ISO審査員及びISO内部監査員に経産省の白書を参考にした製造業における有用な情報をお届けします。

■ものづくりにおける女性と伝統工芸

(1)女性研究者への支援
女性研究者がその能力を発揮し、活躍できる環境を整えることは、我が国の科学技術・イノベーションの活性化や男女共同参画社会の推進に寄与するものである。しかし、我が国の女性研究者の割合は年々増加傾向にあるものの、2021 年3月時点で17.5%であり、先進諸国と比較すると依然として低い水準にある。「第5 次男女共同参画基本計画~すべての女性が輝く令和の社会へ~」(2020 年12 月25 日閣議決定)及び「第6期科学技術・イノベーション基本計画」(2021 年3月26 日閣議決定)においては、大学の研究者の採用に占める女性の割合について、2025 年までに理学系20%、工学系15%、農学系30%、医学・歯学・薬学系合わせて30%、人文科学系45%、社会科学系30%という成果目標が掲げられている。文部科学省では、「ダイバーシティ研究環境実現イニシアティブ」により、研究者の研究と出産・育児などとの両立や女性研究者の研究力向上を通じたリーダー育成を一体的に推進するなど、女性研究者の活躍促進を通じた研究環境のダイバーシティ実現に関する取組を実施する大学などを重点支援するとともに、「特別研究員(RPD)事業」として出産・育児による研究活動の中断後の復帰を支援する取組を拡充するなど、女性研究者への支援の更なる強化に取り組んでいく。

(2)理系女子支援の取組
内閣府は、ウェブサイト「理工チャレンジ(リコチャレ)~女子中高校生・女子学生の理工系分野への選択~」において、理工系分野での女性の活躍を推進している大学や企業などの「リコチャレ応援団体」の取組やイベント、理工系分野で活躍する女性からのメッセージなどを情報提供している。また、2021 年7月にオンラインシンポジウム「進路で人生どう変わる?理系で広がる私の未来2021」を同ウェブサイト上に掲載し、全国の女子中高生とその保護者・教員へ向けて、理工系で活躍する多様なロールモデルからのメッセージを配信した。また、国立研究開発法人科学技術振興機構では、「女子中高生の理系進路選択支援プログラム」を実施している。これは、科学技術分野で活躍する女性研究者・技術者、女子学生などと女子中高生の交流機会の提供や実験教室、出前授業の実施などを通して女子中高生の理工系分野に対する興味・関心を喚起し、理系進路選択の支援を行うプログラムである。

(集まれ!未来で輝くクリエイター系女子 in 滋賀)
滋賀県立大学では、理工系分野の中で最も女子学生の割合の低い工学系に焦点を絞り、女子中高生の理系進路選択を促す「集まれ!未来で輝くクリエイター系女子in 滋賀」を実施している。本プロジェクトでは、ものづくりへの興味や関心を喚起することを目的として、工学部の3学科(材料科学科、機械システム工学科、電子システム工学科)が協力し、女子を対象に、普段の生活や通常のオープンキャンパスでは体験できないような大学ならではのものづくりテーマを扱ったクリエイター体験のイベントを行っている。
また、ものづくり企業の理系出身の女性社員、理系の女子大学生、女子中高生が一堂に会して交流する企業交流体験によって将来への憧れやイメージを与えるイベント、ならびにものづくりのアイデアには欠かせない発想力や論理的思考力になぞらえた謎解き企画(工学部の建物で迷子になったゆるキャラのひこにゃん探し)によって理系に関心の薄い生徒にとっても理系への興味の入口となるイベントを展開している。

(文化芸術資源から生み出される新たな価値と継承)
(1)文化財の保存・活用
社会の変化に対応した文化財保護の制度の整備を図るため、無形文化財及び無形の民俗文化財の登録制度を新設し、幅広く文化財の裾野を広げて保存・活用を図るとともに、地方公共団体による文化財の登録制度等について定めた「文化財保護法の一部を改正する法律」(令和3年法律第22 号)が、2021 年4月に成立した。また、修理技術者の高齢化や後継者不足により、文化財保存技術が断絶の危機にあるほか、天然素材から作られる用具や原材料が入手困難となっている状況等を踏まえ、同年12 月に、文化財の持続可能な保存・継承体制の構築を図るための5か年計画(2022年度~ 2026 年度)として、「文化財の匠プロジェクト」を決定した。本プロジェクトでは、文化財の保存・継承に欠かせない用具・原材料の確保、文化財保存技術に係る人材育成と修理等の拠点整備、文化財を適正な修理周期で修理するための事業規模の確保等の取組を推進する。
(2)重要無形文化財の伝承者養成
文化財保護法に基づき、工芸技術などの優れた「わざ」を重要無形文化財として指定し、その「わざ」を高度に体得している個人や団体を「保持者」「保持団体」として認定している。文化庁では、重要無形文化財の記録の作成や、重要無形文化財の公開事業を行うとともに、保持者や保持団体などが行う研修会、講習会や実技指導に対して補助を行うなど、優れた「わざ」を後世に伝えるための取組を実施している。
(3)選定保存技術の保護
文化財保護法に基づき、文化財の保存のために欠くことのできない伝統的な技術又は技能で保存の措置を講ずる必要のあるものを選定保存技術として選定し、その技術又は技能を正しく体得している個人や団体を「保持者」「保存団体」として認定している。2021年度には「箏製作」及び「三味線棹・胴製作」の技術を新たに選定し「邦楽器製作技術保存会」をその保存団体に認定するなどした。文化庁では、選定保存技術の保護のため、保持者や保存団体が行う技術の錬磨、伝承者養成などの事業に対し必要な補助を行うなど、人材育成に資する取組を進めている。また選定保存技術の公開事業として、2021 年度は秋葉原において「文化庁日本の技フェア」を開催した。34 の保存団体が活動紹介の展示や技の実演を行い、2日間で2,605 人が来場した。

