ISO審査員に経産省の白書を参考にした有用な情報をお届けします。

■ものづくりの現状と課題

(2020年度の製造業の業績動向)
○2020 年以降、新型コロナウイルス感染症の世界的な感染拡大は我が国の経済に大きな影響を及ぼしており、世界各国で新型コロナワクチンの接種が進んでいるものの、2021 年後半以降、新型コロナウイルスの変異株であるオミクロン株の感染が世界的に拡大し、社会、経済の様々な側面で影響が生じている。さらに、カーボンニュートラルの実現や人権尊重に向けた取組、DX(デジタルトランスフォーメーション)、レジリエンス強化の重要性の高まり、原油価格の高騰など、製造業を取り巻く環境は急激に変化している。

○ここでは、我が国製造業の業況、人材確保・育成及び教育・研究開発などについて足下の動向を分析し、直近の事業環境変化の動向や関連事例についてまとめるとともに、このような変化の中においても企業が収益をあげていくための稼ぐ力について分析を行う。
各種動向分析に当たっては、政府や日本銀行等の統計資料等を活用するとともに、中小・小規模事業者の動向や、事業者の認識等、統計資料等では把握が難しい事項については、民間諸機関等の調査も活用した。

○我が国の実質GDP 成長率の推移は、2020 年第2四半期に前期比マイナス7.9%(年率マイナス28.2%)と、リーマンショック後の2009 年を超える落ち込みとなった後、2020 年第3四半期には個人消費の持ち直しなどが寄与し、前期比プラス5.3%(年率プラス23.0%)となった)。2021 年以降は2% 以内の増減となっており、2020 年のような大きな増減はみられていないが、引き続き、新型コロナウイルス感染症の感染状況など、内外の環境変化の影響に注視が必要である。製造業は2020 年時点で我が国GDP の約2割を占め、依然として我が国経済を支える中心的な業種のひとつとしての役割を果たしている。
企業の全般的な業況に関する判断を示す日本銀行「全国企業短期経済観測調査」の業況判断DI は、大企業製造業においては、新型コロナウイルス感染症の感染拡大などの影響により、2020 年第2四半期は11 年ぶりの低水準となった。また、中小企業においては、製造業・非製造業ともに大企業以上の悪化幅となった。同年第3四半期に入ると、製造業・非製造業ともに改善し、2021 年以降も上昇傾向だったが、2022 年第1四半期には、大企業製造業及び中小製造業は7四半期ぶりに悪化した。

