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平林良人「品質マニュアルの作り方1994年対応版」アーカイブ 第16回
このシリーズでは平林良人の今までの著作(共著を含む)のアーカイブをお届けします。今回は「品質マニュアルの作り方1994年対応版」全200ページです。
先に1987年版対応の「品質マニュアルの作り方」をお届けしましたが、今回はISO規格の改訂に伴い、全面的に1994年版規格に合わせた内容に更新したアーカイブです。
第3章 品質マニュアルの編集
3.1 既存品質システムのチェック
新しく品質マニュアルを編集しようとするときの重要な仕事の1つは,社内で今まで使ってきた既存の品質システムをチェックすることである。どこの企業にも,長い歴史のなかで作り上げてきた独特の品質保証の仕組みがある。社内において培ってきた従来の仕組みをそのままにしてISO 9000シリーズ規格の品質システムを導入しようとしても,いたずらに社内に混乱を引き起こすだけである。まず既存の標準書をチェックし,それと同時にさまざまな帳票類の見直しにまで踏み込んだ業務の見直しに着手すべきであろう。
では業務の見直しはどのように進めるべきであろうか。たとえばスタッフの仕事は,一般に定期業務と不定期業務とに分けることができるが,まずはルーチンの仕事の見直しからスタートするのが常套である。職場の全員に,まず担当している仕事を分解してもらい,それぞれの単位業務について次の質問をしてみる。
- ① その仕事はやめられないか??
やめたらどんな影響が出るか?
相手はそれをちゃんと利用しているか? - ② やり方を変更できないか?
もっと簡単にやることができないか?
効率化する方法にはどんなものがあるか?
OA化することはできないか? - ③ 重複していることはないか?
他部門でも同じ仕事をやっていないか?
統一することはできないか?
参考までに表3.1に業務内容の見直しとチェック項目の例を挙げておいた。
表 3.1 業務内容の見直しとチェック項目
課名
氏名
定期業務
不定期業務
担当業務記述
計画
実施
まとめ
対応
その他
1カ月にかかる時間(H/月)
A.その仕事をやめられないか
- 1・目的ははっきりしているか
- 2・お客様(相手)は明確か
- 3・相手は利用しているか
- 4・形式的になっているか
- 5・やめたら影響がでるか
- → やめられる
B.やり方を変更できないか
- 1・簡略化できないか
- 2・帳票を変更できないか
- 3・効率化できないか
- 4・ルール化できないか
- 5・OA化できないか
- → 改善できる
C.重複していないか
- 1・他部門でやっていないか
- 2・統一できないか
- 3・全体を見て業務分担している
- → 調整できる
3.1.1 既存標準書類の整理
さて,既存標準書類の整理の第1歩は,文書と呼ばれるものの定義を見直してみることである。企業のなかには,定款,株主総会,取締役会規則,あるいは就業規則などを定めた基本規程に始まって組織規程から部門規程まで,経営,労働組合,関連会社(子会社),安全衛生,処遇(賃金,退職金),福利厚生,開発,品質と,企業活動のあらゆる面での規程が存在する。まずこれらの諸規程の見直しから始める。
そのためには基本規程は別として,組織規程,部門規程については既存の標準書を一覧表にまとめてみたらよい。まとめ方はいろいろあるが,表3.2はその-例である。大分類にある各部門の職務の範囲,手順について記述したものが第1章で述べた第2次文書類で,中分類のところにある,それぞれの単位業務のやり方を表したものが第3次文書で,いわゆるProcedure(手順書),Instruction(指示書)と呼ばれている標準書類である。
次にこの一覧に掲載された文書類をすべて一箇所に集めて関係者で再確認してみる。数年前に制定されたまま放っておかれたり,既に現実には不必要になったものが出てきて驚かれることと思う。
表3.2に掲載した大分類,中分類の文書は,あくまで1つの例であって,実際には必要でなかったり,これ以上に多くの標準書を必要とすることもあろう。上記の例では,第2次文書である部門マニュアルが9種類,第3次文書である手順書,指示書が51種類,合計60種類の文書が存在していることになる。この60種の文書をきちんと管理して,常に現状をフォローして改訂していけば,文書管理はひとまず合格ということになる。
しかし,その第3次文書の下には,データ,帳票,図面などの第4次文書が存在する。これら第4次文書を第3次文書の小分類の位置付けにして,システム的に管理していく必要がある。
表3.2 既存標準QAシステム文書一覧
中分類 1.2.3.4.5.6.7.8
大分類
- A 人事総務
- B 営業
- C 開発・設計
- D 購買
- E 生産管理
- F 技術
- G 品質保証
- H 製造
- I その他
- 1
- 教育・訓練
- 契約
- 研究
- 契約
- 工数
- 製品評価
- 受入検査
- 工程フロー
- 保管
- 2
- 工夫改善
- 市場調査
