ISO審査員に経産省の白書を参考にした有用な情報をお届けします。

■2020年度半導体不足の実態

(注:2023年4月時点では一転して半導体余りが報じられている)
(半導体不足による我が国製造業への影響)
米国商務省の調査によると、製造業が確保する半導体製品の在庫量の中央値は、2019 年の40 日から、2021 年には5日未満に減少しており、半導体不足が顕在化している。これに伴い、世界の半導体主要メーカーも増産を急ぎ、2020 年第2四半期から2021 年第4四半期まで、米国半導体工場の稼働率が90%を超える状況が続いている。しかし、半導体不足の解消や調達リードタイムの改善には相応の時間が必要と見込まれる。
また、(株)国際協力銀行の調査によれば、我が国製造業における半導体不足の影響については、「どちらかというと、マイナスの影響を受けた(受けている)」が65%で最も多くなっている。業種別にみると、自動車、輸送用機器、電機・電子などの加工組立製造業に加え、石油・ゴム製品、非鉄金属などの基礎素材製造業までマイナスの影響があったとする企業の割合が高くなっている。なお、マイナスの影響があった企業では、「自動車減産により製品受注が減少した」(自動車、金属製品、繊維、化学)、「製品に使用する部材の調達が遅れた」(精密機械)といった半導体の需要側からの意見があった。一方で、「どちらかというと、プラスの影響を受けた(受けている)」と回答した企業も9%あった。このうち、「半導体関連の設備投資が増加したことで、半導体製造装置関連事業が好調だった」(精密機械、化学、窯業・土石製品)、「半導体材料の販売が好調」(化学)など半導体の供給側からの意見もあり、半導体関連産業の裾野の広さや波及効果の大きさが再認識されている。

(株)帝国データバンクの調査によれば、「半導体不足」に対する影響や対応により、生産や商品・サービス供給面で「マイナスの影響」を受けた上場企業115 社のうち、生産への影響を受けたのは81 社(約7割)である。具体的には、半導体の供給不足による生産調整などを行ったのが22 社(約2割)であり、半導体の供給不足による取引先の減産に伴い、自社も生産調整などを行ったのが59 社(約5割)であった。また、業種別にみると、製造業が86 社(約7割)と最も多く、自動車部品や自動車製造など自動車関連産業での影響が大きかったとしている。

(国内外における半導体戦略の動向)
半導体市場は、デジタル革命の進展に伴って今後も成長が見込まれ、2030 年には約100 兆円の世界市場規模となるとの試算もなされている。2018 年時点ではスマートフォン、パソコン、データセンター、5G インフラに使用されるロジックとメモリが需要の7割を占めているが、今後、データセンターに加え、自動運転車や電気自動車、産業機械、スマート家電などのエッジデバイスが市場の拡大を牽引していくことが予測されている。我が国にとっても、この機会を国内関連企業が成長市場に参入するラストチャンスだと考え、日本の半導体産業の競争力強化に取り組んでいくことが必要である。

2021 年版ものづくり白書では、半導体サプライチェーン構築に向けた米国、EU、中国政府の動向について述べているが、その後1年間においても、米国が5.7 兆円規模の産業政策を講ずることを表明するなど、各国・地域が安全保障の観点から重要な生産基盤を囲い込む新次元の産業政策を以下の通り展開している。

  • <米国>
  • ・ 工場や設備を国内へ導入するための支援として、1件あたり最大3,000 億円の補助金や「多国間半導体セキュリティ基金」設置等を含む国防授権法(NDAA2021:National Defense Authorization Act2021)の可決(2021 年1月)。
  • ・ バイデン大統領はCHIPS(Creating Helpful Incentives to Produce Semiconductors)法案に賛意を表明。上院においては5.7 兆円の半導体関連投資を含む「米国イノベーション・競争法案」が通過(2021 年6月)。下院においては、その対となる「America COMPETES Act of 2022」が可決(2022年2月)。今後、両法案の相違点を調整。
  • <中国>
  • ・ 2019 年に公表されたロードマップにおいて、集積回路設計の生産高と世界シェアを、2020 年までにそれぞれ430 億ドル、30%まで高め、2030 年までにそれぞれ1,100 億ドル、40%まで高める目標が打ち出されており、2014 年に創設した1,387 億元の国家集積回路産業投資基金に対し、さらに、2019 年に2,041 億元を増資し、半導体メーカーを支援(2021 年3月)。
  • ・ 上記に加えて、北京市(2018 年6月)や上海市(2016 年1月)などの各地方政府で計5兆円を超える半導体産業向けの基金が存在。
  • <欧州>
  • ・ 2030 年に向けたデジタル戦略を発表(2021 年3 月)。ロジック、HPC(High Performance
    Computing)、量子コンピュータ、量子通信インフラなどの「デジタル移行」に1,447 億ユーロ(約18.8 兆円)を投資。
  • ・ エコシステムの構築を目指し、最先端チップの製造などにより供給の安定を確保し、欧州の画期的技術のための新たな市場を発展させる「新・欧州半導体法案」を発表。2030 年までに官民で計5兆6,000億円を投資する計画(2022 年2月)。
  • <台湾>
  • ・ 台湾への投資回帰を促す補助金などの優遇策を始動。液晶パネルメーカー大手のAU Optronics Corp. は国内の工場にスマート生産ラインを導入するなど、ハイテク分野を中心に累計で2.7 兆円の投資を申請し受理された(2019 年1月)。
  • ・半導体分野に、2021 年までに計300 億円の補助金を投入する計画を発表(2020 年7月)。
  • <韓国>
  • ・AI 半導体技術開発への投資に1,000 億円の予算を計上(2019 年12 月)。
  • ・ 半導体を含む素材、部品、装置産業の技術開発に2022 年までに5,000 億円以上を集中投資する計画を発表(2020 年7月)。
  • ・ 企業と協力し、2030 年までに世界最大・最先端の半導体供給網を構築することを目的とする総合半導体大国実現のため、「K- 半導体戦略」を策定(2021 年5月)。

