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■中国経済の動向
1.経済回復の動向
中国は、2020年に新型コロナウイルスの影響からいち早く回復し、主要国で唯一プラスの経済成長を達成した。続く2021年の中国経済の特色は、前年の反動もあって、年初に高い成長率を実現したが、年央から洪水、感染再拡大、電力不足、半導体不足、不動産規制、資源高等の様々な要因から3四半期連続で減速が続いた点にある。
2022年も、ゼロコロナ政策に伴う感染再拡大や不動産規制に伴う不動産市場の低迷が継続しているほか、上海等の大都市の厳しい防疫措置の長期化や、2月のロシアによるウクライナ侵略の影響により資源価格の高騰やサプライチェーンの混乱が一段と高まったことが要因となって、今後の中国経済の先行きは減速が続いていく可能性が高い。ここでは、これまでの経過を主要な統計で追いながら見ていく。
(1)GDP
2021年の実質GDP成長率は8.1%と、政府目標の「6%以上」を達成し、コロナショックで落ち込んだ前年の反動もあって、新型コロナウイルスの感染拡大前の2019年よりも加速し、2019年からの2年間の年平均成長率は5.1%となった。もっとも、四半期別成長率の推移を見ると、年初は昨年の反動から高成長となったが、年央から洪水、感染再拡大、電力不足、半導体不足、不動産規制、資源高等の様々な要因があり、3四半期連続で減速が続いた。2022年第1四半期は、小幅ながら4四半期ぶりに伸び率が加速した。産業別で見ると、各産業とも年初の成長率が高く、年末になるほど減速している。特に建設業、不動産業は、年後半にマイナスに転じている。
背景としては、後で見るように不動産投機を警戒する政府の規制で不動産開発が減速したことや地方政府の財政難からインフラ投資が低調であったことなどが影響していると考えられる。また、製造業の減速も顕著で、不動産の減速が建設資材など関連する業種に影響しているほか、環境・エネルギー制約からセメント、鉄鋼などのエネルギー多消費産業の鈍化、半導体不足、洪水、資源高など様々な要因がかみ合った結果と考えられる。それに対して、情報通信・情報技術サービスは、新型コロナウイルスによって加速されたデジタル化や在宅需要に後押しされて、一貫して2桁台の高い伸びを維持した。
2022年第1四半期は、3月から国内で感染症が拡大して、感染症の影響を受けやすい運輸業、卸小売業、宿泊・飲食業などが減速する一方で、金融緩和やインフラ投資など政府の景気支援策を受けて、製造業が加速し、建設業はプラスに転じた。需要項目別寄与度の推移を見ると、建設、不動産、製造業の減速を反映して、2021年の第4四半期は総資本形成の寄与度がマイナスに転じ、最終消費も寄与が縮小する一方で、相対的に堅調な純輸出が成長を支えた。2022年の第1四半期は、最終消費の寄与はほぼ横ばいだったが、総資本形成の寄与度がプラスに転じたことが全体を引き上げた。中国の実質GDP準を試算すると、新型コロナが発見された2020年第1四半期に大きく落ち込んだものの、その後、ほぼGDP水準が回復して推移している。
(2)工業生産
ここからは主要な月次統計を参照しながら経過を確認する。まず、2021年の主要指標の動向を横断的に俯瞰してみる。各指標に共通していえることとして、2020年の落ち込みの反動から、年初に高い伸び率が記録され、反動増の剥落もあって次第に伸びが鈍化していく傾向が見られる。反動増の影響を除外するため、コロナショック前の2019年同月からの2年間の平均成長率の推移を見てみると、比較的安定した動きをしているが、工業生産、固定資産投資が年後半に鈍化している傾向は、ほぼ同じように観察される。
小売売上高は感染症再拡大の影響を受けて伸び率が不規則に上下している。一方、輸出入はおおむね後半にかけて加速している。工業生産、固定資産投資、小売売上高は相対的に低い伸びにとどまっているのに対して、輸出入は相対的に高い伸びで推移している。2022年に入ってからは、政府の景気支援策の結果、1-2月の工業生産、固定資産投資、小売売上高は加速の動きが見られるが、3月から国内における感染症拡大に伴う規制のため減速に向かっている。特に感染症の影響を受けやすい小売売上高は3月にマイナスに転じている。これら指標の詳細を見ていく。まず、工業生産は、2021年暦年合計で9.6%と2桁近い伸びを記録し、反動増の影響を除外するため2019年からの年平均伸び率で見ても6.1%と2019年実績の5.7%を上回ったが、月次の推移を見ると次第に減速してきている様子がうかがえる。特に全国的に電力不足が問題となった9月は落ち込んでおり、その後は電力不足が解消されつつあるも緩やかな回復にとどまっている。
2019年からの年平均伸び率で見ても同じ傾向が見てとれる。2022年に入ると、政府の景気支援策を受けて1-2月は加速するが、3月半ばから、感染症の拡大のため、長春、深圳、上海等が次々に事実上の都市封鎖となり、物流が混乱したほか、労働者が出勤できず工場の稼働率低下などが見られた。業種別には、コロナ禍で需要が高まっている医薬品、電子・通信機器が年間を通じて高い伸びを示す一方、暦年合計では反動増から高い伸びとなったものの、月次では減速が目立つ業種も多い。例えば、環境・エネルギー制約から、電力消費の多いセメントなど窯業土石、鉄鋼、非鉄金属は減速しており、半導体不足から自動車は年後半にマイナスに転じた。
(3)固定資産投資
