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平林良人「品質マニュアルの作り方」(1993年)アーカイブ 第21回
第 3 章 品質マニュアルの編集
3.1 既存品質システムのチェック
新しく品質マニュアルを編集しようとするときの重要な仕事の1つは,社内で今まで使ってきた既存の品質システムをチェックすることである。どこの企業にも,長い歴史のなかで作り上げてきた独特の品質保証の仕組みがある。社内において培ってきた従来の仕組みをそのままにしてISO 9000シリーズ規格の品質システムを導入しようとしても,いたずらに社内に混乱を引起こすだけである。まず既存の標準書をチェックし,それと同時にさまざまな帳票類の見直しにまで踏み込んだ業務の見直しに着手すべきであろう。
では業務の見直しはどのように進めるべきであろうか。たとえばスタッフの仕事は,一般に定期業務と不定期業務とに分けることができるが,まずはルーチンの仕事の見直しからスタートするのが常套である。職場の全員に,まず担当している仕事を分解してもらい,それぞれの単位業務について次の質問をしてみる。
- ① その仕事をやめられないか?
やめたらどんな影響が出るか?
形式的にやっているだけではないか?
相手はそれをちゃんと利用しているか? - ② やり方を変更できないか?
もっと簡単にやることができないか?
効率化する方法にはどんなものがあるか?
OA化することはできないか? - ③ 重複していることはないか?
他部門でも同じ仕事をやっていないか?
統一することはできないか?
3.1.1 既存標準書類の整理
さて,既存標準書類の整理の第1歩は,文書と呼ばれるものの定義を見直してみることである。企業のなかには,定款,株主総会,取締役会規則,あるいは就業規則などを定めた基本規程に始まって組織規程から部門規程まで,経営,労働組合,関連会社(子会社),安全衛生,処遇(賃金,退職金),福利厚生,開発,品質と,企業活動のあらゆる面での規程が存在する。まずこれらの諸規程の見直しから始める。
そのためには基本規程は別として,組織規程,部門規程については既存の標準書を一覧表にまとめてみたらよい。まとめ方はいろいろあるが,表3.2はその一例である。大分類にある各部門の職務の範囲,手順について記述したものが第1章で述べた第2次文書類で,中分類のところにある,それぞれの単位業務のやり方を表したものが第3次文書で,いわゆるProcedure (手順書),Instruction (指示書)と呼ばれている標準書類である。
次にこの一覧に掲載された文書類をすべて一箇所に集めて関係者で再確認してみる。数年前に制定されたまま放っておかれたり,既に現実には不必要になったものが出てきて驚かれることと思う。
上記の例では,第2次文書である部門マニュアルが9種類,第3次文書である手順書,指示書が51種類,合計60種類の文書が存在していることになる。この60種の文書をきちんと管理して,常に現状をフォローして改訂していけば,文書管理はひとまず合格ということになる。
しかし,その第3次文書の下には,データ,帳票,図面などの第4次文書が存在する。これら第4次文書を第3次文書の小分類の位置付けにして,システム的に管理していく必要がある。
3.1.2 既存帳票類の整理
さて,その帳票だが,帳票は直接活用する立場からみると,なるべく特定化して,その都度書き込む箇所をできるだけ少なくすることが望まれる。したがって放っておくと,部門ごと,製品ごと,あるいは工程ごとに,どんどん増加していく。特に最近は,ワープロが普及してきたために,ワープロとコピー機を駆使して,個人またはグループに最も都合のよい帳票が作られる傾向が強い。
ここでは,共通帳票を含めて設計,技術,品質保証,製造,購買,生産管理のそれぞれの部門で,ちょうど100種類の帳票が整理されている。縦に使用部門,横に業務内容(Plan-Do-Check-Action) によって層別してみると,現有の帳票類の位置づけをよく理解することができる。
- 帳票類が増加する理由には次のようなことが考えられる。
① 部門ごとに似た機能の帳票がそれぞれ存在していた。 - ② 機種ごとに別の帳票になっていた。
- ③ 工程ごと,部品ごとに別の帳票になっていた。
- ではどのような対策をとればよいのだろうか。
① 部門ごとに似た機能をもつ帳票は共通帳票として社内で統一する。 - ② 機種,工程,部品は,たとえ異なったものであっても同じ帳票が使えるようにする。
- ただ,こうした改善を実施するためには,次の条件がなければならない。
① 共通使用に耐えられる帳票フォーマツトの設計 - ② 社内の帳票登録制度
- ③ 部門長に至るまでの人が帳票に関心を持つこと
以上の条件が整えば,帳票の種類を大幅に減らすことができ,かつ第3次文書と関係づけをすることによって,システム的に文書の管理をすることができるようになるのである。