  • ― 営業利益の推移をみると、2020 年は製造業全体で約8.6 兆円と過去10 年で金額が最も大きかった2017 年の約半分まで減少したが、2021 年には「輸送用機械器具製造業」、「情報通信機械器具製造業」などにおいて回復し、製造業全体で約18.0兆円と、2017年を上回った。中小・小規模事業者も含めた製造業の景況感を把握するために行われた、直近1年間における売上高と営業利益の推移に関する調査によれば、2020 年度に行われた調査では約7割の事業者で売上高、営業利益とも減少傾向がみられたが、2021 年度の調査では、売上高は約5割、営業利益は約4割が「増加」及び「やや増加」の動向となっており、半数近くの事業者で回復に転じた。
  • ― 2021 年度の調査における売上高と営業利益の動向を資本金別に比較すると、いずれも、資本金が高いほど「増加」及び「やや増加」の割合が高い傾向にある。売上高の増加、減少の要因をみると、それぞれ販売数量の増加、減少が大きな要因となっている。営業利益の増加、減少の要因をみると、いずれも売上原価やコストの増減の影響がみられ、特に営業利益の減少については、売上原価の上昇が大きな要因となっている。
  • ― 今後3年間の国内外の売上高や営業利益の見通しについては、前年度の調査時と比べると「増加」及び「やや増加」の割合が増加傾向にある。2021 年度における今後3年間の国内外の業績見通しを資本金別に比較すると、売上高、営業利益ともに、「増加」及び「やや増加」の割合は、資本金が高いほど高い傾向にある。
  • ― 我が国の国際収支の動向をみると、経常収支注2黒字は2017 年に約22.8 兆円を計上して以降、3年連続で減少している。2020 年における前年からの変化をみると、サービス収支、第二次所得収支の赤字及び貿易収支の黒字が拡大している一方、第一次所得収支の黒字が縮小している。また、2021 年における輸出額の業種別の割合をみると、輸送用機器、一般機器、電気機器などの割合が大きく、製造業が我が国の輸出額の多くを占めている。
    貿易収支は、2018 年及び2019 年は赤字となっているが、2020 年においては、食料品、原料品及び鉱物性燃料の赤字幅の縮小や、化学製品及び電気機器の黒字幅の拡大により、収支総額としては黒字に回復している。
  • ― 製造事業者における直近1年間の直接輸出取引の有無を把握するために行われた調査によれば、直接輸出取引を行っている企業の割合は約2割であり、業種別に比較すると、機械、電気機械及び化学工業が多い。資本金別に比較すると、資本金が高いほど直接輸出取引を行っている企業が多い。直接輸出取引の目的をみると、「既存マーケットの維持・拡大」が約8割である一方、「新たなマーケットの開拓」が約3割、「自社製品・サービスのPR」が約1割となっており、攻めの投資として直接輸出取引を行っている事業者もみられる。
  • ― 第1次所得収支の推移をみると、2020 年には約19.2 兆円の黒字を計上した。2000 年代では海外の株式や債券など有価証券投資に対する収益である「証券投資収益」が中心である一方、海外現地法人の収益である「直接投資収益」の占める割合が年々増加してきた。しかし、2020 年には新型コロナウイルス感染症の感染拡大などの影響により、全体が減少する中で、「直接投資収益」も減少に転じた。対外直接投資収益の業種別内訳をみると、製造業全体では2021 年第3四半期で約1.5 兆円と第2四半期の約1.8 兆円から減少しており、前年同期比でも、約0.2 兆円減少している。
  • ― 海外生産比率の推移をみると、製造業全体では直近10 年間で緩やかな上昇傾向にあり、業種別にみると、輸送機械、はん用機械、情報通信機械が高くなっている。2019 年度は、情報通信機械を除く全業種で海外生産比率が前年度から低下した。

(社会情勢変化)
○新型コロナウイルス感染症の感染拡大だけでなく、半導体不足、部素材不足、カーボンニュートラルへの取組、DX の加速など、事業環境が大きく変化している。このような情勢変化と、それを受けた事業への影響についての事業者の認識に関する調査によれば、事業に影響し得る社会情勢変化として、「原材料価格の高騰」、「新型コロナウイルス感染症の感染拡大」の割合が大きくなっている)。2020 年度に行われた同様の調査結果と比較すると、2020 年度は「新型コロナウイルス感染症の感染拡大」が約8割と突出していたが、2021 年度の調査結果では、「原材料価格の高騰」、「新型コロナウイルス感染症の感染拡大」、「人手不足」、「半導体不足」の4項目の回答が約半数に達しており、中でも「原材料価格の高騰」と「部素材不足」の割合は2020 年から大きく増加している。このことから、2021 年度には、新型コロナウイルス感染症の感染拡大に加え、原材料価格の高騰や部素材不足などの社会情勢の変化が事業に及ぼす影響が大きくなっていることが分かる。

○業種別に比較すると、輸送用機械及び一般機械では「新型コロナウイルス感染症の感染拡大」の割合が高く、鉄鋼業及び化学工業では「原材料価格の高騰」の割合が高くなっている。
企業規模別に比較すると、中小企業、大企業ともに、「原材料価格の高騰」、「新型コロナウイルス感染症の感染拡大」の割合が高くなっている。また、大企業では、「半導体不足」、「脱炭素・脱プラスチック等の環境規制」の割合も高くなっている。このような社会情勢の変化によって支障をきたした業務内容については、「国内からの部材の調達」、「営業・受注」、「国内の生産活動」など、様々なものが挙げられている。2020 年度に行われた同様の調査結果と比較すると、「営業・受注」が約8割から約5割に減少している。

