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ISO審査員及びISO内部監査員に文部科学省の白書を参考に各種有用な情報をお届けします。
■経済社会の再設計(リデザイン)の推進
(「脱炭素社会」への移行に向けた取組)
環境省では、住宅・建築物の高断熱化改修等の省エネルギー性能の向上やネット・ゼロ・エネルギー化(ZEH・ZEB)の支援を行っており、HEMSやBEMSの導入による太陽光発電と家電等の需要側設備のエネルギー管理や、充放電設備の導入によるEV・PHEVとの組み合わせ利用を促進している。加えて、再エネ設備とEV・PHEVを同時導入し、カーシェアとして供する自治体・事業者を支援することで、「ゼロカーボン・ドライブ」の普及も推進している。
環境省は、気候変動への適応について、平成30年12月に施行された気候変動適応法の規定に基づき、平成30年11月に気候変動適応計画を策定し、令和2年12月に気候変動影響評価報告書を公表した。また令和3年10月には、気候変動影響評価報告書で示された最新の科学的知見を踏まえ、気候変動適応計画を改定し、農業や自然災害等の各分野において適応策を拡充した。この適応法及び適応計画に基づき、国立環境研究所気候変動適応センターは「気候変動適応情報プラットフォーム(A-PLAT)」において、関係府省庁及び関係研究機関と連携して適応に関する最新の情報を提供するとともに、気候変動の影響や適応に関する研究や科学的な面から地方公共団体等の適応の取組のサポートを行っている。また、地域の関係者が連携して適応策を推進するため、気候変動適応法に基づく「気候変動適応広域協議会」が全国7ブロックで立ち上げられた。文部科学省は、地域の脱炭素化を加速し、その地域モデルを世界に展開するための大学等のネットワーク構築に取り組んだ。また、国立環境研究所気候変動適応センターのA-PLATを通じて、ニーズを踏まえた気候変動予測情報等の研究開発成果を地方公共団体等に提供している。
(地球温暖化対策に向けた研究開発)
(1)水素・蓄電池等の蓄エネルギー技術を活用したエネルギー利用の安定化
経済産業省は、蓄電池や燃料電池に関する技術開発・実証等を実施している。具体的には、再生可能エネルギーの導入拡大に伴い必要となる系統用の大規模蓄電池について、導入時における最適な制御・管理手法の技術開発を実施するための取組を進めている。また、電気自動車やプラグインハイブリッド車など、次世代自動車用の蓄電池について、性能向上とコスト低減を目指した技術開発を実施した。家庭用燃料電池をはじめとする定置用燃料電池や燃料電池自動車に用いられる燃料電池については、低コスト化及び耐久性・効率性向上のための技術開発を行った。さらに、燃料電池自動車の更なる普及拡大に向けて、四大都市圏を中心に、令和4年3月末時点で157か所(他9か所整備中)の水素ステーションの整備を行った。
環境省は、「再エネ由来等水素を活用した自立・分散型エネルギーシステム構築事業」において、将来の再生可能エネルギー大量導入社会を見据え、地域の実情に応じて、蓄電池や水素を活用することにより系統に依存せず再生可能エネルギーを電気・熱として供給できるシステムを構築し、自立型水素エネルギー供給システムの導入・活用方策を確立することを目指す取組を進めている。また、地域の資源を用い、水素エネルギーシステムを構築し、地域で活用することを目指した「水素サプライチェーン実証事業」を実施し、地域の特性や多様な技術に対応できるよう進めている。科学技術振興機構「戦略的創造研究推進事業先端的低炭素化技術開発(ALCA)」の特別重点技術領域において、従来性能を大幅に上回る次世代蓄電池に係る研究開発を推進している。更に、「共創の場形成支援プログラム(COI-NEXT)」の先進蓄電池研究開発拠点において、産学共創の研究開発を実施している。また、「未来社会創造事業大規模プロジェクト型」において、水素発電、余剰電力の貯蔵、輸送手段等の水素利用の拡大に貢献する高効率・低コスト・小型長寿命な革新的水素液化技術の研究開発を、「未来社会創造事業『地球規模課題である低炭素社会の実現』領域」において、再生可能エネルギーから持続的に水素製造を可能にする水電解技術の研究開発を推進している。
(2)新規技術によるエネルギー利用効率の向上と消費の削減
内閣府は、平成30年度よりSIPにおいて「IoE社会のエネルギーシステム」に取り組み、様々なエネルギーがネットワークに接続され、需給管理が可能となるIoE社会の実現を目指している。本SIPでは、再生可能エネルギーの大量導入に向けて、セクターカップリングを通じた交通・電力インフラの統合的エネルギーマネジメントシステムの概念モデル及びプラットフォームの設計のための検討を行っており、具体には、地方自治体などが地域エネルギーシステムをデザインする際のガイドラインや自治体別のエネルギー需給データベースの構築などを進めている。
