平林良人「品質マニュアルの作り方」(1993年)アーカイブ 第13回

条項4.6 Purchasing(購買)
条項4.6.3 Purchasing data(購買データ)

【ポイント】

  • 購買文書には,発注物品を明確に記述することを基準化しておく。
  • ―形式,種類,スタイル,等級。
  • ―仕様書,図面,検査指示書,技術データ。
  • ―品質システム。

【背景】

  • ① 材料などを購買する場合には,どのようなものが欲しいか,発注物品の仕様を規定要求事項などでできるだけ具体的に相手に伝えることが大切である。
  • ② 伝える手段として通常は技術データを含んだ図面が多いが,その他,工程手順書,設備説明書,検査指示書なども有用な手段である。ここには適用する品質システムの国際規格についても記述がなされる。たとえばISO9001を適用すると記述する。

【企業内実施例】

  • ① 購買文書に添付するデータ,規定要求事項,検査規格などの提出文書の種類を定めた基準がある。
  • ② 形式,種類,スタイル,等級など記入される内容が,基準で明確になっている。
  • ③ 提出された書類の変更時の徹底方法,旧文書の回収方法,責任部門を定めた基準がある。
  • ④ 下請負契約者に提出する書類の窓口,提出時期,関係部門,審査方法などを定めた基準がある。

【審査時の質問事項】

  • ① 購買文書(発注書)を見せてください。
  • ② 購買文書に添付するデータ,文書は何ですか?
  • ③ 注文するまえに購買文書の規定要求事項の審査,承認をしていますか?
  • ④ その審査,承認の責任者は誰ですか?

【不適合】

  • ① 購買文書に,定められた購買データ,標準書が含まれていない。
  • ② 購買文書の審査,承認がなされていない。
  • ③ 変更管理が不明確であり,徹底がなされていない証拠がある。
  • 〔例〕 旧文書が注記もなく,ファイルされている。

条項4.6 Purchasing(購買)
条項4.6.4 Verification of purchased product(購買品の検証)

【ポイント】

  • ① 契約に定めがある場合,購入者(顧客)は供給者の工場,またはその外注に立ち入ることができ,品質の適合性を確認することができる。
  • ② 供給者は立入り検査とは別に品質保証活動をしなくてはならない。
    〔注〕 ここで供給者とは,この品質マニュアルを作ろうとしているメーカーのことをいい,購入者とは供給者(メーカ一)から見た顧客(たとえばOEM先),消費者のことをいう。

【背景】

  • ① 購入者(顧客)が供給者の工場に立入り調査をすることはよくある。年間を通して定期的に品質監査をしたり,購入者の品質システムの説明のために供給者の工場を訪問したり, 品質月間の活動の一環として査察をしたりする。
  • ② これはあくまでも購入者の立場からの品質活動であって,供給者側がこの立入り調査をもって自社の品質活動が行われたとするべきではない。

【企業内実施例】

  • ① 契約に購入者の立入り調査の権利がうたわれている。
  • ② 取引先または外注工場に対する品質監査の基準がある。
  • ③ その基準には監査員,監査期間,監査項目,評価基準などが載っている。
  • ④ 工場監査実施後のフォローの方法が決まっている。

【審査時の質問事項】

  • ① 取引先または外注工場の品質監査についての契約はありますか?
  • ② あれば,品質監査基準を見せてください。
  • ③ 品質監査における評価基準を説明してください。
  • ④ 品質監査の結果をどのように活用していますか?

【不適合】

  • ① 立入り調査の品質監査結果を正しく使っていない。

条項4.7 Purchaser supplied product(購入者による支給品)

【ポイント】

  • ① 購入者(顧客)の支給した物品の確認,保管および維持について手順を定める。
  • ② 不適合品については購入者に報告する。

【背景】

  • ① 一般消費者向けの製品製造においては,この購入者による支給品というものはあまり例をみないが,OEM製造または専門業者向けの特注品などにおいては,購入者から部品を支給することが多くある。
  • ② この場合,顧客(購入者)からの支給品であるという理由で遠慮しがちであるが,受入検査,良否の判定などの品質活動をきちんと行う。

【企業内実施例】

  • ① 購入者による支給品について,その確認,保管および維持について定められた基準がある。
  • ② その手順にそって確認が行われている。
  • ③ 購入者への報告の基準がある。
  • ④ 不適合品の報告が購入者に行われており,その記録が保管されている。

【審査時の質問事項】

  • ① 購入者からの支給品はありますか?
  • ② その確認,保管および維持の手順を説明してください。
  • ③ 購入者への確認結果の報告の基準はありますか?
  • ④ その記録を見せてください。

【不適合】

  • ① 支給品の確認の手順書がない,またははっきりしていない。
  • ② 購入者への報告の記録がない。

条項4.8 Product identification and traceability (製品の識別及びトレ一サビリティ)

【ポイン卜】

  • ① 製造から据付けにいたるまでの全段階において,製品の識別をする。
  • ② 個々の製品またはロットに固有の識別標識をつけ, トレーサビリティを確保する。

【背景】

  • ① 製品の履歴を製造段階からはっきりとさせておき,完成品が顧客または市場に納入されてからも,個々の製品識別ができるように工夫しておく。
  • ② 製造物責任(PL)問題が社会的に取り上げられるようになった今日,この製品識別とトレーサビリティは,万が一の不測の事態にそなえての事前予防,保険の意味をも持つ。

【企業内実施例】

  • ① 製品の識別に関しての基準(ロットの大きさ,表示方法など)がある。
  • ② ロットの定義がはっきりしている。
  • ③ 製造番号,製造月,ロット番号などを製品に表示し,市場で品質問題が発生した場合に,製品に使用した部品・材料,加工条件などがすぐ追跡できるように定められた基準がある。
  • ④ トレーサビリティに関しての記録が保管されている(過去に作られた製品について履歴が追跡できる)。

【審査時の質間事項】

  • ① ロットの定義を聞かせてください。
  • ② 製品識別の基準がありますか? あれば説明してください。
  • ③ トレーサビリティの記録を見せてください。
    →実際に出荷から製造まで遡って各工程に履歴が残っているか確認してみる。

【不適合】

  • ① (規定要求事項であり記録保管しなければならないにもかかわらず)トレーサビリティの記録がない。
    〔注〕 トレーサビリティをとる必要のあるものは品質に影響のあるものだけでよい。
  • ② 製品の識別についての基準がない,はっきりしない。