ISO審査員及びISO内部監査員に経産省の白書を参考にした製造業における有用な情報をお届けします。

■ものづくりとイノベーション

(科学技術イノベーションの戦略的国際展開)
①戦略的国際共同研究プログラム(SICORP)
我が国の研究力向上などのために研究開発における国際ネットワークを強化するため、大学などにおける国際共同研究を強力に支援することが求められている。これに応えるべく、「戦略的国際共同研究プログラム(SICORP)」では、対等な協力関係の下で、戦略的に重要なものとして国が設定した協力対象国・地域及び研究分野における国際共同研究を支援している。国際協力によるイノベーション創出のため、多様な研究内容・体制に対応するタイプを設け、相手国との合意に基づく国際共同研究を強力に推進し、相手国との相互裨益を原則としつつも、我が国の課題解決型イノベーションの実現に貢献することを目指している。

② 地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム(SATREPS)
我が国の科学技術イノベーションを国際展開し、世界の「STI for SDGs」活動を牽引するため、我が国の優れた科学技術と政府開発援助(ODA)との連携により、開発途上国のニーズに基づき、環境・エネルギー分野、防災分野、生物資源分野、感染症分野における地球規模課題の解決と将来的な社会実装につながる国際共同研究を推進している。出口ステークホルダーとの連携・共同を促すスキームを活用し、SDGs 達成に向け研究成果の社会実装を加速させる。2022 年2月時点、これまで世界53か国で168 課題のプロジェクトが実施されており、両国の科学技術の発展や人材育成にも大きく貢献し、社会実装につながる成果を生み出している。世界のパーム油の約3割を生産するマレイシアでは、寿命を迎えたオイルパーム古木(OPT) が農園に大量に廃棄・放置されており、土壌病害の蔓延や分解に由来する温室効果ガスの発生、新たな農園開墾に伴う熱帯林伐採等の原因となっていることから、OPTの高度資源化による新たな産業創出を目指し、マレイシアとの国際共同研究を推進。共同参画企業のパナソニック( 株) ではOPT ペレットを使った再生木質ボード化技術を開発し、中密度繊維板(MDF)を使った家具の商品化を目指す。
(SATREPS「オイルパーム農園の持続的土地利用と再生を目指したオイルパーム古木への高付加価値化技術の開発」)

( 省庁横断的プロジェクト「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」)
SIP は、総合科学技術・イノベーション会議(CSTI)が司令塔機能を発揮して、省庁の枠や旧来の分野を超えたマネジメントにより、科学技術イノベーションを実現するため2014 年(平成26 年度)に創設したプログラムである。2014 年から2018 年(平成30 年度)までの5年間を第1 期として11 課題に取り組み、平成30 年度に開始したSIP 第2期においては、国民にとって真に重要な社会的課題や日本経済再生に寄与し、世界を先導する12 の課題に取り組んでいる。SIP は、各課題を強力にリードするプログラムディレクター(PD)を中心に、府省や産学官の垣根を越えて基礎研究から実用化・事業化の出口までを見据えて一気通貫で研究するプログラムであり、社会実装に向けて着実に成果が現れている。SIP 第2期の成果の一例として、大雨による災害発生の危険度が急激に高まっている中で、非常に激しい雨が同じ場所で降り続いている線状降水帯の検出条件を定め、自動的に検出する技術を開発した。本技術は気象庁の「顕著な大雨に関する気象情報」に実装され、2021 年6月17 日から運用が開始された。さらに、予測技術は社会実装に向けて自治体との実証実験を進めている。また、自動運転に必要な高精度3次元地図を含むダイナミックマップの統一仕様を業界横断的に策定し、この成果を踏まえ電機、地図、測量会社と自動車メーカー各社が、ダイナミックマップ基盤(株)を設立し、2019 年3月から全国自動車専用道路の高精度3次元地図(約3万キロメートル)の商用配信を開始した。同社の提供する電子3次元地図を活用して、2021 年3月、本田技研工業が世界初となるレベル3技術を搭載した自動運転車の発売を開始した。なお、現在のSIP 第2期が来年度(2022 年度)までであり、「第6期科学技術・イノベーション計画」(令和3年3月26 日閣議決定)に基づき、2023 年度からの次期SIP で取り組むべき課題について、我が国が目指す将来像(Society 5.0)に向けての取組を一層加速するため、「次期SIP ターゲット領域有識者検討会議」において将来像からのバックキャストによりミッション志向型の15 の課題候補(ターゲット領域)を設定し、それに対し、産学官から幅広く研究開発テーマのアイディアを募集(情報提供依頼。RFI(Request for Information))するとともにSociety 5.0 の実現に貢献する観点で、よりインパクトの高いテーマへの絞り込みを行うためのフィージビリティスタディ(FS)を2023 年度に行うこととしている。

