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■地域的な包括的経済連携協定
(RCEP(アールセップ):Regional Comprehensive Economic Partnership)協定)
(2022年1月1日発効)
RCEP協定は、世界のGDP、貿易総額及び人口の約3割、我が国の貿易総額の約5割を占める広域経済圏を創設するものであり、地域の貿易・投資の促進及びサプライチェーンの効率化・強靭化に向けて、市場アクセスを改善し、発展段階や制度の異なる多様な国々間で知的財産、電子商取引等の幅広い分野のルールを整備するものである。東アジア地域では、既に高度なサプライチェーンが構築されているが、この地域内における更なる貿易・投資の自由化は、地域経済統合の拡大・深化に重要な役割を果たす。
この地域全体を覆う広域EPAの実現により、企業は最適な生産配分・立地戦略を実現した効率的な生産ネットワークを構築することが可能となり、東アジア地域における産業の国際競争力の強化につながることが期待される。また、ルールの統一化や手続の簡素化によってEPAを活用する企業の負担軽減が図られる。2012年11月のASEAN関連首脳会議において、「RCEP交渉の基本方針及び目的」が16か国(ASEAN10か国及び日本、中国、韓国、インド、豪州、ニュージーランド)の首脳によって承認され、RCEPの交渉立ち上げが宣言された。基本方針には、「現代的な、包括的な、質の高い、かつ、互恵的な経済連携協定」を達成すること、物品・サービス・投資以外に、知的財産・競争・経済技術協力・紛争解決を交渉分野とすること、が盛り込まれている。
第1回RCEP交渉会合は、2013年5月にブルネイで開催され、高級実務者による全体会合に加えて物品貿易、サービス貿易及び投資に関する各作業部会が開催された。第1回交渉会合が開催されて以降、3回の首脳会議、19回の閣僚会合及び31回の交渉会合の開催を経て、2020年11月15日の第4回RCEP首脳会議の機会に署名に至った。インドは、交渉立ち上げ宣言以来、2019年11月の第3回RCEP首脳会議に至るまで7年間にわたり、交渉に参加してきたが、その後交渉への参加を見送った。我が国を始め、各国はその戦略的重要性から、インドの復帰を働きかけたが、2020年の署名は、インドを除く15か国となった。しかしながら、RCEP協定署名の際、RCEP協定署名国は、RCEP協定がインドに対して開かれていることを明確化する「インドのRCEPへの参加に係る閣僚宣言」を発出し、インドの将来的な加入円滑化や関連会合へのオブザーバー参加容認等を定めた。署名後、各国の国内手続を経て、2022年1月1日より、日本、オーストラリア、ブルネイ、カンボジア、中国、ラオス、ニュージーランド、シンガポール、タイ、ベトナムの10カ国についてRCEP協定が発効し、続いて、韓国(同年2月1日)、マレーシア(同年3月18日)についても発効した。
(環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(CPTPP))
(2018年12月30日発効)
我が国は、環太平洋パートナーシップ協定(以下、TPP協定)に関し、2013年3月に参加を表明、同年7月から豪州、ブルネイ、カナダ、チリ、マレーシア、メキシコ、ニュージーランド、シンガポール、ペルー、米国、ベトナムの11か国との交渉に参加した。その後の交渉を経て、2015年10月に米国アトランタで大筋合意に至り、2016年2月4日に署名がなされた。日本国内においては、2016年12月9日に、TPP協定が国会で承認されるとともに、関連法案が可決・成立した。その後、2017年1月20日、TPP協定原署名国12か国の中で最も早く国内手続完了の通報を協定の寄託国であるニュージーランドに対して行った。一方、米国は、2017年1月30日に、TPP協定の締約国になる意図がないことを通知する書簡を協定の寄託国であるニュージーランド及びTPP協定署名各国に対して発出した。
