ISO審査員及びISO内部監査員に文部科学省の白書を参考に各種有用な情報をお届けします。

■Society5.0の実現に向けた科学技術・イノベーション政策

(国民の安全と安心を確保する持続可能で強靱な社会への変革)
我が国の社会を再設計し、世界に先駆けた地球規模課題の解決や国民の安全・安心を確保することにより、国民一人ひとりが多様な幸せ(well-being)を得られる社会への変革を目指しており、そのために行っている政府の取組を報告する。

(サイバー空間とフィジカル空間の融合による新たな価値の創出)
第6期基本計画が目指すSociety5.0の実現に向け、サイバー空間とフィジカル空間を融合し、新たな価値を創出できることを目指している。具体的には質の高い多種多様なデータによるデジタルツインをサイバー空間に構築し、それを基にAIを積極的に用いながらフィジカル空間を変化させ、その結果をサイバー空間へ再現するという、常に変化し続けるダイナミックな好循環を生み出す社会へと変革することを目指すこととしている。

(サイバー空間を構築するための戦略、組織)
令和3年5月19日、「デジタル社会形成基本法」(令和3年5月19日法律第35号)等のデジタル改革関連法が公布され、同年9月1日、デジタル社会の形成に関する司令塔となるデジタル庁が発足した。デジタル庁では、規制・制度のデジタル原則への適合性の点検・見直しを進め、日本社会の本格的な構造改革を行い、デジタル化の恩恵を国民や事業者が享受し、成長を実感できるよう、まずは現場で人の目に頼る規制等、アナログ的な手法を用いる規制について、高精度カメラや赤外線センサーなどデジタル技術の活用可能性を踏まえた規制の横断的な点検・見直しを行い、規制の合理化に伴う新たな成長産業を創出し、経済成長の実現を図っていくこととしている。

また、デジタル社会の実現のため、既存の法令等の点検・見直しに加えて、新規に制定される法令等についても、デジタル原則への適合性を自律的に確認するプロセス・体制の構築を目指している。また、行政の手続における手数料等について、キャッシュレス納付が可能となるよう、令和4年2月8日、第208回国会に「情報通信技術を利用する方法による国の歳入等の納付に関する法律案」を提出し同年4月27日に可決、成立した。さらに、データに関する行政機関や民間などの各プレーヤーの行動理念を明確化するとともに、サイバー空間を構築し、データを活用した新たなビジネスや行政サービスを創出することを目指すため、令和3年6月18日に「包括的データ戦略」を策定した。

(データプラットフォームの整備と利便性の高いデータ活用サービスの提供)
内閣官房情報通信技術(IT)総合戦略室は、データ活用サービスの根幹となるベース・レジストリについて、土地・地図などの具体のデータを令和3年5月に指定した。今後、関係府省庁と連携し、ベース・レジストリの整備を順次実施する。また、デジタル庁は、国・地方公共団体・独立行政法人等の関係者が効果的に協働できるように、特に情報システムの観点から重要な方針である「情報システムの整備及び管理の基本的な方針」(令和3年12月24日デジタル大臣決定)を策定した。また、年間を通じて、予算要求前、要求時、執行時のプロジェクトの各段階においてレビューを行い、レビューの結果等を予算要求や執行に適切に反映させていくこととしており、令和2年度時点での政府情報システムの運用等経費及び整備経費のうちのシステム改修に係る経費計約5,400億円を、令和7年度までに3割削減することを目指すこととしている。

さらに、デジタル庁は、医療、教育、防災等の準公共分野において、デジタル化、データ連携を推進し、ユーザに個別化したサービスを提供するため、府省庁横断的な体制の下、それぞれの分野での調査・実証等の実施に向けた取組を進めている。情報処理推進機構に設置しているデジタルアーキテクチャ・デザインセンターにおいて、日本の産業競争力の強化及び安全・安心なデータ流通を実現するため、異なる事業・分野間で個別に整備されたシステムやデータをつなぐための標準を含むアーキテクチャの設計に取り組んできた。内閣府は、戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)「ビッグデータ・AIを活用したサイバー空間基盤技術」で、分野を超えたデータ連携を実現する「分野間データ連携基盤技術」を開発している。同技術のコネクタを分野ごとデータ基盤に導入すると、データ提供、検索、取得等が容易にできるようになる。本技術を活用し、研究データ基盤システムやSIP等で構築する分野ごとデータ基盤の連携を実証し、分野間データ連携の仕組みの構築を目指している。