(官民研究開発投資拡大プログラム(PRISM)
日本経済の力強い再生を目指し、科学技術イノベーションの一層の活性化、効率化と、経済社会と科学技術イノベーションの有機的連携の強化を図る観点から、「科学技術イノベーション官民投資拡大イニシアティブ」が2016 年12 月に取りまとめられ、これを踏まえ、2018 年度に内閣府にPRISM を創設した。本プログラムは、統合戦略や統合イノベーション戦略推進会議が策定する各種分野別戦略等を踏まえ、CSTI が民間研究開発投資誘発効果の高い領域注12 を設定して各府省庁の施策を誘導し、事業の加速等を行うことにより、官民の研究開発投資を拡大するものである。また、CSTI の下に、CSTI 有識者議員を構成員とするガバニングボードを設置し、SIP とPRISMを一体的・機動的に推進している。プログラムの実施に当たっては、領域ごとに、推進費の配分や評価などに強い権限を持った領域統括を設置し、省庁を越えた施策の連携を促すなど、各施策の効率的・効果的実施を確保している。
また、対象施策ごとに各省庁がプログラムディレクターを任命し、全体の研究計画の策定・変更、予算配分の権限を集中させることなどを必須要件としており、SIP 型マネジメントの各省庁への拡大を図っている。

( 産学共同研究等、技術移転のための研究開発、成果の活用促進)
多様な先端的・独創的研究成果を生み出す「知」の拠点である大学などと企業の効果的な協力関係の構築は、我が国のものづくり基盤技術の高度化や効率化、高付加価値化のほか、新事業・新製品の開拓に資するものとなる。2020 年度においては、民間企業との共同研究による大学等の研究費受入額は約847 億円、このうち1件当たりの受入額が1,000 万円以上の共同研究に係る研究費受入額は約466 億円と、着実に進展している。
また、科学技術・学術政策研究所「民間企業の研究活動に関する調査報告2020 注13」によると、1社当たりの主要業種注14 における社内研究開発費の平均値は23 億1,912 万円(うち受入研究費が6,005 万円)、総外部支出研究開発費の平均値は4 億6,871 万円であった。
研究開発において、他組織と連携した理由としては、「研究開発における目標達成のための時間を短縮するため」、「技術変化に対応するため」、「顧客ニーズに対応するため」など、主に急速な環境変化への迅速な対応を目的として行われている。研究開発の促進を目的とした他組織との連携について、連携先の組織別の割合をみると、「国内の大学等」が最も大きく、続いて「大企業」となっている。一方、最も規模の大きい連携をした他組織については、「大企業」の割合が最も大きく、「国内の大学等」が続いている。
国内企業や国立大学・公的研究機関との連携で効果があった点については、「自社技術競争力の向上」や「新たな特許出願」、「連携先の施設や設備の利用」など、自社単独では相応のコストを要する課題が、外部リソースを活用することにより解決されている。
他組織との連携によるメリットは様々あるものの、現状は未だに約4分の1の事業社が他組織と研究開発の連携をしたことがない。資本金階級別にみると、資本金階級が大きくなるほど、他組織と連携したことがある企業の割合は高く、また、主要業種とそれ以外の業種の両方で連携を実施したとする企業の割合も高い。また、「日本再興戦略2016」(2016 年6月2日閣議決定)においては、従来研究者個人と企業の一組織(開発本部)との連携に留まってきた産学官連携を、組織のトップが関与する「組織」対「組織」の本格的な産学官連携へと発展させ、産学官連携の体制を強化し、企業から大学・国立研究開発法人等への投資を2025 年までに3倍に増やすこととされている。

