ISO審査員及びISO内部監査員に文部科学省の白書を参考に各種有用な情報をお届けします。

■新型コロナウイルス感染症の克服に向けた取組

(新型コロナウイルス感染症への対応)
政府は、新型コロナウイルス感染症への対策は危機管理上重大な課題であるとの認識の下、令和2年3月26日に「新型インフルエンザ等対策特別措置法」(平成24年法律第31号)第15条第1項に基づく政府対策本部を設置し、その後、同月28日及び令和3年11月19日に同本部において決定(令和4年3月17日変更)された「新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針」に基づいて、国民の命を守るための新型コロナウイルス感染症対策の各施策を、着実に実行しています。特に、新型コロナウイルス感染症に係る治療法開発、ワクチン開発、医療機器開発といった研究開発等を支援しています。

治療薬開発では、新たに、医療現場や患者への負担の少ない投与方法を実現し、全ての流行株に対して強力な抗ウイルス活性を示す等の候補医薬品を創製する等、研究開発が進展しています。新型コロナウイルス感染症のワクチンについては、国内・海外で多数の研究が精力的に行われ、通常より早いペースで開発が進められています。日本でも、ファイザー社、武田薬品工業株式会社/モデルナ社、アストラゼネカ社、武田薬品工業株式会社(ノババックス社)のワクチンが薬事承認されています(令和4年5月10日時点)。また、塩野義製薬株式会社、UMNファーマ社と国立感染症研究所の組換えタンパクワクチン、第一三共株式会社と東京大学医科学研究所のmRNAワクチン、KMバイオロジクス株式会社、東京大学医科学研究所、国立感染症研究所、医薬基盤・健康・栄養研究所とMeiji Seikaファルマ株式会社の不活化ワクチン、VLPセラピューティクス社のmRNAワクチンといったワクチン開発についても支援を行っており、この4つのワクチンについては、現在、治験が実施されている状況です。また、極小サイズで電力を必要としない新型コロナウイルス肺炎に対応する人工呼吸器の開発や、新型コロナウイルス罹患患者の重症化リスクを早期発見する簡易尿検査システムの開発といった新たな機器や診断法の開発についても支援を実施しました。

(コロナ禍において世界の人々の命を救い続けている日本発の医療機器開発)
新型コロナウイルス感染症が広がる中で、その重篤化を迅速に判断するために医療機器「パルスオキシメーター」について、世界的に需要が高まっています。実は、その原理を発明したのが日本の研究者であったことを御存じでしょうか。パルスオキシメーターとは、洗濯ばさみのような形状をした「プローブ」を指先に挟み、血液中の酸素飽和濃度を測定できる装置です。新型コロナウイルスによる肺炎、気管支喘ぜん息そく、新生児や麻酔中の患者に生じる酸素の不足は致命的な症状を引き起こしますが、採血による酸素状態の測定では常時把握することが困難です。パルスオキシメーターを活用すれば、患者の身体を傷つけることなく、必要な酸素が取り込めているかを連続的に測定し続けることが出来るのです。

血液の中で酸素を運搬する赤血球に含まれるヘモグロビンは、酸素と結合した酸素化ヘモグロビンと、結合していない脱酸素化ヘモグロビンで「赤い色の光を吸収する度合い」が異なり、酸素を多く含む血液は鮮やかな赤色になります。昭和47年、日本光電工業株式会社の研究者であった青柳卓雄博士が、患者の皮膚に波長の異なる2種類の光を当て、赤色光の吸収度合いを脈拍と比較することで動脈血中の酸素飽和度を測定できることを発見し、昭和50年にこの原理を用いた製品を発売しました。現在ではこの技術が世界中の医療現場に普及し多くの患者の命を救っています。青柳卓雄博士はその先駆的な発明により世界の医療の質向上に多大な貢献をした業績が認められ、2015年(平成27年)には米国電気電子学会(IEEE)が医療分野の技術革新に送る賞である「IEEE Medal for Innovations in Healthcare Technology」を日本人として初めて受賞しました。青柳卓雄博士は、令和2年4月に亡くなりワシントンポスト紙など世界に大きく報じられましたが、世界の医療の歴史に燦然と輝く発明であるパルスオキシメーターは、これからも無数の人々の命を救い続けるでしょう。

(新型コロナ克服に向けた技術開発)
1.新型コロナウイルスの超高感度・世界最速検出技術
現在、新型コロナウイルスの感染診断は、ウイルスのタンパク質を検出する方法(抗原検査)と、ウイルスリボ核酸(RNA)を増幅して検出する方法(PCR検査)が主に利用されており、用途に応じて使い分けがされています。抗原検査は、5~30分程度の検査時間で迅速かつ簡便にウイルスを検出できますが、短所として、PCR検査と比較すると検出感度が低いことが挙げられます。一方で、PCR検査は、感度が優れていますが、短所として、検査時間がかかる(1~5時間)ため迅速に解析し、診断につなげることが困難であることが挙げられます。そのため、抗原検査の迅速・簡便さと、PCR検査の感度の高さを両立する新しいウイルス検出法の開発が求められてきました。

