平林良人「品質マニュアルの作り方」(1993年)アーカイブ 第16回

条項4.11 Inspection, measuring and test equipment (検査,測定及び試験の装置)

【ポイント】

  • ① 供給者は,保有している計測器を管理(選定,校正,識別,記録,環境,取扱い,保護)するために基準を作成し,実行する。
  • ② 校正基準外れが発見された場合は,過去の検査の有効性評価を行い,記録する。
  • ③ 試験用の治具,取付具,型およびソフトについても規定の期間ごとに点検する。

【背景】

  • ① 社内に保有している,または借用したり,購入者(顧客)から貸与されているすべての検査・計測・試験装置について,その精度の保証を求めた要求事項である。
  • ② ここでいう装置とは製品の品質に影響を与えるすべてのもの,たとえば栓ゲージ,マイクロメーターから始まってシールドルーム,オシロスコープなどの試験・分析装置のすべてをいう。
  • ③ 通常は計測装置専門メーカーから性能検査書付で購入する場合が多いが,受入れ時にまず検収を行わねばならない。
  • ④ 専門メーカーに校正を依頼することも多いが,このような場合,そのメーカーの標準器がどのような国家標準とつながっているかよく調査しておく必要がある。
  • ⑤ あらゆる工程の検査・計測・試験装置ということになると,その数量は膨大なものになるが, 1つ1つ台帳を作り,校正周期を定めて,きちんと精度確認をしておくことが大切である。
  • ⑥ 校正の周期は,精度が狂わない期間を経験から定めればよいが,重要な特性を毎日計測しているような場合は,最低年に1回の校正は必要であろう。校正周期が長くなれば,次の校正までのあいだの製品品質へのリスクが大きくなる。
  • ⑦ また精度の高い計測装置については特別な保管環境が必要となる。

【企業内実施例】

  • ① 全計測器についての管理範囲,責任, トレーサビリティなどの計測管理全体の管理体系を定めた基準がある。
  • ② 計測項目,要求精度を明らかにし,適切な装置を選定する方法が基準に定められている。
  • ③ 校正担当者の教育方法が定められており,基準通りに教育が実施されている(記録がある)。
  • ④ 標準器の明確化,識別番号,保管条件,校正方法,校正有効期限,管理部門を明確にした基準がある。
  • ⑤ 標準器の校正結果の記録の保管方法,校正を依頼したメーカーの履歴確認を定めた基準がある。
  • ⑥ 外部に標準となるものがない場合は,自社で行っている標準の根拠,履歴が明確にされている。
  • ⑦ 全装置について,装置の型式,識別番号,場所,点検頻度,点検方法,判定基準などを明確にした基準がある。
  • ⑧ 日常点検,定期点検が実施されており,記録が残されている。
  • ⑨ すべての計測装置は標識,ラベルなどにより校正状態が識別されている。
  • ⑩ 計測装置の校正記録を保管する方法を定めた基準がある。
  • ⑪ 計測装置の校正,検査,計測,試験などの実施時に確保すべき環境(温度,湿度,防塵など),異常時の処置などを定めた基準がある。
  • ⑫ 全装置について取扱方法,保管方法を定めた基準がある(マニュアルなど)。
  • ⑬ ハードウエア,ソフトウェアを含めて検査,計測および試験設備について,校正担当者以外のものが勝手に校正のセッティングを変えないような保護手段を定めた基準がある。
  • ⑭ 治工具,型などのハードウエアまたは試験用のソフトウェアを検査の集団として用いる場合,それらに製品を検査する能力があるかどうかの点検・再点検,範囲,頻度を設定した基準がある。
  • ⑮ 外部の校正機関を活用するとき,活用する業者を評価,管理する基準がある。

【審査時の質間事項】

  • ① 計測装置管理の全体の体系を説明してください。
  • ② 外部校正業者の選定,社内校正者の訓練などについて説明してください。
  • ③ 標準器の管理をどのようにしているのか聞かせてください。
  • ④ 計測装置の点検の仕方を教えてください。
  • ⑤ 校正状態の識別をどのようにしていますか?
  • ⑥ 計測装置の使用,校正の環境はどのように管理していますか?

【不適合】

  • ① 具体事例に掲げた基準などがないか,あるいは不明確である。
  • ② 具体事例に掲げた基準などが実施されていない,記録がない。
      (計測装置台帳の履歴と現場の計測装置の状態とが一致しない)

条項4.12 Inspection and test status(検査及び試験の状態)

【ポイント】

  • ① 要求された検査および試験に合格した製品だけを出荷するために,検査および試験前後に,合否を識別する方法を明確にした基準を作成し,実施する。
  • ② 適合製品の出荷に責任をもつ検査員を明確にしておく。

【背景】

  • ① 製造の全工程を通じて製品(部品・材料,半完成品・完成品,修理品)の品質の状態(検査および試験の状態)がどうなっているかを明確にし,不良品の混入を防止する。
  • ② 市場クレームの原因の多くに工程における不良品の混入が挙げられるが,具体的な識別手段を考え実行することで,このような品質不良の阻止をはかる。このことは,その工場のすべての現場で徹底されていなければならない。

【企業内実施例】

  • ① 製造および据付けの全過程において,部品・材料,半完成品・完成品,修理品について, 検査および試験の前後に,合否の判定・識別方法を定めた基準がある。
  • ② 全工程の製品・部品・材料の検査および試験の合否を,マーキング,スタンプ,タグ, ラべル,カード,検査記録などで識別するが,それらが紛失した場合の処置方法を定めた基準がある。
  • ③ 製造から据付けにいたる全過程において合否の識別がなされており,その記録の保管がなされており,不良品の混入する心配がない。
  • ④ 全工程の検査・試験結果の記入用紙,処置方法,責任者,記録の残し方を定めた基準がある。

【審査時の質問事項】

  • ① 部品,材料,半完成品・完成品,修理品の識別方法を定めた基準を説明してください。
  • ② 識別の具体的な方法を教えてください。
  • ③ それが実際に行われている現場へ連れて行ってください。
  • ④ 出荷に責任をもつ検査員は誰ですか?
  • ⑤ 不合格品についての記録を見せてください。

【不適合】

  • ① 識別および出荷責任者に関する基準がない,あっても不十分である。
  • ② 現場において定められた通りの識別がなされていない。
  • ③ 出荷の合否の記録がない,あっても不十分である。