今回からナラティブ内部監査の実践例2を説明していきます。前回まで、ナラティブ内部監査の実践例として「被監査者による適合証明監査」(別名二八(にっぱち)監査)※ を紹介してきました。この「被監査者による適合証明監査」は下記にあるように問題点を被監査者が自ら見つけ出す監査方式です。これは、プレゼン型の内部監査であり、メリットがある一方デメリットもあります。

デメリットは「成功するポイント」がすべて被監査者に委ねられるという事です。この被監査者に委ねるということはメリットでもありますので、デメリットとメリットを分ける点は何かを把握しておかなければなりません。もし、被監査者が本当のことを言ってくれるのであればメリットになります。前回まで紹介してきた「被監査者による適合証明監査」はこのメリットを強調してきたものでした。しかし、もし被監査者が事実を言わなかったらどうなるでしょうか。

それがここで議論しているデメリットになります。ナラティブ内部監査の核である新しい物語(ナラティブ)が、的外れになる、架空のものになる、極端な場合捻じ曲げられたものになってしまいます。

※ 被監査者による適合証明監査
ナラティブ内部監査の一方式で、内部監査員は2割の時間を使って聞く、被監査者は8割の時間を使って答える監査方式。被監査者が「自分の仕事がルールに適合していることをエビデンスによって証明する」監査方式をいう。二八とは、内部監査員は2割くらいの時間しか質問に使わず、残り8割の時間は被監査者が適合性証明のために使うことから別名、二八(にっぱち)監査、プレゼン型内部監査などと呼んでいる。

このデメリットを無くすためには、「ナラティブ5ステップ」の第2及び第3ステップが大切になります。

すなわち、「どのような内部監査を行いたいのか、行うべきかを組織内でコンセンサスを得る」及び「内部監査員と被監査者の共同作業の基盤を作る」ことです。

さらに考えてみます。「内部監査員と被監査者の共同作業の基盤を作る」ことは被監査者にどんな利益をもたらすのでしょうか。人は自分に利益になることは行いますが、利益にならないことは行いません。これは人の行動心理学の基本です。

昨今の品質不祥事を見ると、残念ながら事実を語ると組織から冷たくされるという状況があります。組織ぐるみの品質不祥事は職場、ラインで起きていることをそのまま話すと組織の利益にならないのです。

品質不祥事を起こした組織の第三者委員会調査報告書には、社長が組織に対して品質不祥事を無くすために、正しいことを行うことを推奨し、事実を大切にする指示を常に出していないからだと語っています。

(つづく)