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■日本の貿易投資動向

前回は世界の貿易投資動向を見てきたが、ここでは我が国の貿易投資動向を概観する。
(日本の貿易動向)
2021年の日本の財貿易は、輸出額が83兆914億円と2020年から21.5%増加、輸入額が84兆7,607億円と2020年から24.6%増加した。新型コロナウイルス流行前の2019年と比べて輸出入とも金額ベースで上回っており回復の動きが見られる。鉱物性燃料等の資源価格の高騰を背景に輸入の増加が輸出の増加を上回り、貿易収支で見ると▲1兆6,694億円と2年ぶりの赤字に転じた。

①品目別の貿易動向
(輸出)
2021年の輸出の品目構成を見ると、輸送用機器が輸出全体の19.5%、一般機械が19.7%、電気機器が18.4%と機械関係の上位3品目で約6割を占めている。輸出の月別推移を見ると、新型コロナウイルスの影響で大きく落ち込んだ2020年半ばから次第に回復してきている。また、品目別に見ると電気機器、一般機械が回復傾向にある。輸送用機器は、新型コロナウイルス流行前と比較すると、世界的な部品調達難による自動車の減産の影響で、2019年の水準をおおむね下回って推移したものの、2020年よりは回復傾向にあることが分かる。電気機器や一般機械は、おおむね感染拡大前の水準を上回っており、また、2020年よりも高い水準での推移を維持している。

(輸入)
2021年の輸入の品目構成を見ると、鉱物性燃料が輸入全体の20.0%、次いで電気機器が16.1%を占めている。輸出と異なり、輸入の特徴として、鉱物性燃料(原粗油や天然ガス等)、食料品(肉類等)、原料品(非鉄金属鉱や鉄鉱石等)等の資源・食料の割合が高いことが挙げられる。また、機械関係でも、半導体等電子部品など中間財もあるが、新型コロナウイルス感染拡大を受けたテレワーク需要等により、通信機、電算機類(パソコン)など最終財の輸入が多い点も特徴である。輸入の月別推移を見ると、2020年半ばから次第に回復してきている。品目別に見ると、鉱物性燃料は、資源価格の高騰等を背景に年後半にかけて新型コロナウイルス流行前を上回る水準となった。新型コロナウイルスのワクチン需要の増加の影響により、医薬品が金額ベースで約4割を占める化学製品も、年間を通して感染拡大前を大きく上回る水準で推移している。その他に、電気機器や一般機器も、2020年の落ち込みから回復し、感染拡大前とほぼ同程度の水準まで回復したことが分かる。

②国・地域別の貿易動向
2021年の輸出の相手国・地域別構成を見ると、中国、米国、ASEAN、EUが輸出入ともに上位4か国・地域に入り、その合計は世界全体の約6割を占める。また、地域としては、中国、ASEANに台湾、韓国等を含めたアジアが輸出では世界全体の約6割、輸入では約5割を占め、貿易相手として重要であることが分かる。2021年の国・地域別に貿易動向を概観する。まず、輸出入について、国・地域別に伸び率を見ると、いずれの国・地域も2020年に感染症の影響を受け落ち込んだ反動により、2021年はプラスの伸び率となった。特に、中国を始めとするアジアの国・地域の輸出の伸び率は20%前後の高い伸び率となった。また、鉱物性燃料の価格高騰の影響を受け、中東からの輸入は52.4%増加と大きく伸びた。輸出相手国・地域別に月次の推移を見ると、中国と米国については、新型コロナウイルス流行の影響で落ち込んだ2020年から回復し、年間を通して感染拡大前の2019年とほぼ同程度の水準で推移している。EUは、年初、2020年よりは回復しているものの、年間を通して感染拡大前の2019年の水準を下回っており、半導体不足の影響による自動車輸出の減少を背景に、回復が遅れたことが分かる。輸入については、中国、米国、EUのいずれも2020年の落ち込みから回復し、また、2019年をほぼ上回る水準で推移している。

