ISO審査員及びISO内部監査員に経産省の白書を参考にした製造業における有用な情報をお届けします。

■職業能力の開発

(人材開発施策の推進)
Society 5.0 の実現に向けた経済・社会の構造改革の進展、新型コロナウイルス感染症の影響下での社会全体のデジタルトランスフォーメーションの加速化等による産業構造の転換、人生100 年時代における職業人生の長期化や働き方の多様化等の変化が生じている中で、全ての方がその能力を存分に発揮する社会を実現するためには、働く方一人一人の生涯を通じた能力開発を支援していくことが不可欠である。そのためには、何歳になっても、誰にでも学び直しと新しいチャレンジの機会を確保するリカレント教育の充実や、高齢期も見据えた自律的・主体的なキャリア形成支援等を推進していく必要がある。
このため、労働者のキャリアプランの再設計や企業内のキャリアコンサルティング導入等の支援、教育訓練休暇制度の導入促進、教育訓練給付やIT 理解・活用力習得のための職業訓練等のリカレント教育施策を推進すし、企業の実情に応じた中高年齢層向けの訓練の提供などを図っていく。また、雇用保険法等の一部を改正する法律(令和4年法律第12 号)により、職業能力開発促進法(昭和44 年法律第64 号)において、職業訓練に地域のニーズを適切に反映すること等により、効果的な人材育成につなげるため、関係者による都道府県単位の協議会の仕組みを設けるとともに、キャリアコンサルティングの推進に係る事業主・国等の責務規定を整備した。さらに、企業内における労働者の自律的・主体的かつ継続的な学び・学び直しの促進に向けたガイドラインの策定について、労働政策審議会人材開発分科会において検討を進めている。
引き続き、誰もが何歳になっても、新たな活躍の機会に挑戦できるような環境の整備に向けた取組を進めていく。

(ハロートレーニング(公的職業訓練)の推進)
(1)公共職業訓練の推進
国および都道府県等は、職業能力開発促進法に基づき、労働者が段階的かつ体系的に職業に必要な技能及びこれに関する知識を習得するため、公共職業能力開発施設注1を設置し、①離職者訓練、②在職者訓練、③学卒者訓練を実施している注2。国による職業訓練は、(独)高齢・障害・求職者雇用支援機構の職業能力開発促進センター(ポリテクセンター)及び職業能力開発大学校・短期大学校(ポリテクカレッジ)が、都道府県による職業訓練は、各都道府県の職業能力開発校・短期大学校がそれぞれ主となって実施しており、公共職業能力開発施設では、ものづくり分野を中心として、離職者の再就職の支援や在職労働者のスキルアップ、高度な技能者の養成、学卒者に対する長期間の訓練課程の実施に取り組んでいる。このほか、都道府県から株式会社、事業主団体・特定非営利法人などの民間教育訓練機関に委託して実施する訓練では、地域のニーズをとらえた多様な職業訓練を提供している。2021 年12 月からは、離職者向けの職業訓練において、IT 分野の資格取得を目指す訓練コースの委託費の上乗せを行い、IT 分野のコース設定を推進している。