(日本の取り組み)
このような中、我が国政府の取組としては、経済産業省において2021 年3月に行った「半導体・デジタル産業戦略検討会議」における有識者との意見交換を踏まえ、同年6月、半導体分野や、データセンター及びクラウドの目指すべき方向性などを示した「半導体・デジタル産業戦略」を公表した。さらに、同年11 月には同戦略の進捗と今後について整理し、我が国半導体産業復活の基本戦略として、以下の3段階の取組と、継続的発展を実現させる事業環境の整備からなる「半導体産業基盤緊急強化パッケージ」を取りまとめた。

  • ① Step 1:国内製造基盤の確保
    あらゆる産業に影響を与え、デジタル社会を支える先端半導体の安定供給を確保することは、産業基盤の強靱化、戦略的自律性・不可欠性の向上の観点から重要であり、安全保障上の最重要課題となっている。そのため、先端半導体の誘致について、他国に匹敵する支援とそれを支える法的枠組みを構築し、複数年度にわたる継続的な支援を行うことが重要である。また、直接の取引先である国内部素材・装置メーカーはもとより、地域での雇用創出や、周辺の半導体関連企業の活況化にも資するものである。
    このような状況の中、「特定高度情報通信技術活用システムの開発供給及び導入の促進に関する法律及び国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構法の一部を改正する法律案(令和3年法律第87 号)」が2021 年12 月に成立した(2022 年3月に施行)。同法律案には、事業者による先端半導体の生産施設整備等への投資判断を後押しし、国際的に先端半導体の生産能力が限られている状況においても需給変動に対応できるよう、我が国の技術の向上により先端半導体の国内における安定的な生産を確保すること、我が国における先端半導体の生産に関係する産業の発展に資すること等を明記した。
    また、既存の半導体製造基盤のうち、供給に問題が生じれば、需要家側の事業が一斉に停止する可能性が高いものについては、国民生活への影響や経済的な損失が大きく、不可欠性が高い。そのため、事故や災害などサプライチェーン上の外部要因によるリスクへの適切な対処が必要であり、政府としては、不可欠性の高い半導体の安定供給に資する製造設備の入替又は増設の事業費などについても、法的枠組みとは別途、支援措置を実施することとした。
  • ② Step 2:次世代半導体技術の確立
    カーボンニュートラルに向けて重要となる次世代パワー半導体に関する研究開発を、グリーンイノベーション基金「次世代デジタルインフラの構築」プロジェクトで実施することとした。
    また、「ポスト5G情報通信システム基盤強化研究開発事業」等を活用し、2020 年代中盤から後半の実用化を目指して、米国等有志国と連携し、次世代半導体の製造技術の開発について複数年にわたって研究開発を進めるとともに、社会実装を強力に進める。
  • ③ Step 3:グローバル連携による将来技術の開発
    光電融合技術については、2030 年以降に基板実装技術としてゲームチェンジを起こす可能性があり、これまで日本が研究開発に先行している。本Step においては、基板上のCPU やメモリ等の各種パッケージ間を光電融合技術で接続する、第3世代の研究開発をグリーンイノベーション基金「次世代デジタルインフラの構築」プロジェクトで実施することとした。今後、より微細な領域にまで光電融合技術が適用されることを見据えて、グローバル連携も含めて、次世代の光電融合技術の研究開発に継続して取り組む。
    また、将来技術の開発に向けたオープンイノベーションの活性化を目的とし、グローバル企業等との産学連携のために自律的に発展していく体制を構築するため、半導体オープンイノベーションに関する枠組みを立ち上げ、経済産業省、文部科学省、企業・大学・国立研究開発法人が連携し、官民の適切な負担の下で次々世代に向けた基礎研究(オープン)から、より足下の実用化を見据えた研究開発(クローズ)までを戦略的に推進し、競争力を強化する。
  • ④ 継続的発展を実現させる事業環境の整備
    これらの取組を継続的に進めていくため、カーボンニュートラルやデジタル化が世界の大きな潮流となる中で、電力コストの抑制と再エネ調達の円滑化に向けた対応を進める。また、日本国内ですべてをまかなえていた時代から、川上から川下までグローバルに連携する必要がある時代へ事業環境が変化する中で、産学官が連携し、外国人材の活用や、円滑な国際物流の実現等、様々な側面でグローバルに有機的に連携する体制を構築する。

