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ISO審査員及びISO内部監査員に経産省の白書を参考にした製造業における有用な情報をお届けします。
■製造業の浮沈
(休廃業)
国内の倒産件数の推移をみると、製造業と非製造業ともに、2014 年以降おおむね減少傾向であり、2021 年は製造業は664 件と、2020 年の915 件から約3 割減少した。次に、休廃業・解散件数の推移をみると、製造業と非製造業ともに、2021 年は前年より減少に転じた。事業を継続する上で重要である後継者選定の有無についての調査を経営者の年齢別にみると、高齢であるほど後継者を「選定している」割合が高い傾向にあるが、60 代では約6 割、70 代以降は約4 割の経営者が後継者を「選定していない」又は「検討中」である。また、前述のように2021 年は全体の倒産件数が減少している一方、後継者不在により事業継続の見込みが立たないことを要因とする後継者難倒産が増加していることより、経営者の高齢化や後継者不足による倒産及び休廃業・解散件数の動向には注視が必要である。
(開業)
一方、製造業の開業事業所数の推移をみると、2017 年度以降は減少傾向にあったが、2020 年度には増加した。先進的な領域のひとつとして、民間宇宙ベンチャー企業の具体的な取組を紹介する。
事例
国内外の宇宙政策や産業・ビジネスを取り巻く事業環境の急速な変化を踏まえ、2020 年6 月に、我が国の「宇宙基本計画」が変更・閣議決定された。我が国の宇宙政策をめぐる環境認識として、①安全保障における宇宙空間の重要性の高まり、②社会の宇宙システムへの依存度の高まり、③宇宙空間の持続的かつ安定的な利用を妨げるリスクの深刻化、④諸外国の宇宙活動の活発化、⑤民間の宇宙活動の活発化と新たなビジネスモデルの台頭、⑥宇宙活動の広がり、⑦科学技術の急速な進化、が示されている。
近年、我が国の安全保障や経済社会における宇宙空間の重要性や宇宙システムによる測位や通信・放送などへの依存度が高まっており、エネルギー、気候変動、環境、食糧、公衆衛生、大規模自然災害などの地球規模課題の解決や国連の持続可能な開発目標(SDGs)の達成にも貢献する手段としても期待されている。
また、宇宙への「大航海時代」が始まろうとしており、宇宙探索活動の広がりによる科学技術のフロンティアの拡大、官民連携による宇宙産業の活性化や今後の経済成長の推進役としての期待も高まっている。特に、国内外における民間主導の宇宙ビジネスが本格的な成長・拡大期に突入しており、ロケット打上げサービスの低価格化、国際競争が激化する複数の超小型衛星の連携(コンステレーション)による通信・観測衛星の新たなビジネスモデルの登場などに伴い、宇宙ベンチャーの参入が相次いでいる。加えて、大企業やベンチャーキャピタルなどからの大型の資金調達が続いており、宇宙ベンチャー企業への投資や異業種からの参入も進んでいる。このような中、宇宙ベンチャーが手がける事業領域は、「衛星インフラ構築・運用」、「軌道上サービス」、「宇宙データ・技術利活用」、「宇宙探索・資源開発」などの幅広い分野に広がっている。
(株)アストロスケールは、宇宙機の安全航行の確保を目指し、次世代へ持続可能な軌道を継承するため、スペースデブリ(宇宙ごみ)除去を含む軌道上サービスの開発に専業で取り組む世界初の宇宙ベンチャー企業である。国内外の市場でも同社の技術や事業は注目されており、累計約344 億円(2022年3 月末)の資金調達に成功している。また、世界初の大型デブリ除去などの技術実証を目指す、国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)の商業デブリ除去実証のフェーズ1 に選ばれるなど、社会実装に向けた取組が加速する見込みである。2022 年3 月には、TIME 誌の「世界で最も影響力のある100 社(TIME 100 Most Influential Companies)」に選出された。今後は、2030 年までに軌道上サービスをあたりまえのものにすることを目指している。
