ISO審査員及びISO内部監査員に経済産業省の白書を参考に各種有用な情報をお届けします。

■世界的な供給制約の高まり(その2)

(人手不足の深刻化)
新型コロナウイルスの感染拡大は、労働市場にも多大な影響を与えており、多くの雇用が失われた。陸運における人手不足がサプライチェーンの供給制約につながっていたように、雇用の喪失や人手不足、それに伴う賃金上昇が、財生産やサービス提供の価格上昇や供給遅延に与える影響は大きい。

ここでは、こうした労働市場における雇用や失業の状況、そうした状況が及ぼす影響について見ていく。コロナ禍における雇用喪失が労働市場やサプライチェーンに与えた影響について、国際比較を行うために、日本、米国、EUそれぞれの指数化した従業者数を見ると、EUや米国における従業者数はコロナ禍前の水準に戻っているものの、日本では元の水準に戻っていないことが確認できる。次に、コロナショック後の欠員率について労働需要の回復状況と捉え得ることから、従業者数及び求人数を元に算出される欠員率を確認する。米国の欠員率は、コロナ禍前から日本、EUと比べて高く推移していたものの、コロナ禍での経済回復とともに上昇している。さらに、指数化した欠員率を見ると、米国では、2020年7月にコロナ禍前の水準に達した後、2021年1月以降大きく上昇している。また、EUについても2021年第2四半期以降にコロナ禍前の水準に達している。

一方で、日本では依然としてコロナ禍前の水準に戻っていないことが確認できる。米国やEUでは、経済回復によって労働需要が高まったものの、労働供給が追い付かず、人手不足が生じている一方で、日本ではコロナ禍からの経済回復に遅れがあり、労働需要不足の状況が続いている。そこで、米国及びEUについて、労働市場における人手不足が経済活動に与える影響について確認していく。米国において製造業や非製造業における仕入れ担当役員へのアンケート結果を指数化した景況指数である、ISM製造業・非製造業景況指数を見ると、製造業、非製造業ともにコロナショック後に強い回復をみせている。一方で、雇用指数については景況判断の分岐点となる50前後で推移しており、総合指数に対して低い水準で推移している。このことから、人手不足が景況全体の供給制約要因の一つとなっていることが確認できる。欧州について、製造業の生産制約要因を見ると、新型コロナウイルスの感染拡大当初は、需要の減少が主要な制約要因であったが、2022年3月現在、約半数の企業が設備や原材料を制約要因として挙げており、約4社に1社は労働力不足が生産の制約要因となっていることが確認できる。

(資源・エネルギー価格の上昇)
資源・エネルギーは、新型コロナウイルスの感染拡大や気候変動に伴う異常気象といった世界規模のショックや他の供給制約要因の動向によって価格変動や需給の状況が左右される財と言える。さらに、ロシアによるウクライナ侵略によって、世界経済の先行きの不透明さが増している中、ロシアやウクライナは一部の資源やエネルギーの主要な供給国であることから、世界全体での供給量に直接与える影響は大きい。

多様な要因によって影響を受ける資源・エネルギーの価格や需給は、家計や企業活動における光熱費やエネルギーの安定供給に直接影響するほか、財生産やサービス提供における投入コストの増加として間接的な影響を及ぼし、広範な財・サービスへのコストプッシュインフレの要因となり得る。このような状況下の資源・エネルギーの価格について、全体の価格の傾向を確認した上で、コモディティ別の価格動向や、各コモディティを取り巻く環境変化やその価格動向を見ていく。

資源・エネルギー全体の価格動向について、世銀が公表している資源・エネルギー価格指数を元にエネルギー、食料、肥料、金属・鉱物、貴金属の価格動向を確認していく。エネルギーの価格指数は、原油、天然ガス、石炭の価格に基づき算出されるが、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大を受けて、需要減への見込みから価格が急落するも、その後、経済活動の再開に合わせて価格が元に戻っている。その後、サプライチェーンの目詰まりや原油、天然ガス、石炭それぞれの需給ひっ迫を受けて価格が高騰している。さらに、ロシアによるウクライナ侵略を受けて、原油や天然ガスの需給ひっ迫の状況が悪化し、価格を押し上げている。