固定資産投資は、2021年に4.9%の伸びで、反動増から2020年よりも加速した。一方、月次の推移を見ると、年初から次第に伸びの鈍化が続いており、反動増の剥落のほか、不動産規制、洪水、感染再拡大、電力不足、半導体不足等の影響が指摘されている。2019年からの2年間平均伸び率を見ると、年前半は加速していたが、後半から減速に転じた。業種別には、2021年は、電子・通信機器のほか、医薬品、衛生・社会サービスなど医療関係が高い伸びとなる一方で、半導体不足のため自動車はマイナスとなったほか、地方政府の財政難からインフラも低い伸びにとどまった。特に恒大問題に代表されるように、政府の不動産規制から年後半から不動産開発が減速に転じたが、この点については構造問題のところで詳しく述べる。2022年に入ると、1-2月は政府の景気支援策を受けたインフラ投資を中心に大きく加速したが、3月は感染症拡大の影響で減速した。
(4)小売売上高
小売売上高は、2021年に12.5%と高い伸びとなったが、これは、2020年の落ち込みの反動が大きいと考えられる。このため2019年からの年平均伸び率は3.9%と低い伸びにとどまっている。中国国内においてしばしば感染の再拡大があり、飲食業を始めとする小売売上高は不安定な推移をしている。品目別には、通信機器が2台の伸びを維持したほか、燃料など石油製品が価格上昇から金額ベースで高い伸びとなった。一方、自動車は半導体不足で年後半はマイナスが続いた。飲食の提供は反動のため年計で高い伸びとなったが、年後半は感染再拡大のため、低い伸びにとどまったのに対し、ネット販売は2桁台の堅調な伸びを維持した。2021年に入ってから、1-2月は伸びが加速したが、3月に感染症拡大の影響で伸びがマイナスに転じた。
(5)貿易
貿易は、2021年に、輸出が+29.9%、輸入が+30.0%と大幅に拡大した。金額ベースでは輸出、輸入、貿易黒字とも過去最高を記録し、貿易総額(輸出+輸入)は初めて6兆ドルを超えた。輸出については、コロナ後、主要国の景気刺激策に伴う海外需要の拡大、輸入については、資源・エネルギーの価格上昇の影響等が指摘されている。月次の推移を見ると前年からの反動増によって年初の伸びが高かったものの、次第に鈍化している。
もっとも、反動増剥落の要因を調整するため、2019年からの年平均伸び率を見ると、輸出は年後半にむしろ加速しており、輸入も伸びが高止まりして推移している。2022年に入ってからは、輸出入とも鈍化しているが、特に3月の輸入はマイナスに転じた。国内の感染症に伴う規制を背景に通関手続きや港湾関係の物流の混乱が影響している。主要国・地域別に見ると、2021年は、主要相手国・地域とは輸出、輸入とも軒並み2桁台の高い伸びを記録した。貿易摩擦を抱える米国とは、輸出入とも約3割増となったが、輸入の伸びの方が上回ったものの、もともとの金額に大きな開きがあったことから、貿易黒字は前年よりも拡大した。主要品目別には、輸出でマスクを含む繊維製品(▲5.6%)が需要一巡のためマイナスとなったほかは、輸出入ともほとんどの主要品目が2桁台の高い伸びとなった。特に輸入において、供給制約から、原油、天然ガス等の資源関係が金額ベースで大きく伸びた。
(6)物価
中国の物価は、2021年は、消費者物価と生産者物価の動向に大きな乖離が見られた。消費者物価については、雇用や所得の回復が緩やかであったことから、2021年は+0.9%と、2009年(▲0.7%)以来12年ぶりの低い伸びにとどまり、政府目標の「3%前後」を大きく下回った。一方、生産者物価は国際資源価格の高騰を受けて、+8.1%と1995年 (+14.9%)以来、26年ぶりの高水準となった。主要業種別の生産者物価は、石炭、石油、天然ガス、鉄鋼、非鉄金属など上流の原材料関係が高止まりし、消費者に近い下流の食品、衣類などは、価格が下落したか、上昇しても低い伸びにとどまっている。このため、原材料高にさらされながら、価格転嫁できない体力の弱い企業の採算悪化が見られた。2022年に入ってからも、ウクライナ情勢等を受けた国際資源価格の高騰のため、生産者物価の高止まりが続いている。
(7)雇用及び所得水準
都市部調査失業率は、2021年に、年平均5.1%と、2020年(5.6%)より低く、政府目標(5.5%前後)を達成した。もっとも、年間の推移を見ると、例年であれば失業率が低下する秋頃から年末にかけてむしろ上昇しており、年後半は厳しい雇用環境にあった可能性がある。また、都市部新規就業者数も2021年は1,269万人と、政府目標(1,100万人)は達成したが、2019年の水準(1,352万人)には及ばなかった。さらに各月単月の前年同月比を試算してみると、年後半から急速に悪化しており、12月は前年同月の3割減となった。このように雇用は回復しつつあるも、コロナショック前の水準を取り戻せていないうちに、年後半から悪化の兆しがうかがえる。2022年に入ると、感染症拡大による都市封鎖が広がった3月に失業率や都市部新規就業者数の悪化が見られる。一人当たり可処分所得の伸びも、名目、実質とも2021年は、2020年を上回ったが、2019年からの平均伸び率は2019年から比べれば鈍化している。
(8)新型コロナウイルス感染状況
中国は、度々感染の再拡大に見舞われている。中国は「ゼロ・コロナ」を方針に掲げ、感染者数の水準は比較的小規模に押さえているものの、都市封鎖(ロックダウン)の影響で、生産や消費の停滞につながっている。また、2022年3月から新規感染者数が急速に拡大して、上海市、広東省の深圳市、吉林省省都の長春市などで事実上のロックダウンが見られた。
(つづく)Y.H
(出典)経済産業省 通商白書2022
https://www.meti.go.jp/report/tsuhaku2022/index.html