GITAI Japan(株)は、宇宙探索・資源開発領域の事業を手がけ、宇宙に安価で安全な作業手段を提供することを目指し、宇宙用汎用作業ロボットを開発する民間宇宙ベンチャー企業である。具体的には、①宇宙ステーション船外の作業、②軌道上サービス(衛星への寿命延長、宇宙デブリ除去)におけるドッキング・寿命延長・修理・メンテナンス作業、③月面探査・基地開発作業でのロボット開発を進めている。2040 年には世界的な宇宙ロケット開発企業の対等なパートナーとして、月や火星での都市建設や宇宙コロニーの建設に向けた労働力の提供を目指している。2021 年6 月には、国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)とトヨタ自動車(株)が共同研究を進めている有人与圧ローバ(愛称「LUNAR CRUISER」)向けロボットアームの研究・開発の共同研究契約を締結し、手先を着脱可能にするためのインターフェースである「グラップルエンドエフェクタ」を両端に搭載したロボットアームと、多様なツールやローバ壁面に取り付け可能な「グラップルフィクスチャ」の研究・開発、試作に着手している。今後、月面での探査、点検、メンテナンスを担うロボットを実現する上で課題となる、複数の仕事を行うタスク性能と、広範囲で仕事を行う移動性能の向上を目指している。
(製造業の設備投資)
我が国全体の設備投資額の推移をみると、2020 年は新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響などにより減少したが、同年第3四半期に底を打った後、増加傾向に転じた。
企業の業況判断と設備投資の過不足感を把握するため、日本銀行「全国企業短期経済観測調査」の業況判断DI 及び生産・営業用設備判断DI をみると、製造業では、2020 年は新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響などにより業況判断が急速に悪化したが、2021 年には、業況判断の改善傾向に伴い、設備判断の過剰感も弱まり、足下では均衡に近づいている。
また、製造業のIT 投資注8の推移をみると、2021年は約1.4 兆円と前年比で約0.1 兆円の減少となったが、鉄鋼業、業務用機械器具製造業、情報通信機械器具製造業、自動車・同付属品製造業においては前年に比べて増加している。
製造事業者における設備投資の実態を把握することを目的に行われた調査によれば、設備投資(有形固定資産・無形固定資産)の有無をみると、2020 年は2015 年と比べて、有形・無形固定資産のいずれも、投資をしている企業の割合が増加している。一方、2020 年でも半数以上の企業が無形固定資産への投資をしていない。
2020 年と2015 年の差異を業種別に比較すると、有形固定資産に投資している企業は、全ての業種で増加しており、特に電気機械、化学工業、非鉄金属において伸びが大きい。
無形固定資産についても同様に比較すると、全ての業種で増加しており、特に一般機械、鉄鋼業、化学工業、非鉄金属において伸びが大きい。有形固定資産の設備投資の目的について、2015 年と2020 年を比較すると、いずれの年においても、「老朽設備の更新・補強」、「生産設備の更新」といった設備の維持更新が多く、「生産能力の拡大」は半数程度となっている(図500-11)。なお、大きく割合が変化した項目はみられなかった。無形固定資産の設備投資の目的についても同様に比較すると、いずれの年も、「業務効率化やコスト削減」、「旧来型の基幹システムの更新や維持メンテナンス」が多くなっている(図500-12)。また、2015 年からの変化としては、「DX 関連(工場のIoT 化等)」、「DX 関連(テレワーク等)」が高くなっており、DXに対する取組が進んでいることがうかがえる。
前述のように、2020 年でも半数以上の企業が無形固定資産への設備投資をしていないことも踏まえれば、2015 年からの5年間において、DX に積極的に取り組んできた企業と、そうでない企業の間で、DXの取組状況について差が広がっていると考えられる。
今後3年間の国内外の設備投資の見通しに関する調査によれば、前年度の同様の調査と比較して、国内外への設備投資を「増加」及び「やや増加」とする割合は増加している資本金別に比較すると、資本金が高いほど国内外への設備投資が「増加」及び「やや増加」の割合が高い傾向にある。今後3年間の研究開発投資及びIT 投資の見通しに関する調査によれば、前年度の同様の調査と比較して、研究開発投資及びIT 投資ともに、「増加」及び「やや増加」の割合は増加している。資本金別に比較すると、資本金が高いほど、研究開発投資とIT 投資いずれも「増加」及び「やや増加」の割合が高い傾向にある。設備投資の目的について、国内設備投資においては、「業務効率化やコスト削減」、「旧来型の基幹システムの更新や維持メンテナンス」の割合が高く、海外設備投資においては、「市場シェアの維持・拡大」、「新製品・サービスの提供」の割合が高くなっている。研究開発投資の目的をみると、「新製品・サービスの提供」が最も多くなっている。IT 投資の目的は、「業務効率化やコスト削減」が最も多く、次に「DX 関連(工場のIoT 化等)」の割合が高くなっている。
