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平林良人「2000年版対応 ISO 9000品質マニュアルの作り方」アーカイブ 第3回
◆このシリーズでは平林良人の今までの著作(共著を含む)のアーカイブをお届けします。今回は「2000年版対応ISO9000品質マニュアルの作り方」です。
1.4 文書化
文書は,規定された方法としてどの程度効果のある方法であろうか.単に文書に記述されているだけでは効果がない。
たとえば,品質マニュアルに「……することを確立し維持する」と記述してある例が多いが,果たして意味のあることであろうか。意味があるとすれば,規格が要求している事項に対する組織の方向を表した,つまりわが組織はこのことはきちんと実施します,という決意を示したということであろうか。第三者審査員が「この品質マニュアルには,規格の○○項にある維持することが規定されていない」と指摘することに対して,組織が規格の文面と全く同じ表現を品質マニュアルに記述することが果たしてよいのか,筆者ははなはだ疑問に思う。
飯塚悦功氏は編著『TQM9000-ISO9000とTQMの融合』(日科技連出版社)の中で,文書化の定義を次のように解説している。
『組織はなぜ組織運営において「文書」を必要とするのか。文書化の意義は,「コミュニケーション」「知識」「証拠」の3つに集約できる。文書化の第一の意義は,情報伝達・コミュニケーションの主要なツールとしての役割にある。この役割を担う文書の種類と詳細さは,品質システムにおいてどのようなコミュニケーションが必要かで決まる。複数の人間,あるいは複数の機能が互いに協力して業務を遂行していくためには,何らかの情報伝達が必要で,組織形態や複雑さに応じて必要な程度まで文書化されていればよい。
文書の第二の意義は「知識」にある。知識を組織で保有するために,経験を一般化した実体としての再利用可能な知識とするために,「形式知」化した実体としての文書が必要である。技術標準がその代表であって,どこまで標準化するかという課題と根本は同じである。
文書化の第三の意義は「証拠」にある。存在の証拠,実施の証拠,規定した内容の証拠などである。手順が存在する証拠としての手順書,実施の証拠となる記録,定めたことの内容の証拠としての契約書など,本当の目的は情報伝達,知識化にあるが,証拠としての役割も担っている。』
では,どのくらいの文書化が必要とされるのであろうか。もちろん,これらは組織固有の問題であり,一概には言えないことである。ISO 9001:2000規格には次のように書かれている。
4.2.1 一般
- 参考2. 品質マネジメントシステムの文書化の程度は,次の理由から組織によって異なることがある。
- a) 組織の規模及び活動の種類
- b) プロセス及びそれらの相互関係の複雑さ
- c) 要員の力量
以上のことを理解して,ISO 9000:2000規格「3.7.4品質マニュアル」の定義を再度確認してみよう。
組織(3.3.1)の品質マネジメントシステム(3.2.3)を規定する文書(3.7.2)。
組織の品質マネジメントシステムISO 9000:2000規格の各要求事項であるから,各要求事項に従って組織のシステム構築の仕方を記述するのがよいという事になるが,すべてのshall要求事項をカバーすることは要求されていない。品質マニュアルにどのshall要求事項を,どの程度まで記述するのかは,あくまでも組織の考え方による。
ISO 9000:2000規格に基づく品質マネジメントシステムの構築は,複数の部門にまたがって行われる。システムとは,ISO 9000:2000規格の3.2.1項に定義されているように「相互に関連する又は相互に作用する要素の集まり」であるから,いくつかの要素(たとえば,部門など)が同じルール,同じ考え方で相互に作用し合う必要がある。
いくつかの要素(たとえば,部門など)が同じルール,同じ考え方で相互に作用し合うためには,品質マネジメントシステムをお互いがよく理解していなければならない。そのためには品質マネジメントシステムの概要を条項ごとにコンパクトにまとめておくことが1つの方法である。品質マニュアルは必ずしも1冊のファイルにする必要はないが,社内の便利さ及び外部への説明を考慮すれば1冊のファイルにまとめることがよいであろう。
ISO 9000:2000規格の2.7.2項では,品質マネジメントシステムで用いられる文書の種類として,次のものをあげている。
- (1)品質マニュアル
- 組織の品質マネジメントシステムに関する一貫性のある情報を,組織の内外に提供する文書。
- 品質マネジメントシステムはISO 9000:2000規格の3.2.3項に「品質(3.1.1)に関して組織(3.3.1)を指揮し,管理するためのマネジメントシステム(3.2.2)」と定義されているが,このシステムがよく理解できるように記述することが大切である。必ずしもISO 9001:2000規格で規定しているshall要求事項をすべて記述する必要はない。マネジメントシステムとは,「方針及び目標を定め,その目標を達成するためのシステム(3.2.1)」であるから,そのためのシステムが書き表されていればよい。
- 1994年版規格と違って,2000年版規格には「モデル」という用語は使用されていない。1994年版規格では,9001,9002,9003というモデルに組織のシステムをあてはめることを要求していたが,2000年版規格では品質マネジメントシステムを規定しているだけである。したがって,組織の現在のありのままを,すなわち組織のプロセスを特定するところから始まって,規格の要求しているシステム構築の仕方をありのままに記述すればよい。しかし,規格の文面と同じ表現をそのまま繰り返して品質マニュアルに記述することは避けたほうがよい。