(事例)
セキ技研(株)(新潟県南魚沼市)は、ものづくりの「組立」「検査」「搬送」といった工程を自動化するロボット装置、自動化設備の受託開発・製造を行っている。特に「コネクタ」という電子部品を製造するための、精密かつ高速な自動機製造を得意としている。
同社のFA 事業部設計2課で働く大谷さんは、ポリテクカレッジ新潟専門課程と北陸ポリテクカレッジ応用課程の修了生であり、在学中に学んだ電気の知識や技能を活かし、自動化設備の電気回路・制御盤の設計と使用機器の設定、ソフト設計など、同社の将来を担うリーダーとして重要な業務に携わっている。大谷さんが在籍した生産ロボットシステムコースでは、実際に電気回路・制御盤などのハード設計、ラダープログラム作成などのソフト設計を行い、センサー、空気圧シリンダ、ベルトコンベアなどの機器と、産業用ロボットと人協働ロボットを組み合わせ、一つの製造ラインを製作する実習を行った。大谷さんは、「この実習の中で、工場の自動化、産業用ロボットなどのFA 事業関連の知識、電気回路やソフト設計に必要な基礎知識・技術を習得することができた。そして企業に就職するに際しては、自分の今後の進路を決める判断材料になった。」と話す。
また、製品開発のプロセスについて学習する応用課程の開発課題実習について、「専門分野が異なる各学科の学生と共同で作業するため、お互いの分野の知識・技術を理解しながら、ミーティングで作業の進捗状況を把握し、実習を進めることが必要となる。この経験により現在の業務で設計を行う際に、他の分野の知識・技術を用いてより良い設計を行うことができた。」と、ポリテクカレッジでの経験が、現在の業務に活かされていると感じている。大谷さんの上司である、同社FA 事業部副部長の水野さんは、「大谷さんには、自動機の電気制御系の設計業務を担ってもらっている。北陸ポリテクカレッジの生産ロボットシステムコースで、我が社のような自動機製造業での具体的な実務をイメージできる実習を通じて、ものづくりの難しさや顧客ニーズとの向き合い方を身につけてきたようで、入社後想定を超えるスピードでチームになじみ活躍してもらっており、当社に欠かせない優秀な人材です。」と話す。

(2)求職者支援制度の推進
非正規雇用の労働者など雇用保険を受給できない求職者に対するセーフティネットとして、無料の職業訓練の受講機会を提供し、一定の要件を満たす場合には職業訓練(求職者支援訓練)を受けることを容易にするための給付金を支給するなどして、その早期就職を支援する「求職者支援制度」を2011 年10 月から実施している。
求職者支援訓練には多くの職種に共通する基本的能力(例:パソコン操作能力など)を習得するための「基礎コース」及び特定の職種(例:介護福祉など)の職務に必要な実践的能力を基本的能力から一括して習得するための「実践コース」がある。
さらに、2021 年10 月からは、育児や就業等の事情により決まった日時に訓練を受講することが難しい求職者の訓練受講が可能となるよう、求職者の希望に応じた日時に受講が可能な「e ラーニングコース」を実践コースに設けている。また、同年12 月からは、民間訓練機関による訓練において、IT 分野の資格取得を目指す訓練コース、奨励金の上乗せにより、IT分野のコース設定を推進している。

(3)生産性向上人材育成支援センターの取組
(独)高齢・障害・求職者雇用支援機構が全国87ヶ所に設置する生産性向上人材育成支援センターでは、中小企業等の労働生産性向上に向けた人材育成を支援することを目的として、民間機関等を活用した生産性向上支援訓練を実施している。
生産性向上支援訓練では、生産管理、IoT・クラウドの活用、組織マネジメント、マーケティング、データ活用など、あらゆる産業分野の生産性向上に効果的なカリキュラムを準備するほか、企業の個別の課題に合わせオーダーメイド型の訓練を提供している。IT技術の進展に対応するため、2021 年度からはネットワークやデータ処理等のIT 利活用による業務改善に関するコースを実施している。

(事例)
生産性向上支援訓練利用者の声・・・岡安ゴム(株)
【利用事業主の概要】
岡安ゴム(株)(滋賀県草津市)

  • 事業内容  :ゴム製品製造業
  • 利用コース名: ①「企業内でIT 活用を推進するために必要なマネジメト」
            ②「企業内でIT 活用を推進するために必要な技術理解」
  • 利用時期  :2021 年8月
  • 受講者数  :① 20 名 ② 20 名