○「国内からの部材の調達」、「海外からの部材の調達」、「物流・配送」は増加している。これらのことから、2021 年度では、社会情勢の変化によって支障をきたした業務内容がサプライチェーンの上流から下流まで広まっていることがうかがえる。特に、「海外からの部材の調達」については、新型コロナウイルス感染症の感染拡大等による経済活動の停滞と、海上輸送コンテナが世界的に不足したことが、国内製造業にも影響した。

(海上輸送コンテナの不足による国内製造業への影響)
○2020 年1月以降、新型コロナウイルス感染症の感染拡大により、世界的な都市封鎖、経済減速が起こり、様々な産業でサプライチェーンへの緊急対応を余儀なくされた。国際物流では、2020 年11 月以降に発生した港湾混雑・コンテナ船の滞船により、輸送遅延の状態が現在も続いている。世界的なコンテナ不足、スペース不足といった需給逼迫は海上運賃、航空運賃の高騰をもたらし、製造業は調達先変更、生産調整、在庫積み増し、緊急輸送といったサプライチェーン全体に影響が及んだ。国際物流の混乱はしばらく続く情勢であり、荷主はグローバル・サプライチェーンの改革を迫られている。

(コロナ感染症による国際物流、自動車サプライチェーンへの影響)
○国際物流の需給逼迫が自動車のサプライチェーンに与えた影響は大きい。 2020 年1月下旬に、中国で新型コロナウイルス感染症の感染が拡大すると、中国での部品サプライヤーの操業停止などにより、自動車生産は部品調達が滞り、生産や販売の縮小で国際海上コンテナ貨物量が減少した。国際海運では、国際海上コンテナ船の減便を行い、海上輸送力を縮小させて対応した。
2020 年4月から6月頃になると、中国では経済活動が再開を始め、自動車工場は対前年を上回るまでに生産が回復する一方で、日本工場、米国工場の生産は対前年50%程度を維持するにとどまった。国際海運では、中国を中心に生産が急激に回復することで、7月以降に中国から米国へ多量のコンテナ貨物が輸送され始める。米国内陸部の倉庫や物流センター・デポなどには空コンテナが滞留し、日本から中国・ASEAN に空コンテナを回送するという現象が起きた。
2020 年9月から10 月頃になると、日本で空コンテナの在庫が減少し、コンテナ不足、コンテナ船のスペース不足が顕在化し始めた。一方、生産面は日本及び米国で徐々に回復に向かっていった。
2020 年11 月になると、アジアから北米向け基幹航路である米国ロサンゼルス・ロングビーチ港(LA/LB 港)に、単月としては過去最大のコンテナ貨物量が輸送されることになる。LA/LB 港では、新型コロナウイルス感染症の感染拡大による港湾作業員やドライバーの不足、港湾の混雑、コンテナ船の滞船などが契機となり、コンテナ船の輸送スケジュールの遅延が発生。このようなことより、グローバルなロジスティクスの混乱が起こり、自動車メーカーのサプライチェーンにも影響を与えた。自動車メーカーは対応策として、部品輸送を航空輸送に切り替えたり、LA/LB 港以外の港湾に仕向けたり、通常は利用しないような海上輸送のスポット取引を利用するなどにより事態の打開を図った。これにより、海上コンテナ輸送の需給が逼迫し、海上運賃が急騰を始め、自動車部品が海運から航空に緊急輸送されたことで航空運賃も急騰し始めた。

(サプライチェーンの多元化、BCP強化)
○仕掛在庫や製品在庫を極小化して生産費用削減を進めるサプライチェーンは、安定的なロジスティクスを前提として組み込まれている場合もあり、ロジスティクスの混乱がグローバルで発生したことにより、サプライチェーンの多元化、BCP 強化を進めることが重要になっている。中国で生産する自動車メーカーのサプライチェーンの対応を示した。サプライチェーンの国内回帰が進み、新型コロナウイルス感染症の感染拡大で大きな影響を受けた豪州、東南アジアから中国国内に調達先を移転した。また、在庫切れのリスクを回避するために、部品在庫を1~2日分増加させて対応した。海運から航空輸送にシフトするといった輸送モードの多元化も行われた。在庫水準が引き上げられたことにより、倉庫費用・保管費用が増加し、さらに輸送運賃の高騰や航空利用等により輸送コストも増加した。物流効率化を進めたものの、全体として売上高物流費率は増加することとなった。