- 特許
- 外注管理
- 負荷計算
- 作業指示書
- 出荷検査
- 装置取扱
- 取扱い
- 3
- 施設
- サービス
- 試作
- 外注評価
- フローチャート
- 組立手順書
- 校正
- 保全
- 表示
- 4
- 安全
- クレーム
- 製品評価
- 取引基準
- 進捗
- 機械管理
- 内部監査
- レイアウト
- 文書
- 5
- 福利厚生
- 広告宣伝
- CAD
- 在庫
- 改善
- クレーム処理
- 作業指示書
- 6
- ヨウ素
- 分析
- パトロール
- チェック基準
- 7
- 製品・図面
- 工程能力
- QCサークル
- 8
- 材料評価
3.1.2 既存帳票類の整理
さて,その帳票だが,帳票は直接活用する立場からみると,なるべく特定化して,その都度書き込む箇所をできるだけ少なくすることが望まれる。したがって放っておくと,部門ごと,製品ごと,あるいは工程ごとに,どんどん増加していく。特に最近は,ワープロが普及してきたために,ワープロとコピー機を駆使して,個人またはグループに最も都合のよい帳票が作られる傾向が強い。
帳票類が増加する理由には次のようなことが考えられる。
- ① 部門ごとに似た機能の帳票がそれぞれ存在していた。
- ② 機種ごとに別の帳票になっていた。
- ③ 工程ごと,部品ごとに別の帳票になっていた。
- では,どのような対策をとればよいのだろうか。
- ① 部門ごとに似た機能をもつ帳票は共通帳票として社内で統一する。
- ② 機種,工程,部品は,たとえ異なったものであっても同じ帳票が使えるようにする。
- ただ,こうした改善を実施するためには,次の条件がなければならない。
- ① 共通使用に耐えられる帳票フォーマットの設計。
- ② 社内の帳票登録制度。
- ③ 部門長に至るまでの人が帳票に関心をもつこと。
以上の条件が整えば,帳票の種類を大幅に減らすことができ,かつ第3次文書と関係づけをすることによって,システム的に文書の管理をすることができるようになるのである。
表3.3に既存帳票類の整理の仕方の一例を示したが,ここでは,共通帳票を含めて設計,技術,品質保証,製造,購買,生産管理のそれぞれの部門で,ちょうど100種類の帳票が整理されている。縦に使用部門,横に業務内容(Plan-Do-Check-Act)によって層別してみると,現有の帳票類の位置づけをよく理解することができる。
表3.3 既存帳票類の整理例
業務内容によって層別
計画
実行
まとめて見直し
対応
使用部門によって層別
共通
設計
技術
品質保証
製造
購買
生産管理
会議通知
計画表
スケジュール表
業務分担表
実行計画表
FAX通知表
処理表
組織編成表
報告書
日報
週報
月報
実績表
会議録
変更依頼表
連絡票
試作依頼表
発注明細表
注文書・納品書
企画書
能力開発計画
問題点処理表
調査表
不明点調査票
試験結果報告書
打合せレポート
組立費計算表
設計通知
作業変更依頼表
検討依頼表
認識依頼表
翻訳依頼表
特許異議申立表
鑑定依頼表
作業標準書
組立手順書
作業手順書
新製品スケジュール表
業務管理表
実行計画表
機械管理台帳
技術調査資料
部品仕様書
設備説明書
管理表
モデル一覧表
不良報告書
打合せレポート
在庫状況表
管理週報
稼働実績表
チェックシート
技術通知
生産実績依頼表
クレーム調査依頼表
出荷検査規格表
受入検査規格表
市場クレーム処理表
客先問合せ処理表
測定データ表
出荷検査表
受入検査表
チェック項目一覧表
検査チェックシート
検査結果表
校正結果報告書
解析調査依頼表
日程表
配置表機械装置保全表
作業指示書
ロット流動表
メッキ厚測定表
外観検査表
始業点検チェックシート
出来高一覧表
Fコスト一覧表
送品実績表
手直し品管理表
不良内容一覧表
不良原因解析表
異常対応表
精密検査結果表
発注計画
予算表
注文票購買品目一覧表
コード一覧表
納期管理表
メーカー一覧表
在庫一覧表
不動在庫一覧表
棚卸し対応表
生産計画
新製品計画
モデル一覧表
生産設備一覧表
進度報告書
出荷実績表
緊急生産依頼表
3.1.3 指針・方針
品質システムの全体を思想的に支えているのが,その企業の指針であり,方針である。企業によってその呼び方は異なるが,その企業の大きな方向付けを文章化したものが指針であり,あるいは理念とか,社是,社訓とも呼ばれているものである。また方針は,企業の中長期あるいは単年度の計画を策定する場合に,そのバックボーンとなる考え方を簡略にまとめたものである。
この両者とも,その短い文章の中に,企業の存続する基盤と,目指すべき方向が凝縮されているはずであり,品質方針作成の参考となるものである。この指針・方針について再確認するさいに次のことも同時にチェックするとよい。
- ① 指針・方針の意図するところはなにか?
- ② 指針・方針を補強する説明書的なものはないか?
- ③ 指針・方針は全従業員にどのような形で伝えられているか?
- ④ 全従業員はどのくらい,指針・方針を知っているか?
- ⑤ 指針・方針の配布箇所はどこか?(企業の内部・外部)