【利用事業主の声】
当社は生産性向上や品質改善に日々取り組んでおり、インジェクション(射出)成型における金型投資の低減や長尺幅広スポンジゴムなど、他社にはない新技術に挑んでいる。
一方で全社的にIT リテラシーが低く、社員間にレベルの開きがあることが課題であったため、生産性向上支援訓練を利用することとした。訓練受講は従業員のIT スキルのレベルを統一する良いきっかけになった。今後は社内のITインフラを整備し、「生産管理システム」や「品質保証システム」などによる業務のペーパーレス化を考えている。
今回学んだことを活用して業務の生産性を向上させるために、IT で何ができるのか、いかにIT 化していくのかを従業員が自ら考えられるようになることを期待している。
【訓練受講者の声】
グループディスカッション等で、AI やIoT などの新技術を活用するシミュレーションができたり、契約や知的財産権に関する法規、個人情報に関係する法律に関する内容の講義もあったりと、とても実用性がある講習だった。現在従事している出荷時のピッキング作業では、品物違いや数量違いを防ぐことが課題であるが、デジタルサイネージやバーコードシステムの活用によって、品物違いを防ぐことができると感じた。また、作業者の人的ミスによる数量違いを防ぐ工夫により、顧客満足度の向上につながるほか、出荷記録もデータ管理することでさらなる生産性向上が期待できると考えている。このような講習で得られた気付きを、今後、当社の生産性向上につなげていきたい。

(4)職業訓練の質の向上
民間教育訓練機関の提供する職業訓練サービスの質の確保・向上を図るため、厚生労働省では、2011 年12 月に「民間教育訓練機関における職業訓練サービスガイドライン」を策定し、PDCA サイクルを活用することによる職業訓練サービスの質の向上の取組を進めている。2014 年度よりガイドライン研修を実施しており、公的職業訓練のうち委託訓練の契約及び求職者支援訓練の認定に当たっては、ガイドライン研修の受講を要件化している(2020 年度末までは経過措置期間)。また、職業訓練サービスガイドライン適合事業所認定の制度については、2016 年度及び2017 年度の試行実施を経て、2018 年度より本格実施している。2018 年度から2020 年度までに、43 事業所が適合事業所として認定された。

(5) 中小企業等担い手育成支援事業(1億16百万円)
中小企業においては、一定のスキルを有する技能人材の獲得が困難な上、人材の育成に取り組むだけの人的余裕やノウハウが不足しているため、人材の確保・育成に課題を抱えているが、今後の人口減少を考慮すると、こうした状況が進行する恐れがあるため、その対応が喫緊の課題となっている。このため、業界団体が主体となって、中小企業等において、正社員経験が少ない労働者に対し、技能修得のための訓練(3年以内の雇用型訓練)の実施を支援することにより、実務経験や公的資格を身につけた人材の育成・確保を促進し、さらに、この雇用型訓練を受けた者が、訓練を修了するなど一定の要件に該当する場合には、訓練時間に応じて、OFF-JT 及びOJTの賃金助成を行う事業を実施した。

(6) 就職氷河期世代の方向けの短期資格等習得
コース事業の実施(27億5百万円)就職氷河期世代の方への支援として、2020 年度か
ら「短期資格等習得コース事業」を実施した。具体的には、国からこの事業の委託を受けた、IT、運輸、建設、農業といった人材ニーズの高い11 の業界団体等が、1か月から3か月程度の短期間で取得でき、安定就労につながる資格等の習得支援と、職場見学・職場体験やハローワーク等と連携した就職支援等とを組み合わせた出口一体型の職業訓練を行った。さらに、同事業では、求職中の非正規雇用労働者の方が働きながら受講しやすい夜間や土日、eラーニング等の訓練を提供した。

(事業主が行う職業能力開発の推進)
(1)事業主に対する助成金の支給
① 人材開発支援助成金の活用促進(358億73百万円(当初)、215億68百万円(2021年度補正))<厚労省、経産省>
企業内における労働者のキャリア形成を効果的に促進するため、雇用する労働者に対して職業訓練などを計画に沿って実施した事業主に対して、訓練経費や訓練期間中の賃金の一部等を助成している。同助成金によるものづくり人材の育成については、製造業、建設業などの事業所が、厚生労働大臣の認定を受けたOFF-JT とOJT を組み合わせた訓練を実施する場合には、同助成金の中で最も高い助成率により助成することで支援を行った。
また、経済産業省と連携し、中小企業等の生産性向上のため、認定事業分野別経営力向上推進機関が事業分野別経営力向上推進業務として行う、事業分野別指針に定められた事項に関する研修を実施した場合を、当該助成金制度の対象としている。