2017年1月に米国がTPPからの離脱を参加各国に通告した後、米国以外の11か国の間で協定の早期発効を目指して協議が行われた。その結果、同年3月や5月の閣僚会合等を経て、同年11月9日ダナンでの閣僚会合で大筋合意に至り、2018年3月8日に環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(以下、CPTPP)が、チリにて署名。その後、メキシコ、日本、シンガポール、ニュージーランド、カナダ、オーストラリアが国内手続を完了させ、2018年12月30日これら6か国間で発効。その後、2019年1月14日にはベトナムを加えた7か国間で、2021年9月19日にはペルーを加えた8か国間で効力を生じた。CPTPPの発効によって、モノの関税だけでなく、サービス、投資の自由化を進め、さらには知的財産、電子商取引、国有企業、環境など、幅広い分野で21世紀型のルールを、アジア太平洋に構築し、自由で公正な巨大市場を作り出すことが期待される。
2019年1月19日には東京で第1回TPP委員会が閣僚級で開催され、新規加入に関する手続等が決定された。2019年10月7-9日には、ニュージーランド・オークランドにて、第2回TPP委員会が開催され、委員会では、①TPP委員会の手続規則、②紛争処理のパネル議長登録簿に関する決定文書が採択された。併せて、物品貿易・衛生植物検疫(SPS)・中小企業・競争力及びビジネス円滑化等の12の小委員会等が開催された。2020年8月6日には、テレビ会議形式で、第3回TPP委員会が開催。委員会では、コロナ危機からの経済回復が議論の焦点となる中で、CPTPPを通じた自由貿易の推進が重要であることについて確認するとともに、特にサプライチェーンの強靭化やデジタル化に向けたCPTPPの活用に関する意見交換を行った。また、物品貿易、SPS、貿易の技術的障害(TBT)など15の小委員会等が開催され、各国専門家の間で議論がなされた。2021年2月1日、英国が寄託国であるニュージーランドに対して加入要請を通報した。我が国は、2021年のTPP委員会の議長国として、ハイスタンダードかつバランスのとれたCPTPPの進化及び拡大に向けて議論をリードしていく旨表明している。
2021年6月2日、テレビ会議形式で第4回TPP委員会を開催し、英国の加入手続の開始及び英国の加入に関する作業部会(議長:日本、副議長:豪州及びシンガポール)の設置を決定した。2021年7月20日、ペルーが寄託国であるニュージーランドに対し、国内手続を完了した旨を通報し、9月19日に8番目の締約国となった。2021年9月1日、テレビ会議形式で第5回TPP委員会を開催し、電子商取引商委員会の設置が決定された。2021年9月16日に中国が、9月22日に台湾が、12月17日にエクアドルが、寄託国であるニュージーランドに対して加入要請を通報した。我が国としては、加入関心を持つエコノミーが本協定の全ての義務を遵守できるのかどうか、しっかり見極め、戦略的観点も踏まえて他のCPTPP参加国とも議論して対応する旨表明している。2021年9月2829日以降、第1回英国加入作業部会が開催され、英国からCPTPPの義務の遵守について説明を聴取した。2022年2月18日に同加入作業部会を終了し、市場アクセス交渉を開始すべく、同加入作業部会の議長国である日本から、英国に市場アクセスオファーの提出を指示した。
(日EU経済連携協定(日EU・EPA))
(2019年2月1日発効)
アジア太平洋地域以外の主要国・地域との取組として、EUとのEPA交渉が挙げられる。我が国とEUは、世界人口の約1割、貿易額の約4割、GDPの約3割(発効時)を占める重要な経済的パートナーであり、日EU・EPAは、日EU間の貿易投資を拡大し、我が国の経済成長をもたらすとともに、世界の貿易・投資のルール作りの先導役を果たすものといえる。
EUは、近隣諸国や旧植民地国を中心としてFTAを締結してきたが、2000年代に入り、韓国等の潜在的市場規模や貿易障壁のある国とのFTAを重視するようになった。さらに、2016年10月には先進国であるカナダとの包括的経済・貿易協定(CETA:the Comprehensive Economic and Trade Agreement)に署名した。また、南米南部共同市場(メルコスール)との貿易協定(EU-Mercosur Trade Agreement)は、2019年6月28日、政治合意に至っている。日EU・EPAについては、2013年3月に行われた日EU首脳電話会談において、日EU・EPA及び戦略的パートナーシップ協定(SPA)の交渉開始に合意し、2017年4月までに計18回の交渉会合が開催された後、同年7月に大枠合意、同年12月には、安倍内閣総理大臣とユンカー欧州委員会委員長が電話会談を実施し、交渉妥結に達したことを確認した。