- 品質マニュアルの中に手順を含めて記述してもよいが,煩雑になるのを防ぐため,下位基準,すなわち手順書に記述する場合が多い。
- (2)品質計画書
- 品質マネジメントシステムが特定の製品,プロジェクト又は契約に,どのように適用されるかを記述した文書。
- ISO9001:2000規格の「7.1製品実現の計画」の参考1には,次の表現がある。「特定の製品,プロジェクト又は契約に適用される品質マネジメントシステムのプロセス(製品実現のプロセスを含む)及び資源を規定する文書を品質計画書と呼ぶことがある」。
- なお,ISO 9001:2000規格「5.4.2品質マネジメントシステムの計画」には「計画が策定される」との要求が出てくるが,これは品質目標などを達成するために作成する計画書,すなわちアクションプランを文書化したものであって,ISO 9001:2000規格の7.1項の品質計画書とは異なるので注意が必要である。
- (3)手順書
- 活動及びプロセスを首尾一貫して実行する方法に関する情報を提供する文書。
- 活動の,特に実行順序を規定したものである。2000年版規格では,表1.3の6つの手順書とその他組織の必要とする文書を要求している。
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- 表1.3 6つの手順書とその他組織の必要とする文書
- ① 文書管理(4.2.3) ⑤ 是正処置(8.5.2)
- ② 記録の管理(4.2.4) ⑥ 予防処置(8.5.3)
- ③ 内部監査(8.2.2) ⑦ その他組織の必要とする文書
- ④ 不適合製品の管理(8.3)
- 手順書には,実行順序のステップに基づいて,ステップ1つずつのやり方を記述してもよいが,煩雑になるのを防ぐため下位基準,すなわち「作業指示書」に要領を記述することが多い。組織によっては2段階に分けず,手順書の中に要領も記述してしまうところもある。
業務に従事する者全員がこれに従わなければならない。ステップの順序をあまり細かく分けると,手順書が冗長かつ煩雑になり,誰も読まなくなる。活動のポイントのみを要領よく記述する工夫をしていかなければならない。活動のステップを変更する場合には,必ず手順書を改訂しなければならない。この場合,責任ある者が確認,承認することが大切である。確認,承認するまでは決して活動のステップを変更してはならない。 - 作業指示書は,手順書が主に実行順序のステップを記述しているのに対して,ステップの中にある一つひとつの作業について,実施の方法を説明したものであり,作業の説明用または訓練用に使用される。たとえば,何もわからない新人に作業の1つを教えようとすると,どんなに煩雑になろうと,作業のステップ一つひとつを順序を追って記述しなければならない。新人の訓練は,まず作業指示書を読ませて理解させ,その後実際にやらせてみて徐々に習熟度を高めていくことで行われる(職場内訓練:OJT;On the Job Training)。
- しかし,作業ステップの一つひとつをすべて記述するといっても,職場内訓練(OJT)のやり方によって作業指示書の記述の詳細度は異なる。作業方法を変更する場合には,必ず作業指示書を改訂しなければならない。この場合,責任者が確認,承認することが大切である。確認,承認するまでは決して作業方法を変更してはならない。
- (4)記録
- 実行された活動又は達成された結果の客観的証拠を提供する文書。
ISO 9001:2000規格においては,表1.4の21種類の記録作成,維持が要求されている.一覧表には要求がされている項番と,どんな記録が要求されているのかを示す。 - 表1.4 ISO9001:2000年規格が要求する21種類の記録作成,維持
要求事項 | 記録の内容 |
5.6.1 一般 | マネジメントレビュー |
6.2.2 力量,認識及び教育,訓練 | 教育,訓練,技能及び経験 |
7.1 製品実現の計画 | 実現化プロセスと製品結果が要求事項を満たしていることのエビデンス |
7.2.2 製品に関する要求事項のレビュー | レビューから提起された製品と行動に関しての要求事項をレビューした結果 |
7.3.2 設計・開発へのインプット | 設計・開発インプット |
7.3.4 設計・開発のレビュー | 設計・開発のレビューの結果と必要な行動 |
7.3.5 設計・開発の検証 | 設計・開発検証の結果と必要な行動 |
7.3.6 設計・開発の妥当性確認 | 設計・開発妥当性の確認の結果と必要な行動 |
7.3.7 設計・開発の変更管理 | 設計・開発変更レビュー結果との必要な行動 |
7.4.1 購買プロセス | サプライヤー評価結果と評価から提起された行動 |
7.5.2 製造及びサービス提供に関するプロセスの妥当性確認 | 続く監視,測定ではアウトプットが検証されないようなプロセスの妥当性確認を実証することを組織が求められた時 |
7.5.3 識別及びトレーサビリティ | トレーサビリティが要求されている場合,製品個々の認識 |
7.5.4 顧客の所有物 | 顧客の所有物で,紛失,破損又は使えないもの |
7.6 監視機器及び測定機器の管理(3種) | 国際,国内標準が存在しない場合,想定装置の校正または検証に使用される標準測定装置が要求事項に適合していないことが発見された時,前回結果の妥当性測定装置の校正または検証結果 |
8.2.2 内部監査 | 内部監査結果 |
8.2.4 製品の監視及び測定 | 製品出荷に責任を持つ許容基準と指示により製品が適合しているエビデンス |
8.3 不適合製品の管理 | 製品不適合の性質とそれに続く特採を含む結果 |
8.5.2 是正処置 | 是正処置の結果 |
8.5.3 予防処置 | 予防処置の結果 |