文部科学省及び経済産業省は、大学・国立研究開発法人が産学官連携機能を強化するうえでの課題とそれに対する処方箋を取りまとめた「産学官連携による共同研究強化のためのガイドライン」を2016 年に策定し、その普及に努めるとともに、ガイドラインに基づく産学連携体制構築に向けてボトルネックとなっている課題の解消に向けた処方箋と、産業界における課題とそれに対する処方箋についてまとめた「産学官連携による共同研究強化のためのガイドライン【追補版】」を2020 年に公表した。また、本格的な産学官連携の実現に向けて、国立研究開発法人科学技術振興機構では、産学官が集う大規模産学連携拠点を構築し、基礎研究段階から実用化までの研究開発を集中的に実施し、革新的なイノベーションの創出を目指す取組として、2013 年度より「センター・オブ・イノベーション(COI)プログラム」を実施している。トライアル拠点として採択された中から正式拠点に昇格した拠点を含め、18 のCOI 拠点が活動を推進している。さらに、2016 年度より「産学共創プラットフォーム共同研究推進プログラム(OPERA)」を実施しており、民間企業とのマッチングファンドにより、複数企業からなるコンソーシアム型の連携による非競争領域における大型共同研究と博士課程学生などの人材育成、大学の産学連携システム改革などとを一体的に推進することで、「組織」対「組織」による本格的産学連携を実現し、我が国のオープンイノベーションの本格的駆動を図ることを目指している。2019 年度からは、上記の拠点型産学連携制度(COI、OPERA 等)を「共創の場形成支援」として大括り化し、一体的なマネジメントを推進しており、2020 年度からは「共創の場形成支援プログラム(COI-NEXT)」を開始した。本プログラムでは、社会変革や社会課題解決につながる産学官連携によるオープンイノベーションを促進するため、バックキャスト型の研究開発を行う産学官共創拠点の形成支援等を行なっており、国の政策方針に基づき文部科学省が設定する「政策重点分野」(2020 年度~)、国レベルやグローバルレベルの社会課題の解決を目指す「共創分野」(2020 年度~)、地域が自立的に地域課題解決・地域経済発展を進めることができる持続的な地域産学官共創システムの形成を行う「地域共創分野」(2021年度~)を設け、支援を行っている。加えて、2018 年度より、文部科学省では、「オープンイノベーション機構の整備事業」を開始し、企業の事業戦略に深く関わる大型共同研究(競争領域に重点)を集中的にマネジメントする体制の整備を通じて、大型共同研究を推進している。大学等発ベンチャーの新規創設数は、一時期減少傾向にあったが、近年は回復基調にあり、2020 年度の実績は233 件となった(図832-16)。今後も、グローバルに成長することのできる質の高い大学等発ベンチャーの創出に向けた環境を整備していく必要がある。このため、国立研究開発法人科学技術振興機構では、起業前の段階から、公的資金と民間の事業化ノウハウなどを組み合わせることにより、成長性のある大学等発スタートアップの創出を目指した支援や、スタートアップ・エコシステム拠点都市において、大学・自治体・産業界のリソースを結集し、世界に伍するスタートアップの創出に取り組むエコシステムを構築する支援を行う「大学発新産業創出プログラム(START)」を実施している。さらに、「出資型新事業創出支援プログラム(SUCCESS)」を実施し、国立研究開発法人科学技術振興機構の研究開発成果を活用するベンチャー企業へ出資等を行うことにより、当該企業の事業活動を通じて研究開発成果の実用化を促進している。
また、文部科学省では、学部学生や大学院生、若手研究者などに対するアントレプレナー育成プログラムの実施により、我が国全体のアントレプレナーシップ醸成をより一層促進するとともに、我が国のベンチャー創出力の強化に資することを目的として、「次世代アントレプレナー育成事業(EDGE-NEXT)」を2017 年度から実施している。その他の取組として、国立研究開発法人科学技術振興機構においては、産学連携により大学などの研究成果の実用化を促進するため、大学などの個々の研究者が創出した成果を産学が共同で実用化に向けた研究開発を行うとともに、学から産への技術移転を行う「研究成果最適展開支援プログラム(A-STEP)」、大学などにおける研究成果の戦略的な海外特許取得の支援や、大学などに散在している特許権などの集約・パッケージ化による活用促進などを通じて、大学などの知的財産活動の総合的活用を支援する「知財活用支援事業」を実施している。また、研究開発税制について、共同研究などを通じた試験研究を促進するため、民間企業が大学などと行う共同試験研究のために支出した試験研究費について、一般の試験研究費よりも高い税額控除率を適用できる措置を設けている。

