。
      • ② 品質保証体制の整備。
      • ③ 受入検査,出荷検査。
      • ④ 市場クレーム対応。
      • ⑤ 内部品質監査推進事務局。

サポート文書類
組織標準 QM0101

4.1.2.2 経営資源
品質システムの管理・作業・内部品質監査を含む検証活動を行うために必要な経営資源を明確にし,検査標準書,内部品質監査標準書などに定める。
会社は作業に必要な,適切な資源および設備を提供し,訓練された要員を割り当てるものとする。
設備,治工具,計測器などの管理および運用については,設備管理標準書,治工具管理標準書,計測器管理標準書に基づく。
教育訓練に関しては条項4.18“教育・訓練”を参照のこと。

4.1.2.3 管理責任者
社長は,品質管理部長を管理責任者として選定し,他の責任と関係なく,次のような権限を与える。

  • 1)品質システムを構築・実施・維持すること。
  • 2)品質システムの実施状況を経営者に報告し,見直しを求め,品質システムの改善を進めること。
    注〕管理責任者の責任には,会社の品質システムに関する事項について,外部機関と連絡をとることも含まれる。

サポート文書類
内部品質監査標準 QM 0801
設備管理標準   QM 0202
治工具管理標準  QM 0203
計測器管理標準  QM 0802

4.1.3 マネジメント・レビュー(経営者による見直し)
品質マニュアルの下位に位置する標準書類(サポート文書類)の一覧を掲げて説明している。

  1. 会社の品質活動は常に「動的」でなければならず,会社の設定する目標は継続的改善活動の一里塚である。
  2. 品質システムを維持し,改善するために,品質管理部長による定期的な内部監査,部門手順書のチェックが行われる。
  3. 品質システムの見直しは12カ月に1回は実施される。
  4. この内部監査によって発見された事実は,経営委員会で討議,審査され,必要となる是正活動へとつなげられる。
    注〕 経営委員会は月に1回開催される。

サポート文書類
 部門監査標準   QM0803
 製品品質検査標準 QM0804
 製品評価標準   QM 0805