ISO審査員が知っていると組織の背景を理解するに有益な情報をお伝えします。昨今の「人的資本開示の義務化」の動きについて説明していますが、この動きは人々の働き方に大きな変化を及ぼしますのでキャリアコンサルタントの方も知っておくと良いと思います。

富士通ではJOB型人事を実施するにあたり雇用の仕方をかえました。
2023年度においては、新卒採用の 1037 名よりも多い経験者採用(中途採用)を1083 名行い、経験者採用は2021年度に比べて 2.7 倍となったそうです。

中途採用がこうも増えると社内での流動性が高まり、各部署において「自部署や業務をより魅力的に見せていく」という意識が芽生えました。その結果、外部労働市場における人材獲得能力も高まり、「外から人を採用できる富士通」になってきたそうです。
新卒採用においても入社時(2026年)からジョブ型人事を適用することとし、応募時点から職種や職務を限定した採用に変更すると発表しています。報酬制度の見直しや評価制度の変更等に伴い、社内では人材の流動性が高まり様々な挑戦を惹起し、自律的なキャリア形成を実現する風潮が強まりました。しかし、それによる副作用はないのでしょうか。社内公募制度(ポスティング)においては対象業務、及びポジションを大幅に増加し、管理職への昇格には全てポスティングへの応募・合格を必須とすることにもしているからなお更副作用が心配になります。確かに、ポスティングを拡大していく中で、一部の社員からは、いきなりポスティングに応募することには抵抗や不安を感じるとの声も出てきたということです。しかし、制度改革の手は緩めることはせず、社内副業や、一定期間(3 か月 程度)他の部署へ異動して業務を行うことを認める制度などを作り、急激な変化を緩衝する対策も考えているようです。

以下は、政府内閣官房からの引用です。

出典 https://www.cas.go.jp/ 内閣官房 JOB型人事指針

〇職種や業務内容によっては、ポスティングを通じて人材が他組織に流出し、かつ他組織からの応募もなかなか集まらないケースも生じたが、人材の流動化が企業価値の向上につながるという経営層の強い思いの下で、制度を導入し、運用している。
また、そうした部署に対しては、人材を惹きつけるための取組を人事部門が支援しており、仕事のやりがいや魅力、各部署が描くビジネスの姿を組織内外に発信するなどしている。
〇当初は、人材流出につながるとして、ポスティングの制度自体に否定的な意見も社内にはあったが、制度の浸透と共に、どの職場も人材獲得のため積極的に活用するようになり、理解も進んでいる。
キャリア自律支援 (約2万7000人が手を挙げるようになったポスティング)
〇一連の人事制度改革の結果、2020~2023 年までの 4 年間でポスティングに応募した社員が約2万7000人、合格して実際に異動した社員が約9500 人以上となった。
〇富士通は国内における社員数(連結)が約 8 万人であるが、この規模の異動が起こると、ポスティングをまだ利用していない社員であっても、身近にポスティングで異動してきた人、ポスティングで他部署に異動した人がいる状態となる。ポスティ ングの利用に対する社員の心理的なハードルも下がってきており、それにより更にポスティングの活用が進んだと考えている。
〇社内エンゲージメント調査の結果からは、人事制度改革実施後に「均等な成功機会」や「キャリアを磨くチャンス」という項目で好意的な回答の上昇が見られた。
〇また、ポスティングで実際に異動した社員を対象に、異動の前後で「自分の強みを活かせていると感じるか」、「自分の成長を感じるか」という2つの質問をしたところ、異動後においては 8~9 割の社員がポジティブな回答を示した。異動前ではポ ジティブとネガティブの回答比率がおおよそ同じであったことと比較すると、ポスティングによる異動は、キャリア自律やエンゲージメントの向上に確かに寄与していることが確認できる。
〇従前はビジネスグループや事業本部を越えた異動は非常に少なかったが、ポスティングの拡大を通じて組織を超えた人材の流動が活性化している。

(つづく)平林良人