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ISO審査員及びISO内部監査員に文部科学省の白書を参考に各種有用な情報をお届けします。
Society5.0の実現に向けた科学技術・イノベーション政策(つづき)
(デジタル社会を担う人材育成)
近年では、イノベーションが急速に進展し、技術がめまぐるしく進化する中、第4次産業革命やSociety5.0の実現に向け、AI・ビッグデータ・IoT等の革新的な技術を社会実装につなげるとともに、そうした技術による産業構造改革を促す人材を育成する必要性が高まっている。文部科学省は、本戦略の目標である「文理を問わず全ての大学・高専生(約50万人卒/年)が初級レベルの能力を習得すること」、「大学・高専生(約25万人卒/年)が自らの専門分野への応用基礎力を習得すること」の実現のため、数理・データサイエンス・AI教育の基本的考え方、学修目標・スキルセット、教育方法などを体系化したモデルカリキュラム(リテラシーレベル・応用基礎レベル)を策定・活用するとともに、教材等の開発や、教育に活用可能な社会の実課題・実データの収集・整備等を通じて全国の大学などへの普及・展開を推進している。
また、AI戦略2019では、大学・高専における数理・データサイエンス・AI教育のうち、優れた教育プログラムを政府が認定することとされており、リテラシーレベルについては、令和3年に78件の教育プログラムを認定、応用基礎レベルについては、令和4年度より認定を開始する予定としている。本認定制度は、各大学等の取組について、政府だけでなく産業界をはじめとした社会全体として積極的に評価する環境を醸成し、より質の高い教育を牽引していくことを目指している。また、各分野の博士人材等について、データサイエンス等を活用しアカデミア・産業界を問わず活躍できるトップクラスのエキスパート人材を育成する研修プログラムの開発を目指す「データ関連人材育成プログラム」を平成29年度より実施しているほか、高度な統計学のスキルを有する人材の育成及び統計人材育成エコシステムの構築を目的とした「統計エキスパート人材育成プロジェクト」に令和3年度より取り組んでいる。
総務省は、「戦略的情報通信研究開発推進事業(SCOPE)」において、日々新しい技術や発想が誕生している世界的に予想のつかないICT分野における、地球規模の破壊的な価値創造を生み出すため、大いなる可能性がある奇想天外でアンビシャスな技術課題への挑戦を支援する「異能(inno)vation」プログラムを実施している。経済産業省は、情報処理推進機構を通じて、ITを駆使してイノベーションを創出することのできる独創的なアイデアと技術を有するとともに、これらを活用していく能力を有する優れた個人(ITクリエータ)を発掘・育成する「未踏IT人材発掘・育成事業」等を実施している。
(デジタル社会の在り方に関する国際社会への貢献)
デジタル庁は、信頼性のあるデータ流通(DFFT)の実現に向け、データ流通に関するグローバルな枠組みを構築するため、データ品質、プライバシー、セキュリティ、インフラ等の相互信頼やルール、標準等、国際的なデータ流通を促進する上での課題解決に向けた方策を実行することとしている。内閣府は、データ連携基盤の構築に関する取組を通じて得られた技術的成果等を踏まえつつ、関係省庁との連携の下、デジタル社会の在り方に関する国際的な議論への対応等について検討している。
総務省は、2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)も見据え、「グローバルコミュニケーション計画2025」(令和2年3月)に基づき情報通信研究機構の多言語翻訳技術の更なる高度化により、ビジネスや国際会議における議論等の場面にも対応したAIによる「同時通訳」を実現するための研究開発を実施している。外務省及び国際協力機構は、政府開発援助事業において開発途上国のデジタル社会構築に資する協力を推進するべく、開発の各分野でのデジタルの利活用、その基盤となるデジタル化を担う人材・産業の育成、サイバーセキュリティの能力強化等に取り組んでいる。
(新たな政策的課題)
内閣府は、DFFTへの対応など、関係省庁の議論の動向を踏まえつつ、AI戦略、包括的データ戦略などに基づく各種の取組を通じて、国境を越えたデータ活用促進方策、官民におけるデジタルツイン構築の促進方針、世界の高度人材を日本へ引き付ける方策や、社会受容を政策へ反映する方策の検討を進めている。
(地球規模課題の克服に向けた社会変革と非連続なイノベーションの推進)
2050年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、2050年カーボンニュートラルを実現するとともに、健全で効率的な廃棄物処理及び資源の高度な循環経済を実現に向けた対応をすることで、グリーン産業の発展を通じた経済成長へとつながることで経済と環境の好循環が生み出されるような社会を目指している。
①革新的環境イノベーション技術の研究開発・低コスト化の促進
1.革新的環境イノベーション戦略とグリーン成長戦略
「革新的環境イノベーション戦略」等に基づき、有望分野に関する革新的技術の研究開発を強化している。また、「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」を策定し、革新的な技術開発に対する継続的な支援を行うグリーンイノベーション基金事業等を活用し、革新的技術の研究開発・実証とその社会実装を推進している。