また、ガリウム系半導体デバイスを適用して、再生可能エネルギーを含む多様な入力電源に対して最適な制御を可能とするユニバーサルパワーモジュールやワイヤレス電力伝送システム等の社会実装に向けての研究開発を進めている。経済産業省は、電力グリッド上に散在する再生可能エネルギーや蓄電池等のエネルギー設備、ディマンドリスポンス等の需要側の取組を遠隔に統合して制御し、あたかも一つの発電所(仮想発電所:バーチャルパワープラント)のように機能させることによって、電力の需給調整に活用する実証を行っている。環境省は、地球温暖化の防止に向け、革新技術の高度化・社会実装を図り、必要な技術イノベーションを推進するため、再生可能エネルギーの利用、エネルギー使用の合理化だけでなく、窒化ガリウム(GaN)やセルロースナノファイバー(CNF)といった省二酸化炭素性能の高い革新的な部材・素材の活用によるエネルギー消費の大幅削減、燃料電池や水素エネルギー、蓄電池、二酸化炭素回収・有効利用・貯留(CCUS)等に関連する技術の開発・実証、普及を促進した。
環境省は、公共施設等に再エネや自営線等を活用した自立・分散型エネルギーシステムを導入し、地域の再エネ比率を高めるためのエネルギー需給の最適化を行うことにより、地域全体で費用対効果の高い二酸化炭素排出削減対策を実現する先進的モデルを確立するための事業を実施している。科学技術振興機構は、「未来社会創造事業大規模プロジェクト型」において、環境中の熱源(排熱や体温等)をセンサ用独立電源として活用可能とする革新的熱電変換技術の研究開発を推進した。理化学研究所は、物性物理、超分子化学、量子情報エレクトロニクスの3分野を糾合し、新物質や新原理を開拓することで、発電・送電・蓄電をはじめとするエネルギー利用技術の革新を可能にする全く新しい物性科学を創成し、エネルギー変換の高効率化やデバイスの消費電力の革新的低減を実現するための研究開発を実施している。
文部科学省は、航空科学技術委員会において、電動ハイブリッド推進システム技術、水素航空機に適用可能な水素燃料電池を利用したエンジン技術といった脱炭素社会に向けた航空機の二酸化炭素排出低減技術の研究開発を進めていく方向性や具体的な課題を研究開発ビジョンとして取りまとめた。宇宙航空研究開発機構は、航空機の燃費・環境負荷低減等に係る研究開発としてエンジンの低NOx化・高効率化技術や航空機の電動化技術等の研究開発に取り組んでおり、さらに、産業界等との連携により成果の社会実装を見据えながら、国際競争力向上に直結するものとして加速させている。新エネルギー・産業技術総合開発機構は、省エネルギー技術の研究開発や普及を効果的に推進するため、「省エネルギー技術戦略2016」に掲げる重要技術(令和元年7月改定版)を軸に、提案公募型事業である「脱炭素社会実現に向けた省エネルギー技術の研究開発・社会実装促進プログラム」を実施している。建築研究所は、住宅・建築・都市分野において環境と調和した資源・エネルギーの効率的利用のための研究開発等を行っている。
(3)革新的な材料・デバイス等の幅広い分野への適用
文部科学省は、「革新的パワーエレクトロニクス創出基盤技術研究開発事業」において、我が国が強みを有する窒化ガリウム(GaN)等を用いて、優れた材料特性を実現できるパワーデバイスやその特性を最大限活かすことができるパワエレ回路システム等を創出し、超省エネ・高性能なパワエレ技術創出のための研究開発を推進している。また、2035~2040年頃の社会で求められる革新的半導体集積回路の創生に向けて、新たな切り口による研究開発と将来の半導体産業を牽引する人材育成の中核となるアカデミア拠点の形成に向けて、「次世代X-nics半導体創生拠点形成事業」を開始した。
科学技術振興機構は、「戦略的創造研究推進事業先端的低炭素化技術開発(ALCA)」及び「未来社会創造事業『地球規模課題である低炭素社会の実現』領域」において、革新的な材料開発・応用及び化学プロセス等の研究開発を推進している。物質・材料研究機構では、多様なエネルギー利用を促進するネットワークシステムの構築に向け、高効率太陽電池や蓄電池の研究開発、エネルギーを有効利用するためのエネルギー変換・貯蔵用材料の研究開発、省エネルギーのための高出力半導体や高輝度発光材料等におけるブレークスルーに向けた研究開発、低環境負荷社会に資する高効率・高性能な輸送機器材料やエネルギーインフラ材料の研究開発等、エネルギーの安定的な確保とエネルギー利用の効率化に向けて、革新的な材料技術の研究開発を推進している。
経済産業省は、二酸化炭素と水を原料に太陽エネルギーでプラスチック原料等の基幹化学品を製造する技術の開発(人工光合成プロジェクト)、金属ケイ素を経由せず、高効率に有機ケイ素原料を製造する技術の開発、機能性化学品の製造手法を従来のバッチ法からフロー法へ置き換える技術の開発、リチウムイオン蓄電池材料の性能・特性を的確かつ迅速に評価できる材料評価技術の開発、セルロースナノファイバーの製造プロセスにおけるコスト低減、製造方法の最適化、量産効果が期待できる用途に応じた複合化・加工技術等の開発・安全性評価に必要な基盤情報の整備を行っている。
(4)地域の脱炭素化加速のための基盤的研究開発
文部科学省は、カーボンニュートラル実現に向けて、「大学の力を結集した、地域の脱炭素化加速のための基盤研究開発」にて人文学・社会科学から自然科学までの幅広い知見を活用して、大学等と地域が連携して地域のカーボンニュートラルを推進するためのツール等に係る分野横断的な研究開発を推進している。あわせて、令和3年7月に「カーボンニュートラル達成に貢献する大学等コアリション」を設立し、各大学等による情報共有やプロジェクト創出を促進している。
(つづく)Y.H
(出典)
文部科学省 令和4年版科学技術・イノベーション白書
科学技術・イノベーション白書