(事例)
旭洋造船(株)は、山口県下関市長府港町に位置し、一般貨物船からタンカーまでを製造する企業である(図1)。豊富な技術力で同規模他社には例を見ない建造実績を誇っている。取引先は国内にとどまらず、世界15 カ国に広がり、技術力では、(公社)日本船舶海洋工学会主催の「シップ・オブ・ザ・イヤー」の受賞実績が示すように、高い開発力を持ち合わせている。また、同社の三井専務取締役が、ものづくり日本大賞の「ものづくりの現場を支える高度な技能」部門において、「風圧抵抗の少ない球状船首の輸送船を開発設計し、環境負荷の大幅な低減に寄与したこと」を高く評価されて、内閣総理大臣賞を受
賞するなど、同社の実力は広く認められている。このような高い技術力を誇る同社は、人材育成について、「熟練造船技術者世代が高齢化している今、造船業の当社としては、人材確保と若手育成が急務であり、将来を担う若手を中心に積極的な社外講習受講による人材育成を推進する。」との基本方針を掲げる。近年は特に高校卒業者を採用して、人材開発支援助成金を活用して行われる「熟練技能育成・承継訓練」を受講させることにより、高度な造船技術の伝承に努めている。受講先である、「大分地域造船技術センター新人研修」には毎回新入社員を参加させ、今年で16 回目を迎えた。この研修は、次世代を担う造船関連の新人が集い、学び、世界のトップクラスとなる日本の造船技術を継承することを目的としている。特に実習にはウェイトをおき、溶接やクレーン操作など造船に必要な専門的な知識や技能を習得し、造船現場に携わる者にとって必須となる各種免許や資格を集中的に取得できる。
「今年は9名が3か月の合同研修を共に受講し、まだ幼さが残っていた新入社員たちが、自信をつけた大人の顔になって戻って来てくれた。きっと即戦力となって活躍する人材になってくれると思う。」と中本総務部次長は笑顔で語る。また、これからの採用は、工業高校だけではなく、一般高校の卒業生も視野に入れ、「海が好き、船に興味がある」という若者たちと一緒に、世界トップクラスの技術力でさらなる高みを目指していくとしている。同社の「ものづくりへの継承」は続いていく。

(2)認定職業訓練に対する支援(10億61百万円)
事業主や事業主団体などが行う職業訓練のうち、教科、訓練期間、設備などについて厚生労働省令で定める基準に適合して行われているものは、申請により訓練基準に適合している旨の都道府県知事の認定を受けることができる。この認定を受けた職業訓練を、認定職業訓練という。中小企業主などが認定職業訓練を行い、国や都道府県が定める補助要件を満たす場合に、国及び都道府県からその訓練経費などの一部について補助を行った。
福岡畳高等職業訓練校は、1972 年に後継者育成と技能振興を目的として、福岡市周辺の畳業者有志により設立された。これまでに400 人以上が卒業し、卒業生は、県内外で活躍している。畳業界は、近年の住環境の変化に伴い、大きな曲がり角を迎えている。畳業者数は以前に比べ半減した。こうした状況下ではあるが、同校は後継者育成と資格取得を目指しつつ、かつ「畳文化」を大事に守りながら、「誠実・勤労・努力・礼儀・和」の校訓を掲げて運営をしている。訓練は、在職者を対象に3年間、週1日の授業により行われている。現在は、畳製作のほとんどが機械化されている中、実技の授業では、基礎を学ぶためにあえて手縫いを主体に学習している。また、い草の生産地研修、製畳機の展示会見学、他の専門訓練校との交流なども行い、夏休みには小学生を対象とした「お仕事体験学習」を開催して、畳の魅力を発信する活動を行っている。今年は、1年生2名、2年生5名、3年生3名の計10 名の訓練生が、畳業界の担い手となるべく、訓練に励んでいる。

(出典)経済産業省 2022年版ものづくり白書
 ・https://www.meti.go.jp/report/whitepaper/mono/2022/index.html

(つづく)Y.H