(九州半導体コンソーシアム)
「国内外における半導体戦略の動向」で述べたように、半導体市場の長期的な拡大が見込まれる中、我が国政府では、半導体産業基盤の強化に向けた取組を進めている。九州経済産業局、2022 年3月、産学官が連携し、即戦力人材の育成に向けた基礎から実用まで一貫したカリキュラム開発を推進する「九州半導体人材育成等コンソーシアム」を設立した。
本コンソーシアムには、産業界、教育機関、行政機関、協力機関から合計42 機関が参加し、取組の方向性として「半導体人材育成と確保」、「企業間取引・サプライチェーンの強化」、「海外との産業交流促進」を挙げ、2022 年4月から活動を開始する

○コンソーシアム設立の背景・目的
半導体は、5G・ビッグデータ・AI・自動運転・ロボティクス・スマートシティ・DX等のデジタル
社会を支える重要基盤であり、安全保障にも直結する死活的に重要な戦略技術である。政府は、閣議決定した成長戦略に基づき、半導体産業基盤の強化に取り組んでいる。こうしたなか、九州経済産業局は、産学官で構成する本コンソーシアムを設立し、人材育成やサプライチェーンの強化、海外との産業交流促進に取り組み、我が国の半導体産業の復活を九州から推進してまいります。

○コンソーシアムにおける3つの取組の方向性

  • ・半導体人材育成と確保
    半導体産業のプレゼンス向上、人材育成カリキュラム作成等
  • ・企業間取引・サプライチェーンの強化
    大手企業と地域企業等とのマッチングプラットフォーム構築、新たな投資案件の創出等
  • ・海外との産業交流促進
    海外の関連機関とのアライアンス形成による産業交流(人材交流を含む)等

(原材料の高騰)
原材料価格については、元々上昇傾向にあった原油価格が、ウクライナ情勢の緊迫によりさらに高騰したことで、素材系の業種を中心に生産コストの増加につながっている。このような状況の中、政府としては、主要な消費国や産油・産ガス国、国際エネルギー機関等の関係国際機関を含む国際社会との連携、増産の働きかけや、ガソリン・軽油・灯油・重油を対象とする
激変緩和措置による支援に加え、2022 年3月には、我が国の存立、国民生活、経済、産業にとって不可欠な戦略物資・エネルギー供給における脆弱性を解消するとともに、グローバル・サプライチェーンにおけるチョークポイント技術の優位性を獲得・維持するため、「戦略物資・エネルギーサプライチェーン対策本部」を設置し、同年3月末に「ウクライナ情勢を踏まえた緊急対策」を取りまとめた。
また、エネルギーコストや原材料価格の上昇が懸念される中、中小企業等が賃上げの原資を確保できるよう、2021 年12 月、上昇したコスト等の適切な転嫁対策を進めるべく「パートナーシップによる価値創造のための転嫁円滑化施策パッケージ」を取りまとめた。さらに、下請事業者と親事業者の間で適正な下請取引が行われるよう、19 業種での「下請適正取引等推進のためのガイドライン」を策定及び随時改定するとともに、サプライチェーン全体の共存共栄と新たな連携や、望ましい取引慣行の遵守を進めることを代表者名で宣言する「パートナーシップ構築宣言」を導入しており、後者については、2022 年3月時点で約7,000 社が登録している。

