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平林良人「品質マニュアルの作り方」(1993年)アーカイブ 第24回
3.2.3 全体計画の策定
全体計画の策定にあたっては関係する部門長の意見をよく聞き,実情に即した計画づくりをし,以降の実施がスムーズに進むよう配慮しておく。よい計画ができれば仕事は半分終わったようなものである。
計画策定にあたって検討しておくべき事項には次のようなものがある。
- 1)全体スケジュールと品質保証モデル:いつまでに登録証を取得するか,どの品質保証モデル(ISO9001, 9002, 9003)を選択するのか。
- 2)推進単位:事業部単位か,製品単位か,工場単位なのか。理論上は,同じ品質システム下であれば,どんな大きな単位になっても審査は可能であるが,現実には機動的に動ける大きさの単位が望ましい。
- 3)社内の教育・訓陳:社内の関係者に規格の内容,審査の進め方などについて啓蒙活動を実施する。
- 4)内部監査活動:第三者(外部の審査登録機関)の審査を受けるまえに自己診断,内部監査を実施する。
- 5)計測管理体制:ISO 9000シリーズ規格の要求事項でもある計測器の校正に関する管理体制を整備する(既に十分な体制が存在しているのであれば別)。
- 6)現状把握のための活動の推進:3.1節で述べた既存の品質システムのチェックを行う。たとえば,既存の標準書,帳票類,指針・方針,外注契約書や顧客との契約書,図面・データ・資料類・ソフトウェアなど。
3.2.4 準備活動の推進
- 1)推進担当者の選出
全体計画の策定が終わればいよいよ具体的な準備活動に入る。まず第1は関係する部門ごとに推進担当者を選出してもらう。品質システムに影響を与えるすべての部門が参加しなくてはならないが,経理部門だけは除外してもよいかもしれない。もちろん参加しても問題はないが,製品やサービスの品質に影響を与えるすべての部門という範疇に入らないからである。
さて推進担当者が備えていなければならない資質として次のような項目が考えられる。- ① その部門のなかで発言力がある。
- ② その部門の仕事に精通している。
- ③ 品質システムについての知識がある。
- ④ 他部門の人に知られている。
- ⑤ ISO 9000シリーズ規格について知識がある。
- ⑤については担当者が決定してから企業として対応をとる項目であろう。推進担当者には各部門から複数(2~3人)選出されるのが望ましい。準備活動段階では1人で構わないかもしれないが,実際に実行していく段階,品質システムを維持していく段階では,必ず複数の担当者が必要になってくるからである。
ちなみに将来も含めて,各部門から選出された担当者で構成するどんな小委員会が必要になってくるかを挙げると次のようなものがある。 - ① 品質マニュアル委員会
- ② 計測器管理委員会
- ③ 内部品質監査委員会
- ④ 設計審査委員会
- ⑤ 現物管理委員会
これら各委員会の活動を継続することによってISO 9000シリーズ規格による品質システムの維持がなされていくのである。
- 2)教育・訓練
推進担当者の選出が終われば,直ちにISO 9000シリーズ規格についての教育を実施する。まずISO 9000シリーズ規格そのものの理解からスタートする。本シリーズは現在では日本語に翻訳されてJIS Z 9900シリーズとして制定されている。すなわち,
JIS Z 9900 品質管理及び品質保証の規格
JIS Z 9901 品質システム―設計,開発,製造,据付け及び付帯サービスにおける品質保証モデル
JIS Z 9902 品質システム―製造及び据付けにおける品質保証モデル
JI S Z 9903 品質システム―最終検査及び試験における品質保証モデル
JIS Z 9904 品質管理及び品質システムの要素
一連のJISシリーズの品質保証モデルの相互の関係はISO 9000シリーズの相互関係と全く同じで,図で示すと表3.6のようになる。
ISO 9000シリーズ(JIS Z 9900シリーズ)の理解ができれば次の順序でさらに理解を進めていく。- ① 品質システムについて
- ② 品質システムの評価について/審査について
- ③ チェックリストの作成について
- ④ 不適合とは何かについて(規格の要求事項とのくい違い)
- ⑤ 内部品質監査員の心構えについて
- ⑥ 評価レポートの作り方
以上のような教育・訓練を進めていくことにより,社内に品質監査員を育成していくのである。
- 3)現状のチェック
推進担当者の基本的な教育・訓陳が終了すれば,さらに教育を進めるのと並行して,現状のチェックを,それぞれの担当部門ごとに実施してもらう。この既存の品質システムのチェックは,品質マニュアルを編集する上で最も重要な作業なので,それぞれの部門長の関心の下に実施していってもらいたい。ただこの現状のチェックは,重要ポイントとしてあらかじめ関係者のあいだで検討されている可能性もあり,そういう意味では実施もスムーズに進むことと思われる。問題は,このチェックしたものをいかに要領よくまとめ,次のステップに結び付けていくかということである。詳細は3.1節を参照していただきたい。