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ISO審査員が知っていると組織の背景を理解するに有益な情報をお伝えします。昨今の「人的資本開示の義務化」の動きについて説明していますが、この動きは人々の働き方に大きな変化を及ぼしますのでキャリアコンサルタントの方も知っておくと良いと思います。
人事制度を改革しようとすると報酬制度も変えなければなりません。富士通ではチャレンジを後押しするジョブ型報酬制度として、 管理職は「シングルレート」 と打ち出しています。
従来の報酬体系は、能力に基づく等級ごとに基本給を決め、その中でいくつかの段階を持たせるという多くの企業が採用している報酬体系でした。段階を上がるには能力の評価によること年、毎年の評価に応じて昇給する仕組みとしていました。能力の基準には経験年数や過去の経験・実績等があり、いわゆる年功序列的な運用となっていました。しかし、この報酬体系だと実力よりも社内在籍年数のほうが昇給への要素が高くなりがちであり、JOB型人事には合わなくなりました。そこで、前回説明した職務の達成要素を評価の基準にするようにしました。一般職の等級より上位の管理職の報酬体系が検討の的な的になりましたが、いろいろ検討した結果、管理職には等級の中に段階は設けず、等級と報酬が1対1に完全対で対応する制度、いわゆるシングルレートとしたそうです。これで富士通では年功的な運用ができない仕組みとなりました。
富士通では、ジョブ型人事に変えることで従来の雇用制度は大きく変わりました。新卒一括採用中心、異動は会社主導、企業から与えられた仕事を頑張るのが従業員であり、将来に向けたリ・スキリング(勉強し直し)がいきるかどうかは人事異動次第であるというような日本型は消えていきます。いままでは、従業員の意思による自律的なキャリア形成が行われにくいシステムでした。個々の職務に応じて必要となるスキルを設定し、スキルギャップの克服に向けて、従業員が上司と相談をしつつ、自ら職務やリ・スキリング(再自己啓発)の内容を選択していくジョブ型人事になっています。
■ 富士通報酬体系の移行
管理職の報酬にレンジを設けていないことにより、外部から管理職を採用する際には、個別のジョブ(ポジション)におけるマーケット水準や前職の報酬水準に則した報酬の提示が難しいケースもある。当面の対応として、サイン・オン・ボーナスやリテンション・ボーナス という追加報酬を適用しているが、日本国内の報酬マーケットの成熟度を見極めながら、職種ごとに報酬水準を設定することも検討していく。
<高度専門職系人材の処遇は別制度を用意 >
現状では報酬水準やレンジについて職種間での差は設けていない。他方で、中長期的に富士通のビジネス拡大に向けて重要で、かつ市場価値が急騰している領域について、市場価値に照らして魅力的な報酬を設定する「高度専門職系人材処遇制度」を適用している。セキュリティ、データサイエンス等の領域を対象とし、各領域で特に高いスキルを持っている社員を認定した上で、等級に基づく基本給に加えて、当該領域のスキル・専門性の高さに応じて一定額を加算する仕組みとしている。
(新たな評価制度による成長支援)
〇富士通は、過去約30年にわたり目標管理型の評価制度を運用しており、導入後の状況や効果などを踏まえて見直しを実施してきた。もっとも、評価そのものが目的化してしまい、個人の評価を決定することに時間や労力をかけがちであった。その結果、本来評価を通じて促されるべき、本人への到達点や課題のフィードバックと今後の成長に向けた対話や、ビジネス上の必要性に基づく、個人の伸ばすべきスキルや専門性などを踏まえたアサインメントの検討などに十分に結び付けられていないという課題があった。
〇そのため、ジョブ型人事と併せて導入した新たな評価制度「Connect」では、「評価のための評価」とならないよう、評価項目や基準はシンプルにしつつ、会社のパーパスや個人のパーパスの実現に向けて一貫性のあるコミュニケーションを各組織内や上司・部下間で実施していくことに重きを置いた設計としている。
〇評価結果を決定する会議も、評価内容を踏まえた今後の職務のアサインメントや 成長支援を話し合う場としている。例えば、評価が高い社員に対してはより大きな職責や成長機会へのアサインメントを検討し、逆に評価が低い社員には、必要なスキル獲得に向けた成長支援を検討することとしている。出典 https://www.cas.go.jp/ 内閣官房 JOB型人事指針
(つづく)平林良人