ISO審査員及びISO内部監査員に文部科学省の白書を参考に各種有用な情報をお届けします。

■科学技術・イノベーション政策の展開

(科学技術・イノベーション基本計画)
我が国の科学技術・イノベーション行政は、「科学技術・イノベーション基本法」(平成7年法律第130号)に基づき、政府が5年ごとに策定する科学技術・イノベーション基本計画(以下「基本計画」という。)にのっとり、総合的かつ計画的に推進している。これまで、第1期(平成8~12年度)、第2期(平成13~17年度)、第3期(平成18~22年度)、第4期(平成23~27年度)、第5期(平成28~令和2年度)の基本計画を策定し、これらに沿って政策を進めてきた(第1期から第5期までは科学技術基本計画)。令和3年度から始まった第6期科学技術・イノベーション基本計画(令和3年度~令和7年度)(以下「第6期基本計画」という。)は令和2年6月の科学技術基本法の本格的な改正により、名称が「科学技術・イノベーション基本法」となってから初めての計画である。第6期基本計画の策定に向けた検討は、平成31年4月に内閣総理大臣から総合科学技術・イノベーション会議に対して第6期基本計画に向けた諮問(諮問第21号「科学技術基本計画について」)がなされて設置された基本計画専門調査会にて約2年間にわたり行われ、令和3年3月26日、第6期基本計画が閣議決定された。

第6期基本計画では、まず、第5期基本計画期間中に生じた社会の大きな変化として、先端技術(AI、量子等)を中核とした国家間の競争の先鋭化を起因とする世界秩序の再編、技術流出問題の顕在化とこれを防ぐ取組の強化、気候変動をはじめとするグローバル・アジェンダの現実化、情報社会(Society4.0)の限界の露呈を挙げ、これらの変化が今般の新型コロナウイルス感染症の拡大により加速されていることを指摘している。そして、科学技術・イノベーション政策の振り返りとして、Society5.0の前提となる情報通信技術の本来の力を活かし切れなかったことや、我が国の論文に関する国際的地位の低下、若手研究者を取り巻く厳しい環境、さらには、科学技術基本法の改正により、「人文・社会科学」の振興と「イノベーションの創出」を法の対象に加えたことを挙げている。これらの背景の下、第6期基本計画では、第5期基本計画で提示したSociety5.0を具体化し、「直面する脅威や先の見えない不確実な状況に対し、持続可能性と強靱性を備え、国民の安全と安心を確保するとともに、一人ひとりが多様な幸せ(well-being)を実現できる社会」とまとめ、その実現のための具体的な取組を以下のとおり掲げた。

(国民の安全と安心を確保する持続可能で強靱な社会への変革)
我が国の社会を再設計し、世界に先駆けた地球規模課題の解決や国民の安全・安心を確保することにより、国民一人ひとりが多様な幸せを得られる社会への変革を目指す。このため、サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)がダイナミックな好循環を生み出す社会へと変革させ、いつでも、どこでも、だれでも、安心してデータやAIを活用できるようにする。そして、世界のカーボンニュートラルを牽引するとともに、自然災害や新型コロナウイルス感染症などのリスクを低減することなどにより強靱な社会を構築する。また、スタートアップを次々と生み出し、多様な主体が連携して価値を共創する新たな産業基盤を構築するとともに、Society5.0を先行的に実現する都市・地域(スマートシティ)を全国・世界に展開していく。さらには、これらの取組を支えるとともに、新たな社会課題に対応するため、総合知を活用し、次期戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)やムーンショット等の社会課題解決のための研究開発や社会実装の推進、社会変革を支えるための科学技術外交の展開を進める。

(知のフロンティアを開拓し価値創造の源泉となる研究力の強化)
研究者の内在的な動機に基づく多様な研究活動と、自然科学や人文・社会科学の厚みのある「知」の蓄積は、知的・文化的価値以外にも新技術や社会課題解決に資するイノベーションの創出につながる。こうした「知」を育む研究力を強化するため、まず、博士後期課程学生や若手研究者の支援を強化する。また、人文・社会科学も含めた基礎研究・学術研究の振興や総合知の創出の推進等とともに、研究者が腰を据えて研究に専念しながら、多様な主体との知の交流を通じ、独創的な成果を創出する創発的な研究の推進を強化する。そして、オープンサイエンスを含め、データ駆動型研究など、新たな研究システムの構築を進める。さらに、「知」の結節点であり、最大かつ最先端の「知」の基盤である大学について、個々の強みを伸ばして多様化し、個人の多様な自己実現を後押しするよう大学改革を進める。特に、世界に伍する研究大学のより一層の成長を促進するため、10兆円規模の大学ファンドの創設等を進める。