また、今後、投資計画を減少する要因をみると、国内外の設備投資、研究開発投資、IT投資ともに「事業環境など先行き不透明であるため」が最も多くなっている。
IT 投資の実施状況をみると、IT 投資を実施している企業の割合は約5割であり、業種別にみると、一般機械、輸送用機械及び化学工業が多い。
また、具体的なIT 投資の対象については、「生産管理」が最も多く、次いで「全社的・部門横断的なシステム」の割合が高い。
(大規模な研究開発や設備投資)
大規模な投資を行う企業の事例もみられる。
事例1
沖電気工業(株)は、2022 年5月から埼玉県本庄市に新設したスマート工場を稼働させる。同社が中期経営計画2022 に掲げた「モノづくり基盤強化」の一環を担う工場で、脱炭素社会の実現に向けた環境負荷低減に配慮した工場となっており、総投資額は約60 億円。2021 年8月には大規模生産施設として国内初の『ZEB』(Net Zero Energy Building)を取得した。外壁や屋根の高断熱化、自然通風や自然採光による自然エネルギー活用や屋根への太陽光発電パネル設置に加え、生産の稼働状況に連動した照明・空調・換気の制御に大成建設(株)の技術“T-Factory NEXT” を活用することで、ZEB』の基準値を大幅に上回る133% の達成を可能にした。
事例2
航空業界ではCO2 排出量の削減効果のある持続可能な航空燃料(SAF:Sustainable Aviation Fuel)が脱炭素への切り札として重視されつつあり、我が国政府も2030 年には国内航空会社が使用するジェット燃料の1 割をSAF に置き換えるという目標を掲げている。
事例3
バイオベンチャーの(株)ユーグレナは、使用済み食用油と微細藻類ユーグレナ(和名:ミドリムシ)の油脂等を原料に使用したバイオ燃料を、2018 年に横浜市に設置した日本初のバイオジェット・ディーゼル燃料製造実証プラントで製造している。同社のバイオ燃料の原料であるユーグレナ等の藻類は耕作不能地でも培養が可能で、食料との競合や、森林破壊によるCO2 の増加といった問題を引き起こさず、持続可能性に優れた燃料となることが期待されている。2020 年3 月からは、次世代バイオディーゼル燃料の供給を開始し、2021 年3月までに路線バスや配送トラック、消防車などの車両に導入され、さらにはフェリーやタグボートといった船舶にも導入が進んでいる。2021 年3 月にはSAF も完成し、同年6月には同社のバイオ燃料を「サステオ」と命名し、SAF を用いた初めてのフライトを実施した。陸・海・空それぞれへの「サステオ」導入が広まっている。
事例4
川崎重工業(株)は、持続可能な脱炭素社会に向けて“Kawasaki Hydrogen Road” という水素社会の実現への明確なビジョンとロードマップを描いている。同社は重工業会社として幅広い事業領域と技術・ノウハウの蓄積を有しており、それらを総動員する形で水素を「つくる」「はこぶ」「ためる」「つかう」ためのサプライチェーンの上流から下流に至る技術開発を進めており、水素社会の早期実現を目指している。国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構から「グリーンイノベーション基金事業/大規模水素サプライチェーンの構築プロジェクト」の実施者として2021 年に採択されたことを受け、水素サプライチェーンを構築する上で極めて重要な技術となる、水素供給コストの低減を目指した水素液化機の大型化・高効率化の開発に取り組んでいる。
事例5
サントリー食品インターナショナル(株)は、長野県大町市にサントリーグループで国内初の環境配慮型工場「サントリー天然水北アルプス信濃の森工場」を2021 年5月から稼働させた。年間販売数量1億ケース超のナチュラルミネラルウォーター「サントリー天然水」の第四工場としての位置づけにあり、太陽光発電設備やバイオマス燃料を用いたボイラーの導入、再生可能エネルギー由来電力の調達などにより、CO2 排出実質ゼロ工場を実現させた。同社は、海外も含め、生産研究拠点で順次、再生可能エネルギー100% への切替を進めていくとしている。
(出典)経済産業省 2022年版ものづくり白書
・https://www.meti.go.jp/report/whitepaper/mono/2022/index.html
(つづく)Y.H