理化学研究所開拓研究本部、東京大学先端科学技術研究センター、東京大学大学院理学系研究科、京都大学ウイルス・再生医科学研究所で構成する共同研究グループは、ウイルスRNAを1分子レベルで識別して世界最速の5分以内に検出することを可能にする革新的な新型コロナウイルスの超高感度・世界最速検出技術を開発しました。特定のRNA配列を認識する核酸切断酵素CRISPR-Cas13a(Cas13a)と蛍光性の機能分子の混合液(蛍光レポーター)をバイオセンサーとして利用することで、検体中の標的ウイルスRNAの有無を高感度・高精度・迅速にデジタル検出することを可能にします。今後、消耗品の大量生産や検出装置の小型化により、安価で素早く多種のウイルス感染症を正確に診断できる次世代の感染症診断法となることが期待されています。

2.うま味調味料からコロナワクチン?
うま味とは、食物に含まれるグルタミン酸、イノシン酸、グアニル酸などの成分によってもたらされる味覚のうちの一つです。うま味成分は池田菊苗博士によって世界で初めて発見され、以来その成分を料理で使えるようにしたうま味調味料は世界中で食卓を豊かにしています。そんなうま味調味料の研究をきっかけとし、製造されたシュードウリジンという物質からコロナウイルスワクチンが作られているのは御存じでしょうか。

新型コロナウイルス感染症の症状の重症化防止、感染拡大の防止を目的として、世界中でワクチン接種が進んでいます。現在我が国で接種が進められている新型コロナウイルス感染症のワクチンはインフルエンザワクチン等で活用されているワクチンとは異なる新たな手法によって作成されるワクチン(mRNAワクチン)です。mRNAは遺伝物質であるDNAの情報をコピーした物質で、この情報を基に生命の構成要素であるタンパク質が作られます。このため、新型コロナウイルスのmRNAを体内に注射することで新型コロナウイルスのタンパク質の一部が体内で産生され、それに対する抗体などが体内に作られ、ウイルスに対する免疫ができるという仕組みになっています。ただし、体内ではmRNAは速やかに分解されてしまうため、mRNAをそのままワクチンとして使用することはできません。そこで、通常のmRNAの構成要素であるウリジンをシュードウリジンに置き換えたmRNAがワクチンとして使用されています。シュードウリジンはウリジンと非常によく似た物質であるため、シュードウリジンに置き換えたmRNAからは通常のmRNAと同じタンパク質が合成されますが、シュードウリジンが取り込まれたmRNAは分解されにくいため、コロナワクチンの接種によりウイルスのタンパク質が十分合成され、免疫を獲得できるのです。実はイノシン酸、グアニル酸といったうま味成分はmRNAの成分と同じ核酸に分類される物質です。

うま味調味料の研究を行っていたヤマサ醤油株式会社では、様々な核酸の物質を製造してきていますが、その一つのシュードウリジンが現在のコロナワクチンの原料として欠かせないものとなっているのです。うま味調味料とコロナワクチン、一見すると程遠いように見えますが、食卓を豊かにするための研究が、生命を守ることにも役立ったのです。

(情報宣伝活動の具体例紹介)
令和4年度版学習資料「一家に1枚ガラス~人類と歩んできた万能材料~」

国民の皆様が科学技術に触れる機会を増やし、科学技術に関する知識を適切に捉えて柔軟に活用いただくこと等を目的として、毎年4月の科学技術週間に併せ、平成17年度以降毎年学習資料「一家に1枚」を発行しています。「一家に1枚」シリーズ第18作目となる令和4年度版のテーマは「ガラス~人類と歩んできた万能材料~」です。国連で「国際ガラス年」として採択された2022年(令和4年)に併せて制作しました。私たち人類を文化・芸術・生活・医療・科学・技術全ての分野で支えている材料「ガラス」について、人類の進化や科学の発展の歴史との関わりから最先端の科学技術への貢献まで、幅広い分野での活用事例を紹介しています。学習資料「一家に1枚ガラス~人類と歩んできた万能材料~」は令和4年3月頃全国の小・中・高等学校、大学、全国の科学館・博物館等に配布したほか、文部科学省のウェブサイトにPDF版データを公開しました。また、紙面の内容をより掘り下げた特設ページも開設しています。

(つづく)Y.H

(出典)
文部科学省 令和4年版科学技術・イノベーション白書 
科学技術・イノベーション白書