(一人ひとりの多様な幸せ(well-being)と課題への挑戦を実現する教育・人材育成)
社会の再設計を進め、Society5.0の社会で価値を創造するために、個人の幸せを追求し、試行錯誤しながら課題に立ち向かっていく能力・意欲を持った人材を輩出する教育・人材育成システムの実現を目指す。具体的には、初等中等教育段階におけるSTEAM教育の推進や、「GIGAスクール構想」に基づく取組をはじめとした教育分野のDXの推進、外部人材・資源の学びへの参画・活用等により、好奇心に基づいた学びを実現し探究力を強化する。また、大学等における多様なカリキュラム等の提供、リカレント教育を促進する環境・文化の醸成をはじめ、学び続ける姿勢を強化する環境の整備を行う。また、これらの科学技術・イノベーション政策を推進すべく、第6期基本計画の期間中に、政府の研究開発投資の総額として約30兆円を確保するとともに、官民合わせた研究開発投資総額を約120兆円とすることを目標に掲げた。さらに、第6期基本計画に掲げた取組を着実に行えるよう、総合知を活用する機能の強化と未来に向けた政策の立案、エビデンスシステム(e-CSTI)の活用による政策立案機能強化と実効性の確保、毎年の統合戦略と基本計画に連動した政策評価の実施、司令塔機能の実効性確保を進めることとしている。

(総合科学技術・イノベーション会議)
総合科学技術・イノベーション会議は、内閣総理大臣のリーダーシップの下、我が国の科学技術・イノベーション政策を強力に推進するため、「重要政策に関する会議」として内閣府に設置されている。我が国全体の科学技術・イノベーションを俯瞰し、総合的かつ基本的な政策の企画立案及び総合調整を行うことを任務とし、議長である内閣総理大臣をはじめ、関係閣僚、有識者議員等により構成されている。また、総合科学技術・イノベーション会議の下に、重要事項に関する専門的な事項を審議するため、7つの専門調査会(基本計画専門調査会、科学技術イノベーション政策推進専門調査会、重要課題専門調査会、生命倫理専門調査会、評価専門調査会、世界と伍する研究大学専門調査会、イノベーション・エコシステム専門調査会)を設けている。

(令和3年度の総合科学技術・イノベーション会議における主な取組)
総合科学技術・イノベーション会議(CSTI)では「統合イノベーション戦略2021」(令和3年6月18日閣議決定)の策定、「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」及び「官民研究開発投資拡大プログラム(PRISM)」の運営等、政策・予算・制度の各面で審議を進めてきた。令和3年度は、令和4年2月1日の総合科学技術・イノベーション会議において、科学技術・イノベーションによる「成長」と「分配」の好循環の実現に向けて、「イノベーションの源泉の抜本強化~人材育成・教育・研究力を一体として」を議題とし、世界と伍する研究大学の在り方についての最終まとめ及び地域中核・特色ある研究大学総合振興パッケージのとりまとめを行うとともに、「科学技術・イノベーションの恩恵を国民・地域に届けるイノベーション・エコシステムの形成」を議題とし、スタートアップ・エコシステムの抜本的強化について検討を行った。

(科学技術関係予算の戦略的重点化)
総合科学技術・イノベーション会議は、政府全体の科学技術関係予算を重要な分野や施策へ重点的に配分し、基本計画や統合イノベーション戦略の確実な実行を図るため、予算編成において科学技術・イノベーション政策全体を俯瞰し関係府省の取組を主導している。

(科学技術に関する予算等の配分の方針)
総合科学技術・イノベーション会議は、中長期的な政策の方向性を示した基本計画の下、毎年の状況変化を踏まえ、統合イノベーション戦略において、その年度に重きを置くべき取組を示し、それらに基づいて、政府全体の科学技術関係予算の重要な分野や施策への重点的配分や政策のPDCAサイクルの実行等を図っている。

(戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)の推進)
SIPは、総合科学技術・イノベーション会議が司令塔機能を生かして、府省や産学官の垣根を越えて、分野横断的な研究開発に基礎研究から出口(実用化・事業化)までの一気通貫で取り組むプログラムである。CSTIが定める方針の下、内閣府に計上する「科学技術イノベーション創造推進費」(令和3年度:555億円)を財源に実施した。SIP第2期の12課題は、開始から4年目となり、各課題で研究内容の成果、社会実装に向けた体制整備の進捗が見られた。また、令和5年度から開始する次期SIPについて、第6期基本計画に基づき、取り組むべき課題について、我が国が目指す将来像(Society5.0)の実現に向けて、バックキャストにより検討を進め、令和3年12月末に課題候補(ターゲット領域)を決定した。各課題候補について、大学、研究機関、企業、ベンチャーなどから幅広く研究開発テーマのアイディアを募るため、令和4年1月から2月までの期間、情報提供依頼、いわゆるRFIを実施した。令和4年3月に、RFIの結果を整理し、プログラムディレクター(PD)候補の募集要件を検討した。

(官民研究開発投資拡大プログラム(PRISM)の推進)
PRISMは、民間投資の誘発効果の高い領域や研究開発成果の活用による政府支出の効率化が期待される領域に各府省庁施策を誘導すること等を目的に平成30年度に創設したプログラムである。総合科学技術・イノベーション会議が策定した各種戦略等を踏まえ、AI技術領域、革新的建設・インフラ維持管理技術/革新的防災・減災技術領域、バイオ技術領域、量子技術領域に重点化し配分を行ってきており、令和3年度においては、これら4領域の32施策に追加配分を実施した。今後も総合科学技術・イノベーション会議が策定する又は改正された各種戦略等を踏まえ、各府省庁の事業の加速等により、官民の研究開発投資の拡大を目指す。

(ムーンショット型研究開発制度の推進)
ムーンショット型研究開発制度は、超高齢化社会や地球温暖化問題など重要な社会課題に対し、人々を魅了する野心的な目標(ムーンショット目標)を国が設定し、挑戦的な研究開発を推進するものである。総合科学技術・イノベーション会議はムーンショット目標1~6を令和2年1月に、健康・医療戦略推進本部はムーンショット目標7を令和2年7月に決定した。本制度では、社会環境の変化等に応じて目標を追加することとしており、コロナ禍による経済社会の変容や気候変動問題を踏まえ、総合科学技術・イノベーション会議は若手研究者の調査研究に基づき、新たにムーンショット目標8、9を令和3年9月に決定した(第57回総合科学技術・イノベーション会議本会議)。

「ムーンショット型研究開発制度に係るビジョナリー会議」で示されたヒューマン・セントリック(人間中心の社会)な考え方も踏まえ、最終的には、一人ひとりの多様な幸せ(well-being)を目指す。令和3年度は、令和元年度・2年度に決定した既存の7つの目標に関し、各目標の実現に向けた研究開発を着実に推進し、その成果を公開シンポジウムで公表するとともに、産学官から構成されるムーンショット型研究開発制度に係る戦略推進会議にて進捗状況の報告を行った。また、2つの新目標に関し、科学技術振興機構において、若手研究者等から提案された129件の提案の中から21チームを採択し、各チームそれぞれの構想に基づいて調査研究を実施した(ミレニア・プログラム)。その検討結果をもとに、総合科学技術・イノベーション会議において、以下の2つの新目標(目標8、目標9)を決定した。

(目標8)
「2050年までに、激甚化しつつある台風や豪雨を制御し極端風水害の脅威から解放された安全安心な社会を実現」
ムーンショット目標8は、台風や豪雨の高精度予測と能動的な操作を行うことで極端風水害の被害を大幅に減らし、台風や豪雨による災害の脅威から解放された安全安心な社会の実現を目指す。本目標の達成に向け、8つのプロジェクトを決定した。

(目標9)
「2050年までに、こころの安らぎや活力を増大することで、精神的に豊かで躍動的な社会を実現」ムーンショット目標9は、過度に続く不安・攻撃性を和らげることが可能になることで、こころの安らぎをより感じられるようになるとともに、人が互いにより寛容になることで、差別・攻撃(いじめやDV、虐待等)、孤独・うつ・ストレスが低減し、精神的なマイナス要因も解消され、こころの病が回復し、一層の社会・経済的発展の実現を目指す。

(つづく)Y.H

(出典)
文部科学省 令和4年版科学技術・イノベーション白書 
科学技術・イノベーション白書