(データガバナンスルールなど信頼性のあるデータ流通環境の構築)
デジタル庁では、データ流通を促進するための環境整備(情報銀行、データ取引市場等)の現状・課題やそのルール等について、調査及び検討を進めている。また、デジタル庁と内閣府は、ステークホルダーがデータ流通に対して抱く懸念・不安を払拭し、データ流通を促進するために必要となるデータ取扱いルールを、準公共等のPF(プラットフォーム)に実装する際の検討の視点と手順を示した「プラットフォームにおけるデータ取扱いルールの実装ガイダンスver1.0」を策定し、令和4年3月4日に公表した。あわせて、デジタル庁では、データ社会全体を支える本人認証やデータの真正性確保に向けて、取引や手続に係るデジタル化の阻害要因やトラストのニーズの実態を調査するとともに、これらの種別に応じて必要と考えられる信頼度(アシュアランスレベル)を整理することで、国際的な相互連携の観点にも留意しつつ、適切なトラストサービスの方向性を検討している。

(デジタル社会に対応した次世代インフラやデータ・AI利活用技術の整備・研究開発)
1.デジタル社会に対応した次世代インフラ
総務省は、Society5.0におけるネットワーク通信量の急増、サービス要件の多様化やネットワークの複雑化に対応するため、1運用単位当たり5Tbpsを超える光伝送システムの実用化を目指した研究開発及び人工知能を活用した通信ネットワーク運用の自動化等を実現するための研究開発を実施した。また、第5世代移動通信システム(5G)の更なる社会実装を念頭に、具体的な利活用シーンを想定した実証試験や、5G基地局の低消費電力化・小型化等を実現するための研究開発を実施した。

さらに、令和元年度から5Gの信頼性・エネルギー効率等について更なる高度化を実現するための研究開発を実施している。この他、令和2年度からは、地域の企業等をはじめとする様々な主体が個別のニーズに応じて独自の5Gシステムを柔軟に構築できる「ローカル5G」について、現実の利活用場面を想定した開発実証を実施している。また、テラヘルツ波を用いた超高精細度映像の非圧縮伝送が可能な無線通信基盤技術の応用展開を目指し、超高精細度映像インターフェース技術、ビーム制御技術及び無線信号処理技術の研究開発を実施した。情報通信研究機構は、テラヘルツ波を利用した100Gbps級の無線通信システムの実現を目指したデバイス技術や集積化技術、信号源や検出器等に関する基盤技術の研究開発を行った。また、ICT利活用に伴う通信量及び消費電力の急激な増大に対処するため、ネットワーク全体の超高速化と低消費電力化を同時に実現する光ネットワークに関する研究開発を推進した。経済産業省では、さらに超低遅延や多数同時接続といった機能が強化された5G(以下「ポスト5G」という。)について、今後、スマート工場や自動運転といった多様な産業用途への活用が見込まれているため、ポスト5Gに対応した情報通信システムや当該システムで用いられる半導体等の関連技術の開発に取り組んだ。

また、産業のIoT化や電動化が進展し、それを支える半導体関連技術の重要性が高まる中、我が国が保有する高水準の要素技術等を活用し、エレクトロニクス製品のより高性能な省エネルギー化を実現するため、次世代パワー半導体や半導体製造装置の高度化に向けた研究開発に着手した。さらに、総務省では、2030年代のあらゆる産業・社会活動の基盤になると想定される次世代の情報通信インフラBeyond5Gの実現に向け、令和3年3月に情報通信研究機構に研究開発基金を設置し、企業・大学等の研究開発を支援している。令和3年度末までに、同基金を活用して計47件の研究開発課題を採択し、超高速・大容量、超低遅延、超多数同時接続、自律性、拡張性、超安全・信頼性、超低消費電力等のBeyond5Gの実現に必要な要素技術に関する研究開発を実施している。