(大学等における研究成果の戦略的な創出・管理・活用のための体制整備)
大学などの優れた研究成果を活かすためには、成果を統合発展させ、国際競争力のある製品・サービスとするための産業界との協力の推進が不可欠であり、これはものづくり産業の活性化にも資するものである。そのため、大学などにおいて、研究成果の民間企業への移転を促進し、それらを効果的にイノベーションに結びつける観点から、戦略的な産学官連携機能の強化を図っている。
1998 年に制定された「大学等における技術に関する研究成果の民間事業者への移転の促進に関する法律(平成10 年法律第52 号)」は、上記のような研究成果移転の促進により、我が国の産業の技術の向上と大学などにおける研究活動の活性化を図ることを目的とした法律である。本法に基づき実施計画を承認されたTLO(Technology Licensing Organization)は、2021 年度末で32 機関となっている。この点、昨今の第4次産業革命への対応ともあいまって、大学における研究成果の社会還元を一層進めることが産業技術の向上や新たな事業分野の開拓に資することとなる。このようなことから、2019 年度より、文部科学省では、「イノベーションマネジメントハブ形成支援事業」を開始し、大学、産業界、TLOのネットワーク強化を図ることを通じて、大学における知的財産の効果的活用や共同研究の構築に資する環境整備を推進している。

(地域科学技術イノベーション創出のための取組)
地域における科学技術の振興は、地域産業の活性化や地域住民の生活の質の向上に貢献するものであり、ひいては我が国全体の科学技術の高度化・多様化につながるものとして、国として積極的に推進している。一方、地域イノベーション・エコシステムの形成と地方創生の実現に向けては、イノベーション実現のきっかけ・仕組みづくりの量的拡大を図る段階から、具体的に地域の技術シーズなどを活かし、地域からグローバル展開を前提とした社会的なインパクトの大きい事業化の成功モデルを創出する段階へと転換が求められている。このため、文部科学省では、2016 年度より開始した「地域イノベーション・エコシステム形成プログラム」により、地域の成長に貢献しようとする地域大学に事業プロデュースチームを創設し、地域の競争力の源泉(コア技術など)を核に、地域内外の人材や技術を取り込み、グローバル展開が可能な事業化計画を策定し、リスクは高いが社会的インパクトが大きい事業化プロジェクトを支援している。2019 年度までに全21 地域が採択されている。

(出典)経済産業省 2022年版ものづくり白書
 ・https://www.meti.go.jp/report/whitepaper/mono/2022/index.html

(つづく)Y.H