2.カーボンニュートラルに向けた研究開発の推進
経済産業省は、二酸化炭素を資源として捉え、これを分離・回収し、鉱物化によりコンクリート等、人工光合成等により化学品、メタネーション等により燃料へ再利用し、大気中への二酸化炭素排出を抑制するカーボンリサイクルの技術開発を推進するため、「カーボンリサイクル技術ロードマップ」を令和元年6月に策定し、令和3年7月には最新動向を踏まえ改訂した。同ロードマップに沿って持続可能な航空燃料(SAF)や二酸化炭素を用いたコンクリートの製造技術、バイオマス由来化学品を生産するためのバイオ生産プロセス技術等の開発を進めている。
また、二酸化炭素回収・利用・貯留(CCUS)技術の実用化を目指し、二酸化炭素大規模発生源から分離・回収・輸送した二酸化炭素を利用・地中(地下1,000m以深)に貯留する一連のトータルシステムの実証及びコストの大幅低減や安全性向上に向けた技術開発を進めている。鉄鋼製造においては、製鉄プロセスにおける大幅な二酸化炭素排出削減、省エネ化を目指し、①水素還元等プロセス技術の開発事業(COURSE50)、②フェロコークス技術の開発事業を行った。①については、水素を用いて鉄鉱石を還元するための技術開発及び製鉄プロセスにおける未利用排熱を用いた二酸化炭素の分離・回収のための技術開発を行った。②については、低品位原料を有効活用して製造するコークス(フェロコークス)を用いて鉄鉱石の還元反応を低温化・高効率化するための技術開発を行った。
環境省は、石炭火力発電所の排ガスから二酸化炭素の大半を分離・回収する場合のコスト、発電効率の低下、環境影響等の評価に向けた日本初となる実用規模の二酸化炭素分離・回収設備の設計・建設や、我が国に適したCCSの円滑な導入手法の取りまとめ等を行っている。また、国内における二酸化炭素の貯留可能な地点の選定を目的として、経済産業省と環境省は共同で弾性波探査等の地質調査を実施している。さらに、平成30年度からは二酸化炭素回収・有効利用(CCU)の実証事業を行っており、人工光合成やメタネーション等といった取組及びこれらのライフサイクルを通じた二酸化炭素削減効果の検証・評価を行っている。経済産業省は、航空分野における脱炭素化の取組に寄与する持続可能な航空燃料(SAF)の商用化に向け、ATJ技術(触媒技術を利用してアルコールからSAFを製造)や、ガス化・FT合成技術(木材等を水素と一酸化炭素に気化し、ガスと触媒を反応させてSAFを製造)、カーボンリサイクルを活用した微細藻類の培養技術を含むHEFA技術に係る実証事業等を実施している。
また、グリーンイノベーション基金/CO₂等を用いた燃料製造技術開発事業において、SAFの大量生産が可能となる技術(ATJ技術)の支援を予定している。科学技術振興機構は、「戦略的創造研究推進事業先端的低炭素化技術開発(ALCA)」及び「未来社会創造事業『地球規模課題である低炭素社会の実現』領域」において、バイオマスから化成品等を製造し、石油製品を代替する革新的なバイオテクノロジーの研究開発を推進している。理化学研究所は、石油化学製品として消費され続けている炭素等の資源を循環的に利活用することを目指し、植物科学、ケミカルバイオロジー、触媒化学、バイオマス工学等を融合した先導的研究を実施している。また、バイオマスを原料とした新材料の創成を実現するための革新的で一貫したバイオプロセスの確立に必要な研究開発を実施している。
(地球温暖対策最後の切り札 Direct Air Capture)
気候変動の問題や海洋プラスチックごみ等による海洋汚染の問題は、今後の地球規模の課題として大きな課題である。ムーンショット型研究開発制度の目標4「2050年までに、地球環境再生に向けた持続可能な資源循環を実現」では、持続的な資源循環の実現による地球温暖化問題の解決「Cool Earth」と、環境汚染問題の解決「Clean Earth」による地球環境再生を目指し、温室効果ガス削減技術や、海洋環境下で無害なレベルまで生分解するプラスチックの開発を進めている。
この中で「大気から二酸化炭素を直接回収」する技術Direct Air Captureは、「脱炭素の切り札」「脱炭素の救世主」として期待され、世界各国で開発競争が激化している。空気中の二酸化炭素濃度は0.04%と非常に低く、回収するのは容易ではない上、大量に回収し分離するためには、ばく大なエネルギーが必要である。そこで、省エネルギーで回収する技術の開発が急務となっている。ムーンショット目標4のうち「温室効果ガスを回収、資源転換、無害化する技術の開発」プロジェクトでは、「二酸化炭素を超薄い膜でつかまえる」「蜂の巣のような構造で吸い込む」「コンクリートに閉じ込める」「二酸化炭素を吸収して資源に変える能力のある微生物を活用」などの革新的技術開発を進めている。
既に、空気が通りやすく表面積が大きい「ハニカム構造」のローターと、工場の排熱程度の低エネルギーで二酸化炭素を回収できる新しい吸収剤アミンを開発し、回収・分離するためのエネルギーを大幅に下げる見込みを得ている。また、34ナノメートルという驚異の薄さの膜を開発した。この膜に空気を送ることにより高効率で二酸化炭素を集め「資源となる化合物」に変えて活用することも狙っている。「変換ユニット」と「極膜」をセットにして、どこでも手軽に二酸化炭素を回収しながら資源に変えるシステムの開発を目指している。
(つづく)Y.H
(出典)
文部科学省 令和4年版科学技術・イノベーション白書
科学技術・イノベーション白書