その後、2018年7月17日に署名、同年12月21日に日EU双方は本協定発効のための国内手続を完了した旨を相互に通告し、2019年2月1日に発効した。2021年2月にはテレビ会議形式で日EU・EPA合同委員会第2回会合が開催され、日EU・EPAのこれまでの運用状況の確認や、日EU間の貿易を一層促進するための今後の取組等に関する議論を行った。加えて、データの自由な流通に関する規定を日EU・EPAに含める必要性を再評価すべく、予備的協議を行うことで一致した。また、2021年3月までに物品貿易や政府調達、サービス貿易、投資の自由化及び電子商取引等12分野の第2回専門委員会・作業部会を実施した。2021年7月にストックテイク会合を行い、双方の問題意識を明確にした上で、同年10月以降に各専門委員会・作業部会の議論を開催し、各分野について具体的な議論を行った。各専門委員会・作業部会での議論を踏まえて2022年3月に第3回日EU・EPA合同委員会を開催し、データの自由な流通に関する協議を継続することで一致した。
(日英包括的経済連携協定(日英EPA))
(2021年1月1日発効)
英国のEU離脱に伴う移行期間が2020年12月31日に終了し、2021年1月から日EU・EPAが英国に適用されなくなることを踏まえ、我が国は日本企業のビジネス継続性を確保することを目的として2020年6月9日に日英EPA交渉を開始し、英国との日EU・EPAに代わる新たな経済連携の枠組みの構築を目指した。
コロナウイルスによる影響により交渉の殆どがオンライン会議にて実施され、同年9月に大筋合意、同年10月23日には、茂木外務大臣(当時)とトラス国際貿易大臣(当時)により署名が行われた。その後両国国会での国内手続を終え、翌2021年1月1日に発効した。
英国にとって日英EPAは、英国のEU離脱後、主要先進国との間で締結されたEPAとなった。日英EPAでは日EU・EPAの高い水準の関税撤廃率を維持しつつ、鉄道車両・自動車部品等の一部品目において英国市場へのアクセスを改善したほか、ルール面においても電子商取引・金融サービス等の一部の分野で日EU・EPAよりも先進的かつハイレベルなルールを規定した。2021年10月以降、英国のEU離脱後の日英EPAの運用状況の確認や、日英間の貿易を一層促進するための今後の取組などに関して、日英の各専門委員会・作業部会にて意見交換・議論を行った。これらの結果を踏まえ、2022年2月に日英EPA合同委員会第1回会合を開催し、日英間で、デジタル貿易や気候変動等の分野で日英間の連携を更に強化していくことを確認した。
(日ASEAN包括的経済連携(AJCEP)協定)
ASEAN全加盟国とのEPAである日・ASEAN包括的経済連携(AJCEP)協定は、2004年11月の首脳間での合意に基づき2005年4月より交渉を開始し、2008年4月14日に各国持ち回りでの署名を完了し、2008年12月から締約国との間で順次発効している。
2010年10月より交渉が行われていたAJCEP協定のサービス貿易・投資等に係る改正議定書については3年にわたる交渉を経てルール部分について実質合意に至り、2013年12月の日・ASEAN特別首脳会議において同成果は各国首脳に歓迎された。その後、残された技術的論点の調整等を実施した結果、2017年11月の日ASEAN非公式経済大臣会合において、AJCEP協定のサービス貿易・投資等に係る改正議定書についても、閣僚レベルの交渉終結に合意。2019年2~4月に持ち回りでの署名を実施。2020年8月1日に、既に国内手続が完了していた日本、ラオス、ミャンマー、シンガポール、タイ及びベトナムとの間で発効。次いで国内手続を完了したブルネイとの間で10月1日に、2021年に入りカンボジア、フィリピン、マレーシアとの間でも発効。2022年2月1日にインドネシアとの間で発効し、全締約国で改正議定書が発効。
(つづく)Y.H
(出典)経済産業省 通商白書2022
https://www.meti.go.jp/report/tsuhaku2022/index.html