食料については、新型コロナウイルスの感染拡大による大きな価格変動はなかったものの、干ばつや洪水、寒波といった異常気象の影響を受けた生産量や質の低下が価格の押し上げ要因となったほか、エネルギーや肥料といった投入財の価格高騰もあいまって、食料価格の高騰を招いた。肥料については、肥料の原料となる鉱石や、製造プロセスに必要な材料の供給減に伴う価格高騰や、エネルギー価格の高騰により投入コストが上昇したことを受けて、全体の価格を押し上げている。金属・鉱物については、投入財価格の高騰を映じてコロナ禍で価格が上昇し、2021年中ごろより高止まりの状態が続いている。特に、原材料を製錬するにあたっては電力を多く消費するが、エネルギー価格が高騰した影響は大きい。

さらに、世界的な脱炭素に向けた動向を受けて、脱炭素に資する財の生産に必要となる、銅やニッケルといった金属への需要が高まり、需給ひっ迫を招き、価格高騰につながっている。貴金属は、コロナ禍における米ドルの実質実効為替レートの下落や、世界経済の先行き不安などを映じて、安全資産としての価値が高まっている。これらの資源・エネルギー価格の今後の見通しについて、世銀では毎年4月と10月に翌年の価格指数の予測値を公表しており、併せて、前回予測値からの変化についても示している。2021年におけるエネルギー、食料、肥料、金属・鉱物の価格指数は、2020年に比べて大幅に上昇している。今後は、2022年をピークとして2023年には価格が下落するも、2021年を越える高い水準が見込まれる。また、エネルギーや肥料については、今後の価格予測を2021年10月から大きく上方修正している。さらに、肥料については、2022年のみならず、2023年における価格予測も大幅に上方修正していることが確認できる。こうした資源・エネルギー価格全体の状況を踏まえた上で、個別のコモディティの価格動向について見ていく。

(1)エネルギー
エネルギーは本項冒頭で示したように多様な要因によって価格や需給が変化するが、エネルギーの価格高騰や需給ひっ迫が、家庭における光熱費やエネルギーの安定供給に与える影響は大きい。また、エネルギーは後述する食料、肥料、鉱物・金属を含めた財生産の投入財としても必要不可欠であり、価格高騰や需給ひっ迫は財・サービスの供給制約に直結していく。ここでは、主要なエネルギー価格の動向として、原油、天然ガス、石炭の価格動向について確認していく。

①原油価格
原油価格は、需給状況や米ドルの為替レート、投機資金の動向といった様々な要因によって変動するが、2000年以降、2019年以降における原油価格の推移は以下の通りとなっている。2020年1月から4月にかけて、新型コロナウイルスの感染が拡大したことで、世界各地でのロックダウン等により石油需要が減少し、価格は急落した。その後、2020年11月から現在にかけて価格の高騰が続いている。背景としては、世界的に経済回復する中で、石油需要の回復への期待が高まっていることやハリケーン・アイダの来襲により沖合油田での生産停止による需給引き締まりへの懸念の高まりがあること、欧州やアジアにおける天然ガス、石炭価格の高騰によって、代替燃料として石油需要が高まっていること、石油需給が引き締まり価格が高騰する中においても、OPECプラス産油国が減産措置の縮小に対して慎重であることなどが挙げられる。

2022年2月には、ロシアによるウクライナ侵略が開始され、石油の一日当たり生産量が世界第3位であるロシアによる原油輸出が滞ることへの懸念から原油価格が高騰し、WTI原油先物価格が2022年3月6日には一時1バレルあたり130ドルを超えて2008年7年以来の高値となっている。その後、価格は下落するも、100ドルを超える高値で推移している。