2.AI利活用技術の整備・研究開発
政府においては、AIを取り巻く教育改革、研究開発、社会実装等の観点から、総合的な政策パッケージとして「AI戦略2019」を令和元年6月に策定し、以降年次にて戦略のフォローアップを実施してきており、令和3年6月に策定された「AI戦略2021」に基づく取組が、関係府省の連携の下、一体的に進められている。具体的には、本戦略に基づき、統合的・統一的な情報発信や、AI研究者間の意見交換を推進するために、産業技術総合研究所、理化学研究所、情報通信研究機構を中核機関とした形にて、AI研究開発に積極的に取り組む大学・研究機関等の連携を促進する人工知能研究開発ネットワークが設立・運営されており、令和4年2月末日までに国内の116の大学・公的研究機関等が参画している。このほか、本戦略では、人工知能に関する基盤的・融合的な研究開発の推進や、研究インフラの整備等を推進している。関係府省庁における取組としては、総務省は、情報通信研究機構において、脳活動分析技術を用い、人の感性を客観的に評価するシステムの開発を実施しており、このシステムを用いて脳活動等に現れる無意識での価値判断等に応じた効率的な情報処理プロセスの開発等を実施し、社会実装に向けた取組を実施している。

また、誰もが分かり合えるユニバーサルコミュニケーションの実現を目指して、音声、テキスト、センサーデータ等の膨大なデータを用いた深層学習技術等の先端技術により、多言語翻訳、対話システム、行動支援等の研究開発・実証を実施している。文部科学省は、理化学研究所に設置した革新知能統合研究センターにおいて、①深層学習の原理解明や汎用的な機械学習の基盤技術の構築、②我が国が強みを持つ分野の科学研究の加速や我が国の社会的課題の解決のための人工知能等の基盤技術の研究開発、③人工知能技術の普及に伴って生じる倫理的・法的・社会的課題(ELSI)に関する研究などを実施している。令和3年度においては、「AI戦略2019」等に基づき、Trusted QualityAI(AIの判断根拠の理解・説明可能化)の研究開発や、新型コロナウイルス感染症対策に関するAI技術を用いた研究開発(メディアや人流解析を通じた行動変容の促進・個別最適化等)などを進めている。このほか、科学技術振興機構において、人工知能等の分野における若手研究者の独創的な発想や、新たなイノベーションを切り開く挑戦的な研究課題に対する支援(AIPネットワークラボ)を一体的に推進している。

経済産業省は、平成27年5月、産業技術総合研究所に設置した「人工知能研究センター」に優れた研究者・技術を結集し、大学等と産業界のハブとして目的基礎研究の成果を社会実装につなげていく好循環を生むエコシステムの形成に取り組んでいる。具体的には、データ・知識融合型人工知能の先端研究、研究成果の早期橋渡しを可能とする人工知能フレームワーク・先進中核モジュールのツール開発に取り組んでいる。また、情報・人間工学領域において、世界トップレベルの人工知能処理性能を有する大規模で省電力の計算システム「AI橋渡しクラウド(ABCI)」を運用するとともに、令和2年度には、産業界等からの高い需要に応じて処理能力の増強を進め、令和3年5月より拡充分の一般共用を開始した。

さらに、令和3年度経済産業省「IoT社会実現に向けた次世代人工知能・センシング等中核技術開発」に基づき、新エネルギー・産業技術総合開発機構では、人工知能を活用した遠隔環境の高度状態推定・情報提示を可能とする革新的なリモート技術の基盤形成に取り組む「人工知能活用による革新的リモート技術開発」事業を開始した。加えて、平成30年度よりエネルギー需給構造の高度化に向けた「次世代人工知能・ロボットの中核となるインテグレート技術開発」事業として、エネルギー需給の高度化に貢献するAI技術の実装加速化に向けた研究開発やAI導入を飛躍的に加速させる基盤技術開発、ものづくり分野の設計や製造現場に蓄積されてきた「熟練者の技・暗黙知(経験や勘)」の伝承・効率的活用を支えるAI技術開発に取り組んでいる。

また、経済産業省は、IoT社会の到来により増加した膨大な量の情報を効率的に活用するため、ネットワークのエッジ側で動作する超低消費電力の革新的AIチップに係るコンピューティング技術、新原理により高速化と低消費電力化を両立する次世代コンピューティング技術(脳型コンピュータ、量子コンピュータ等)や光エレクトロニクス技術等の開発に取り組んだ。また、AIチップ開発に必要な設計ツールや検証装置等を備えたAIチップ設計拠点を構築し、民間企業におけるAIチップ開発を支援した。

(つづく)Y.H

(出典)
文部科学省 令和4年版科学技術・イノベーション白書 
科学技術・イノベーション白書