平林良人「品質マニュアルの作り方1994年対応版」アーカイブ 第15回

このシリーズでは平林良人の今までの著作(共著を含む)のアーカイブをお届けします。今回は「品質マニュアルの作り方1994年対応版」全200ページです。
先に1987年版対応の「品質マニュアルの作り方」をお届けしましたが、今回はISO規格の改訂に伴い、全面的に1994年版規格に合わせた内容に更新したアーカイブです。

条項 4.15 Handling, storage, packaging, preservation and delivery
(取扱い,保管,包装,保存及び引渡し)
条項 4.15.6 Delivery(引渡し)

  • 【ポイント】
    • ① 客先への引渡しまで製品の品質保護の対策を講じる。
  • 【背景】
    • ① 機械設備などのビジネスにおいては,客先への据付け,試運転の実施などの初期性能を評価して初めて供給者側の品質の評価が終了することになる。
    • ② 客先への運送については,普通運送業者に任せることになるが,結果に供給者としての責任がもてるよう,その業務推進の仕方を明確に基準化しておく。
    • ③ 特に遠距離輸送の場合には,製品品質の保護に万全を期すことが必要である
  • 【企業内実施例】
    • ① 輸送中の製品保護について定めた基準がある。
    • ② 最終検査終了後から引渡しまでの責任について基準が定められている。
  • 【審査時の質問事項】
    • ① 輸送中の製品保護について定めた基準を説明してください。
    • ② 製品の最終検査終了後から引き渡しまでの責任について説明してください。
  • 【不適合】
    • ① 製品輸送中の品質保護の基準がない。
      基準に従った品質保護が実施されていない。
    • ② 最終検査終了後から引き渡しまでの責任が明確に定められていない。

条項 4.16 Control of Quality records(品質記録の管理)

  • 【ポイント】
    • ① 品質記録の識別,保管,維持の手順を確立し,維持する。
    • ② 品質記録は読みやすく,劣化・損傷がなく,即座に検索できるものとする。
    • ③ 品質記録の保管期間を定めて保管する。
  • 【背景】
    • ① 品質記録は,その企業が関係する法規,規程,基準により設定した期間,保管される。
    • ② 最近ではマイクロフィルム,またはフロッピーディスクなども利用されている。マイクロフィルム,フロッピーディスク(またはハードディスク)などの場合には,バックアップを作成しておく。
    • ③ 保管される品質記録は劣化・損傷しないよう工夫する。また記録は誰にでも理解でき,できるだけ読みやすく作成されており,必要な場合には即座に検索できることが必要である。
    • ④ PL(製造物責任)問題などで議論するような場合には,この品質記録が証拠として必ず必要となる。
  • 【企業内実施例】
    • ① 品質記録の種類(下請負契約者の品質記録を含めて),記述方法,識別,見出し付け,主管部門,実施部門などを定めた基準がある。
    • ② 品質記録の保管について,劣化・損傷,検索の方法などを定めた基準がある。
    • ③ 品質記録の保管期間,期限の明示方法を定めた基準がある。
    • ④ 品質記録の基準通りに実施されている。
  • 【審査時の質問事項】
    • ① 品質記録の種類,記述方法,主管部門,実施部門などを定めた基準を説明してください。
    • ② 品質記録の保管方法を定めた基準を説明してください。
    • ③ 品質記録の保管期間は何年ですか?
    • ④ 品質記録の保管場所はどこですか?
      そこへ連れて行ってください。

  • 【不適合】
    • ① 品質記録に関する基準がない,またはあっても不十分である。
    • ② 基準に定められた期間,記録が保管されていない。
    • ③ 記録がかすれたりして見えなくなっている。
    • ④ 記録の見出し,ファイリング,保管状態が劣悪である。

条項 4.17 Internal quality audits(内部品質監査)

  • 【ポイント】
    • ① 品質システムの有効性を判定するために包括的内部品質監査を計画し,被監査活動に直 接責任を有しない独立した者が実施する。
    • ② 監査結果は文書化し,是正処置をとる。
    • 〔注〕  内部品質監査とは,品質システムが効果的に実施され,目的達成のために適切なものになっているかどうかを判断するために行う体系的,かつ独立的な会社内吟味活動。日本の従来のQC診断とはねらい,方法などに違いがあるが,融合させていくことが望ましい。         (拙著『内部品質監査の進め方』参照)
  • 【背景】
    • ① 品質システムは一度確立したからといっても,そのままの形では次第に現実と乖離しが ちである。それを防ぐのが内部品質監査で,これはそのまま「マネジメント・レビュー(経営者による見直し)」につながる。
    • ② 内部品質監査は計画的に行い,その予定は関係部門にあらかじめ公開されていることが 望ましい。そうすることによって,監査される側にも“自部門の品質システムをチェック しておこう”という機運が生まれるからである。
    • ③ 内部品質監査を行う人材を育成しておくことが大切である。
  • 【企業内実施例】
    • ① 内部品質監査のための期間,監査員資格,チーム編成,チェックリスト,監査報告などを定めた基準がある。
    • ② 監査を行うトリガー(非定期)の重要性を定めた文書がある。
    • ③ 監査の結果,その報告,改善計画,フォローアップ監査,標準化などの是正処置を定めた基準がある。
    • ④ 内部品質監査の計画~実施~報告~フォローアップ監査までの一連の記録が残っている。
    • ⑤ 監査結果が「マネジメント・レビュー」に活用されている。
  • 【審査時の質問事項】
    • ① 内部品質監査の期間,監査員資格,監査報告を定めた基準を説明してください。
    • ② 非定期監査はどのようなときに行うのですか?
    • ③ 監査結果の報告,改善計画,是正処置などを定めた基準を説明してください。
    • ④ 内部品質監査の記録を見せてください。
    • ⑤ 「マネジメント・レビュー」との関係を教えてください。
    • ⑥ 内部品質監査員の教育・訓練,資格について説明してください。
  • 【不適合】
    • ① 内部品質監査の基準が明確に定められていない。
    • ② 内部品質監査が基準通りに行われていない。
    • 〔注〕 内部品質監査はどこの部門でも最低年に1回は実施されることが望ましい。
      (製造工程は年に1回では少なすぎる)