②天然ガス
天然ガスは、2021年春以降、価格高騰が続いている。米国は自国内で生産が可能であり、自給率も高いことから安定かつ低価格で推移している。我が国では、液化天然ガスを長期契約で調達していることから、価格の推移は安定的であるものの、輸送コストを含めて、米国や欧州、アジアにおける価格と比べても高い価格となっている。

2021年に入り、欧州やアジアにおけるスポット市場が急騰しており、国際価格の高まりを受けて、日本の平均輸入価格についても上昇傾向にある。欧州における天然ガスの価格高騰の背景としては、2021年11月、ドイツのエネルギー規制当局が、ロシアから欧州へのパイプラインであるノルドストリーム2の管理会社に関して、独立性に修正が必要であるとして認可手続きを一時停止したことにより、価格が2割程度上昇した。また、2021年1月には、欧州炭素排出権 EU-ETS(EU Emissions Trading System:EU域内排出量取引制度)価格が上昇したため、石炭から天然ガスへと発電用燃料の転換が促進されて、天然ガスの需要増加が後押しされた。その他、2021年当初、北東アジアへの寒波来襲によって世界のスポットLNGの大半が、日本、中国、韓国によって調達されたことで、欧州はLNGを輸入できず、貯蔵在庫を使用することとなったが、欧州北西部では気温が例年より5度程度低い時期に需要が増加したことにより、天然ガスの貯蔵ができない状況が続いたことも価格の押し上げ要因となっている。

2022年年明けには暖房需要が一服し一時ピークアウトするも、足下ではウクライナ情勢を受けて、ロシアからの供給に対する不安が広がり乱高下が続いている。欧州では、調達している天然ガスの8割程度がスポット価格で構成されていることから、日々のエネルギー価格の変動が電力・ガス価格にも大きく影響を及ぼすため、各国で混乱が生じている。その上、脱炭素に向けて再生可能エネルギーへのシフトが急速に進められており、火力発電への投資の縮小や廃止の動きも同時に起きている。ポルトガルやスペインは、再生可能エネルギーの中でも太陽光や風力による発電の割合が高い上、石炭や石油による割合が小さく、バックアップ電源として天然ガスを利用する必要があったが、天候不順により日照時間や風量が十分に得られない時期が続いたため、エネルギー需給のひっ迫に見舞われた。

③石炭
石炭は、2021年初から価格の上昇傾向が続いている。背景としては、世界的な脱炭素の流れの中での石炭開発への投資等の低迷、炭鉱における事故や自然災害による炭鉱の操業停止、豪州と中国の対立の高まりに伴い、中国が豪州産石炭の輸入を削減し、中国が他の産炭国からの調達を活発化させたことによる輸送面の混乱などが挙げられる。また、世界最大の石炭輸出国であるインドネシアでは、国内供給義務(DMO)に違反して海外への供給を進めた企業の増加によって、インドネシア国内における石炭火力発電所で使用する石炭の在庫が不足した。これを受けて、インドネシアは2022年1月に石炭輸出を一時停止した。DMOを遵守する企業は輸出を再開しているものの、需給ひっ迫によって石炭価格が押し上げられている。さらに、2022年2月に開始されたロシアによるウクライナ侵略を受けて、欧州ではロシアからのパイプラインを通じた天然ガスへの依存から脱却する動きがある。石炭は、ロシアによるウクライナ侵略前から価格が高騰していた天然ガスの代替資源として需要が高まっており、ロシア産の石炭価格が押し上げられてきた。しかし、現下の情勢を踏まえて、ロシア産の石炭への依存から脱却する動きから他国の石炭価格の上昇を招いている。

(つづく)Y.H

(出典)経済産業省 通商白書2022
https://www.meti.go.jp/report/tsuhaku2022/index.html