③経常収支の動向
2021年の日本の経常収支は15兆4,359億円の黒字だった。第一次所得収支、貿易収支が黒字となる一方で、サービス収支、第二次所得収支の赤字が続いた。黒字幅は前年と比べて4,431億円(2.8%)の縮小となった。黒字幅が縮小した要因は、第一次所得収支の黒字幅が拡大した一方で、半導体不足による自動車輸出の減少と原油価格の高騰を背景に貿易収支の黒字幅が縮小したことが挙げられる。旅行収支の黒字幅縮小のため、サービス収支の赤字幅が拡大したことも影響した。経常収支の月別推移では、8月以降、貿易収支が赤字に転じたことで、経常収支の黒字は減少している。我が国の経常収支は、近年、貿易収支とサービス収支の縮小が主因となって黒字幅が縮小傾向にある。電気や素材産業等の輸出産業の競争力低下といった構造的要因に加えて、足下では、原油等の資源高騰やワクチン等の医薬品の輸入増加が貿易収支を押し下げ、インバウンドの大幅減少等がサービス収支の赤字を拡大することで、大きな下方圧力となっている。こうした経常収支のマイナス要因について対応を検討していくことは重要である。

(日本の対外直接投資)
日本の対外直接投資、特に後のパートで分析する日本のグローバルバリューチェーンに係る日系製造業の対外直接投資の動向を確認する。まず、日本の地域別直接投資残高を見ると、2000年代、欧米が緩やかな増加に留まる中で、アジア地域が堅調に拡大して、製造業においてアジアが最も大きなシェアを占めるに至っている。ここから、日系製造業のアジア展開に焦点を置いて見ていく。そのアジアの中での国・地域別推移を見ると、「世界の工場」と呼ばれる中国が金額ベースで突出して拡大しており、第二位にはタイが続いている。

アジアの中では、中国、タイの存在が大きく、第三位のシンガポール以下を大きく引き離している。一方、日本の直接投資残高総額に占めるシェアで相対的なプレゼンスを見ると、既に中国は2012年をピークに低下に転じており、これに対して、タイ、インド、ベトナムは上昇が続いている。なお、シンガポール、韓国、インドネシアはほぼ横ばいで推移している。主要国の中国向け直接投資残高(製造業分野)のシェアの推移を見ると、日本が2012年をピークに低下に転じているが、米国も米中貿易摩擦の高まりの中で2018年をピークに頭打ちの動きが見られる。一方、EUは、近年、むしろ拡大の方向に動いている。アジアにおける業種別の直接投資残高の動向を見ると、金額ベースで輸送機械が大きく拡大しており、それに電気機械が続いている。その他には、一般機械や化学など、機械、素材関係が多く、繊維や食品など軽工業は少ない。各業種の世界全体におけるアジアのシェアを見ると、アジアは製造業において約4割のシェアを占めており、特に輸送機械におけるアジアのシェアが上昇してきている。

業種・国のマトリクスで対外直接投資残高の推移を見ると、労働集約的な繊維業では、人件費の上昇とともに中国のシェアが低下して、タイ、ベトナムが上昇している。電気機械では、中国、タイが上昇してきたが近年は頭打ちの兆しがある。まだ水準が低いものの、インド、ベトナムが上昇している。輸送機械では、中国、タイ、インドネシアのシェアが高いが、インドが急速にシェアを拡大してきている。さらに国・業種のマトリクスで整理し直したのが図である。最も直接投資残高の多い中国は、各業種において高いシェアを持つが、人件費の上昇とともに繊維におけるシェアが低下してきており、一般機械、電気機械など機械関係におけるシェアも頭打ちの傾向が見られる。次に残高の多いタイは、輸送機械における存在感が高かったが、近年は電気機械や鉄鋼・非鉄金属におけるシェアも上昇してきている。インドネシアは、繊維、木材など軽工業におけるシェアが低下する一方で、輸送機械、鉄鋼・非鉄金属においてシェアが高まっている。ベトナムは、まだ投資残高は低いものの、製造業全体で増加基調にあり、特に繊維におけるシェア拡大が著しく、併せて近年は電気機械におけるシェアも上昇している。インドの場合は、輸送機械におけるシェアが突出して拡大している。ここまで見てきたように、日本の製造業の対外直接投資は、中国やタイなどアジアを中心に、輸送機械、電気機械などの機械、化学、鉄鋼・非鉄金属などの素材関係の生産拠点を建設してきた。後で見るように、日本とこれら生産拠点間を結ぶサプライチェーンが構築されたが、人件費の上昇などの経済的要因や米中摩擦を契機とする地政学的リスクが高まる中で、中国への投資の集中を緩和し、タイ、インド、ベトナム等へ投資が分散する動きが見られる。

(つづく)Y.H

(出典)経済産業省 通商白書2022
https://www.meti.go.jp/report/tsuhaku2022/index.html