条項 4.18 Training(教育・訓練)

  • 【ポイント】
    • ① 品質に影響する活動に従事する,すべての要員の教育・訓練を行う。
    • ② 特定の業務に従事するものには資格認定をする。
    • ③ 教育・訓練の記録を保管する。
  • 【背景】
    • ① 全社を通じて,すべての部門が製品品質に関係している。したがって全従業員に対して, 会社としての品質についての教育・訓練を行わなければならない。
    • ② 部門のニーズに基づく教育・訓練(固有技術に関するもの)と,会社のニーズに基づく教 育・訓練(管理手法に関するものが多い)とをバランスよく組み合わせ有効に実施する。
    • ③ 内部の資格認定制度も有効な制度である。
  • 【企業内実施例】
    • ① 全部門,階層別に必要な教育・訓練,資格を明確にした基準がある。
    • ② 教育プログラム,テキストなどが整備されている。
    • ③ 教育・訓練,資格の記録がある。
    • ④ 社長(事業部長)から作業者まで,全員が品質システムを理解している。
  • 【審査時の質問事項】
    • ① 従業員の教育・訓練の仕方を定めた基準を説明してください。
    • ② 教育・訓練プログラムを見せてください。
    • ③ 資格認定制度はありますか?(QC,検査,実装,溶接,成型,プレス,旋盤,組立,メンテナンス,設備など)
    •  →その資格制度を説明してください。
    • ④ 教育・訓練の記録を見せてください。
  • 【不適合】
    • ① 教育・訓練が基準に従って実施されていない。
    • ② 教育・訓練の記録がとられていない。
    • ③ 資格認定制度が中断している。その記録が不十分である。

条項 4.19 Servicing(付帯サービス)

  • 【ポイント】
    • ① 付帯サービスを実施し,顧客が満足しているかどうかを確認する。
  • 【背景】
    • ① アフターサービスは,自分たちが客先へ出荷した製品の評判を聞くことができる重要な情報源である。
    • ② この情報を整理して,次の製品開発に活かすことが品質システムのレベルアップに非常に有益である。
    • ③ 取扱説明書,マニュアル,パーツリスト,修理技術援助,メンテナンスなどのアフターサービスの活動しだいで顧客満足度(CSI)を上げることができる。
  • 【企業内実施例】
    • ① 付帯サービスの定義,実行する手順を定めた基準がある。
    • ② ディストリビューター,販売店などとの定期的情報交換会などが決められている。
    • ③ サービスマンに知っておいてもらうべき事項を定めた基準がある。
    • ④ 顧客ニーズなどの情報を把握して,設計審査,是正処置,品質システムの見直しなどに活用する方法を定めた基準。
  • 【審査時の質問事項】
    • ① 貴社のアフターサービスを規定した基準を説明してください。
    • ② サービス支援の手段を教えてください。
    • ③ サービス状況を確認する仕方を説明してください。
    • ④ 顧客情報をどのようにしてフィードバックしていますか?
  • 【不適合】
    • ① 付帯サービスを規定した基準が無い。
    • ② 基準に従った付帯サービスが実施されていない。

条項 4.20 Statistical techniques(統計的手法)
条項 4.20.1 Identification of need(必要性の明確化)

  • 【ポイント】
    • ① 工程能力,製品特性の検証などに統計的手法が必要かどうか明確にする。
  • 【背景】
    • ① 統計的手法は,工程管理,受入れ,出荷検査,設計など,企業の生産活動に幅広く応用されている科学的方法である。
    • ② 工場の中では,いわゆるQC七つ道具と呼ばれる基本的な統計的手法がいろいろなところで使われている。たとえばパレート図,X-R管理図,ヒストグラムなどがその例である。
  • 【企業内実施例】
    • ① 統計的手法の使用目的,種類ごとに活用が必要かどうか明確にされている。
    • ② とられたデータを分析,解析する方法を定めた基準がある。
  • 【審査時の質問事項】
    • ① 統計的手法を活用する必要性を説明してください。
    • ② 統計的手法の活用方法を定めた基準を説明してください。
  • 【不適合】
    • ① 統計的手法を活用する必要性が明確になっていない。

条項 4.20 Statistical techniques(統計的手法)
条項 4.20.2 Procedures(手順)

  • 【ポイント】
    • ① 統計的手法の活用について,その手順を文書化する。
  • 【背景】
    • ① 統計的手法にはいろいろな種類があるが,企業の実態に応じてふさわしい手法を選択し,その活用の手順をマニュアル化しておくことが有用である。
    • ② QCサークル活動においては,統計的手法を問題解決のツールとして活用しているが,全社的な展開をはかっている企業では,この項目にQCサークル活動を規定していくのがよい。
  • 【企業内実施例】
    • ① 統計的手法の活用の手順が文書化されている。
    • ② 統計的手法の活用について社内での教育・訓練が実施されている。
    • ③ 統計的手法応用の事例を社内で発表し,水平展開をはかっている。
  • 【審査時の質問事項】
    • ① 統計的手法を活用する場合のデータ分析・解析の方法を説明してください
    • ② 統計的手法を活用する場合の検査のサンプリング方法を説明してください。
  • 【不適合】
    • ① 統計的手法の活用方法が文書化されていない。
    • ② 統計的手法を活用することになっているが,現場では活用されていない。