新型コロナウイルス感染症の感染拡大前の2019 年末に1バレル当たり60 ドル台後半だった中東産ドバイ原油の価格は、新型コロナウイルス感染症が感染拡大した2020 年4月には一時10 ドル台まで低下したが、その後の世界景気の持ち直しや石油輸出国機構(OPEC)とロシアなどの非OPEC 産油国で構成するOPEC プラスによる協調減産などを受け、2021 年後半には80 ドル台まで上昇した。さらに、年明け以降はウクライナ情勢を巡る地政学リスクが高まったことなどにより、米国産WTI 原油などの原油先物価格は2022 年2月には約7年半ぶりに1バレル当たり100 ドルの大台を突破するなど、高値圏での推移を続けている。
原油の大半を海外からの輸入に頼る日本にとって、原油価格の高騰は日本企業の生産(投入)コストの増加に直結する。総務省「平成27 年(2015 年)産業連関表」を基に、ドバイ原油の価格が1バレル当たり円換算で1,000 円上昇した場合に、各種製造業の生産コスト(中間投入額)がどの程度増えるのかを試算した結果を表している。ここでは、直接的に原材料として用いる原油価格の上昇によるコスト増加分(直接効果)と、それらが製品価格に転嫁され、その製品を生産プロセスに投入することで間接的に生じるコスト増加分(間接効果)に分けて示している。これをみると、2015 年を基準とした場合、原油価格が円換算で1バレル当たり1,000 円上昇すると、企業の生産コストは製造業全体の平均で+ 1.6%(うち直接効果で+ 0.8%、間接効果で+ 0.8%)上昇することが分かる。素材系業種は+ 3.2%(うち直接効果で+ 2.0%、間接効果で+ 1.2%)、加工系業種は+ 0.5%(うち直接効果で+ 0.0%、間接効果で+ 0.5%)と素材系業種の方が生産コストの増加率が大きいが、これは原油や石油製品を原材料として用いる業種が素材系業種に多いことを反映している。
具体的には、素材系業種の中でも、特に原油を直接的に原材料とする「石油・石炭製品」が+ 14.2%と大きな影響を受けるほか注3、その石油製品を中間投入として用いる「化学製品」(+ 1.5%)、燃料として用いる「窯業・土石製品」(+ 1.9)や「鉄鋼」(+ 1.5%)といった業種において、生産コストが大きく押し上げられることが確認できる。
このような原油価格高騰による生産コストの増加は、今後、製造業の利益を圧迫するなどの悪影響として現れてくると考えられる。製造業の限界利益率(粗利率)と交易条件(産出物価÷投入物価)の推移を表したものである。限界利益率は、売上高に対する限界利益(売上高から変動費を除いたもの)の割合を表している。また、交易条件は製造業が生産する財の価格とその生産に用いる原材料の価格の比率を表しており、例えば原材料の価格が上昇した場合、その上昇分を生産する財の価格に転嫁できなければ、交易条件は悪化する。これを念頭にみると、交易条件は限界利益率に対して2から3四半期程度先行して推移しており、交易条件が改善に向かうと製造業の限界利益率も上昇し、逆に交易条件が悪化に向かうと限界利益率も低下する関係が読み取れる。
企業間で取引される財の価格変動を表す日本銀行「国内企業物価指数」をみると、2022 年2月速報時点では前年比+ 9.3%の大幅上昇となっている。しかし、原油をはじめとした資源価格の上昇分を十分には転嫁できておらず、交易条件は2021 年1から3月期をピークに悪化している。このため、限界利益率も2022 年には低下傾向が鮮明となっていく可能性が高い。限界利益率の低下は業績の下押しにつながるとともに、設備投資の減少等を通じてGDP を押し下げる要因にもなる。製造業においては、業務の効率化等を進めることで一層のコスト削減を図る動きや、製品やサービスの付加価値を高めながらコスト上昇分の価格転嫁を図る動きが強まっていくと予想される。
部素材不足については、2021 年以降、アジア諸国でのロックダウンの影響により、家庭用給湯器の部品であるハーネスのコネクター等の不足や、中国政府の輸出規制により、ディーゼル車の排気ガスに含まれる窒素酸化物の分解等に用いられる製品の原料である尿素の不足が生じた。また、我が国製造業は、世界的な半導体需要の高まりなどを受けた半導体不足により、大きな影響を受けている。このような状況において、経済産業省は足下の対策として、2021 年12 月、家庭用給湯器の供給遅延に対して、これまで取引のない事業者からの調達の検討等を事業者に要請するとともに、製品の原料となる尿素の国内生産事業者に対し、最大限の増産を要請した。また、中長期的な対策として、部素材の国内サプライチェーンの強靭化に向け、令和2 年度補正予算等において、生産拠点の集中度が高い製品・部素材、または国民が健康な生活を営む上で重要な製品・部素材について、国内で生産拠点等を整備しようとする場合に、その設備導入等を支援した。また、令和3年度補正予算において、国民生活への影響や経済的な損失が大きく公益性が高い半導体や、自動車の電動化や再生可能エネルギーの普及拡大の鍵となる蓄電池について、国内の設備導入等を支援した。これらの取組を通して、エネルギー等の安定供給の確保や、適切な価格転嫁に向けた取組及び部素材の国内サプライチェーンの強靭化を支援している。

(出典)経済産業省 2022年版ものづくり白書
 ・https://www.meti.go.jp/report/whitepaper/mono/2022/index.html

(つづく)Y.H