○サプライチェーンの多元化、BCP 強化は、様々な産業でも検討が進められており、例えば、一部の追加費用を支払うことにより、不確実性への対応力を強化していくなど、安定性とBCP を強化したサプライチェーン再構築への取組みなどもその一例である。
通信機器、電機・機械、アパレル業などでは、大きな影響を受けた調達先への一極集中を回避するために、国内サプライヤー開拓を含めたサプライチェーンの多元化を進めている。アパレル業などの軽工業製品は、比較的サプライヤー変更の柔軟性が高く、国内サプライヤーへの切替えが進んだ産業である。

○グローバルでの国際物流の混乱や、そのサプライチェーンへの影響はしばらく続く情勢であり、大手メーカーを中心に、一極生産を見直す動きがある。今後、電気自動車(EV)へのシフト、EV 用電池の生産増強、半導体生産、5G 等の次世代インフラの生産増強に向けて大規模な設備投資が予想されている。これらの産業では、生産拠点を分散化し、原材料・部品の現地調達率を高める地産地消化の動きが進むものと考えられる。一方で、世界的な需給逼迫に直面する半導体や高付加価値部品は、経済安全保障の観点から、国内生産回帰と現地生産のバランスを取ることも求められる。

○販売国・地域のグローバルレベルでの在庫移動が、アパレルや通信機器等の消費者向け製品で行われるようになった。在庫移動とは、同一エリア内にある倉庫に偏在する在庫を移動させて在庫水準の平準化を図るものであり、これまでは国内地域で主に行われてきた。新型コロナウイルス感染症の感染拡大により、各国の販売や在庫水準が激しく変動した際に、グローバルレベルでの在庫移動が発生する。国際物流のBCP 強化の取組みとして、輸送モード・ルートの多元化、物流の自動化、可視化、データ連携が進められている。輸送モード・ルートの多元化では、韓国・中国・台湾向けの輸送で、海上コンテナ、航空の中間輸送モードとして、RORO 船(Roll On Roll Off Ship)・フェリー輸送の活用が進められている。新型コロナウイルス感染症の感染拡大による国際海上輸送の混乱により、代替輸送のコスト、リードタイムの優位性が高まったことが背景にあると考えられる。

○新型コロナウイルス感染症の感染拡大によるグローバル・サプライチェーンの混乱は、輸送時のトレーサビリティ強化の必要性を再認識させた。つまり、「どこに、どれだけ、どういう状態で輸送・流通在庫があり、自分の手元にいつ届くか」という情報を、より正確に把握したいということである。これには、物流の自動化、可視化、データ連携が必要となってくる。国際物流業務や貿易実務では、今なお、紙やPDF を添付したメール、あるいはファックスなどといったアナログな手段で多数やりとりされている。国際物流業務や貿易実務のDX 推進のため、貿易手続きをデジタル化し効率化するデジタルフォワーダーや貿易プラットフォーム等の取組みが鋭意進められており、これらの取組みの加速化が必要である。
新型コロナウイルス感染症の感染拡大や部素材不足等の事業環境変化の中で、事業者が直近2~3年で実施した企業行動としては、「値上げ(原材料高騰による価格転嫁等)」、「賃上げ」の割合が高い。企業規模別に比較すると、「値上げ(原材料高騰による価格転嫁等)」は企業規模にかかわらず割合が高い)。また、中小企業では「賃上げ」が最も多く、大企業では「積極的な投資」や「コスト削減」が多い。

(出典)経済産業省 2022年版ものづくり白書
 ・https://www.meti.go.jp/report/whitepaper/mono/2022/index.html

(つづく)Y.H