(文化庁日本の技フェア~文化財を守り続ける匠の技~)
文化庁では選定保存技術の普及・啓発を目的とした公開事業を毎年実施している。2021 年度の「文化庁日本の技フェア~文化財を守り続ける匠の技~」では、34 の選定保存技術保存団体が、伝統的な技術や団体の活動についてパネル展示や実物の展示、その解説を行った。また、うち18 団体は実演コーナーで、本瓦葺(ほんがわらぶき)や槍鉋(やりがんな)仕上げ、和本の虫喰い穴に補修紙を繕う装潢(そうこう)修理技術、縁付金箔(えんつけきんぱく)製造のうつしの技、糸車で苧麻糸(ちょまいと)に撚(よ)り掛ける技といった、それぞれの持つ熟練の技を参加者の目の前で披露した。新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響もあり、毎年恒例の体験コーナーが中止になるなど制約もあったが、会場には子どもから大人まで幅広い年齢層が訪れ、「子どもと職人さんが触れ合う事が出来た」、「写真や動画ではわからないディテールが分かった」、「伝統を後世に残す必要を感じた」、「実際の担い手になってみたい」といった声が聞かれるなど好評を得ることができ、来場者の選定保存技術への理解と関心を深める機会となった。
また、2021 年度は会場の様子や実演を動画で観覧できるバーチャル会場の新設や、SNS を駆使した情報の発信など、イベント当日にとどまらない多角的展開を行った。

(4)地域における伝統工芸の体験活動
文化庁では、「伝統文化親子教室事業」において、次代を担う子供たちが、伝統文化などを計画的・継続的に体験・修得する機会を提供する取組に対して支援し、我が国の歴史と伝統の中から生まれ、大切に守り伝えられてきた伝統文化などを将来にわたって確実に継承し、発展させることとしている。2021 年度においては、三重県伊賀市において伊賀焼づくりを地域の子供たちが体験するなど、31 の伝統工芸に関する教室を採択し、人材育成に取り組んでいる。

(伝統文化親子教室事業)
三重県伊賀市では、古くから伝わる伊賀焼の作り方を地域の子どもたちに知ってもらう伊賀焼づくり体験が行われている。教室では、伊賀焼の魅力や特徴を正確に伝えるため、粘土作りから焼き上げまでを4つの工程に分けて体験し、伊賀焼を通して地域の歴史や文化についても学ぶことができる。また、子どもたちが自身で作った伊賀焼を自宅へ持ち帰り、日々の生活で使うことにより、教室の参加後も長く伝統工芸に愛着を感じてもらうことを目指している。参加者の中には、伝統工芸士に興味を示す熱心な子どもの姿もあった。

(5)文化遺産の保護/継承
世界文化遺産に登録されている「富岡製糸場と絹産業遺産群」は、ものづくりに関する文化遺産といえる。生糸の生産工程を表し、養蚕・製糸の分野における技術交流と技術革新の場として世界的な意義を有する遺産である。また、「明治日本の産業革命遺産製鉄・製鋼、造船、石炭産業」は、我が国が19 世紀半ば以降に急速な産業化を成し遂げたことの証左であり、西洋から非西洋国家に初めて産業化の伝播が成功したことを物語る遺産である。また、ユネスコ無形文化遺産には2014 年に「和紙:日本の手漉和紙技術」が登録された。2020 年には、「伝統建築工匠の技:木造建造物を受け継ぐための伝統技術」として社寺や城郭など、我が国の伝統的な木造建造物の保存のために欠くことのできない伝統的な木工、屋根葺き、左官、畳製作などの17 件の選定保存技術が一括して登録された。

(6) 文化芸術資源を活かした社会的・経済的価値の創出
文化芸術資源の持つ潜在的な力を一層引き出し、地域住民の理解を深めつつ、地域で協力して総合的にその保存・活用に取り組むなど、多くの人の参画を得ながら社会全体で支えていくためにも、文化芸術資源を活かした社会的・経済的価値の創出が必要である。
このため、例えば、美術工芸品は、経年劣化などにより適切な保存や取扱い及び移動が困難である場合に、実物に代わり公開・活用を図るため、実物と同じ工程により、現状を忠実に再現した模写模造品が製作されている。また、調査研究の成果に基づき、製作当初の姿を復元的に模写模造することも行われている。 これらの事業はいずれも、指定文化財の保存とともに、伝統技術の継承や文化財への理解を深めることを目的として実施されている。加えて、文化財の高精細なレプリカやバーチャルリアリティーなどは、保存状況が良好でなく鑑賞機会の設定が困難な場合や、永続的な保存のため元あった場所からの移動が必要な場合、既に建造物が失われてしまった遺跡などかつての姿を想像しにくい場合などに活用することで、文化財の理解を深め、脆弱な文化財の活用を補完するものである。これらの取組は、文化財の保存や普及啓発などにも効果があるほか、文化芸術資源を活かした社会的・経済的な価値の創出につながるものである。文化庁では、本物の文化財の保存・活用と並行して、伝統的な技法・描法・材料や先端技術などを活かした文化財のデジタルアーカイブ、模写模造、高精細レプリカ、バーチャルリアリティーなどの取組を進めている。

(出典)経済産業省 2022年版ものづくり白書
 ・https://www.meti.go.jp/report/whitepaper/mono/2022/index.html

(つづく)Y.H